店長の休日 その3
なんか、最初に釣れたのが水着の下部分ってのもなんだかなぁ、と思いながらそれを見つめているとスアがテクテクとよってきました。
「……どうしたの、それ?」
怪訝そうな表情のスアに
「いや、向こうにルアーを投げたらかかったんだ」
そう言いながら僕は前方の海を指さしました。
ん?
なんか変です。
僕が指さしてる先なんですけど、海が妙に泡立っているような……
僕とスアは思わず身を乗り出しながらその方向へと視線を向けていきました。
すると
「水着返してくださぁい!」
って、なんか絶叫しながら女の子がすごい勢いで迫ってきていました
ただ、この女の子が普通の女の子ではないのは一目瞭然です。
何しろ、足元がすさまじい勢いでバタ足してるんですけど、その勢いがあまりにもすごすぎて、女の子の上半身が宙に浮いてるんですよね。
で、その後方にすさまじい泡と水しぶきを巻き上げているわけです。
なんか、水上バイクが一直線にこっちにむかってやってきてるとでもいいますか……
で、その子は左手で股間を押さえつつ、右手を僕に向かってのばしています。
いえ、正確には僕がもっている水着に向かって伸ばしているといった感じでしょう。
で、僕はですね、その水着と、その女の子をしばし交互に見つめていたんですけど、
「お~……れい!」
っとばかりに、水着をひらっと動かしてみました。
すると、目の前にあった水着が、目の前からいきなり消え失せたもんですから、その女の子
「ああああああああ!?」
ってな感じで悲鳴をあげつつ、砂浜に突っ込んでいきました。
ズズズズズ~ン……
ってまぁ、結構な音を響かせながら浜辺に突っ込んだ姿勢で止まったその女の子。
砂浜に突き刺さった状態で体をくの字に曲げています。
お尻を天に向けて突き出した格好で、その活動を停止しているんですよね。
はい、裸のおしりがプリンと……
……あれ? なんでしょう……僕は、この光景に何か懐かしい物を感じていました。
なんだったっけあれ……って……
あぁ、思い出した!
「以前、スアが全自動トイレに感動して、お尻を丸出しにしたままその仕組みを……」
「忘れてぇ!」
ずぱああああああああああああああああああああああああああああああああん。
あれ?
僕はどうしたのでしょう?
なんか、スアの絶叫だけ耳に残っている気がしますが、その前後の記憶が非常に怪しいです。
そんな僕の横で、スアは、浜辺に頭を突っ込ませていた僕を心配そうに介抱してくれていました。
はて?
僕はなんでまた浜辺に突き刺さっていたんだっけ?
なんかスアが関係してたような気が……
僕がそう思っていると、スアはブンブンと顔を左右に振りながら
「気のせい!……うん、気のせい、よ」
と、しきりに作り笑いをしています。
正直、ちょっと違和感を感じたのですが、まぁ、白のスク水がとっても似合ってたので気にしないことにします。
んで
スアの介抱で目を覚ますと、そのスアの横に1人の魚人っぽい女の子が立っているのに気がつきました。
よく見ると、さっきお尻を丸出しにいて砂浜に……
そこまで思い出したところで
「いやあああああああああああああああああああああああああああああ」
って絶叫しながら、その女の子は再度、僕の頭をぶん殴っていきました。
あ……昼間だってのに……すっごい綺麗なお星様……
……バタン
◇◇
ほどなくして、浜辺の奥の木陰で目を覚ました僕。
どうやらスアがずっと膝枕をしてくれていたようです。
「あ、目を覚まされました? 先ほどは失礼しました」
そう言いながら、さっき僕を反射的にぶん殴った女の子がへこへこと頭を下げてるんですけど……よくみたらその子、脳天にでっかいコブをこさえています。
「ど、どしたのそれ?」
「あぁ、これですか? 先ほどご主人を反射的にぶん殴ってしまったもんですから、奥さまにこっぴどく怒られたのですよ」
そう言いながら苦笑する女の子。
おいおいスア、気持ちはうれしいけど、ちょっとやり過ぎじゃないか?
そう思いながらスアへ視線を向けると、スアはフイッとそっぽを向きました。
……まったくもう。
「ごめんね、妻がちょっとやり過ぎたみたいだね」
僕は、スアの代わりにやりすぎを謝罪したんですけど、その女の子は
「いえいえいえ、私がやり過ぎちゃったのは間違いありませんですので……」
そう言いながら、しきりに恐縮していたんですよねぇ。
で、とりあえず落ちついたところで僕達はお互いに自己紹介をしていきました。
「こっちが娘のパラナミオ。こっちが妻のスアと、長男のリョータです……で、僕がタクラっていいます、よろしくね」
僕がそう言って頭を下げると、
「私は秋刀魚人のオイリーっていいます」
そう言ってその女の子~オイリーもまたペコリと頷ずいていきました。
一応気になってその子の股間のあたりをチラッと確認してみたところ……僕が釣り上げた彼女のビキニの下らしき布地が、彼女の下半身をしっかり覆っていました。
……見たところ、腰から下が秋刀魚の姿であるオイリーってば、いったいどうやって身につけたんでしょうねぇ……
ガシ
そんな僕の肩を、スアが後方から握って来ました。
「……旦那様……いったいどこを見てる、の?」
「わかった、悪かった、もう見ませんから……」
「……ん」
どうやら下手な言い訳をしないで最初から全力土下座したのが良かったみたいで、僕はどうにか命を生きながらえさせることが出来たわけです、はい。
で、そんな秋刀魚人のオイリーちゃんですけど、
「そこでですね、その……いきなりですっごく恐縮なんですけど、少し助けて頂けないでしょうか?」
そう言いながらオイリーは湾の入り口の方を指さしました。
よく見ると、その一帯には正体不明の漁船らしき一団が陣取っていまして、しきりと海中に向かって網を投げ込んでいるんですよね……
まったくもって、なんてことをしてるのやら……ねぇ
んで、最初は僕が行って話をしようと思ったものの、彼らはなんかもう、それどころじゃない程の大騒ぎの真っ最中のようでして……多分、僕がのこのこ行ったくらいでは相手にされないでしょう。
しかし、そこはスアです。すごいです。
スアが、その右手の人差し指をかぁるくクリンと動かしたんですけど、程なくして謎の漁船団を、海の向こうからやってきた巨大な波が飲み込んでいきました。
ほどなくして漁船団はほぼすべてが沈黙していったんですよね……
そんな中、スアはさらに魔法を使用しながら漁船団に捕らえられていた者達を集めていき、全員を束ねて自分のいる近くまで移動させていきました。
秋刀魚であるオイリー同様に多くの魚人の人達が救助されています。
すると
「むぁあてぇ!」
その集団をおいかけて、何やら海中から声が聞こえてきたんです。
同時に、海の一部が盛り上がっていきまして……