助けた湖の精霊に連れられて? その2
僕とパラナミオがウルムナギを罠で仕留めまくったおかげで、湖底神殿の出入り口が通れるようになったとかで、自称湖の精霊さんってお方のお礼訪問を受けているわけですが……
みなさん、お気づきでしょうか?
僕が終始一貫して、この人のことを「『自称』湖の精霊」さんって言い続けていることに。
「店長、誰に話しかけてるんですか?」
「あ、ブリリアン、気にしないで……ちょっと画面の向こうのみんなに説め……あ、いや、なんでもなんだ、うん」
え~、ごほん。
とにかくですね、この自称湖の精霊さんなんですけど……どうみてもおかしいんですよね。
湖の精霊と言ってるんですけど……なんでこの人、尻尾があるんですかね?
いえ、別に尻尾があるから怪しいって言っているんじゃありません。
精霊の中には、魚の尻尾を持ってる人がいるかもしれませんしね……
問題なのは、この自称湖の精霊さんの尻尾が『ウルムナギの尻尾』とまったく同じ形状をしているってことなんですよ。
見た目は小柄な女の子然としてはいるんですけど、この尻尾がですねスカートの下から伸びているわけです。
で、弁当を手渡すときにちょっとその手を触ってみたらですね、すっごいぬるぬるしていたわけで……
え~、僕の言いたいことは、だいたいお察しいただけたかと思いますが、あえてこのままの状態で、僕はこの自称湖の精霊さんのお相手を続行していきたいと思います。
要は、この自称湖の精霊の目的を探っておこうと思っているのと、ついでにこいつに仲間がいるのならあぶり出してやろうと思っているわけです。
(……と、いった方向でいくから……)
僕は脳内でしばし考えると、2個目のお弁当を完食して満足そうにお腹をポンポンと叩いている自称湖の精霊さんを見つめていきました。
「で、どうでしょう、湖の精霊さん。パラナミオは学校から帰ってくるまでにまだ時間がかかりますんで僕が代表ってことで招待させていただくわけにはいきませんかね?」
僕がそう言うと、先ほどまでお腹を叩きながら幸せそうな笑顔を浮かべていた自称湖の精霊さんは、急に腕組みして考えこみ始めました。
「……そうね……2人同時より……1人ずつの方が……」
なんかブツブツ言ってる言葉がダダ漏れてるんですけど、自称湖の精霊さんはそのことに全く気がついていないご様子で、そのまましばし考えこんでいくと
「わかりました。では命の恩人の娘さんの方はまた改めて招待させていただくということで」
そう言いながらニッコリ笑っいました。
で
僕は、自称湖の精霊さんに案内されながらコンビニおもてなし本店の応接室を出ると、夜、ビアガーデンが開催されている広場を抜けて川を遡っていきます。
ほどなくして、いつも僕とパラナミオがウルムナギ用の罠をしかけている湖のほとりに出ました。
「……湖っていうより、池だよな、この広さって……」
「湖なんです! 湖の精霊のこの私が言うんですから間違いありません!」
自称湖の精霊さんは僕の言葉に肩を怒らせながら反論してきました。
「はいはい、わかりましたってば」
「わかればいいのです、わかれば」
自称湖の精霊さんは、僕に向かってうんうんと頷きました。
で、ですね……こっからどうやって、この湖底にあるっていう神殿まで連れて行ってくれるんだろうと思ったらですね。
「空気の珠を作りますので、命の恩人のお父様には、その中に入っていただいて湖底までいらしていただきます。神殿の内部には空気がありますのでそこまでいけば安心ですから、そこまで私が押していきますね」
そう言って、自称湖の精霊さんは、ドン、と胸を叩いていったんですけど、同時にピチピチと尻尾も動いているわけです。
で、ですね……その尻尾が湖面を叩きまくったもんですから、水の音が結構派手にしていきました。
ここで、この自称湖の精霊さんはハッとした表情を浮かべたかと思うと、ゆっくり後方を振り返っていきまして……自分の尻尾が出たままになっているのに、ここでようやく気がついたみたいです、はい。
僕は内心
(ここまで気がつかなかったんだからさぁ、もうずっと気がつきませんでした! の方がドジっ子として需要高いと思うよ)
そんなことを思っていたのですが、そんな僕の目の前で自称湖の精霊さんはワナワナと体を震わせています。
「ひょっとして……この尻尾、ずっと出てましたか?」
「……そうですね、少なくともコンビニおもてなしに入ってこられた時にはすでに出てましたね」
僕がそう応えると、自称湖の精霊さんは、顔面を両手で抱えたかと思うと、その場に膝をつきながら倒れ込んでいきました。
「そ……そんな……このウルムナギ又の私が、こんなミスをしでかしていたなんて……」
その自称湖の精霊改めウルムナギ又の女の子……って、ウルムナギ又ってあれですかね? 猫又みたいに、猫が百年くらい生きたら尻尾が2つになって人になるっていうあんな類いの物なんでしょうかね?
で、そのウルムナギ又の女の子は、何やら前傾姿勢になっていったんですが、同時に尻尾が2つに別れていきまして、顔の横からヒレみたいな物まで出現しています。
「バレてしまってはしかたがありません。本当でしたら湖底にある私の住処に連れ込んでフルボッコにする予定でしたけれど予定変更です。今ここで、今まであなた達に狩りまくられた同胞の恨みをはらさせてもらいますわ」
そう言うと、そのウルムナギ又の女の子は湖に向かって右手を上げました。
すると、湖の中から20匹近いウルムナギが出現したかと思うと、そのウルムナギ又の女の子の後方に集結していきます。
「さぁみんな! あの男がこの湖に罠をしかけまくって、我が同胞達を……」
「ちょっといいですか?」
「え? あ、はい……」
僕がまったをかけると、ウルムナギ又の女の子はびっくりしたような表情を浮かべながら僕を見つめ返してきました。
……この反応をみるからに、根は良い子なのかもしれません。
「あのですね……罠とわかってるんなら、避ければよかったんじゃないんですかね?」
「そ……そんなことを言われてもですね……あ、あんな美味しそうな餌を付けられてですね……それを食べたい衝動を抑えることが出来るでしょうか!? いいえ出来ませんとも!」
「いや……そこは抑えようよ」
「あぐ!?」
僕のつっこみに、思わず絶句するウルムナギ又の女の子。
「と、とにかくですね、なんの罪もない我が同胞達を釣りまくるのは許せないのですよ」
「湖の他の魚を食い荒らす害魚だからドンドン釣り上げてくれって組合から言われてるんだけど? そこんとこはどうなのさ?」
僕がそう言うと、そのウルムナギ又の女の子は、
『え? 何のことですかそれ?』
とでも言いたげな顔をしながら、明後日の方向を向いていきました。
その後方に控えているウルムナギ達も、あちこちへ視線をむけています。
その態度を前にして、僕は乾いた笑いを浮かべていきました。
っていうか、そうしか出来ないですよね……こんな対応された日には……
ったく、そんな理由でフルボッコにされたら敵わないですよ、ホント。
しかも、ウルムナギ又の女の子は、僕と一緒に……って、ちょっと待った。
「ウルムナギ又さんは、僕だけをフルボッコに憂さ晴らしをしてはいお終いってするつもりだったの? っていうかさ……
それを、ウチのパラナミオにもしようとしてたわけ? ねぇ?」
ちょっとですね……そこに思い当たった僕、思わず顔面が暗黒モードに突入していきました。
腕力には自信ありませんし、度胸もそんなにある方じゃありません。
どこから見てもスーパマンじゃありませんし、スペースオペラの主役にだってなれません。
危機一髪を救えるとも思えませんし、ご期待通りになんて絶対現れません。
そんな星屑みたいな僕ですけど……娘を、パラナミオをフルボッコにしようとしていたと聞いては、ちょっと黙っていられない感じです。
で、僕は、腕をボキボキならしながら、勢いだけでズイッと前に出て行きました。