秋の収穫祭 その5
ララコンベで開催されています秋祭りですが、初日から好調です。
コンビニおもてなしは、四号店も出店の方も多数のお客さんが殺到し、どちらも入店制限をかけなければならない状態になりました。
四号店では、助っ人に来ていた2号店のメイド2人が
出店では、スアのアナザーボディがこの業務にあたりまして、どうにかお客さんの誘導に成功した次第です、はい。
ただですね、今回の秋祭りは、例年の祭りとは様相が少し変わっていました。
季節ごとに開催されているこの祭りですが、いつもは店が閉まる夕暮れ時を過ぎると酒場以外は閑散となっていくのが常なのですが、
ここは温泉です。
温泉宿は24時間営業しています。
そのため、温泉を満喫した客や出店者のみなさんが夜の温泉街を散策して回っていたのです。
そんな中
「店チョちゃん! これやばくない? ね、やばいよね?」
って、四号店の店長補佐のクローコさんが、もりもりの頭を揺らしながら僕の手をブンブンと振り回します。
「や、やばいって何が?」
「ほら! こんだけ人がさ、うだってんのにさ、店が全然開いてないじゃん、ね、ご開帳しちゃお?」
言葉遣いはともかく……確かに、こんだけのお客さんがうろついてるのに、温泉宿の売店しか店が開いてないってのは寂しいかも……
僕は、念のために組合のペレペのところに確認に走ったんですけど
「タクラ店長! お店を開けてくださるのですです? もうね、こんなに人がうろつくなんて想定してなかったので、どこかお店が開けてくれないかって思ってたとこだったんですです」
ペレペは僕の話を聞くと目を輝かせながら喜んでくれました。
というわけで、開店の許可は取れたけど……問題は店員だよなぁ……
気合い満々のクローコさんは頑張ってくれるだろうけど、ツメバやクマンコさんはとっくに帰ってるし……ララデンテさんは、本店のビアガーデンに行ってイエロ達といつもの酒盛りの最中……
「おっと店長、アタシを、いつも飲んだくれてるだけの思念体だと侮るなよ」
考えこんでいる僕の目の前に、ララデンテさんが登場しました。
「主殿、このイエロもお手伝いするでゴザル」
「ダーリンのためなら任せるキ」
と、イエロとセーテンもやってきました。
ちなみに、ルアは身重のためオデン六世さんによるデュラハンストップがかかっているため、現在酒飲み娘神5を休業中です。
うん、これだけいればどうにかなるか。
そう思った僕はクローコさんに向かって頷きました。
「じゃ、クローコさん、店開けちゃおう」
「はいよぉ!」
クローコさんは、笑顔で店の魔法灯を灯していきました。
僕は、すぐに店の厨房へ移動するとおつまみになりそうなおかずの盛り合わせを作り始めました。
同時に、ララデンテさんに頼んで、スアの使い魔の森に、今出荷できるスアビールやタクラ酒をありったけ四号店に持ってくるようお願いしに行ってもらいました。
こういうとき、思念体~いわゆる幽霊のララデンテさんは、フットワークが軽くて助かります。
ほどなくして、
「ちょっと店長ちゃん、レディのお肌に寝不足は厳禁なんだけどぉ?」
って、ブツブツ言いながら、ヴィヴィランテスが酒の詰まった魔法袋を背にのせてやってきてくれました。
いつもであれば
『お前、オネエのくせに何がお肌だ!?』
って突っ込むとこですけど、今日は僕が無理を言っているため、あえて突っ込みません。
こうして、酒もとどき、つまみの販売も始まり、ララデンテさんが温泉饅頭を蒸し始めたあたりから、
「お、なんかいい匂いが」
「あ、この店あいてるじゃない」
「え? 酒もあるの?」
お客さんがどんどん殺到し始めました。
スアとパラナミオは巨木の栄に帰って寝ていますので、今夜はこのメンバーでこの店を回さないといけません。
ですが
「店長ちゃん、クローコにおまかせ!」
って言いながら、横ピースするクローコさんが、すごく頼もしく見えます。
……今時横ピースは、いかがな物かと、やっぱ思ってしまうんですけどね
結局この夜、温泉宿から散歩に出てくるお客さんは深夜遅くまで途切れませんでした。
なので、コンビニおもてなし四号店も、この夜は朝まで営業を続けていった次第です。
明け方になり
「じゃ、すまない。コンビニおもてなし全店のお弁当を作らないといけないから、僕は一度、本店に戻ってくるね」
僕が、あくびをかみ殺しながらそう言うと、
「あいよ! 店長ちゃん、あとはクローコにおまかせ!」
って言いながら、ハイテンションのまま横ピースするクローコさんが、より一層頼もしく見えます。
そんなわけで、僕は一度本店へと戻っていきました。
本店の厨房では、すでに魔王ビナスさんや、テンテンコウ♂、ヤルメキス達が集合していつもの調理作業を開始していました。
僕は、そんな輪の中に加わっていくと
「みんなおはよう、さ、今日も頑張ろうか」
って、いいながら横ピースを……
……やばい、うつされた!?
「あのぉ、なんですか? 今のこれは?」
魔王ビナスさんが、怪訝そうな表情を浮かべながら、僕の真似をして横ピースをしています。
「あ、いえ、なんでもないんです……あはは」
僕はもう、ひたすら笑ってごまかしたわけです、はい。
その後、いつものように調理作業を終え、荷物の区分けも終えたあたりで、
「はぁ~い、おはよう~」
ってな声をあげながらヴィヴィランテスがやってきました。
「ヴィヴィランテス、昨夜は急に頼んでごめんな」
僕がそう言うと、ヴィヴィランテスは
「アタシはあんたのために頑張ってんじゃないの。スア様のため」
そう言いながら、自分の口を使って魔法袋を背に乗せていってたんですけど
「……ま、そのついでくらいには、お願いを聞いてあげなくもないわよ」
そう言いながら、いつものように転移ドアの方へと移動していきました。
なんのかんのでヴィヴィランテスって、ホントいい奴です。
……いい加減、ハニワ馬をやめてもいいんじゃないかと思うんですけどね。
ララコンベの祭り2日目開始まで少し時間がありますから仮眠でもとりたいところなんですけど、今もおそらく四号店は営業してますからね。
僕はあくびをかみ殺しながら四号店への転移ドアをくぐっていきました。
すると
「あ、店長ちゃん、いいとこに帰って来たぁ」
って、クローコさんが声をあげました。
ってか……な、なんじゃこりゃあ!?
僕の目の前の四号店の店内は、まさに人・人・人です。
なんかもうすごい数のお客さんで溢れかえっています。
どうやら、イエロとセーテン、それにクローコさんはレジにかかりっきりになっていたため、入場制限出来なかったらしく、この惨状になってしまったようでした。
そんな中でも、ララデンテさんは愚直に温泉饅頭を売り続けています……
で、まぁ、僕が来たことで、イエロが客整理に回れたおかげで、ほどなくして四号店店内の大渋滞も緩和されていきました。
どうもですね、朝早くから温泉に入ったお客さん達が、何か食べる物を求めてコンビニおもてなし四号店に殺到したらしいんですよ。
温泉宿の食堂は、深夜2時頃に閉まりますからねぇ……
ってなわけで、ヴィヴィランテスが運んで来た弁当類を早速店頭に並べていきますと、その端から端から売れていきます。
「うわ、こりゃすぐ売り切れるぞ!?」
僕が悲鳴を上げていると
「あらあら、店長さんすごい状態ですね」
って、転移ドアから魔王ビナスさんが顔を出していました。
「じゃあ私、すぐにお弁当の追加を作っちゃいますね」
そう言いながら本店に戻って行いく魔王ビナスさん。
いやもう、魔王ビナスさん、おかん度すごすぎです。
魔王ビナスさんの機転のおかげもあって、四号店では食べ物系の売り物がなくなるという最悪の事態はどうにか避けられまして、祭り2日目も引き続き営業を続けていきました。
ツメバはクマンコさん、それに2号店からの助っ人のメイドが2人が到着したところで、僕は出店の方へと移動していきました。
ちょうどやって来たパラナミオが
「パパ! パラナミオは今日も頑張ります」
そう言いながら、僕とおそろいのエプロンを嬉しそうに着けています。
「そうだね、一緒に頑張ろうか」
僕がそう言うと、パラナミオは
「はい!」
って、満面の笑みを返してくれました。
結局、完徹のまま迎えた収穫祭の2日目でしたけど初日以上に好調でして、そのまま無事収穫祭終了を迎えていきました。
祭り終了の鐘が街中に鳴り響く中、僕はパラナミオとスアのアナザーボディと一緒に出店の片付けをしていました。
そんな僕達のところに、テトテ集落の皆さんがやってきました。
「店長さん、誘ってくれてありがとう」
「ワシらも、久々に楽しかったぞい」
「なんかこう、張り合いが出るね」
って、皆さん口々に、僕に感謝の言葉を述べてくれました。
僕的には、テトテ集落の皆さんが少しでも楽しんでくれたら、って思ってただけなんで、
「皆さんが楽しんでくださったのでしたら、僕も本当にうれしいですよ」
そう言いながら、皆さんに向かって笑顔を向けたんですけど。
その時には、テトテ集落の皆さんは全員パラナミオの方へ殺到してまして、僕は一人、誰もいない空間にむかって笑顔を向けていたわけです。
まぁ、いいですけどね。
こうして、ララコンベでの秋祭りは盛況のうちに幕を閉じていきました。