パラリラパラリラ その2
さてさて、クマンコさんの子供さん達が仕留めてくれた大量のザッケですが、早速調理をしてみようと思います。
チャンチャラチャラララチャチャチャチャ~
どっかの3分クッキングみたいな音楽を脳内で再生しながら、僕はザッケを本店の厨房のまな板の上に乗せてさばいていきます。
……で、さばきながら気がついたんですけど……ザッケって、やっぱり鮭そっくりなんですよね。
決定的に違うのが、口にでっかいトランペット状の物体がついていること……これ、どうやら口が大きく丸く巨大化した感じなんです。
あと、この口からあのパラリラパラリラ音を出すためにか、喉のあたりに声帯らしき物がありまして、しかも肺がありました……、は、肺魚っすか……こいつ。
でも、大きく違うのはそれくらい……って、そんだけ違ったらもう別物じゃないかって気がしないでもないんですけど……とにかくその身を切り身にして焼いてみました。
味付けは軽く塩をまぶしただけですけど……味が鮭と差がないのであればこれで十分なはず……
ぱく……モグモグ……
「うん、これはうまいよ」
僕がそう言うと、その様子を後ろで見つめていたルアが眉をしかめました。
「うっそだぁ、ザッケが食えるなんて聞いたことがないよ。あんなクソうるさいだけの害魚がうまいはずがないじゃない」
そう言うルアに、焼きたてのザッケの切り身を皿にのせて渡しました。
するとルアは猫人らしく鼻をひくひくさせながらそれを匂っていきます。
「……あれ? なんかいい匂い?」
そう言いながら、ルアはザッケの切り身を一口……
「んん!?」
ルアは、目を見開くと皿の上のザッケの切り身をすごい勢いで食べていきました。
最後には皿を舐めまくるルア。
「ルア、そんなに気に入ったんなら、もう1枚焼こうか?」
「ぜひ!」
僕の言葉に、ルアは、はは~、っとばかりに頭を下げながら、綺麗になった皿を僕に差し出して来ました。
結局、ルアは1人でザッケ1匹分の切り身をぺろっと平らげてしまいました。
「ち、違うだ、これはその……赤ちゃんがさ、お腹の中で食べてたんだよきっと、うん」
なんか、必死に弁明してるルアですけど、赤ちゃんが生まれてきたら言いつけちゃうぞ?
僕がそう言うと、ルアはその場で気をつけをしたかと思うと、
「ごめんなさい、それだけは勘弁して……」
そう言いながらマジ顔で頭をさげていきました……わ、わかったよ、そこまで真剣な顔でお願いされたら、こっちも茶化しにくいじゃないか……
と、まぁ試食は大好評……っていっても、まぁ、僕とルアの2人だけだったんですけど、ま、大丈夫でしょう。
僕は、ザッケを使って早速商品の試作に入りました。
作ったのは2品です。
・ザッケの切り身を乗せたお弁当
・ザッケの切り身を中に挟んだおむすび
元の世界にあったコンビニやお弁当屋さんでは定番のメニューなわけです、はい。
で、早速僕はこの日から本店でこの2品の試験販売を開始しました。
新商品は、試食を準備しないとお客さんの食いつきがよくないっていうのがわかっていますので、当然今日も試食を準備しています。
で、試食を配る係ですけど……パラナミオがいてくれたら最高なんですけど、今日は学校なので仕方なくウルムナギ又のルービアスにお願いすることにしました。
「ふふふ、お任せくださいタクラ店長。このルービアス、あっという間に試食をさばいておみせしますわ」
そう言いながら、ルービアスは一度僕に背を向け、しばらくしてから僕に向かって空になったトレーを見せながら、
「はい、全部なくなりました」
って言いながら、口をすっごくモグモグさせてます。
「てめぇ、試食全部食ってんじゃねぇ! 客に配るんだって」
この後、僕にしこたま怒られたルービアスは、今度は真面目に店の前に立って試食をお客さんに配ってくれていました。
すると
「店の前で配ってた試食の製品版ってどれだ?」
「あのザッケがあんなに美味しいなんてねぇ」
と、まぁ、予想通り試食作戦は今回も大成功だったわけでして、試験的に準備していたザッケの弁当とおにぎりはあっという間に完売してしまいました。
どうやら、ザッケを商品として使える目処が立ったわけです、はい。
さてさて、そんなザッケを今度は狩るわけですけど、今はクマンコさんの子供さん達が手伝ってくれていますけど、問題なのはクマンコさんの子供さん達が来ない日と夜中なんですよね。
このザッケですけど、夜中だろうが未明だろうがお構いなしにパラリラパラリラ言わせながら川を遡ってくるわけです。
さすがに、そんな時間までクマンコさんの子供さん達頑張ってもらう訳にもいきませんしね……
「さて、どうしたもんかなぁ……」
僕が、巨木の家でそんな事を考えていると、スアがトコトコ歩きながら僕の側にやってきました。
「……あのザッケを狩ればいい、の?」
スアはそう言いながら僕の顔を見つめて、その首をひねっていたんですけど、僕が
「あぁ、そうなんだ……あいつらってば夜中もくるからさ……なんか手をうたないと……」
僕がそう言うと、スアはニッコリ微笑んで、一度巨木の家へと戻っていきました。
しばらくして戻って来たスアの後方には、なんか妙に角張った熊が2体付き従っています。
「……木人形……熊バージョン、よ」
スアはそう言いながらニッコリ笑いました。
どうもスアはですね、魔女魔法出版から隔週刊で発売されていた「隔週刊魔人形を作る」を使用して通常の木人形を作成した後に、その姿形を普通の人族の形から熊の形に魔法で変化させたらしいんですよね。
で、その2体の熊型の木人形達は、クマンコさんの子供さん達がいない間中、あの川べりに立ってですね、ザッケ達が川を遡ってくると、それに猛然と襲いかかっていって川辺に次々と千切っては投げ、千切っては投げとまぁ……とにかくすごい活躍をしてくれています。
「さすがスア、すごいなぁ」
って僕が感心していると、スアはテレリテレリしながら体をクネクネさせていたんですけど……そんなスアの後方には、今回の木人形作成のために開封された「隔週刊木人形を作ろう」のパッケージが転がっていました。
全10冊、合計で1千万/元いた僕の世界の通貨換算……これが2体分ですから……
こりゃ、相当売りまくらないと元がとれないぞ
そんなわけで、ザッケ弁当とザッケおにぎりはすぐにコンビニおもてなし全店ですぐに販売開始しました。
おかげさまで、ザッケ商品はどの店でも大好評でして、毎日どの店でも最初に売り切れています。
そんなザッケですが、最近は我が家の食卓にも出ています。
ザッケの切り身
野菜の味噌汁
目玉焼き
そして白いご飯
……なんて素敵にジャパニーズブレックファーストなわけですよ、ホント。
「……これ、旦那様が向こうの世界で食べてた朝ご飯、なの?」
「そうだね、すごく近い物になってる……たまにね、こういうご飯すごく食べたくなるんだよ」
僕がそう言うと、スアは
「……私、この朝ご飯、かなり好き、よ」
そう言ってニッコリ笑ってくれました。
なんていうのかな……僕の好きな物を奥さんも好き……そういうのってなんかすっごくうれしいんですよね。
すると
「パパ! パラナミオも大好きです、これ!」
そう言いながら、パラナミオも手を上げながら笑顔で僕に声をかけていきます。
あぁ、愛する子供までって、もう最高ですよ、ホント。
僕は、そんなスアとパラナミオを思わず抱き寄せていきました。
すると、そんな僕らをイエロやセーテンが抱きしめていき、
そこに猿人四人娘やシャルンエッセンス達が……とまぁ、タクラ家名物家族の輪が、見事に出来上がっていった次第です、はい。