店長の休日 その5
とまぁ、カエゲ海賊団のボス、カエゲを倒して捕らえたのはいいのですが、なんかその上の大ボスがいるらしいことが判明しました。
「あ、あの大ボスはさぁ、デカいし強いし、すっごい自己中で我が儘で……アンタの物はアタシの物、アタシの物はアタシの物って人でさ、逆らったら、そ~れおしおきだべぇってな具合で酷い目に遭わされるしでさぁ、もう従うしか道がなかったんだって、許してくださぁい」
なんかカエゲは、周囲を魚人の女性達に囲まれて超涙目状態なんですけど……しっかし、どこの世界にもいるんだなぁ、ジャ○アンみたいな奴……若干ドク○ベーも入ってる気がしないでもないんだけど……
で、まぁ、そんな状況の中
ズシ~ン……
ズシ~ン……
ズシ~ン……
「な、なんだなんだ!? この音と揺れは!?」
僕は自分の体が……というか、足元がすっごく揺れてるのに思わず目が点になってしまったわけです。
魚人の女性達もびっくりする中、カエゲ海賊団とそのボスのカエゲだけは、先ほどまでの弱々しかった態度を一変させて
「はっはっはぁ! お前らさっきまではよくも好き勝手やってくれたねぇ! アルリズドグの姉御の前じゃあ、さっきのサラマンダーだって子供みたいなもんだ。かないっこないんだよ。お前ら全員奴隷にして売り飛ばされるんだ! 覚悟しとけ」
なんかそんなことを良いながら高笑いしてるんですよね……なんつうか、見事なまでの虎の威を狩るなんとやらですよねぇ……
ただ、この足音の主が圧倒的にデカいのは間違いありません。
海岸線の方から徐々にそれっぽい、でっかい魔獣が近づいてきているんですけど、こいつ確かにでかいです。
恐らく、サラマンダー化した際のパラナミオの5倍くらいはありそうです……おいおい。
「パパのためなら、パラナミオは負けません!」
そう言いながら、パラナミオが海岸に向かってもう一回サラマンダーの姿になろうとしてるんですけど、さすがにそれはまずいと思い、僕は慌ててパラナミオを止めに走りました。
すると、海の方から魔獣というか、アルリズドグの声が聞こえてきました。
「カエゲ海賊団、どこだよぉ~っ!?」
「……おい、なんかお前達を探していないか、あいつ?」
なんか、どっかの極悪宇宙人みたいな台詞を吐いてるアルリズドグらしき怪獣の声を聞いて、僕は思わずカエゲとその海賊団の方へ視線を向けたんですけど……そしたらカエゲ達一行は
「あ、あ、あ、アルリズドグの姉御!? ち、ち、ち、違うんです! 裏切ったとかそんなんじゃないんです、こ、こ、こ、こいつらに捕まっちまっただけで……あの、その……」
必死に声を張り上げていました。
で、その声を聞いたアルリズドグは、その顔をカエゲ達に向けました。
そのまま、まっすぐカエゲ達に向かって進んでくるアルリズドグ。
徐々にその体が海面上に出てきているんですけど……、あぁ、こいつ……どっかでみたことあると思ったら……どこかの怪獣王……それも息子版のにそっくりなんですよね、これが。
……だから、正直怖いというよりも、どこかユーモラスと言いますか……
「パパ! なんかあの怪獣可愛いです」
パラナミオが思わずそう声をあげました。
あぁ、正直者のパラナミオが、僕の心の声を代弁してしまいました。
そんなパラナミオの声を聞いたアルリズドグは、ギロリとパラナミオへ視線を向けました。
「貴様……このアタシが可愛いだと?」
「はい、可愛いです」
「貴様、舐めた事いってんじゃねぇ! このアタシが可愛いわけねぇだろう! 見ろこのでかさ! 見ろこの体躯! 見ろこの背びれ! どれをとってもデカくてごつくて、可愛いわけねぇだろうが!」
「でも、可愛いです!」
「だから、冗談ぬかしてんじゃねぇ」
「ホントですよ、可愛いです」
「おめぇ、本気で言ってんだろうな? あ?」
「はい、本気です」
「そうか、なら……」
そう言うと、アルリズドグは大きく息を吸い込みました。
やべ
こういうとき、あっちの世界の怪獣王って火炎放射吐くんだよね、確か……
僕は慌ててパラナミオを抱きかかえ、アルリズドグに背を向けました。
とりあえず、少しでもパラナミオに炎が当たらないように……あぁ、でも、一瞬で溶けちゃうかなぁ……思えば、やっと訪れた幸せな日々が、まさかこんなとこで、こんな形で終わるとは……
なんて思っていた数秒後
アルリズドグは、口の中から何やら器を取り出しました。
中には、なんかしゃりしゃりの氷がのってます。
「……とりあえず、これでも食いな、お嬢ちゃん……あ、親御さんのもあるから」
そう言いながら、どうみてもかき氷人しか見えないそれを、パラナミオと僕に差し出してるんですよね。
で、なんか照れくさそうにポッと頬を染めてるんですよ、アルリズドグ。
「わぁ、ありがとうございます」
パラナミオは、笑顔でそれを受け取ると
「パパも一緒に食べましょう」
そう言いながら僕にも笑顔を向けて来ました。
……なんといいますか、言われるがままに口にしたかき氷は、みぞれ味で美味しかったです。
◇◇
で、その後、魔獣状態から人型になったアルリズドグさん。
ちょっと肉体派なお姉さんですけど、結構美人な部類に入るんじゃないかな?
なかなかな、ボンキュボ……
「……旦那様?」
「いえ、スア、なんでもありません」
で、まぁ、アルリズドグさん、いまだにテレリテレリしながらパラナミオの横にいます。
「お嬢ちゃん、お姉さん可愛い?」
「はい、可愛いです」
「ホント? うれしいわぁ」
なんか、このアルリズドグさん、「可愛い」って言われるのが嬉しいみたいで……んでもってパラナミオに可愛いを連呼されまくったもんですから、完全にハートを打ち抜かれちゃったみたいなんですよねぇ。
まぁ、みんな仲良しで終わるのはいいことです。
気のせいか後方から、
「さっきはよくも怖がらせてくれたわね?」
「全員売り飛ばす? 出来るもんならやってみなさいよ」
なんて物騒な言葉とともに、カエゲ達がフルボッコにされてるような音と悲鳴が聞こえてくる気がしないでもないんですけど、きっと気のせいなので気にしないことにします。
で
仲良くなれたついでに、アルリズドグさんに
「なんで魚人の女性達を奴隷にして売り飛ばすんです?」
って、聞いて見たところ
「はぁ? あたしゃ売り飛ばせなんて言ってないぞ? 仕事を斡旋してほしい魚人の女達には仕事を斡旋してやってたけどさぁ」
って言いまして……あれ? なんか話が違う?
僕が改めて視線をカエゲ達に向けると、アルリズドグさんが急に立ち上がりました。
「そうだ! お前ら仕事を斡旋してやってた女達から紹介料だとか言って給料をふんだくってただろう? お前らそういうのは絶対するなっていってるだろうが! そのことでとっちめてやろうと思って探してたんだよ、おめぇらのことをさ」
そう言うと、アルリズドグさん、ボキボキ手を鳴らしはじめまして……
で、その先で、カエゲ達が真っ青になっていたわけです、はい。
話を総合するとですね……
カエゲ達が、魚人の女性達を無理矢理捕縛しては、アルリズドグさんのネットワークを勝手に使って魚人の女性達を奴隷として売り飛ばしていた、と。
奴隷販売代金に加えて、紹介料名目で給料から天引きまでしていたんだとか。
で、その天引き額があまりにも法外だったため、その話がアルリズドグさんの耳に入り、今日、こうしてわざわざカエゲ達をとっちめにやってきたってわけなんだとか……
結論から言いますと
この後、アルリズドグさんにフルボッコにされたカエゲは、全てを白状しました。
奴隷として売られた女達は全員アルリズドグさんのポケットマネーで買い戻され、天引きされた給料もアルリズドグさんのポケットマネーから補填されたそうです。
いやぁ……剛毅といいますか、すごいなマジで……
そう思っていると、アルリズドグさんは
「あぁ、大丈夫。こいつらをこき使って回収すっから」
そう言うと、カエゲ達を足蹴にしながらカッカッカって笑っていました。
その足元のカエゲ達、ピクリともしてないけど、大丈夫なのかな?
ま、やらかしてたことが半端ないし、そんなに深くは心配してないんですけどね。
で、パラナミオの事が気に入ったアルリズドグさんは、この夜は僕達のテントに泊まっていきました。
「いやぁ、可愛い娘ちゃんが2人に、息子ちゃん、いいねぇ……で、奥さんはどこだい? タクラ?」
いや、あの……そこプルプル震えてるのが妻ですが……あぁ、スア!? とりあえずその雷撃魔法はこらえて!
そんなこんなで、楽しくみんなで夕飯と朝ご飯も食べた僕ら。
「タクラってば料理もうまいんだな! メッチャうまいよ!」
そう言いながら、アルリズドグさんはガハハと笑いながら最後まで上機嫌でした。
助けられた魚人の女性達も加わって、朝からワイワイ大宴会だったわけです、はい。
それを、パラナミオがすっごく喜んでいましたので、まぁ、よかったよかったって感じです。
「これ、土産だ、もってけ」
いざ帰宅しようとすると、アルリズドグさんが海に一もぐりして捕ってきた海の魚を一山僕にくれました。
「うわ、こりゃ助かる。海の魚ってすごく興味があったんだ」
「あ、そうなのか? なんなら卸売りしてやってもいいぜ、アタシの本業だからさ」
「え、マジ?」
と、まぁ、そんなこんなで、アルリズドグ海属団……あぁ、この字なのね。
と、まぁ、つながりが出来たわけです、はい。
とりあえず、土産でもらった魚を店で研究して、改めて発注させてもらおうと思っています。
そんな大量の魚を魔法袋に入れた僕は、みんなでワイバーンの背に乗り込み帰路へとつきました。
「パラナミオちゃ~ん、また来てねぇ」
って言いながら、アルリズドグさんは、最後までデレデレな様子です。
「はい、また来ます! アルリズドグちゃん!」
「きゃは~! ちゃん! ちゃんずけ最高よ、パラナミオちゃ~ん!」
なんか、ごっついお姉さんがまいっちんぐポーズをしているのは、なんといいますか……ははは。
そんなアルリズドグさんに手を振っていると、なんかスアが僕の背後に立って、やたらウンウン言い出しました。
「……スア、何してんだい?」
「……あててる、の」
「は?」
「……だから、あててる、の」
そう言いながら、スアは胸を必死に前に出しながら僕の後頭部にそれを当てようとしているようです。
あぁ、ひょっとして昨日アルリズドグさんの体をボンキュボンって思ったもんだから、やきもちやいて……
僕は、わざと頭を後方に倒し、スアの胸に後頭部をあてていきました。
すると、スアは僕の頭を愛おしそうに抱きしめました。
「うん、いい感触だ。最高だ」
僕が笑顔でそう言うと、スアは
「……ありがと、う」
そう言うと、少し恥ずかしそうに笑っていました。
そんな僕達をのせたワイバーンは、家に向かって高高度を飛んでいました。