パラリラパラリラ その1
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
パラリラパラリラ
うん、なんだこの音?
僕は困惑しながらコンビニおもてなし本店の裏へと回っていきました。
そこには僕達一家が生活している巨木の家やイエロ・ブリリアンの小屋やビアガーデンをやってる広場がありまして、その向こうに川が流れています。
で、そのやけに賑やかな音はその川の下手から聞こえてきています。
僕は、そちらへ視線向けたところで思わず固まりました。
いえね……固まるなって方が無理ですって。
川下から川幅一杯に広がって、何やら魚っぽい物体が遡ってきてるんですけど、
その魚の口が、どうみてもトランペットなんですよ。
そのでっかいトランペットみたいな口からですね、あのパラリラパラリラっていう甲高い音……鳴き声? を周囲に響かせながらどんどん川を遡ってくるんです、はい。
僕がそのザッケらしき魚の軍団を見つめていると、ルービアスが何やら舌打ちしながらやってきました。
「あいつら、今年も懲りずにきやがりましたですねぇ」
「ルービアスが住んでた湖まで遡っていくのか? あいつら」
「遡るも何も、あの湖で繁殖して子育てしてから川を下っていきやがるんですよ……だから私達ウルムナギ又とは毎年攻防を繰り広げていたのです」
「へぇ、そうなんだ」
「はいですよ。湖を占拠して我が物顔で繁殖して子育てしまくるヤツらに対してですね、いかに見つからずに餌を確保して、んでもってあの音に耐えながら眠っていたのですよ」
「……ちょっと待て、それは攻防じゃなくて一方的に負けてないか? おい」
僕がルービアスとそんな会話を交わしていると、ルアがでっかい金槌をもってやってきました。
「とにかく、あいつらの数を減らさねぇことには街がうるさくてしょうがないんだ」
そう言うと、そのでっかい金槌を持って川に
行こうとしたところに、オデン六世が駆けつけルアをガッシと受け止めました。
「離せって旦那。あいつら倒さないと街がうるさくてしかたないんだって」
「……お腹、子供」
「あぁ!? アタシと旦那の子だ、それぐらい耐えれるに決まってる」
なんか、すごいことを言ってるルアですけど、当然オデン六世さんは離しません。
すると
「ならばここは、我らの出番でござるな」
「任せるキ」
そんなルアの後方からイエロとセーテンが猛ダッシュしてきました。
イエロは日本刀を
セーテンは細長い棒を片手に川に向かって突っ込んでいきます。
すると、ザッケ達は迫ってくる2人に気付くと、その大群全てが2人にむかってその顔を向けていきました。
「や、ヤバい! みんな耳をふさげ!」
それを見たルアが叫びました。
んで、僕とルービアスはすぐに耳をふさいだんですけど、イエロとセーテンはそのまま突っ込んでいます。
そんな2人に向かって
ボエ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ザッケ達が一斉に超重低音域の音を、そのトランペットみたいな口から発していきました。
その音は、互いに共鳴し合いながらすさまじい衝撃波をともなってイエロとセーテンに襲いかかっていきます。
で、その直撃をくらった2人は
「み、みみみみみみみがぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ウッキ~~~~~~~~~~~~~~~」
なんかもう、ど派手に後方に弾け飛んで倒れこんでいってるんですよね。
しかも、その衝撃波はすごい勢いで街中に響きわたっていきました。
はっきりいって、すっごい大迷惑です。
まさに街のはずれでシュビドゥバです。
「……おいおい、こんなのどうやって倒せっていうんだ?」
「だからだな、アイツらが隊列を組む前に金槌でぶん殴るしかないんだって。だからアタシが」
「……だめ、絶対」
「これはもう戦術的撤退しかないのですってば」
と、まぁ、僕達がアタフタしながらそんな会話を交わしているとですね
ふぎゃああああああああああああああ
巨木の家の方から、リョータの泣き声が響いてきました。
タイミングからして、さっきのザッケ交響楽団によります超音波狂想曲衝撃波付きが原因なのは間違いありません。
その時、
僕の脳内で、なんか新しい音楽が流れ出した気がしました。
僕が元いた世界では世界的に有名な怪獣の地位を確立していた、あのゴ○ラのテーマが、僕の脳内いっぱいに響きわたってきた気がしたんです。
で、そんな僕の目の前で
巨木の家から、スアが出てきました。
スアは、大股で歩きながら川に向かって一直線に進んで行きます。
それに気づいたザッケの集団は、今度はスアに狙いを定めていきます。
そんなザッケに向かって
「うっさい!」
スアが怒鳴ったかと思うと、ザッケ達の真上に巨大な握り拳が落下していきました。
どごおおおおおおおおおおおおん……
すごい音でした。
すごい振動でした。
その握り拳は、ザッケの集団を全部押しつぶしながら川底に達していきました。
で、川の中にめりこんでいたその握り拳が消えていくと、そこにはもうザッケの姿はありませんでした。
僕やルービアスがおそるおそる近づいていきますと、ザッケの大群は全て川底でぺちゃんこになっていました……まるで漫画のように……
その光景に、唖然としている僕の後方では
「……はいはいリョータ、もう大丈夫でちゅよ」
スアが、赤ちゃん言葉を発しながら巨木の家へ猛ダッシュで戻っていたんですよね。
と、まぁ、ザッケの第一波はこうして退けることが出来たんですけど、
「……いやぁ……あいつら、想像以上にやっかいでござったな」
「まったくキ」
と、イエロとセーテンが頭を振りながら眉をしかめていました。
2人とも、いまだに耳鳴りで頭がグワングワンしているらしく、なかなか立ち上がれない様子です。
この2人がここまでの状態になってしまうんですから、ザッケが相当やっかいな相手なのは間違いありません。
「しかし、あいつらなんであんなに派手な音をさせながら川を遡ってくるんだ?」
僕がそう言いながら首をひねっていると、ルービアスがですね
「あいつらはですね、あの音を出すことで周囲に敵が寄ってこないようにしているのですよ。それでも寄ってくる敵には、さきほどの集団怪音波を発して追い払うもんですから、いつのまにか敵の方が寄ってこなくなるんですよ」
「は~、なんていうか、はた迷惑な方向に進化しやがったんだなぁ」
僕はそう言いながら腕組みしていきました。
しかしまぁ……そこまでして排除したい敵ねぇ……
あのザッケ、川底で押しつぶされていた姿からして、口がトランペットみたいなのを除けばまさに鮭なんですよね……となると、その敵となると……
そこで、僕はあることを思いつきました。
◇◇
翌日、本店の裏の川では、子供達の元気な声が響きわたっていました。
「そりゃ~」
「とりゃ~」
川の中には、4号店店員クマンコさんの子供さん達6人がはいっています。
そして、パラリラパラリラ言いながら川を遡ってくザッケ達を、腕でひと払いしては川辺に叩きつけています。
ザッケ達も、隊列を組んで例の怪音波を発しようとするんですけど。
「あ、集まった!」
「今だ、大量ゲットのチャンスだぜ」
そんなことを言いながら、すさまじい勢いでザッケの大軍にむかって突っ込んでいくもんですから、ザッケの方が恐れおののいて逃げ出す始末なんですよね。
「まぁまぁ店長さん~、こっただ楽しい遊びを子供達にさせてくんださってまぁ、ほんに感謝感激だぁ」
って、言いながら子供達の様子を嬉しそうに見つめています。
「いえいえ、なんていいますかこっちもすっごく助かってますんで」
僕は苦笑しながらそう返事をしていきました。
まぁ、単純に、僕の元いた世界でいえば、川を遡ってくる鮭は熊の餌食になるってのがありましたんで、そこで熊人のクマンコさんに話を振って見たんですけど、そうしましたら
「あんらぁ、ザッケが遡ってくる川はあるんですかぁ? そりゃあウチの子供達にぜひ遊ばせてやりたいですぅ」
って、満面の笑顔で言ってくれたんですよねぇ。
……しかし、まさかここまでとは思いませんでしたけど。
僕は、ザッケの大群を次々に川辺に叩きつけていくクマンコさんの子供さん達の姿を見つめながら、ちょっとだけ、ザッケに同情していた次第です、はい。