秋祭りアフターからの、パラリラパラリラ 序
「秋祭り、とっても楽しかったです!」
祭りが済んで数日経ちますが、いまだにパラナミオはお祭りのことを思い出しては上機嫌な様子です。
基本的には店の手伝いをしてくれていたパラナミオですが、2日目に行われたこども神輿の際には出店を抜けて、御神輿を担ぎにいきました。
神輿の天辺に、僕を模した人形がご神体よろしくのっかっているのはご愛敬って事にしてください。
パラナミオをはじめとした、たくさんの子供達が担いだ神輿は祭りにやってきたお客さんで賑わっている街道を練り歩いていきまして、やんややんやの大歓声を受けていました。
ちなみに、このこども神輿には、4号店のクマンコさんの子供さん達も参加していたそうでして、
「いやぁ、ウチの子供達がぁ、パラナミオちゃん、かわええねぇって言ってましたぁ」
って、祭りの翌日、笑顔で僕に教えてくれました。
「いやぁ、そう言ってもらえると僕も嬉しいですよ」
僕は思わず照れ笑いを浮かべていったわけです、はい。
ちなみに、秋祭りをちょっと見に来た際に、このこども神輿と遭遇した魔王ビナスさんは
「いいですわねぇ、子供! 可愛いですわぁ」
って言いながら目を輝かせていたんですけど
「これはもう、家に戻ったら旦那様に子種を仕込んでもらいませんことには……」
って言いながら、すごい勢いで帰って行ったんですよねぇ。
結果がどうなったかは、今の時点では神のみぞ知る……ですけど、翌日、超がつくほど上機嫌だったところを見ると、目的の行為はしっかりしてもらえたご様子です。
で、今回の秋祭りを主催したことで、温泉街としてのララコンベが周囲の街や村、集落にも広く知れ渡ったわけなんですが、そのせいか祭り以後にララコンベを訪れるお客さんの数が2,3割くらい増えているそうなんですよ。蟻人ペレペ集計による結果ですので、ほぼ間違いないでしょう。
もともと、口コミでじわじわ客が増えていたララコンベですけど、ちょうどいいタイミングでこの秋祭りが重なった感じです。
ララコンベの皆さんもすごく頑張ってここまでこぎ着けていただけに、その知らせをペレペから聞いた僕は思わず笑顔で
「いやぁ、ホントよかったですねぇ」
って、ペレペに笑顔を向けて行きました。
すると、ペレペは
「いえいえいえ、すべてはタクラ店長のおかげなのですです。温泉宿のアイデアからカウ丼やカウドン乳などの商品開発……タクラ店長なくして、今のララコンベはありえなかったのですです」
そう言いながら僕の腕を掴んでいきました。
確かにアイデアを出したのは僕ですけど、それを実行したのはララコンベの皆さんですからね。
それに、カウドン乳はコンビニおもてなしにも卸売りしてもらっていますけど、これ、本店や2号店、3号店でもよく売れているんですよ。
ちなみにですね、このカウドン乳をコンビニおもてなしで売り出す際に
『朝は一杯のカウドン乳から』
みたいなポスターを作ってみたんです。
えぇ、腰に手をあててぐいっとカウドン乳を飲んでるパラナミオの姿をデジカメで撮影しまして、その画像をパソコンで加工して、プリンタで打ち出したんですけどね。
この効果も結構あった気がします。
こんな作業をちゃちゃっと行えるパソコンって、やっぱ偉大です。
それもこれも、太陽光発電を導入してたおかげで、この世界でも家電製品を使用出来るおかげなんですよね。
店の電気といい、このパソコンといい、電気自動車のおもてなし1号といい、ホントあれこれ助かっている次第です。
ちなみに、このカウドン乳を飲んでるパラナミオのポスターはですね、ララコンベの商店街組合や、温泉宿にも貼られているんですが、それを目ざとく見つけたテトテ集落の皆さんがですね
「て、て、て、店長! あ、あのポスターをじゃな、是非ともテトテ集落にも譲ってほしいのじゃ!」
「いや、いっそ売ってくれ!」
「うむ、買うぞ、超買うぞ!」
と、まぁ、すごい剣幕で僕ににじり寄ってきたんですよね、皆さん。
で、まぁ、全員の家に一枚ずつというわけにもいかないので、とりあえず1枚差し上げたところ、なんかそれを受け取るときのテトテ集落の皆さん
「はは~」
って頭を下げながら両手で恭しく受け取っていかれたんですよね……
なんか、これ、パラナミオ教かなんかですかね?
ちなみにオトの街からやって来ていたラテスさんの出店も好評だったそうです。
ラテスさんは、ラミアのため下半身がとても長いもんですから、お客さん達の邪魔にならないようにと、祭りの開催中は出店からほとんど出てこなかったんですけど、2日目が終了して、僕が店の後片付けをしていると、
「タクラ店長さん、今回は誘ってくださって本当にありがとうございましたぁ」
って、笑顔で僕に挨拶してくれました。
「しっかり売れました?」
「はい、おかげさまで完売したんですよ……あ、でも」
そう言いながら、ラテスさんは箱に入ったロールケーキを僕に差し出してくれました。
「前に教わったロールケーキですけど、どうにか作れるようになりまして……パラナミオちゃんや皆さんのために1個残しておいたんです」
「あぁ、そりゃありがたいです……ほぉ、これは上手に出来てますね」
「わぁ、タクラ店長にそう言ってもらえるとすっごくうれしいです」
ラテスさんは笑顔でそう言ったんですけど、その時の僕の脳内に
『近い……近いってば』
ってスアの思念波が流れ込みまくっていたのは、まぁご愛敬って事で。
そんなこんなで、秋祭りも無事終了したわけですが、秋の収穫シーズンはまだまだ続いているわけです。
市場に運び込まれてくる野菜や果物なんかも、その量が半端なく増えていまして、僕も商品を見て回るのが毎日大変になっていたりします。
とはいえ、ここで珍しい物や、元いた世界の品物に近い品物を見つけることが出来れば、料理の幅も広がっていきますし、あれこれ楽しみなわけです、はい。
今回、僕が秋祭りに出ている際に、店長補佐のブリリアンの元で、ウルムナギ又のルービアスもよく頑張ってくれていました。
「いやぁ、最近働くことの楽しさに目覚めちゃいまして」
ルービアスはそう言いながら笑っていました。
そんなルービアスなんですけど
「そうそうタクラ店長、もうすぐ川にザッケが遡ってきますよ」
って教えてくれたんですよね。
ザッケ?
そりゃ鮭のような魚なのかな?
だったら、鮭の塩焼きとか、鮭おむすびとか、焼き鮭弁当とか店のメニューに新たなレパートリーが加わるなぁ、って思っていたらですね、なんかルービアスは
「あれを狩られるつもりでしたら、槍と盾をお忘れ無く」
って、言うんですよ。
で、スアに聞いて見ると
「……名前は知ってるけど……見たことはない、の」
って言いまして、イエロやセーテンも詳しく知らなかったんですよね。
で、僕の店の関係者の中でも一番この辺りに長く済んでるルアに聞いて見ましたら
「あぁ……もうそんな季節かぁ……」
って、なんかどんよりした顔をしていくんですよね。
「ザッケって、なんかそんなに面倒くさい魚なの?」
「面倒くさいというかさ……うるさいんだよね……朝早くから夜遅くまでパラリラパラリラ音をさせながら川を遡ってきやがるんでねぇ……」
パラリラパラリラ?
え? 何ソレ……僕の世界でそんな擬音がピッタリくるのって暴走族しか思いあたらないんだけど……
「あぁ……ある意味川の暴走族だね、ありゃ……」
ルアは、そう言いながら頭をかいていきました。
そんな魚がいるっていうの?……って、僕がコンビニおもてなし本店の中で思わず腕組みしていると、なんか店の裏の方から妙な音が聞こえてきました。
気のせいか、パラリラパラリラいってる気がしないでもないんですが……