店長の休日 その2
僕らを乗せたワイバーンは川の流れに沿って下りながら海を目指していきました。
かなり高高度を飛行しているのですが、この時期の川を集団で遡っているザッケの群れが何カ所かで見られました。上から見るとよくわかるのですが、ザッケは常に隊列を組んでいるんです。だから上空からでもどこにいるのかがよくわかります。
……っていうか、まだあんなに遡ってきてるんだ……って、思わず唖然としてしまうほど、続々とガタコンベ方面にザッケはむかっているようです。
まぁ、おかげで当分野生のザッケの入手に困ることもなさそうです。
「パパとママは海を見たことがあるんですか?」
パラナミオが地上を見ながら話しかけてきました。
そんなパラナミオの問いに、僕は少し首をひねり
「パパはね、この世界の海にはまだ行ったことが無いんだ。でも、元いた世界ではたまに行ってたなぁ」
そう返答したのですが、そんな僕に対してスアは
「……どうだったかな……」
そう言うと、腕組みしたまま考えこみ始めてしまいました……どうやら、それくらい記憶に残っていないようです、はい。
しかし、この大陸ってばほんとでかいんですねぇ……
かなり高高度を飛行しているワイバーンの背中から周囲を見回しているのですが、どこまでも広大な地平線だけが広がっています。
はるか北の方に、なんか山脈っぽいのが見えますけど、かなり霞んでいますので正確にはよくわかりません。
スアの話によると、この大陸は北から西にかけて山脈が連なっているんだとか。
そっち方面にも興味はありますけど、今日は海が目的地です。
僕達をのせたワイバーンは順調に川の流れを高高度からたどりながら飛行を続けています。
「あとどれくらいで着くんですか?」
パラナミオが再び僕とスアに聞いてきました。
で、元々この世界の住人でない僕はスアの方へ視線を向けるしか無かった訳ですが、そんな僕の視線の先でスアは
「……あと半日くらい、かな?」
って小首をかしげながら言いました。
すると、そんなスアの言葉に反応したらしいワイバーンが、大きな声で一鳴きしたかと思うと、一気に速度をあげていきました。
「……なんかね、頑張ってあと2時間くらいで到着してくれる、って」
「わぁ、ワイバーンさんすごいです!」
スアの言葉を聞いたパラナミオが歓声をあげると、ワイバーンは嬉しそうにもう一鳴きしたかと思うと、さらにその飛行速度をあげていきました。
どうやら、パラナミオの声援のおかげで、2時間よりももっと早く到着しちゃいそうです。
いくつか辺境都市っぽいところの上空を通過したりしつつ、ワイバーンはグングン進んで行きました。
そして、僕の予想通り1時間と30分ほどで、ついに海へと到達しました。
いや、しかし、地平線の向こうがいきなり海に切り替わっていったあの光景はなかなか爽快でした。
「パパ! あれですか! あれが海ですか!」
って、パラナミオもすっごい興奮したんですよね。
高高度から一気に浜辺に降り立ったワイバーン。
この砂浜ですが、果てなくどこまでも続いている……なんかそんな感じです。
パラナミオは、そんな砂浜の砂を両手ですくいあげては、それを手の隙間から落としています。
「パパ、これ、砂場の砂よりもすっごくサラサラですよ……」
そう言い続けているパラナミオの近くで、僕は持って来ていたテントの設営を始めました。
まぁ、設営といいましても、このテントはボタンひとつでブワッと広がるタイプのやつでして、んで、その四方をアンカーで打ち付けておくだけでいいので、とてもお手軽に設営出来ます。
所要時間、ほんの10分でした。
「ま、こんなもんか」
僕は出来上がったばかりのテントを一通り確認すると空を見上げていきました。
なんかここ、もう秋だっていうのに結構日差しが強いんですよ。
しかも暑いです。
ひょっと泳げるかもしれないと思ってみんなの水着を持って来ていたんですけど、我ながらグッジョブだった気がします、はい。
「パパ! ありがとうございます!」
パラナミオは、僕から水着を受け取ると嬉しそうにそれに着替えていきました。
一応周囲に人の姿はありませんけど、念のために設営し終わったばかりのテントの中で着替えさせました。
スアもリョータを連れてテントの中で着替えています。
ちなみに、2人に用意したのは、スクール水着です。
……いえ、パラナミオはともかく、スアが幼児体型だからこれを準備したんじゃありません。
店の在庫にあった女物の水着がスク水しかなかっただけなんですよね。
多分これ、爺ちゃんの代の在庫なんですけど、物は劣化してなさそうだったので大丈夫だと思います。
で、ほどなくしてみんながテントから出てきました。
「パパ、似合ってますか!」
パラナミオは、スク水姿で僕の前でクルクル回っています。
天使です。
天使がそこにいます。
満面の笑みのパラナミオに、スク水はこの上なく似合っています。
んで、その後方には、リョータを抱っこしたスアが、スク水を着ています。
白です。
純白です。
オーイエーです!
幼児体型この上ないスアに、そのスク水は最高にマッチしています。
え? 誰がロリコンですって?
えぇ、僕ですよ、ロリコンは。
あぁ、もう好きに言えばいいですよ。
パラナミオバンザイ!
スアバンザイ!
スク水バンザイですってば!
……すいません、色々取り乱しました。
落ち着きを取り戻した僕は、自らもダボパン風の水着に着替えました。
んで、みんなで波打ち際へと行きまして、そこで水遊びを始めました。
この世界の海ですけど、僕の世界の海と決定的に違うのが、まず波がほとんどないことですね。
言うなれば、でっかい湖の浜辺な感じとでもいいますか。
あと、ほとんど塩っぽくありません。
全然塩っぽくないわけではないので、やっぱ塩分は含んでいるようですけど、かなり薄い感じですね。
そんな感じで、元いた世界の海と、この世界の海の違いをしばし真面目に考察したあとは、
「それパラナミオ! 駆けっこだ! あの岩までどっちが早いか競争だ!」
「はいパパ! 負けませんよ!」
僕が走り始めると、パラナミオも笑顔で僕の後を追いかけてきました。
あえて浅瀬を走っていますので、僕とパラナミオの後方には水しぶきが舞いまくっていますけど、パラナミオは、それがまた楽しくて仕方ないようです。
そんな僕らを、スアはリョータを抱っこしてみています。
白いスク水姿のスアは、でっかい麦わら帽子を被っていまして、日差し対策もばっちりです。
リョータにも日焼け防止魔法をかけていると言っていたので、リョータも万事大丈夫と思われます。
しかし、ホントどこまでも綺麗で静かな海です。
僕は、パラナミオと何度か追いかけっこをして遊んだあとは、釣り竿を取り出しました。
「まぁ、何が釣れるかは、やってみてのお楽しみだけど……」
僕はそう言いながら浜辺でしっかり助走をつけ、沖に向かってキャスティングしていきました。
気分は、無名島で大会に参加している三平くんな感じです、はい。
釣りが目的なので重りは少なめですけど、しっかり助走したおかげでかなり遠くまで投げる事が出来ました。
で、着水したのを確認すると、僕はリールをカリカリと回し始めました。
先にはルアーをつけておきましたけど、はたしてこの世界で効果があるのでしょうかねぇ……
そんなことを思いながらリールを巻き続けていると、なんか不思議な感触がありました。
一瞬、クイッと引きがあった感じがした気がしたんですけど、感触があったのはその一瞬だけだったんですよね。
「……漂流している水草にでもひっかかりかけたのかな?」
僕は、そう思いながらリースをカリカリ巻いていったのですが……あれ? なんかついてます。
ルアーの向こうに、なんか布みたいなのがついてますね。
で、そのまま引き上げて、その布を針から外した僕。
「いきなりゴミかぁ」
そう思ったのですが、よく見るとなんか違います。
で、改めてその布をを左右に広げてみて、僕は気がつきました。
「……これ、ビキニの下……だよね?」