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冒険者ってのもねぇ その1

 この日、いつものようにコンビニおもてなし本店で接客作業をしていましたら、
「主殿! 至急スア様をお願いしたいでござる!」
 そう言いながらイエロが店に駆け込んできました。
 こういう時はだいたい理由が決まっています
 僕が、イエロの後方へ視線を向けると、店の入り口前には予想通り息も絶え絶えで大怪我をしている4人の冒険者の姿がありました。
 冒険者達のすぐ横にはセーテンが立ってるんですけど、いつものようにイエロと2人で、この冒険者達を救ってきたのでしょう。

 ここ、ガタコンベがある一帯って、王都から相当離れたド田舎になります。
 そのため、王都近隣ではあまり見かけない凶暴な魔獣なんかが結構うようよしているんですよね。
 ちなみに、コンビニおもてなしの弁当の肉としてすでにお馴染みのタテガミライオンなんかは、イエロやセーテンにかかれば1対1でも楽勝で狩ってしまうんですけど、このタテガミライオンは本来すごく凶暴で凶悪で知恵も回ります。
 イエロとセーテン、それにルアやオデン六世さんくらいになるとそういった特徴をしっかり把握した上で対処していますので、あっさり倒してしまうんですけど、ちょっと強いくらいの冒険者ではこうはいきません。

 ……ですけど、どこにでもいるんですよね。
 
 辺境へ行くぜ!
 魔獣を狩りまくろうぜ!
 レベルもあがりまくるし
 お金も稼げるわね!

 なぁんて、酒場で盛り上がってノコノコやってくる無謀な冒険者ってのが、結構後を絶たないんですよ、これが。

 っていうのもですね……

 王都→バトコンベまでは駅馬車直行便があります。
 で、バトコンベ→ナカンコンベの駅馬車にのり、ナカンコンベでブラコンベ行きの駅馬車に乗れば、護衛付きの駅馬車でほとんど危険もないままにこのあたりまでこれちゃうわけなんですよ。
 っていうか、駅馬車でたどり着ける東の果てがブラコンベであり、そのブラコンベから駅馬車が出ているガタコンベが、もっと東の果てなわけなんです。

 つまり、その気になれば、王都の周辺でちょっとした魔獣を何体か倒していい気になった駆け出しの冒険者達が酒の勢いでやってきちゃえる土壌がなきにしもあらずなわけですよ、これが。


「こいつら、アタシらが見つけるのがもうちょい遅かったら、明日のタテガミライオン弁当の材料になってたキ」
 これ、セーテン。
 コンビニおもてなしでは、タテガミライオンの胃の中身は使いません……そりゃあ、解体したときに食いちぎられた……いや、これ以上はやめておこう……ちょっとまじであの光景はトラウマだったから……

 僕が、かつて体験したスプラッタな体験を思い出しながら青い顔をしていると、リョータをフロント抱っこしたスアがテクテクと店の中へと入って来ました。
 で、そのまま入り口まで移動すると、そこで脇に隠れていきます。

 ……はい、これがいつものスアの行動です。
 対人恐怖症がまだ治りきっていないスアですので、見知らぬ冒険者の前に出て行くのはあんまり気がすすまないみたいなんですよね。
 そこで、スアがいつものポジションについたのを確認した僕が、店を出て冒険者達の前に歩いて行きました。

 冒険者は、剣士が2人と弓士が1人、あとの1人は亜人の荷物持ちのようです。

「……え? 回復役は?」
 僕が唖然としていると、イエロが腕組みしたままため息をつきました。
「こいつら、『タテガミライオンなぞ一刀両断だ』とか思っていたそうで、回復魔法を使える仲間を探さないまま、この辺境まで来たそうでゴザル」
 あ~……いるいる、こんな冒険者。
 特にこの冒険者達、まだ15,6才になったばかりの駆けだしばっかな感じですしねぇ。
 一応、この世界では16才から大人の仲間扱いされるらしいんですけど、にしても、これは若さ故の過ちってやつでしょうねぇ……おとなしく認めてほしいものですよ、ホント。

 僕が思わず頭をかいていると、比較的怪我の程度の軽い剣士の男が悔しそうに舌打ちしていました。
「くっそう、あのタテガミライオンめ……いつのまに仲間を呼んだんだよ……1匹だけだったら絶対仕留めることが出来たのに……」
 こう言って悔しがっている剣士くんですけど……この台詞からしてタテガミライオンのことを理解していません。

 タテガミライオンは、自分が勝てる相手としか戦おうとしません。
 
 イエロ、セーテン、ルア、オデン六世さんあたりと出くわすと、みんな速攻で逃げ出します。
 ちなみに、魔王ビナスさんがタテガミライオンと遭遇した時は、逃げるのを諦めお腹を上にしてその場に寝転がり抵抗すらしようとしなかったそうです。
 と、まぁ、それくらい相手の力量をよく見極めるタテガミライオンに向かってこられた時点で、この冒険者達はタテガミライオンから見て格下だったんだってことを理解しないといけません。
 ……けど、この剣士くんは、いまだにそのことがわかってないようです。

 僕は、ため息をつきながらその剣士くんの前にしゃがみ込んで、その顔を真正面から見つめました。
「4人全員の治療をしてほしかったら、総額でこんだけかかるけど……いいかい?」
 僕は4人の様子を見ながらおおよその金額を告げました。
 元いた世界の通貨で言えば、およそ100万円/日本円ってとこです。

 一見高いように見えますけど、これは王都の教会が治癒行為を行うのに定めているレートに沿った値段を言ったわけです。
 駆け出しの冒険者にはきつい額だとは思いますけど、あえて値引きはしません。

 自分達がしでかした事です。
 自分達で償わなければならない……そうやって高い授業料を支払って、痛い目をみないとわからないこともありますんでね。

 案の定、僕の金額を聞いた剣士くんは真っ青になっています。
 で、僕は、そんな剣士くんにいつもの台詞を言いました。
「お金は働いて返してくれればいい。そこのイエロとセーテンの狩りの手伝いを1ヶ月してもらえるのならそれでチャラにしてあげるけど、どうだい?」

 ……もうおわかりだと思いますけど、要はこれ、イエロとセーテンの手伝いをしながら訓練をしてあげようってことです。
 これに懲りて冒険者を辞めるんじゃなくて、イエロとセーテンから戦い方の極意とかを伝授してもらって、少しだけでも成長して帰ってくれれば……
 僕達はそうやって冒険者達のサポートをしているわけです、はい。

 僕の言葉に、さっきまで青い顔をしていた剣士くんも、ようやく安堵のため息をもらしました。
「そ、それでお願いします。どうか仲間の治療を……」
 剣士くんの言葉を受けて僕が頷くと、それを合図に冒険者達の体が輝いていきました。
 
 店の入り口の脇に隠れていたスアが、僕のやりとりを聞いていてタイミング良く回復魔法をかけてくれたわけです、はい。

「あれ……アタシ……」
 程なくすると、虫の息だった3人がむくりと起き上がりました。
 全員、服はボロボロですけど、傷はすべて治っています。
「みんな! よかった!」
 先ほどの剣士くんは、嬉しそうに剣士さんと弓士さんに抱きついていきました。
 その光景を、荷物持ちの亜人さんは、少し離れた位置で見つめています。

 ん~……王都からやってきた冒険者達だからかな……亜人の女の子が若干浮いてる感じです。

 で、まぁ、剣士くんは僕に何度もお礼を言いました。
「お約束どおり、明日から狩りの手伝いをさせていただきます」
 そう言うと、剣士くん達は、今日は宿で休みたいと言って街へと消えていきました。

 で、そんなみんなを見送っていますと、スアがツツツと僕の横にすり寄ってきました。
「……頑張った、よ?」
 そう言いながら、スアは僕に頭を向けてきます。
 僕は、そんなスアに向かってニッコリ微笑むと
「うん、さすがスア。今日の魔法も最高だったよ」
 そう言いながら、その頭をなでなでしていきました。
 スアは、僕に頭を撫でられながら、にっこり笑顔をうかべています。
 スアが喜んでいるのがわかったのか、スアがフロント抱っこしているリョータまで笑い声をあげていました。
 とまぁ、この日はこんな感じでみんな和やかに過ごしていったわけなんですけど……


 翌朝

 昨日の剣士くん達一行との約束の時間はすでにかなり過ぎています。
 ですが、剣士くん達はやってきません。
 イエロは腕組みしたまま街道の向こうを見つめています。
「……ばっくれたでござるな、これは」
 その横で、セーテンがいわゆるヤンキー座りをしたまま苦笑しています。
「ま、亜人のアタシらの手伝いが嫌だったんじゃないキ?」

 ……そうなんですよね
 僕らは、冒険者達のサポートをしてあげるつもりでいるんですけど……治療だけしてもらってそのまま逃げ出す冒険者も少なくないんです。

 え? そんなときはどうしてるのかって?
 別に、何もしません。
 その気になれば、スアの追跡魔法で探し出すことは容易ですけど、僕達は
『彼らとは縁がなかった』
 そう思うことにしています……無理矢理引き戻して、イヤイヤやられてもあれですしね……

 願わくば、僕らに助けられたことを教訓にして、彼らが冒険者として精進してくれることを願ってやまないだけです……って言えば格好いいですけど、やっぱ内心ではいい気はしてませんけどね……あはは。

「では主殿、我らはいつもの狩りに行ってくるでござる」
 イエロが一度背伸びをしてから城壁の門へ向かって歩きだしたんですけど、
「ま、まってくださぁい……」
 って、街道の向こうから声が聞こえてきました。
 そっちに視線を向けますと……あれ? あの子、あの剣士くん達一行の中にいた亜人の荷物持ちさんじゃないか?
 その荷物持ちさんが、息を切らしながらこっちに向かって全力疾走してるんですよね。

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