おでん狂想曲……いや、6世のほうじゃなくて その1
コンビニおもてなしにおでんを並べたいと思っています。
いえね、この時期のコンビニっていったら肉まんとおでんだと思うんですよ。
元いた世界では、この時期どこのコンビニも
『おでん始めました』
『おでん全品70円セール中』
とかやってるはずなんですよ。
で、コンビニ店長の因果といいますか、習性といいますか……この時期に、店におでんが並んでないと、なんか落ち着かないんですよね。
肉まんはどうにか販売開始出来ていますので、今度はおでんと思っているわけです。
改めて、元の世界にいた頃のコンビニおもてなしが販売していたおでんの具を思い出してみると……
こんにゃく
糸こんにゃく
はんぺん
ちくわ
ゴボウ巻き
ウインナー巻き
ウインナー
ロールキャベツ
卵
焼き豆腐
大根
ジャガイモ
餅入り巾着
牛すじ串
昆布巻き
まぁこんな感じでした。
この中で、肉は手に入るので、牛すじ肉は出来る。
ウインナーは、最近タテガミライオンの腸を使って試作をしていたので、これがうまくいけばなんとか。
キャベツと大根とジャガイモは、似た野菜を見つけているので、ロールキャベツ・大根・ジャガイモも出来る。
卵も市場で手に入る。
とりあえず、すぐに思い浮かぶのはこの六品目なんですよね。
で、この六品目
牛すじ串・ウインナー・ロールキャベツ・大根・ジャガイモ・卵
これでおでんを試験的に販売してみることにしました。
試験販売なので、本店のみでとりあえずやってみます。
店の倉庫の奥にしまっていたおでん保温機を引っ張り出してレジの横に並べまして、お客様がおでんを入れる入れ物は店の在庫で残っていたやつを使用します。
……一年前の物ですけど、ちゃんとビニールで密閉されていましたから大丈夫なはずです。
例によってこのカップもですね、
『一度にたくさん発注しておけば単価が安く済む』
と考えて、当時の僕が無謀な数を発注していた結果、今現在、在庫が四桁ありますので……まぁ当分は困ることはないと思います。
で、次の問題は出汁です。
コンビニおもてなしで販売している味噌玉はですね、プラントで増殖させる際に『出汁入り味噌』をベースにしたおかげで、そのまま味噌汁にも使用出来る品物になってるんですけど、その出汁成分だけを取り出すってのは……どうなんだろう?
「スア、この味噌玉の中の出汁成分だけを取り出す事って出来るのかな?」
「……だし?」
「そう、出汁」
「……だし……」
そう言うと、スアは腕組みしたまましばし考えこんでいきまして……そして味噌玉の上に手をかざしていきました。
すると味噌玉の上に何やら文字がずら~っと並んで表示されていったんですよね。
で、スアはそれを指さして
「……これ、味噌玉の成分、よ。……この中のどれが、出汁?」
そう僕に聞いてきました。
……要はですね、これとこれとこれが出汁成分なので、それだけを抜き出してくださいとお願い出来れば可能みたいなんですけど……表示されている文字が見たこともない文字でして、スアに読んでもらってもちんぷんかんぷんだったんですよね。
どうやらこの世界に存在する、それっぽい成分名になっているみたいなんだけど……総数で50近く表示されてるので適当に組み合わせて見るのも難しいわけでして……
で、まぁ、ここで考えを変えまして……
この夏、パラナミオと2人して取りまくったウルムナギを利用してみようと思ったわけです。
このウルムナギですが、この夏その身を蒲焼き弁当にして大ヒットしました。
そのおかげで身は全部処分出来たのですが、問題は骨だったんですよね。
ウルムナギは、元いた世界の鰻よりでかくてですね……当然骨もでかいんです。
で、蒲焼き弁当用にウルムナギをさばけばさばくほど骨がどんどん残っていったわけなんです。
最初は地下倉庫にいれてたんですけど、日に日に洒落にならない量になっていってしまったので今は魔法袋に保存しています。
薄くして焼いてチップスにしてみたりしましたけど、もっと他に用途がないかと思ってですね、一度試しに茹でてみたんです。
そしたらですね、割とあっさりした感じの出汁がとれまして……例えるなら煮干し出汁みたいな味とでもいいますか……
で、いつか何かに使えるかもと思っていたんですけど、これを使ってみようと思います。
ウルムナギのでかい骨を骨髄ごとぶった切って、それを水を張った鍋に入れていきます。
さすがルア製の出刃包丁です、ぶっといウルムナギの骨をあっさり切れました。
その鍋をグツグツ煮だしていきまして……うん、良い感じに出汁がでています。
そんな作業をしていると、
「パパ、何を作っているんですか?」
とパラナミオが興味津々な様子で僕の側に寄ってきました。
「今ね、出汁をとってるんだ」
「だし? ですか?」
「うん、これを使ってね、おでんのだし汁を作ろうと……」
そう言うと、パラナミオは不思議そうな顔をしていきます。
「オデン6世さんのだし汁を作るんですか?」
「いやいや、名前は一緒だけど、オデン6世さんは今回関係ないから」
で、ですね、小皿にだし汁を入れてパラナミオに飲ませてあげたんですけど
「……あ、あれ?……な、なんか薄い味がするような気がするのですけど……」
って言いながら、困ったような表情を浮かべていました。
まぁ、子供だったらそうなりますよね。
大人でも、出汁だけを飲んで美味しいって思う人はそんなに多くはないんじゃないかなって思いますし。
で、これに醤油玉の醤油と、味噌を少し混ぜ合わせて
ズズ……
うん、まぁこんなもんか。
「パラナミオ、今度はこっちを飲んでご覧」
そう言って、試作した出汁をパラナミオに飲ませて上げましたら
「パパ! これは美味しいです! スープです!」
そう言ってパァっと笑顔になって笑ってくれました。
パラナミオの合格ももらえましたので、これでどうにかいけそうです、はい。
というわけで、夜のうちに具材の準備を済ませておいて、翌朝弁当を調理している間に、店のレジ横でくつくつ煮込んでいきました。
開店前に、ブリリアン・ヤルメキス・魔王ビナスさん・テンテンコウ♀に、おでんの取り方の指導や汁の入れ方、フタの閉め方なんかの指導もしておきまして……
いざ、販売開始です。
◇◇
夕方になりました。
……結果から言いますと……おでん販売は大失敗に終わりました。
いえね、人気はあったんです。
試食も準備して食べてもらったところ
「うん、こりゃうまいじゃない」
「へぇ、自分の好きな物を好きなだけ頼めるのか」
ってな感じで、開店早々にいらしたお客様が弁当やサンドイッチを買ったついでに買っていかれたんですけど、
問題は、昼飯時の時間帯でした。
ただでさえ、毎日レジの前に行列が出来るコンビニおもてなしです。
そこに、このおでんが並んだためにですね、
「あ、ちょっと待って、これも買って行こうかな……」
「あ、これと、これ……あと……う~ん、どれにしよう」
ってな具合で、レジのところでおでんの購入を思い立って、そこで悩み始めるお客様が続出した結果、レジ待ちのお客様で店の中がすし詰め状態になってしまったんです、はい……
とりあえず、この状態を解消するために急遽おでんの販売を中止して、おでんの機械はスアの魔法で巨木の家に移動してもらったんですけど、そのおかげでようやくレジ待ちのお客様の行列が解消したんですよねぇ……
元の世界で販売してた頃もですね、レジまで来て
「おでん、何買おうかなぁ」
って悩むお客様は結構いました。
ですが……元いた世界で営業していた頃のコンビニおもてなしはですね、レジ待ちのお客様が殺到することなんてことはまずありませんでしたから、こんな事態想定のしようがなかったわけです、はい。
「みんな、今日の昼はごめんな。僕のミスだ」
夕方、閉店前に、ブリリアン、ヤルメキス、テンテンコウ♀を前にして僕は頭を下げて謝りました。
「いえいえ、試験販売だったんですし、仕方ないですよ」
「そうでごじゃりまする。それに品物そのものは人気だったごじゃりますし」
「そうよねぇ、売り方考えればなんとかなるかもだけどねぇ」
みんなは口々にそう言いながら、逆に僕を励ましてくれたんですよねぇ。
なんか、ホント申し訳なかったなぁ……魔王ビナスさんには明日謝っておこう。
ちょっとお疲れモードになった僕は、店の片付けを終えると巨木の家に戻っていきました。
すると、そこではおでんの機械を囲んでいるスアとパラナミオの姿がありました。
2人は、器におでんを入れてもくもくと食べています。
「あ、パパ! このおでん、すごく美味しいです!」
パラナミオが満面の笑顔でそう言いながら、器の汁をズズズッと飲み干していきます。
スアも、大根をホフホフ言いながら頬張っています。
なんていいますか……この2人の姿を見れたことで、今日はなんか救われた気分になりました、はい。