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ドンタコスゥコったら、ドンタコスゥコ! その1

 ラテスさんがオトの街へ帰っていって数日後のこと。
 久しぶりにドンタコスゥコ商会の荷馬車隊がガタコンベへとやって来ました。

「やぁやぁやぁ店長さん。おかげさまで非常に有意義な商売が出来たのですよ」
 ドンタコスゥコさんは、馬車を降りるなり僕の手を握りしめると、それを激しく上下させていきました。
 僕は結構背が高い方で、ドンタコスゥコさんはスアとどっこいどっこいなほど小柄なもんですから、ドンタコスゥコさんはピョンピョン跳びはねながら僕の手を上下させています、はい。

 ドンタコスゥコ商会の皆さんがやってきたのが、お昼をすでに回っていて店も若干暇な時間帯だったもんですから、
「よかったら、バトコンベでの話でも聞かせてくださいよ」
 僕はそう言いながらドンタコスゥコさんを応接室へとお通ししました。
「いやはやですね、とにかくどの品も非常に好評だったのですよ。やはり私の目に狂いはなかったのですよ」
 ドンタコスゥコさんは、応接イスに座りながらエッヘンとばかりに胸をはっていきました……絶壁ですけど。
「店長さん、今何か失礼なことを考えなかったですか?」
「いえいえいえ、別に何もぉ?」

 で、ドンタコスゥコさんの話によりますと……

 バトコンベでは薬も武器もあっという間に完売したそうです。
 なんでも、
「武器はですね、切れ味が本当に素晴らしい上にですね、鞘や柄の文様の美しさが大好評だったのですよ。薬は薬でそのあまりの高純度さを前にしてですねバトコンベの医療担当の魔法使い達がびっくらたまげていたのですよ」
 そう言うと、ドンタコスゥコさんは嬉しそうに笑っていきました。

 で、ドンタコスゥコさんはお茶を飲み干すと
「というわけで、今回もしっかり仕入れさせてもらうのですよ」
 そう言いながらニッコリ笑いました。

 ドンタコスゥコ商会とは月に一回程度、こうして仕入にやってくるって約束になっていまして、ルアもすでにドンタコスゥコ商会用の武具は納品してくれてますし、スアも薬を山のようにストックしているので、どっちもいつでもお渡しできる状態になっています。
 
 で、ドンタコスゥコさんにそれらの品を受け渡ししようとしたらですね、
「あ、会長、これ見てください」
 店の中で個人的な買い物をしていたらしいドンタコスゥコ商会の使用人達がですね、店の一角に集まっていて、応接室から出てきたドンタコスゥコさんを手招きして呼んでいます。

 よく見ると、使用人達が集まっている場所ってガラス職人のペリクドさんの商品を置いてる場所です。

 で、使用人の人達はそこのガラスコップや食器を手にとりながら目を丸くしていました。
「こ、これは……」
 それを見たドンタコスゥコさんも思わずびっくりしています。
 しばらくそれらの商品を見つめてたドンタコスゥコさん。
 おもむろに僕の側へ歩みよってくると
「あのですね、あのガラス商品もぜひ仕入れさせてもらいたいのですけど……なんとかなりませんかねぇ?」
 揉み手をしながらそう聞いてきました。

 このガラス商品ですけど、このあたりでは一番のガラス職人であるペリクドさんの商品なわけです。
 王都からも買い付けがくるという程の逸品ですから、ドンタコスゥコさんが目を付けるのも当然といえば当然なわけです。
 ただですね、このガラス製品は先日ルアを訪ねてやってきていたオトの街のラテスさんが大量に買っていかれちゃったもんですから、本店には在庫があんまりないんですよね。
 で、ちょうど明日、ペリクドさんが商品を納品してくれる日なのでそれまで待ってもらうことにしました。

 で、その流れでですね、
「ペリクドさんにはこれも作ってもらってるんですよ」
 そう言いながら、ほ乳瓶を見せてみました。
 するとドンタコスゥコさんはそれをマジマジと見つめながら
「これは一体何をどうするものなのですかね?」
 と言いながら首をひねっています。

 なので僕は、スアに、リョータを抱っこしてきてもらってですね、実際にミルクをあげるところを見てもらいました。

 ちなみに、スアは先日開発した『私は対人恐怖症じゃない』っていう自己暗示魔法をかけて出てきていたので、ドンタコスゥコさん達とも、普通に接することが出来ていました。

 で、リョータがミルクを飲んでいるところを、ドンタコスゥコさんは目を輝かせながら見つめています。
「ほ、ほ~、このリョータミルクと言う品物が、おっぱいの代わりとして使用出来るわけなのですね?」
 そう言うと、ドンタコスゥコさんはこのリョータミルクこと粉ミルクも仕入れたいって言われました。

 ただ、このリョータミルクはですね、現在のところ、ここガタコンベとブラコンベの授乳期のお子さんをもたれているママさん達が定期的に買われていく分を確保しておかないといけないので、そう多くは売れないわけです。
 
 いくら高値で買いますよと言われても、僕はいつも店に来てくださるお客様を大切にしたいと思っていますので……ここは譲れません。

 僕がそう言うと、ドンタコスゥコさんは。
「そういう事情でしたら、それは仕方が無いのですよ。お店にとっては地元のお客様が最優先なのは当たり前なのですよ」
 そう言って理解してくれました……もっとも、
「今以上の増産体勢が整った暁にはぜひともドンタコスゥコ商会をよろしくなのですよ」
 って、一言付け足すことを忘れないあたりがさすがは商売人だなぁ、と思った訳です。

 で、ドンタコスゥコさん達は、
「馬車に宿泊しますので、店の横に馬車をおかせてもらってもよろしいですかね?」
 そう聞いてきました。
 ビアガーデンスペースにかからなければ店としても問題ありませんから、僕はドンタコスゥコ商会の荷馬車を誘導して、うまく止めてもらいました。
 ただ、馬を一晩置くための施設はコンビニおもてなしにはありませんので、馬だけバトコンベの中にある宿屋の馬屋におかせてもらうことにしたそうです。

 で、ドンタコスゥコ商会の皆さんはですね、宿泊の準備を整えると
「と、いうわけでスアビールを買うのですよ」
 そう言いながら、皆さん一斉に酒コーナーへと殺到していきました。
 この人達も、すっごくスアビールを気に入っちゃってますからねぇ。
 で、お会計をしている最中にですね
「あ、そうそう、馬車のすぐ脇で毎晩ビアガーデンをやってますから、よかったら利用してみてください」
 僕がそう言うと、ドンタコスゥコさん達は
「びあがあでん?」
 そう言いながら怪訝そうな顔をしました。
 で、まぁ、どう説明しようかあれこれ考えた後にですね
「スアビールを飲んで一緒に美味しい物も食べられる野外食堂みたいなもんです」
 って言いましたら、
「「「「ぜひ利用します!」」」」
 皆さん、そう言って身を乗り出してきました……まぁ、十中八九スアビール目当てなのが見え見えなドンタコスゥコ商会ご一同様なわけです、はい。

 で、本店の営業が終了した頃合いにですね、いつものように狩りに行ってたイエロとセーテンが帰って来まして、獲物を地下倉庫に収納すると早速ビアガーデンをオープンしました。
 まぁ、ビアガーデンをオープンさせると言いましても、ビールサーバーを持ち出して、その中にスアビールを詰めていき、あとは炭火をおこして各種串焼きの準備をするだけなんですけどね。
 このビールサーバーも、店の倉庫に残ってた品なんですよね。
 
 で、この日のビアガーデンの一番客は当然ドンタコスゥコ商会の皆さんになりました。

「こうして野外で酒を飲んで物を食べてみんなで語り合うというのも、なんかいいもんなのです」
 ドンタコスゥコさんはそう言いながらスアビールを特大ジョッキでゴッゴッと飲み干していきます。
 どうみても幼女然にしか見えない姿のドンタコスゥコさんが酒をかっくらっている絵面って、どうにも犯罪行為にしか見えないんですけどね……

 ほどなくして、4号店の営業が終了したララデンテさんや、ルアとオデン6世さんがこの輪に加わりみんなで楽しそうに酒を酌み交わし始めました。
 ドンタコスゥコさんもいるので、今日は僕も少し参加してたんですけど、
「まぁまぁ、店長さん飲むのですよ」
「ご主人殿、まぁ飲むでござる」
「ダーリン、なんなら口移しでもいいキ」
「店長、アタシの酒も飲めよぉ」
「こっちも次ぐからねぇ」
 とまぁ、ドンタコスゥコさん、イエロ、セーテン、ララデンテさん、ルアらに次々につがれまくって、なんかあっという間に酔っ払ってしまったわけです、はい。

 で、早めにビアガーデンを退散して巨木の家に戻った僕を、スアが待っててくれました。

 スアは、魔法で水の入ったコップを取り出すと僕にそれを手渡してくれます。
 よく冷えてて、酔ってる僕の五臓六腑を心地よく刺激してくれました。

 で、いまだに酔っ払ってる僕を見ていたスアは、ベッドの上で正座すると
「ん」
 と言いながら、自分の膝の上をパンパンと叩いています。
 どうやら膝枕をしてあげると、言ってくれているようです。
 なので、僕はお言葉に甘えて、ベッドの上に横になると、スアの膝の上に横から頭を乗せていきました。

 スアのお腹側に顔を向けて。

「ちょ!?」
 まさか自分の体の方に顔を向けられるとは思っていなかったらしいスアは、顔を真っ赤にして焦っていたんですけど、僕はその体勢のまま、スアの体を抱きしめながら、ほどなくして寝息を立て始めたそうです。

 で、夜中に目を覚ましたらですね……どうも僕の寝息がよからぬ場所に当たり続けていたようで、スアは体をプルプルさせながら
「……もう我慢出来ません、よ」
 そう言いながら……

 はい、ここからは黙秘させていただきます。

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