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パラリラパラリラ その3

 ザッケ弁当やザッケおにぎりが好評なのはいいのですが、この魚ってこの時期にしか川を遡ってこないそうなのですよね。
「となると、この時期だけしか提供出来ないわけかぁ……元の世界なら、だいたいの品がどっかから仕入れる事が出来て、年中提供出来ていたのになぁ」
 僕が巨木の家でそんなことを呟いていると、スアがテクテクと歩いてきて不思議そうな顔をしました。
「……秋にしかこないザッケ、を、年中? いっつも?」
 あぁ、そうか。
 元いた世界の常識で考えてしまっていましたけど、ここは異世界です。
 元いた世界と同じような事がここでも同じように出来るとは限らないわけです。
 元いた世界では、それがあたりまえのように行われていたものですから、ついその頃の感覚で話をしちゃう時があるのですよね。
 今の、この世界のように季節に手に入る商品を使って、それを提供する。
 これが本来の形なんだよなぁ、ってつくづく思うわけです、はい。

 この話を聞いたスアも、
「……ん? ん?」
 と、どうもピンと来ない様子です。
 よく聞いて見ると、この世界はだいたい同じように季節がめぐっているらしく、ザッケはこの川の下流域にある海で育って、そして脂がのりきった頃に妊娠した雌と、その雌を守る雄が一緒になって川を遡ってくる……で、そのタイミングがすべて同じなのだとか。
「……となると、別の地域で、別の時期に川を遡っているザッケを捕獲しようにも、そんなザッケがそもそも依存材しないわけか……」
 僕は腕組みしながら天井を見上げていきました。

 まてよ……ならいっそのこと養殖とかしたらどうなのだろう?

 どっかの湖に保護区画をつくってそこにザッケを入れて、んでもって栄養価の高い餌を与えてやれば、すくすく成長して、んでもって子供を産んで、その子供がまたすくすく成長して、んでもってその子供達が子供を産んで……

 ……まぁ今の時期、すごい量遡ってきてますから試すのはいくらでも出来る感じなんですよね。

 ちなみに、ザッケの子供ですけど……卵じゃないんです。
 ザッケの雌のお腹の中に稚魚の状態でわんさと入ってるんです。
 やっぱこれ、肺魚だからってのもあるんですかねぇ。

 はじめて雌のお腹をひらいた時に、すっごい数の稚魚が厨房の中をぴょこぴょこ跳ね回って
「あら、やだ、ちょっと、キモノの中は困ります」
 って言いながら、魔王ビナスさんがすっごく色っぽい声を出しながらどんどんキモノを

「……で?」

 ……いえ、スアさん、なんでもありません。
 なんにもありませんでしたとも……

「……で?」

 ……ちょっと腰巻き一枚になった魔王ビナスさんを見てポッとしてしまいました。サーセン

 ばちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん

















 え……っと、ちょっと言葉を発するのが辛いくらいに頬が腫れ上がって、見事な紅葉のアザが出来ている僕です。

 ブリリアンやヤルメキスも、言葉を失っていますが、自業自得なのでしかたありません、はい。

 で、まぁ、僕は熊の木人形が捕獲してきたザッケの雌のお腹から丁寧に稚魚を子宮ごと取り出しました。
 で、まずはこれを水槽に入れて育ててみることにしました。
 ちなみに、この水槽ですけど、爺ちゃんが店長だった頃に店で売ろうとして仕入れてたやつなんですよね。
 え? 売れたのかって? 売れてないから今ここで僕が使ってるんじゃないですか。
 ちなみにあと20個あります。どうですか? おひとつ。

 何しろ本格的に熱帯魚も飼えるサイズの水槽です。
 1匹の雌から採取出来た稚魚100匹くらい入れても全然気にならない大きさです。
「パパ、お魚さんを育ててるんで……って、どうしたんですか!? その顔は!?」
 って、僕が魚を飼育し始めたと聞いたパラナミオが、満面の笑顔で僕の部屋に入ってきたんですけど、腫れ上がってる僕の顔を見て当然のようにびっくりした声をあげました。

 ですが

「あれ? 気のせいだったんでしょうか? 普通です」
 なんか、パラナミオが目をぱちくりしながら僕の顔を見直しています。
 パラナミオに言われて、僕も顔を触って見ましたら……あら、治ってます。

 で、よく見たら、部屋の入り口のところにスアが立ってまして、すっごく不服そうな顔をしたまま僕に右手を伸ばしています。
 どうやら、パラナミオの前であの顔のままってのは可哀想と思ってくれたみたいで、回復魔法をかけてくれたんでしょう。
 僕は、右手でスアに謝罪のポーズをしながら、パラナミオに水槽を見せてあげました。

 水槽の中では、ザッケの稚魚が元気に泳いでます。

「わぁ……キラキラしていて可愛いです」
 パラナミオは、笑顔で目を輝かせています。
 ……この顔を前にして、
『こいつらそのうち食べるんだよ』
 と……ちょっと言いだしにくい雰囲気です、はい。

 で、餌ですけど、とりあえず金魚の餌を与えて見たところすっごい勢いでみんな食べていました。
 ……ちなみに、これは僕の代で仕入れた売れ残りですけど、何か?


 で、ザッケを育て初めて3日


 その日の朝、水槽を見に行った僕とパラナミオはびっくりしました。
 昨日まで、まだ小さかった稚魚がですね、この日10倍くらいに成長してまして……100匹が10倍です。
 えぇ、水槽の中が押すな押すなの大渋滞になっていたわけです、はい。
「パパ、大変です! お魚が死にそうです!」
 パラナミオが慌てているんですけど……さて困ったぞ。
 何しろ、湖にザッケ育成場所を作るのはもっと先だろうと思っていたので、まだなんの準備もしてません。
 ウルムナギ又達が住んでいた湖で、となると、あそこってたまに魔獣が水飲みに来たりしてますんで、下手したら襲われかねないなと……

 そんな感じで僕が水槽の前で腕組みしながら考えこんでいると、そこにスアがテクテクと歩み寄ってきまして
「……行こう」
 って、言うんですよね。
「どこへ?」
 って僕が言うと、スアが右手を振りました。

 ってか、到着したここって、スアの使い魔の森の中だよね?
 僕とパラナミオがびっくりしている前で、スアが前方を指さしました。

 そこにはでっかい湖がありまして、その一角がでっかい網で仕切られています。
「……こないだ、旦那様が言ってたから……作っておいた、の」
 スアは、なんかモジモジしながらそう言ったあと
「……この間はやり過ぎた……ごめんなさい」
 そう言って僕にペコリと頭を下げました。
「いや、もう怒ってないって言うか、むしろ僕の方が悪いんだから」
「……ホント、に?」
「あぁ、もちろんだよ」
「……ホント、に、ホント?」
「あぁ、ホントにホントだって」
「……嫌いになって、ない?」
「当たり前じゃないか、僕はいつもスアを愛してるよ」
「……私も、よ」
 僕とスアが、すっかり仲良しラブラブモードに突入していると
「パパ、お魚が!」
 おっといけない、スアとイチャイチャするのに夢中で忘れかけてたよ。

 僕は、スアが作ってくれていた湖内の簡易生け簀の中にザッケの稚魚を放流しました。
 稚魚達はすぐに元気に生け簀の中を泳ぎ始めました。
 どうやら、どうにかなった感じです。

 で、この稚魚たちなんですけど、金魚の餌がどうもすごく体に合ったみたいで、すごい勢いで成長していきます。
 このペースだと、かなり在庫が残っている金魚の餌ですけど、あっという間に品切れになりそうな勢いです。
 そこで、僕はこれをプラントの木で培養してみることにしました。
 一応自然素材を使用している餌なので、なんとか成功して欲しいと思いつつ、プラントの木のコブに、金魚の餌をひとつかみ突っ込みました。

 で、翌朝。

 牙目クモが採取してきたプラントの実の中に……無事出来上がっていました、金魚の餌の実!
 これで、どうにか餌問題も解決出来そうです、はい。

 で、この調子でザッケの稚魚を育てていったところ、およそ10日で成魚と変わらない大きさになりました。

 で、不思議だったのが、湖で養殖したザッケですけど、口がそんなにトランペット型になってないんです。
 これは想像ですけど……ザッケって海で育つわけなんですけど、そこだとやっぱ外敵も多いんじゃないかと思うんです。
 その外敵から身を守るために、このトランペットみたいな口になっていってたんじゃないかな、と。
 それが、この生け簀では外敵がいないため、そんなに成長しなかった……と。

 ちなみに、養殖したザッケは、どれも丸々と太っていて脂がのりまくっていまして
「パパ! これ、川でとったザッケよりすっごくおいしいです!」
 と、パラナミオのお墨付きももらえました。
 パラナミオのお墨付きももらえたこの養殖ザッケのお弁当は、野生のザッケよりもすごい勢いで売れていきました。
 ただ、野生のザッケの味が好きという顧客も一定数いるもんですから、作れば作っただけどっちも売れていくんですよね。

 とまぁ、こんなわけで、コンビニおもてなしに新たな名物が完成しました。

 コンビニおもてなし食堂エンテン亭用に、ザッケを使った石狩鍋とチャンチャン焼きの作り方も教えてあげていますので、これも近日中にお目見えすることになるでしょう。
 なんか、こうしてあれこれ進展していくと、すごく嬉しいもんです。
 お客さんも、店員のみんなも笑顔になれますんでね。

 
 ……そんなある夜

 リョータにミルクを飲ませ終わったスアが、何やらベッドを降りて隣室へと移動してきました。
 しばらくすると、ドアの影に身を隠しながら僕に向かって手招きしてきます。

 はて?

 僕は首をかしげながらスアのいる部屋の方へと移動していきますと、その部屋の中には、腰巻き一枚だけを身につけたスアがいました。
 当然上半身は素っ裸です。

 多分、こないだ僕が魔王ビナスさんの腰巻き一枚姿を見て少し興奮したのが、あれだったのでしょう。

「……どう?」
 スアはそう言いながら顔を真っ赤にしています。
 なんて言いますか、可愛いやきもちの焼き方だと思うのです……あの張り手は少々半端なかったですけど。

 で、僕はそんなスアを抱き上げると、
「うん、最高だ」
 そう言いながら口づけまして、そのままソファの方へと移動していきまして……


 はい、ここからは黙秘権発動ということで

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