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冒険者ってのもねぇ その2

 さてさて、荷物持ちの亜人さんが走ってやってきたのですが
「ほ、本当に申し訳ないです……」
 その亜人さんは開口一番そう言いました。

 で、この亜人さんの説明によるとですね……

~昨夜
 剣士くん「明日からバリバリ働いて薬代分くらいすぐに返してやるよ」
 剣士さん「そうね……実際に直してもらったんだし、その分は働かないとね……」
 弓士さん「……アタシやだ……もう死ぬ思いしたくない……」

~深夜
 剣士くん「んなこと言ったって……あの人達との約束じゃないか……」
 剣士さん「……ホントは、アタシも嫌なの……もう戦いたくない……怖いよ……怖いの嫌だよ……」
 弓士さん「……死ぬ思いしたくない……死にたくないよぉ……」

~未明
 剣士くん「ぐす……えぐ……お母ちゃん……俺、こんな辺境で死にたくない……ぐす……」
 剣士さん「……怖いの嫌だぁ……お家かえるぅ……」
 弓士さん「……死ぬのやだよぉ……もう戦いたくなぁい……」


「……みんなまだ宿にはいるのですが……どうにももう戦うことにビビってしまっておりまして……仕方なく私がみんなを代表してお手伝いに来させて頂きました」
 そう言いながら、その亜人さんはペコリと頭を下げたのですが……

 皆さん、お気づきでしょうか?
 僕が、この荷物持ちの亜人さんのことを「亜人」と呼称し続けていることを……

 いえね、一応耳が長いし、耳の後ろにエラっぽい物もあるので、おそらく亜人だろうと思われるんですけど……「じゃあ何の亜人ですか?」って聞かれると、首をひねることしかないんですよね。

 それくらい、僕の知識の中に、彼女に該当する動物を見出すことが出来ないんです。

「ところでお主は何の亜人でござるか?」
 僕がそんなことを思っていると、イエロが先に聞いてくれました。
 どうやら彼女も亜人さんの正体がわからなかったようです。
 すると、亜人さんは困惑したような表情を浮かべていくと
「あの……パーティのみんなには内緒にしてくださいね……彼らには金魚人ってことで納得してもらっていますので」
 そう言った後、彼女は一度咳払いをしてから言いました。

「私、クラーケン人なんです」

「は?」(イエロ
「キ?」(セーテン
「え?」(僕
「はわわぁ!?」(ヤルメキス
「あらあらぁ」(魔王ビナス
「スルメがたっくさんとれそうだな」(ララデンテ

 若干一名不謹慎なことを考えている人がいますけど……ってか、ララデンテさんってばなんで四号店からここに来てるんですか?
「いやぁ……妙な気配を感じたからさ、それで来てみたんだけど、まさかクラーケン人にあえるとはねぇ」
「え? 何? クラーケン人ってそんなに珍しいの?」
 僕がそう言うと、
「はい珍しいですね……正体がばれたら殺されてもおかしくないですし」
「え? そうなの?」
 僕は、そのクラーケン人の女の子の言葉に思わず目を見開きました。

「私は、クラーケン人のクララといいます……恐らくですけど……この世界最後のクラーケン人じゃないかって思います」
 そう言うと、クララは少し寂しそうに笑った。
「クラーケン人って珍しい割に弱いんですよ……だから、見世物として捕まったり、他の肉食動物に捕食されたりして……」
 そう言うと、クララは再び少し寂しそうな表情を浮かべていきました。
「私は王都の人混みに紛れて金魚人として裏街道で荷物運びをしながら生活していたのですが、あるグループのメンバーに私がクラーケン人だとバレてしまい、金持ちの貴族に売り飛ばされそうになったのを必死に逃げ出してきたんです。
 ……後は、事情を知らない坊ちゃん嬢ちゃんが集まってた世間知らずなこのパーティに荷物持ちとして参加させてもらい、辺境都市まで行ったらはいさようならの約束だったんですけど……まさか全員が戦いに行けなくなるなんて夢にも思ってなかった物ですから……仕方なく私が働かせて頂こうと思って参った次第なのです……」
 クララはだいたいの話をし終えると、イエロ達に向かって改めて頭を下げていったんですよね。
「……と、言うわけで、皆さんよろしくお願いします」
 って、言いながら。
 ……ただ、これじゃあ正直な話、意味が無いんですよねぇ……

 僕らがやってるのは、あくまでも今後も冒険者として魔物の討伐をやろうと思っている人達を鍛えてあげることなわけです。
 ですけど、今僕達の目の前にいるクララはですね、みんなが元気になったらいつでも冒険者を辞める気満々なわけなんですよ……そんな人に、イエロ達の狩りの手伝いをしてもらってもねぇ……
 そんな時、僕はフと思いました。
「クララってさ、辺境までやって来て何をするつもりだったの?」
 僕がそう聞くと、クララはまたも言葉に詰まりました。
「……し、正直な話……必死に逃げるのに精一杯で、そこまであれこれ考えたことは……」
 そう言うと、クララはなんかガックリ肩を落としていったんですよね。
 
 で、僕とイエロは、クララを残して少し離れた場所で作戦会議に入りました。
「主殿……聞けばあの子は弱いとか……ならば私達についてきてもらうのは正直御免被りたいのですが……」
 イエロはそう小声で言いました。
 正直な話、完璧に正論です。
 この辺りの魔物相手でも、イエロとセーテンなら問題無いといえますけど、その二人だって慢心があったり弱い奴を一緒に連れ歩いて無事でいられるはずがないわけです。
 そんなわけもあり、クララを狩りに同行させるのは、無理どころか足手まといとの結論が出てしまったわけなんですよね。
「なら……どうやって働いて返してもらおうかねぇ……」
  僕がそう言いながら首をひねっていると、
「なら、ダーリンの店で働いてもらったらどうキ?」
 セーテンがそう言いながら笑ってるんですけど……正直、コンビニおもてなしも店ごとの店員数は、確かにギリギリの店もありますけど、無理に増やす必要がある店はないんですよね……
 とはいえ、クララが、みんなのために頑張らせてほしいって言ってきてるわけです。
 なら、まぁ、とりあえず本店のお手伝いをしてもらおうかって話で、内容がほぼまとまっていった次第なんですよね。
 で、まぁ、それをクララに伝えたところ
「え?……でも、そんなのでお金をもらったら申し訳ないような……」
 そう言いながら、本当にいいんですか? 的にグイグイ押してくるクララをですね、僕は
「いいから、もうそれでいいから!」
 って言葉を返していったんですよね。
 すると、クララはブツブツいいながらも
「わかりました……じゃあ今日から早速このコンビニおもてなし本店で働かせて頂きます」
 そう言うとクララはみんなに向かって元気に挨拶をしていきました。

……はてさて、こんな彼女ですけど、無事やってけますかねぇ……

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