秋の収穫祭 その4
いよいよ秋の収穫祭が始まりました。
会場であるララコンベの街へ向かう街道は朝から荷馬車や駅馬車でごった返しています。
一応石畳で舗装してあるので通行に支障はないのですが、数がすさまじいもんですから都市の門のところを起点にしてかなりの行列が、朝一番から出来上がっていました。
コンビニおもてなしは、すでに準備万端です。
商店街の一角にあるコンビニおもてなし四号店では、
「さぁ、今日も蒸すぜぇ、超蒸すぜぇ」
と、温泉饅頭ブースに控えているララデンテさんがすっごいやる気に満ちあふれています。
店長補佐のダークエルフのクローコさんも、今日は接客メインってことで、髪の毛をモリモリに盛り上げて、あれこれアクセをつけまくり~の、顔にはケバケバしいほどの化粧をほどこし~の、で、なんていいますか、『どこの夜のお店にお勤めで?』って思わず聞きたくなってしまいそうな出で立ちなんですよね。
「任せてよ店長っち! 今日は気合いマジパナイから、あたし」
そう言ってクローコさんは、舌を出しながら横ピースしてるんですけど……
僕が元いた世界でも、それ、すでに死滅したといいますか、時代後れといいますか……まぁ、気合いの入れ方は人それぞれなんで、それ以上突っ込まないことにします、はい。
今日は厨房メインのクマンコさんも、スゴイ手際の良さで温泉饅頭をはじめ、パンや弁当の補充のための下準備に余念がありません。
今日は出店の方でも品切れが起きた場合は、この四号店から補充してもらう予定になっています。
そんな四号店には、二号店からメイド2人が助っ人としてやってきています。
2号店は諸事情により祭りに不参加のため、その代わりにこうして交代交代で助っ人に来てもらい、祭りの空気を感じてもらおうとしているわけです。
何しろこの季節ごとのお祭りは、都市持ち回りなので、いずれブラコンベでも開催されるわけです。その際の参考にしてもらえたら、と思っているわけです。
そんな四号店グループと離れまして、僕が仕切るコンビニおもてなし本店の出店は中央広場に設えられているガタコンベブースの、一番良い場所に設置されています。
「タクラ店長にはしっかり客を呼び込んでもらってですね、ついでに他の店へも客が流れるようにしっかりがんばってほしいのですよ」
そう言いながらエレエがニッコリ笑うんですけど……と、とにかく頑張りますって。
そんなコンビニおもてなし本店ですが、今日は僕以外には、パラナミオとルア、それにスアの三人が手伝ってくれることになっています。
もっとも、スアはリョータを抱っこしたまま、自らの魔法で作り出した四体のアナザーボディを駆使してお手伝いしてくれるんですけどね。
それよりも以外だったのは、ルアがイエロ達と一緒に魔獣狩りに出ないで、出店の手伝いを申し出てきたことなんですよね。
先日から、僕やイエロがオデン六世さんとのことをちゃかしても、妙に反応が薄かったルアなんですけど、まさか魔獣狩りまで不参加にするなんて……
「まさか、子供でも出来たのかい?……なんちゃって」
って、僕が突っ込むとですね……ルアは、なんかギクっとしながら固まりました。
え? マジ?
完全に冗談で言ったつもりの僕なんですけど、そんな僕の前でルアは
「……いや、その……ま、まだわかんないんだよ……た、たださ、なんか急に酸っぱい物が欲しくなったりしてさ、おかしいなぁ、と思ってるだけで……」
しどろもどろになりながら、目の前で人差し指同士をモジモジさせているルア。
すると、その後方にスアがテクテク歩いて行ったかと思うと、その両手を大きく回していきました。
最後に大きな丸印を両手で作っていきました。
……なんか、どっかの神様みたいな格好をしたスアに思わず苦笑しながらも、僕はルアの肩を叩きまして、
「おめでとうルア。ちゃんと籍もいれるんだよ」
って、そう言いましたところ
「……せ、籍はもう入れた」
って、ボソッと言いました。
まぁ、後でイエロやセーテン達に散々弄ばれるでしょうけど、まぁめでたい話だし、いいんじゃないかなって思ったわけです。
◇◇
そんな、思わぬサプライズもあったりしながら、いよいよ祭りが始まっていきました。
一般参加のブースには、テトテ集落と、オトの街の出店が偶然並んでいました。
オトの街の出店では、ラミアのラテスさんが
「はい、いらっしゃい! ラテスのお店のパンやランチですよ~」
そう言いながら笑顔で元気な声をあげています。
テトテ集落の出店では、
「ワシらの作った野菜じゃ」
「それをスープにしたのがこれですわ」
「どれも美味しいでな」
お年寄り達が、若い者にはまだまだ負けぬとばかりに、積極的に店の前に立って声をあげています。
そんなテトテ集落のご老人達の元気な姿を前にして、他のブースのお年寄り参加者の皆さんも急に張り切り始めまして、その結果一般参加ブースがいきなり異様な盛り上がりを見せていきました。
「うん、あそこに負けてはいられないね」
僕がそう言うと、
「はいパパ! パラナミオも一生懸命頑張ります!」
パラナミオも笑顔で頷いてくれました。
その後方では、スアのアナザーボディ達が思い思いのポーズを決めながら気合いを入れています。
で、
「皆さん、コンビニおもてなしのお弁当の試食です。美味しいです」
パラナミオは出店の前に立つと、試食用に小分けにしてあるお弁当ののったトレーを手にして声をあげていったのですが
「パラナミオちゃんのあ~んはワシのもんじゃ!」
「馬鹿者、独占は許さんぞ!」
「パラナミオちゃんは、みんなのものじゃ」
なんて、口々に声をあげながら、一般参加ブースのテトテ集落の皆さんがすごい勢いで駆け寄って来たわけです、はい。
いわゆる、いつものテトテ集落の光景です。
で、パラナミオはそんな皆さん一人一人に
「はい、あ~んです」
そう言いながら、試食用に小分けにしてあるお弁当を、自分の前に並んでいるテトテ集落のお年寄りの皆さん一人一人に笑顔で食べさせて上げていました。
で、パラナミオにあ~んしてもらって極上天国状態のみなさんは、もれなく出店で弁当を購入していってくれましたので、試食してもらった価値はあったわけです、はい。
ですが
「店長、パラナミオちゃんの試食が追加されたらまた来るから」
テトテ集落の皆さんは、笑顔でそう言いながら自分達のブースへ帰っていきました。
ちょうど、街道沿いなもんですから、
コンビニおもてなしの出店からテトテ集落の皆さんの出店がよく見えますし、その逆に、テトテ集落の皆さんの出店からもコンビニおもてなしの出店がよく見えているわけです。
そんなわけで、試食がない時でもテトテ集落の見皆さんは客引きをしながらパラナミオのことをチラチラ見つめているわけです、はい。
そんな中、
出店や商店街の客足は、序盤はいまいちな感じです。
と言うのがですね、やってきたお客さん達は、
「せっかく温泉街へやって来たんだから、まずは温泉に入ろうか。出店や商店街を回るのはあとにして」
みたいなお客さんがかなり多かったみたいでですね、気がつけば温泉宿に行列が出来ていたわけです。
ただ、このお客さん達は、温泉を堪能し終えると、ほどなくして商店街や出店を回り始めました。
そのおかげで、商店街や出店の前も、徐々にお客さんで埋め尽くされていきました。
まだ昼前にも達していないのに、早くもパン類が全部なくなりました。
「パラナミオ、四号店のクローコさんにパンの追加をお願いしてきてくれるかい?」
「はい、わかりました!」
僕の言葉を聞いたパラナミオは、敬礼のポーズをとると、その足でコンビニおもてなし四号店の方へ向かって駆けだして行きました。
ララコンベの秋の収穫祭。
どうやら好調な滑り出しのようです、はい。