店長の休日 その4
その昔、見たことがあります……なんかの映画のテレビ放送で……
海が盛り上がってですね、そっからイカとカメとエビの化け物というか怪獣が出てきてですね、ザ・南海の大決闘みたいなやつですけど……
そんな事を思っている僕の目の前……盛り上がった海から出てきたのって、まさにそんな奴だったんですよね、これが。
ただ、その映画とは違ってたのがですね、
イカの頭
カニの爪
エビの尻尾
これをまとめて身につけた1匹の化け物というか怪獣というか、あ、この世界では魔獣でいいのかな?
とにかく、そんないろんな部分が複合された合体魔獣みたいなのがこっちに向かってやってきてるんですよ。
目指しているのは、スアが謎の漁船団から救助した魚人達のようです。
で、そいつはこっちに向かって来ながら
「あんたねぇ、アタシらカエゲ海賊団の奴隷候補達を強奪してったの!?」
一直線に『僕』に向かってきています。
あ、これ、死亡フラグって奴ですかね?
するとですね、そんな僕とカエゲ海賊団のボスさんらしい魔獣の間にパラナミオが駆け込んできました。
「パパに何をするんですか!」
「あン? 小娘がでしゃばってくるんじゃないよ、どきなさぁい!」
カエゲ海賊団のボスらしい人ってば、全長10mくらいありますからねぇ……そんな人から見ればパラナミオどころか僕だって小男でしょうとも……
ここで、パラナミオが怒りました。
「うぬぬぬぬ……」
そう言いながらパラナミオが力を込めていくと、その姿があっという間にサラマンダーに変化しました。
パラナミオは成長していることもあり、カエゲ海賊団のボスとほぼ同じ大きさです。
「な!? さ、サラマンダーぁ!?」
そんな、変化したてのパラナミオの姿を見たカエゲ海賊団のボスは、海上で慌てて急停止しました。
ですが
そんなカエゲ海賊団のボスに向かって、大きく息を吸い込んでいたパラナミオは
「パパは私が守るんです!」
そう言うと、すさまじい勢いの火炎を噴き出しました。
まだ子供とはいえ、その火の量ははっきりいってすごいです。
「おわちゃちゃちゃちゃちゃちゃ」
カエゲ海賊団のボスさんは必死に海中に逃げ込んでますけど、パラナミオは逃げ込んだ先の海にまで火炎放射を行っていきます。その周囲がすごい勢いで海水蒸発していってるんですよ、これが。
さらに、パラナミオが海に入っていこうとしたんですけど、
「パラナミオ、そこまで」
僕は大声をあげてパラナミオを止めました。
えぇ、理由は簡単です。
パラナミオと僕の真正面の海上に、カエゲ海賊団のボスが気絶した状態でぷかぁっと浮かんでるんですよ。
海中にまで追撃くらって、完全にやられてしまったみたいですね。
……大変不謹慎なんですが、海岸には、なんかカニとイカとエビがほどよく焼けたいい匂いが漂っているような気がしてならないんですけど……
そんなことを思っている僕の目の前でパラナミオが、その姿を人のそれに戻してですね
「パパ! 大丈夫でしたか!?」
心配そうな表情と声をしながら僕に抱きついて来ました。
素っ裸です。
サラマンダーになったときに着ていた水着が破れてしまったんでしょうね。
なんか、元いた世界で読んだラノベの盾の勇者のなんとやらってやつの中に、でっかい鳥になる女の子の着てる服がでっかくなっても破れない素材で出来てたってあったはずですけど、パラナミオに関してもそんな服があった方がいいのかもな、と、ちょっと思った次第です。
んで、パラナミオを一度テントに連れ帰っている間に、スアがカエゲ海賊団のボスを浜辺に移動させたました。
一部が黒焦げで、しかも完全に気絶しているわけです。
そこに、少し前にスアによって救出されていた魚人の女の人達が殺到していきます。
「ちょっとあんた! いっつもいっつも魚人をさらって、酷いわよ!」
「あんたのせいで、アタシらの仲間がどんだけ売られたと思ってんのよ!」
皆、罵詈雑言を口にしながら、カエゲ海賊団のボスに蹴りだのパンチだのを見舞っています。
……正直効果があるようには見えないんですけどね、ははは。
そんな僕の前にパラナミオが戻って来ました。
「パパ、この水着どうですか?」
そう言いながら、パラナミオが新しく着てきた水着ですが……
ビキニです。
幼女のビキニです。
は、すいません。
目の前に天使が現れたもんですから、僕しばらく意識を失っていたようです。
「パパ?」
そんな僕をパラナミオが怪訝そうな顔で見つめていたのですが、そんなパラナミオに意識を取り戻した僕は満面の笑顔で言ってあげました。
「うん、ママと同じくらい可愛いぞ!」
「ホントですか! 嬉しいです!」
パラナミオは、満面の笑顔でそう言うと僕に抱きついて来ました。
すると、その反対側からスアも僕に抱きついて来ました。
天使2人に抱きつかれ、なんか僕、もう
我が生涯に一片の悔い……
あ、まだダメです。
スアともう2,3人子供作りたいし、パラナミオの成人式やってあげたいし……
なんてことを思っていたら、なんか後方が騒がしくなっています。
「こいつ縮んだわよ!?」
「人型になったわね、殴りやすくなったじゃない!」
「みんな、やっちゃうわよ」
なんか、物騒な声がする方へ視線を向けて、僕は口あんぐりです。
さっきまで、でっかい魔獣の姿でそこに横たわっていたカエゲ海賊団のボスなんですが、いつの間にか人の女の姿になってたんですよ。
で、そんな人型のカエゲ海賊団のボスの周囲に、魚人の女性達が殺到して、殴る蹴る……
いや、これ、やばいってば!
僕は、慌てて止めに入ったわけです、はい。
◇◇
「……こ、この度は助けていただき、本当にありがとうございました」
顔面フルボッコ状態のカエゲ海賊団のボス、カエゲさんは、僕の前で土下座したまま深々と頭を下げていきました。
その後方には、謎の漁船団の乗組員達も揃って土下座し、頭を下げています。
魚人達のフルボッコからとりあえず救い出したわけですけど、魚人の女性達は、まだやり足りないとばかりに僕の後方で腕組みして構えてるんですよねぇ。
で、一応双方から話を聞いたんですけど……
この海域って、魚人が多く暮らしているんだそうです。
暮らしているといっても、普段は下半身魚の姿をして海中で暮らしているらしく、海岸とかには滅多にやってこないんだそうです。
で、そんな魚人の女性を狙ってカエゲ海賊団がやってきたそうなんですよね。
カエゲ海賊団は、揃って見目麗しい魚人の女性に目を付け
「こいつらを奴隷として売り飛ばせば一儲けできるじゃない」
って思って、漁船団を編制して魚人の女性達を捕獲していたんだとか。
「……そりゃ、フルボッコにされてもしかたないよなぁ」
話をだいたい聞き終えた僕は思わずそう言いながら頷いていきました。
そんな僕の様子に、魚人の女性達は一斉に歓声をあげ
「でしょ!? やっぱこいつ悪認定だよね?」
「殺っていいかしら?」
「キルなのよ~!」
なんか、すっごい勢いで叫びながら足踏みしていく魚人の女性達。
あ、魚人の女性達の下半身ですけど、人の足の形と、魚の下半身状態を自在に変化させることが出来るそうです、はい。
そのすさまじい勢いの前で、カエゲは仲間達と抱き合いながら震え上がっています。
「あ、アタシ達もさぁ、あんた達を捕まえはしたけど、ここらの海賊団の大ボスに全部捕られちゃってて、まだ全然だったんだからぁ、許してぇ」
って言ってるんだけど……は? まだ大ボスがいるっての?