秋の収穫祭 その3
あっと言う間に時間は過ぎ去っていきまして、いよいよ明日から秋の収穫祭が開催されます。
コンビニおもてなしは、今回秋祭りが開催されるララコンベの中にあります四号店と、ガタコンベの代表として参加する本店の計2店舗が参加します。
3号店に関しましては、もともと魔法使い集落相手にのみ商売をしている店なので参加しないことにしました。
2号店に関しては、ちょっとあれこれ考えた結果、不参加となりました。
もともとは、2号店もブラコンベの代表店の一つとして参加予定だったのですが、コンビニおもてなしがララコンベとガタコンベの二都市からも参加することを聞きつけた一部の商店街組合員さん達が
「ありゃ、不公平じゃないか?」
って、ブラコンベの領主であるゴルアに訴え出たそうなんですよね。
ゴルア的には
「コンビニおもてなし二号店はブラコンベを代表する店ではないか、それを不参加とするのはどう考えてもおかしいであろう」
そう言ってくれていたんですけど、僕としても領主になったばかりのゴルアに迷惑をかけたくないなと思ったわけでして……
そこで、2号店の店長であるシャルンエッセンスとも相談した結果、2号店としては参加しないことにしたわけです。
ただ、せっかくの収穫祭に絡めないのはアレなので、本店の手伝いに数人ずつ来て貰う事にしました。
これで、2号店のみんなも祭りの雰囲気を楽しめるはずです。
あと、我が家からは、パラナミオが子供神輿を担ぐ役に選ばれています。
これは、参加希望の紙を出して来た10代未満の子供達の中からくじ引きで選びました。
子供達の名前の入った紙が入った箱の中に、主催都市であるララコンベの領主メルアが手を突っ込んで紙を引いていった結果決まったわけです。
僕も立会人の一人として参加していたんですけど、パラナミオの紙を引き当てたときのメルアの喜び具合ときたら、ホント半端なかったです。
紙を引き、その紙にパラナミオの名前が書かれているのを確認したメルアが、右手の拳を突き上げて
「やりましたああああああああああああああああああああああああ」
って、言いながら僕に向かって絶叫したんですよねぇ。
い、一応ホラ、公明正大にやっとかないといけないんだから、そこはもう少し落ちついて……ねぇ?
で、
そのことを伝え聞いたパラナミオですけど、
「やったぁ! パラナミオも御神輿をかつげるんですね! パパ、パラナミオとってもうれしいです!」
そう言いながら僕に嬉しそうに抱きついてきました。
うん……この笑顔を見た僕はですね、もしメルアがパラナミオの紙を引けてなかったら……僕は何をしでかしていたのやら……と、マジで思った今日この頃だったわけです、はい。
◇◇
ちなみにですね、今回の秋祭りにはテトテ集落から1店と、オトの街から1店の合計2店が一般参加枠で参加することになっています。
テトテ集落からは、長のネンドロさんが中心になって農作物と簡単な野菜スープなんかを販売します。
オトの街からは、食堂をやっているラミアのラテスさんが出張販売することになっており、その手伝いとして数人一緒にやってくることになっています。
どちらにも、僕が話を振って見たんですけど、最初この話を僕が持って行った際にはですね、どちらもあまり乗り気ではなかったんですよね。
でも、パラナミオがですね
「みなさん、パラナミオはですね、お祭りで子供神輿を担ぐんですよ! 頑張りますよ!」
そう言うと、テトテ集落の皆さんは
「うぉぉ! パラナミオちゃんの子供神輿!」
「子供神輿の意味はよくわかんないけど、とにかくすごい破壊力だ!」
「これは絶対に見にいかないと!」
そう言いながらあっという間に参加に決まりました。
……当日、集落の皆さんが全員やってくるんじゃないか……ってな勢いだったんですよねぇ。
オトの街の方ですけど、こっちは話を聞いたラテスさんが
「あ、私やってみたいかも」
って名乗り出てくれたことで、割とあっさり決まりました。
オトの街には店そのものが少ないですから、それで皆さん渋られたのかもしれません。
とまぁ、こんな感じで出店する都市や街、集落なんかもすでに決まっていましてですね、続々とララコンベへ集結しているわけです、はい。
◇◇
コンビニおもてなし本店の、この日の営業を終えた僕は、早速ララコンベ行きの準備を始めました。
今回は、転移ドアを使い、4号店経由で品物を運び混んでいく予定にしています。
「勘違いすんじゃないわよ? あんたのためじゃ無くてスア様のためにやるんだからねぇ?」
そう言いながら、すでにユニコーンだった頃の姿を思い出すのが困難なほどに、ハニワ馬姿が板につきまくっているヴィヴィランテスが、魔法袋を駆使しつつちゃんと出店の場所にまで品物を輸送してくれています。
このオネエなハニワ馬、ヴィヴィランテスですけど、地味だけど本当によく頑張ってくれています。
ヴィヴィランテスが定期的に品物を各店に配送してくれているおかげで、コンビニおもてなしの各店が回っているわけです。
「ヴィヴィランテス、いつもありがとう。本当に助かっているよ」
僕がそう言うと、ヴィヴィランテスは
「はん、あんたのためじゃないっていってるでしょ。スア様のために、アタシは頑張ってるだけよ」
そう、クールに答えたヴィヴィランテスだったんですけど、
「お馬さん! いつもありがとうございます! パラナミオもお礼を言います」
って言いながら、パラナミオが駆け寄っていってヴィヴィランテスに笑顔で抱きつくと
「こ、こ、このヴィヴィランテスはね、時にはパラナミオちゃんのためにも頑張ってるのよ」
って、おいこら、ちょっと待て。
なんで俺の時と若干反応が違うんだ?
あれか?
ユニコーンは乙女を好むとかいうあれか? あ?
「……落ちついて、ね」
「あ、はい」
トコトコと歩み寄ってきたスアに背中をポンポンと叩かれて、僕はどうにか精神状態オールグリーンへと戻ることが出来ました、はい。
ちなみに、ガタコンベからは衛兵をやっている元猿人盗賊団の皆さんや、ルアの旦那さんであるオデン六世さんあたりが会場の護衛任務を委託されていまして、僕がメイン会場になります中央広場に出店の準備を始めていると、デュラハンのオデン六世さんが僕に向かって右手を振りながら挨拶してくれました。
……あれ? おかしいですね
いつもならここで
『ぶ、ぶぁか!~』
って即座に突っ込んでくるはずのルアが妙におとなしいです。
「あ、アタシだってさ、い、いつもうるさいと思ったら大間違いだぜ?」
って、なんか妙に大人な対応のルアなんですけど、
「あれ、怪しいよね?」
「店長殿もそう思うでござるか? 実は拙者も……」
「このセーテンも怪しいと思うキ」
「あん、門の番人の思念体のこのアタシも怪しいと思うな、うん」
って、僕以外にも、イエロ、セーテン、ララデンテさん達が続々と僕の意見に同調してですね……
「いいから準備しろって、みんなぁ」
ルアが真っ赤になりながらそう言ったので、今日はみんなで準備記念日……なんて一句出来たところで、さて頑張って準備しましょうかね。
僕はそう言いながらイエロやセーテンに手伝ってもらいながら出店の準備を進めていきました。
◇◇
だいたいの準備を終えて、ガタコンベにあります巨木の家に僕が帰りますと、
「パパお帰りなさい!」
そう言いながら、法被姿のパラナミオが出迎えてくれました。
あぁ、メルアに見本を渡していた子供用の法被の準備が出来たんだ。
「はい、さっき祭りの役員の方が持って来てくれました! 似合ってますか?」
パラナミオはそう言いながら、僕の前でクルクル回っていきます。
うん
自身を持って言えます。
この娘のためならば、僕は魔王でも倒せます。
「タクラ店長、私のことを呼ばれましたかぁ?」
すいません、魔王ビナスさん。今のは嘘です。
そうだった、今日は祭り用の特別弁当の試作のために魔王ビナスさんが来ていたんだった……