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ルアのなが~~~~~~~~~~~~い友達 その3

 翌朝、いつものようにコンビニおもてなしで販売する弁当を作成するために厨房へと行きましたら
「あ、店長さんおはようございます」
 ラテスさんが笑顔で出迎えてくれました。

 ラテスさん曰く、
「昨日、カップケーキの作り方を懇切丁寧にお教えいただいたので、そのお礼に何かお手伝い出来ないかと思いまして」
 それで厨房の前で待ってくれていたそうなんです。

 そのせい、ヤルメキスが厨房に向かうに向かえなくて、店の勝手口のところでオロオロしてたんですよね……

 
 ちなみにですね、ルアから聞いていたのですが……
 このラテスさんなんですけど、若い頃……あ、今も僕より少し年上くらいですから十分お若いんですけどね、もっと若い頃は大きな街に出て食べ物のお店をやりたいって思っていたそうなんです。
 でも、彼女の住んでいるオトの街って人口が70人くらいしかいない上に食べ物のお店が一軒もなかったそうでして……で、ラテスさんは『街の人のための食堂をやろう』って決心して、お店を開いたそうなんです。
 ただ、そんな小さな街ですので料理学校なんてもんは当然ないわけです。
 なので、ラテスさんの料理はほとんどは、料理が上手だったお母さんから教えてもらったか、自己流にアレンジしてみたものばかりだったそうなんです。
 なので、料理の上手な人を見るとすぐに弟子入りよろしくその作り方を教えてもらっているそうなんですよ。
 確かに……この世界の料理学校なんて、王都ってとこにでも行かなければないそうですし、料理を上手になろうと思ったらそれしか方法がないわけです。
 
 そうやってあれこれ頑張って美味しい物を作れるようになって街の人に振る舞っているラテスさんですけど、ほとんど儲けてないそうなんですよ。
 街の人に気軽に食べに来て欲しいから、利益が出るか出ないかくらいの値段で営業しているんだとか。
 今やってる店の改装工事もですね、そんな感じで10年近くお金をこつこつ貯め続けてようやく出来ることになったんだそうです。
 そんな人なんで、僕も応援してあげたいと思っているわけです、はい。


 そんなわけで、弁当やパンの作り方も見ていってもらおうと思ってですね、厨房に入ってもらおうとしたんですけど……ラテスさんはラミアなもんですから、その長い下半身がですね、中で4人が調理作業している厨房ではどうしても邪魔になっちゃいまして中に入るに入れない状態になってしまいまして……
 ラテスさん、すごくがっかりしながらも、気丈に笑顔を浮かべてですね
「あ、じゃあ私、店の前の掃除でもしてますね」
 そう言いながら、店の外に行こうとしたんです。

 するとここで、スアがとことことやってきました。
 いつもねぼすけのスアが珍しく早いなと思ったらですね
「……リョータのミルクで……起きた、の」
 とのことでした。
 そんなスアがですね、眠たそうな表情をしながらラテスさんに歩みよっていくと、その下半身に向かって右手をかざしていきました。
 すると、なんか魔法陣が出現したたかとおもったらですね、次の瞬間、ラテスさんの蛇の下半身が人の足状態になったんですよ!?
 これには、ラテスさんもびっくりで、
「え!? えぇ!? こ、これどうなってるんですか!?」
 と言いながら目を白黒させていました。

 で、スアに詳しい説明を聞こうとしたんですけど……半分頭が寝ている状態のスアはですね
「……まぁ、そういうこと、で」
 とだけ言い残して、巨木の家にフラフラッと帰って行ってしまったんですよね……

 おそらくですけど……厨房に入れなくなってるラテスさんの事に気がついたスアが、魔法で一時的にラテスさんの尻尾を人の足と同じ状態に変化させてくれたんじゃないかって思ったわけです。
 ……ちなみに、後でスアに確認してみたんですけど
『……私、そんなことした、の?』
 と、絶賛寝ぼけていた最中の出来事だったそうです、はい。

 とにもかくにも、このおかげでラテスさんは無事厨房に入ることが出来るようになった……のはよかったんですけど、
「に、二本足で歩くのって、なんか不思議な感じが……って、うわぁあ!?」
 と、まぁ、おっかなびっくり歩いていたわけです、はい。

 ちなみに、厨房には当然ヤルメキスもいたんですけど、ラテスさんの足が人化したせいか、いつものように捕食者の目でヤルメキスを見ることがなく、ヤルメキスもラテスさんを過度に怖がることがありませんでした。

 で、ラテスさんもですね、せっかくだから一緒に調理をしてみないかって話になりまして、僕と魔王ビナスさんが炒め物をしている横で、一緒に鍋をふるってもらいました。
 最初は緊張と、慣れない調理器具、さらに慣れない足なんかの影響もあって、若干ぎこちなかったラテスさんなんですけど、しばらくすると調子が出てきたみたいでかなり上手に調理をしていました。
 やっぱ、お店をやってるだけあって腕前はなかなかのものなんですよね。
 
 で、そんなラテスさんは、
「私のお店、パンがメインなんですごく興味があるんです」
 そう言いながらテンテンコウ♂がやっているパン作りに興味津々の様子でした。
 なので、途中からテンテンコウ♂の手伝いをしてもらいながら、その手順なんかを参考にしてもらおうと思ったんですが……この世界って酵母とかが流通してないもんですから、パンといっても固いパンしかないはずなんですよね。
 なので、ラテスさんが店で作ってるパンっていうのも、おそらく固いパンだろうと思います。

 昨日は売り切れていたもんですから、ラテスさんにとっては今日がコンビニおもてなしの、酵母を使った柔らかいパン初体験なわけなので、きっとびっくりするだろうなぁ……って思っていたのですが
「あ! ここのお店ドライイースト使ってるんですね」
 って、逆に僕がびっくりする言葉を口にされました。

 いえね、この世界には酵母が流通していません。
 当然、ドライイーストなんて存在していないんですよ。
 僕が使ってるドライイーストも、店の在庫をプラントの木で増やして使ってるくらいですから……

 それをラテスさんは、一目見て、その名前まではっきり言い当ててですね、しかもその用途も理解している様子なんですよ。
 なんでわかったんだろうって思っていたらですね、
「あ、私の友人のヨーコさんって人狐さんが使ってるんですよ」
 そう言われるわけです。

 ヨーコ?
 いや……僕の元いた世界ではよくある名前です。
 逆に、この世界では滅多に聞かない名前です。

 一瞬、僕以外にもこの世界に転移してきている日本人がいるんだろうか? って思っちゃったんですけど、ラテスさんは『人狐さん』って言ってますし、人間じゃないわけです。
 まさか日本では人間だった人がこっちの世界にきて人狐になってるはずがありませんしね。


 とまぁ、そんな話をしている間に、テンテンコウ♂製のパンがあれこれ出来上がっていきまして、
「うわぁ、どれも柔らかくて美味しいそうですねぇ」
 って、ラテスさんは感動の面持ちで出来上がったパンを見つめていました。
 で、ちょうどパンが出来上がったタイミングでですね
「あ、あれ? な、なんか体がおかしいです!?」
 ラテスさんがいきなり困惑した声をあげたかと思ったら、その下半身がですね、足から元の蛇の下半身へといきなり戻ってしまいまして……その結果、厨房の中がラテスさんの下半身であっという間に覆い尽くされていったもんですから、僕とテンテンコウ♂が思いっきりその上に乗り上げてしまい倒れ込んでいきました。
 で、僕はなんとかして立ち上がろうと、近くの棚を掴んだ……と思ったらですね
「ひゃう!? て、店長さん、そ、そこはまずいです!?」
 ラテスさんがそう言いながら、顔を真っ赤にしたんですけど……よく見たら僕、棚と間違えてラテスさんの尻尾の先っぽを掴んでいたんです。

 ……そ、そういえば、某オ○ヤド先生のモン○ター娘○いる○常って漫画に出てくるラミアも尻尾の先を捕まれると性的に興奮する描写があったような……

 で、ですね、興奮したラテスさん……尻尾で僕をグルグル巻きにしたかと思うと、そのまま僕を自分の場半紙部分に押しつけてきてですね
「……て、店長さん……ごめんさい、私もう我慢出来ません」
 そう言いながら、僕の顔に、自分の顔を近づけてきまして……って、そこでなんで捕食者の目なんですか!? しかも長い舌がチロチロ出入りしてるし!?
 これは色んな意味でやばい……と、思った次の瞬間。

「……私の旦那に何してる、の」
 そんな声が聞こえたかと思うと、ラテスさんの姿がですね、厨房の中から綺麗さっぱり消えました。
 で、僕は床の上に倒れ込んでいったんですけど、そんな僕の視線の先にはリョータを抱っこひもで前抱きにしながら、その背から異様なオーラを発しまくってるスアの姿がありました。
 
 ちなみに、ラテスさんですが、店の裏にある川の中に放り込まれていました。
 スア曰く
「……頭を冷やさせた、よ」
 だそうでして……

 偶然とはいえ、責任の一端は僕にもあったわけなので、なんか申し訳なかったな、と思いまして後で謝罪しに行ったんですけど
「いえいえいえ、全部私が悪いんですよ。あれ、なんとか制御出来るようになりたいんですけど、なかなか……」
 そう言いながら苦笑していったラテスさんだったわけです、はい。

◇◇

 ラテスさんは、午後になって僕と一緒にロールケーキを作って試食した後、オトの街へと帰っていきました。
 
 さすがに川に放り込んだのはやり過ぎたと思ったらしいスアが、申し訳なさそうな感じで転移魔法で送りますよって申し出たんですけど、ラテスさんは
「いえいえ、途中よるところもありますので、のんびり帰ります」
 そう言って、ニッコリ笑っていました。

 ラテスさんは、最後に幼なじみのルアと抱き合って別れを惜しんでいました。
「たまには家に帰ってあげなよ。ネリメリアさんや妹のネプラナも心配してたよ」
「あぁ、まぁそのうちにね」
「で、旦那さんの事はうまく説明しとくから、心配しないで」
「ぶ、ぶぁか! 何言ってんだ! お、オデン6世はただの同居人であってだな、別に旦那じゃないんだ、まだ」
「はいはい、結婚を前提に同棲しているデュラハンさんってことでいいのね?」
「あ……う……その……」
 すごいなラテスさん、逆ギレモードのルアをいとも簡単に言い負かしてしまうとは……

 で、まぁ、真っ赤になってうつむいてしまったルアを始め、タクラ家とコンビニおもてなしのみんなでラテスさんをお見送りしました。
 
 ラテスさんは蛇の尻尾をウネウネさせながら
「さよ~なら~、また遊びに来ま~す」
 そう言いながら笑顔で帰って行きました。

 で、ラテスさんが見えなくなるとですね、僕らは一斉にルアとオデン6世さんを見つめていきました。
 いつもならここで『ぶぁか!』って逆ギレするルアなんですけど、さっきラテスさんに言い負けた後だったためか
「もう、勘弁してよぉ」
 そう言いながらオデン6世さんに抱きついていきました。
 オデン6世さんは、そんなルアを優しく撫でています。

 もうみんな知ってるんだし、普段からこうしておけば良いのに……

 みんなは、そんなルアを見ながら思わず笑い声を上げていました。
 どっちかって言うと、微笑ましいって感じのやつです、はい。

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