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助けた湖の精霊に連れられて? その3

 僕が一歩ズイっと前に出ると、ウルムナギ又さんとその背後のウルムナギオールスターズの皆さんは、
「な、なんですか? たった一人で私達に勝てると思ってるんですか?」
 そう言いながらすごんで来ました。
 もっとも、ウルムナギ又の女の子だけは、幼稚園児の女の子が駄々こねてます~って感じしか受けないんですけどね。

 それはさておき、

 そんなウルムナギご一同様の前で、僕は指をならしながら前に進んでいきます。

 右足を一歩踏み出すと、その足が地面にめりこみました。
「はい!?」
 左足を一歩前に踏み出すと背後に稲光が轟きました。
「ふぇえ!?」
 さらに右足を踏み出すと、僕の背中から悪魔の羽が生えて来ました。
「ぎょ、ぎょえぇ!?」
 さらに左足を踏み出すと、僕の口から巨大な牙が生えて来ました。
「ひ、ひやぁぁぁぁぁ!?」
 ウルムナギ又さんとウルムナギオールスターズの面々が抱き合って恐れおののく中、僕の体は、足を一歩踏み出すごとにどんどん魔獣化していきまして、そんな状態でどんどん歩みよっていく僕を前にして、ウルムナギ又さんとウルムナギオールスターズの面々は、最後は泡を吹きながら倒れ込んでいきました。

 そんな一同を、魔獣化した僕が見下ろしていたんですけど……
「スア……そろそろ戻してくれるかい?」
 僕がそう言葉を発すると、僕の体は一瞬にして元の人間の姿に戻って行きました。

 振り向くと、岩場の陰からスアがピースサインをしています。
 
 まぁ、種を明かしておきますと……
 ウルムナギ又さん達についていく振りをしてですね、その狙いと仲間を全部炙りだして一網打尽にしようと思った訳ですが、当然僕1人の力では無理です。
 なので、湖の精霊さんが神殿に案内するって話になった時点で、スアに

(……と、いった方向でいくから……)

 と、脳内思念波を送ったわけです。
 まぁ、脳内思念波といっても、スアが一方的に僕の思考を読み取ってるだけなんですけどね。

 ちなみに、
(さっきのお客さん、いいおっぱいしてたなぁ)
 なんて思ったりしますと、その日の夜、超高確率で胸に詰め物をしたスアの姿を見ることが出来ます。

 とまぁそんなわけで、結果的にここでウルムナギ又さんとそのご一同様から目的を聞き出した上で気絶させたわけですので、目的はほぼ達成出来ました。

 ただですね……パラナミオをもフルボッコにしようと考えていたことに関して、本気で怒っていたのは事実です。
 まぁ、もう気絶しちゃったし、これ以上は言いませんけどね。

 で、ウルムナギ又さんとウルムナギオールスターズの面々は、全員スアの魔法で簀巻き状態にして、店の地下にある肉保存庫へ運び混みました。
 まぁ、無理に起こすのもあれかなと思いまして、そうしておいて僕は一度仕事に戻りました。

 ウルムナギ又さん達の様子は、スアが、研究しながら、リョータの面倒をみながら、そのついでに魔法で監視しておいてくれるとのことだったのでお任せしておきました。

 そして、お昼の忙しい盛りを越え、やれやれと思っていると
”ウルムナギ達、起きた、よ”
 と、スアから思念波が届きました。

 で、店をブリリアンとヤルメキスに任せて、僕は地下へと移動していきました。
 魔王ビナスさんはさっき帰って行きましたんでね。

 戸を開けて僕が肉保存庫内へと入っていくと、
「ひぃ!?」
 ウルムナギ又さんが体を強ばらせたまま、すごい勢いで保存庫の端へ向かって移動していきました。
 いやぁ……初めて見ましたよ、あんなに見事な人間尺取り虫……あ、ウルムナギ又尺取り虫か、この場合。

 で、他のウルムナギオールスターズの面々も部屋の隅に逃げ込んでいきまして、全員ガタガタ震えています……まだあの魔獣化が効いているようですね。
「がぁ!」
「ひえええええ、お助けええええええ」
 僕が両手をあげただけで、この状態です。

 言葉がしゃべれるのはウルムナギ又さんだけらしく、他のウルムナギオールスターズの面々は、ウルムナギの姿のまま、なんかオウオウ鳴き声というか、泣き声をあげている感じです。
「わ、私達が悪うございましたぁ。もう絶対に魔人様やそのご家族をフルボッコにしようなんて思いませんから、どうか命ばかりはお助けを……」
 ウルムナギ又さんがガタガタ震えながら必死に命乞いをしてきます。
 簀巻き状態のままそう言うと、そのまま正座し、深々と頭を下げてきました。

 ってか、器用だな、ウルムナギ又さん。

「まぁ、その言葉を守ってくれるんなら、僕もこれ以上事を荒立てる気はないよ」
 僕が腕組みしたままそう言うと、ウルムナギ又さんとウルムナギオールスターズの面々は
「か、寛大なお言葉、ありがとうございますぅ」
 そう言いながら、全員一斉にその場で頭を下げていきました。
 さすがに、ウルムナギオールスターズの面々は正座出来なかったみたいで、床に転がったまま頭をへこへこさせていたわけです。

 まぁ、ウルムナギ達の中にもこういった奴らがいるとなると……今後のウルムナギ漁は自粛した方がいいのかなぁ……と思ったりしたわけです。

 ただ、ここでちょっと疑問だったのが……いままで釣り上げたウルムナギの中にはですね、今、ウルムナギ又さんの後方にいるような、明らかな意思表示をしてきたウルムナギはいなかったんですよね。
「あぁ、それでしたら答えは簡単です。意思のあるウルムナギが罠にかかったら、私に救助信号を送る事が出来ますので、その信号を聞いた私が湖の上に出てきてですね、針をはずしてやってですね、代わりにゴミをくっつけて……」
「あのゴミ、てめぇの仕業だったのかよ! パラナミオが、あのゴミを見てどんだけクシュンとしたかわかってんのか、てめぇら! ウチのパラナミオ泣かせたんだぞ、あ!?」
「ふいまふぇん、ふいまふぇん、ほめんなふぁい、ほめんなふぁい」
 プチ激高した僕にほっぺたを引っ張られて、ウルムナギ又さんは涙目になりながら必死に謝ってきました。
 
 ……さすがに、これ以上やると可哀想に思えてきたので、そろそろ落としどころを探っていこうと思った僕は、改めてウルムナギ又さんを見つめていきました。

「あのさ、ウルムナギにみんな意思があるっていうのなら、今後漁は辞めるけど……ただ、僕の店もさ、ウルムナギの骨や肉を商売に使っているから、何か良い方法はないかなって考えてるんだけど……」
 僕がそう言うと、ウルムナギ又さんは、
「ウルムナギにはですね、ウルムナギ又になれる種族と、そうでない種族がいまして、ウルムナギ又になれる種族は、ここにいる7匹で全部なんですよ。それ以外のウルムナギはですね、ウルムナギになれないウルムナギなので、別段私が守ってやる義理もありません」
「え? そうなの?」
「むしろですね、私達の餌を横取りする馬鹿野郎共ですから、どんどん釣り上げてもらっても構いませんです」
「でもさぁ……さっき言ってなかった?『狩りまくられた同胞の恨みをはらさせてもらいます』ってさ」
「あれはその場の雰囲気を盛り上げるためにちょっと大げさに言ってみただけに決まってるじゃないですか。ホントはですね、後ろの7匹が間違って針にかかって痛い思いをしちゃった恨みを晴らせればそれで……」
「てめぇら、そんな理由で俺のパラナミオをフルボッコとか考えてたのか、あ? おい!」
「ふいまふぇん、ふいまふぇん、ほめんなふぁい、ほめんなふぁい」
 再度プチ激高した僕にほっぺたを引っ張られて、ウルムナギ又さんは涙目になりながら必死に謝ってきました。

 で、まぁ、そんなわけで……

 ウルムナギ又さんと、ウルムナギオールスターズ改めウルムナギ又候補生の皆さんはですね、スアの使い魔の森へ移住することになりました。
 ここでは、タルトス爺達がちゃんとみんなのご飯の手配もしてくれますから、食いっぱぐれることもないでしょう。
 スア的にもですね
「……ウルムナギ又種は、非常に珍しいから、いい、よ」
 そう言い、全員を新たな使い魔として契約したわけです。

 というわけで、あの湖に残っているのは野生のウルムナギだけって事が確定しましたので、今まで通り釣っても大丈夫ってことになりました、はい。
 これで、出汁問題や蒲焼き弁当問題も無事解決したわけです、はい。

 で、ウルムナギ又さんや、ウルムナギ又候補生の皆さんはですね、
「なんて快適な森なんでしょう! なんてお礼を申しあげたらいいのやら」
 と、全員感謝感激雨あられ状態だったわけです。
 で、
「ぜひ恩返しをさせてくださいませ」
 って、ウルムナギ又さんが強く申し出て来たものですから……

 所変わって、ここはコンビニおもてなし本店内。
「い、いらっしゃいませぇ」
「そうそう、その調子で元気に挨拶が基本よ、いいわね」
「はい! わかりました!」
 今、ウルムナギ又さんは、コンビニおもてなし本店で働いています。
 店長補佐のブリリアンにつきっきりで指導されながら、毎日頑張っているんですけど
「この子、なかなか筋がいいですよ。真面目で熱心ですしね」
 ブリリアンも太鼓判を押すほどの人材……じゃなくて、ウルムナギ又材だったわけです、はい。

 で、さすがに「ウルムナギ又さん」って名前じゃあれなので、
「なんか呼んでほしい名前とかある?」
 って僕が聞くと、ウルムナギ又さんは少し考えて
「あれがいいです……スアビール」
「お前、あれ飲んでたのかよ」
「だってあれ、とっても美味しいですもん」
 そう言いながら、エヘヘと笑うウルムナギ又さん。
「でもまぁ、そこまでスアビールの事が好きなんだったら、ルービアスって名前でどうだい?」
「ルービアス?」
「逆から読んでごらん」
「ルービアス……アスホー……」
「ちょっと待て! なんでそうなるのかな、ちょっと!?」

 と、まぁ、そんなわけで、ウルムナギ又さんこと、ルービアスさんが店に加わったコンビニおもてなし本店です、はい。

「ルービアス……アスホー……」
「それ以上言ったら、ルーホスアって改名するぞ、マジで!」

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