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助けた湖の精霊に連れられて? その1

 パラナミオが夏休みの間中、僕とパラナミオは裏を流れている川に罠を仕掛け続けて、あの大きなウルムナギを捕まえ続けました。

 おそらく、上流か下流から、店の近くにあるちょっとした湖風になっているあの場所までやってきていたんだと思います。
 で、このウルムナギですが、最近はその骨を出汁に使ったりしていますので、今でも休みの前の日なんかにはパラナミオと一緒に夜中に罠をしかけに行っています。

 そんなある日のことです。

 開店して間もないコンビニおもてなしに、小さな女の子が一人で来店してきました。
 その女の子は、店に入るなりキョロキョロしています。
(お使いでも頼まれてきたのかな?)
 僕は、そう思いながらその女の子に近寄っていきまして、
「こんにちは。何か捜し物ですか?」
 そう聞いて見ました。

 するとその女の子は、僕の顔をじ~っと見つめて来ます。
「えっと……ぼ、僕の顔に何かついているかな?」
 すっごい食い入るように僕の顔を見つめてくるその女の子を前にして、僕は少し後ずさってしまったんですけど、そんな僕の様子などお構いなしにその女の子は僕の顔をのぞき込み続けたかと思うとですね
「見つけましたわ! 命の恩人様のお父様の方!」
「はい?」
 女の子は、僕に向かってそう言ったかと思うと、僕の手を両手で握りしめて
「あなた様と、貴方様の娘様のおかげで、私はようやく湖の底から水上の世界に出てくることが出来たのです。心から感謝いたしますわ」

 と、まぁ、そう言ってくるわけなんですけど……どう言えば良いのか、すべてが急展開過ぎて、僕の頭がなかなかついていきません。

 で、その女の子は、僕にひとしきりお礼を言うと、再び周囲をキョロキョロし始めてですね
「ところで、娘様の方は今、いずこにおられるのでしょうか? ぜひぜひ直接会ってお礼を言わせていただきたいのですが……」
 しきりと、そんなことを言い始めたわけです。
「パラナミオでしたら、今は学校に行っていますが……あのぉ、それよりもですね、あなたは一体どこのどなた様でいらっしゃいますかね?」
 僕が営業スマイル120%の笑顔で尋ねたところ、その女の子はですね
「あらあら、そうでしたそうでした。私といたしましたことが……自己紹介をすっかり忘れておりました」
 そう言いながら、僕に改めて向き直ると、
「私、あの湖に住んでおります湖の精霊でございますわ」
 そう言いながら改めて深々と頭を下げていきました。
「はい? 精霊?」
「はい、精霊です」
「湖の精霊さんってことはあれですかね? 湖に謝って斧を落としたりなんかしたら、金色の斧と銀色の斧を手に持って現れて、
『お前が落としたのは、この金の斧か? それともこちらの銀の斧か?』とかやったりされるんですかね?」
「はい?……あ、あの……私は別にそのようなことはしておりませんが……そのような湖の精霊をご存じなのですか?」
「あ、いえいえ……別にそういう訳では……」
 ここで、僕が元いた世界にそんなお話が……って説明し始めた場合ですね、この自称湖の精霊さんが
『そのお話、ぜひとも詳しくお教え願えませんか!?』
 なんてことになったら、結構面倒くさいことになりそうな気がしたもんですから、それ以上この話題を引っ張ることは自粛したわけですが
「それよりも、僕とパラナミオがあなたの命の恩人ってどういうことなんですか?」
 僕が話題を変えてそう聞くとですね、その自称湖の精霊さんはニッコリ笑いました。
「はい。私はですね、あの湖の底の神殿で暮らしているのですが……」
 ……え? あの湖の底に神殿なんかあったんだ……
 びっくりしている僕に構うことなく、その自称湖の精霊さんは話を続けていきました。
「それがですね、ここ数年のことなのですが……なぜかウルムナギがですね、あの湖に大量に住み着いてしまいまして……あの物達が私の神殿の入り口前の海底洞窟を気に入ってしまったらしくてですね、そこにすっぽり収まって住み着いてしまっていたんですよ。そのせいで私は、こうして外の世界に出ることが出来ず……どうしたものかと途方に暮れていたのでございます」
 あぁ、やっぱりあのウルムナギの大群って異常だったんだ……たしかに、あんだけ取っても全然減った気がしなかったもんなぁ……
「そんな折りにですね、あなたと娘様のお二人が、洞窟をねぐらにしていたウルムナギを退治してくださったのです! つり上げてくださったのです! 洞窟にすみついていたウルムナギがいなくなった隙に、洞窟に結界を張ることが出来ました。そのおかげで私はこうして再び外の世界に出ることが出来たのですが……」

 ……ん?

 さっきから気になってたんだけど、この自称湖の精霊さん、僕と話をしながらしきりと店内のどこかを見つめています。
 で、注意深くその視線の先を見極めてみるとですね……その視線はコンビニおもてなし店内にあります弁当コーナーへと注がれていたわけなんです、はい。

「あの……湖の精霊さん」
「は、はい!? な、なんでしょう?」
「ひょっとして……お腹すいてませんか?」
 僕がそう言うと、自称湖の精霊さんは、顔を真っ赤にしながら首を左右に振りつつ、両手を前に突き出して振りはじめました。
「いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ、け、け、け、け、決してそのようなことは……」
 と、懸命に否定している最中に

 ぐ~~~~~~~~~~~~

 自称湖の精霊さんのお腹が盛大に鳴っていきました。

 自称湖の精霊さんは、その音を前にして顔を真っ赤にしました。
 僕は、そんな自称湖の精霊さんに、
「あの……せっかくなんで、よかったら1ついかがですか?」
 そう言いながら、焼き肉弁当を差し出したところ、自称湖の精霊さんは、口の端から涎を垂らしながらですね、
「……ご、ご馳走になります」
 そう言いつつ、弁当を受け取っていきました。

 で、店の奥にある応接室で弁当を食べてもらいながら話を聞いているとですね、
「私、精霊ですので食べなくても死にはしないのですが……やはりお腹は空くんです……なので、定期的にですね、地上の世界に出て行ってはガタコンベの街でお買い物をしていたのですが、あのウルムナギのせいでそれが出来なくなってしまってですね、もうホント、食べ物に飢えていたといいますか、なんといいますか……」
 そう言いながら、すごい勢いで焼き肉弁当にがっついています。
 そのがっつき方があまりにもすごいもんですから、思わず見とれてしまって、自称湖の精霊さんの話を二回聞き直してしまったほどです、はい。

「で、湖の精霊さんは、僕とパラナミオにお礼を言いに来てくださったんですね?」
 僕がそう言うと、その自称湖の精霊さんはですね、
「はい、お礼を兼ねてですね、私の神殿にご招待させていただこうと思いまして、そのご招待を……と思っているのでございます」
 そう言ってニッコリ笑ったかと思うと、
「……あの、このお弁当、とっても美味しいですね……もう一個いただけませんか?」
 少し恥ずかしそうな表情をしながらそう聞いてきたわけですが、

 ……さてさて、どうしたもんでしょうかねぇ……

 僕は腕組みしながら、その自称湖の精霊さんをじっと見つめていたわけです。

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