ルアのなが~~~~~~~~~~~~い友達 その1
おもてなし1号でテトテ集落を訪ねた翌日。
集落の長のネンドロさんがコンビニおもてなし本店を訪ねてくれました。
「いやぁ、昨日は本当にありがとうございましたニャあ」
と、何度も何度も頭を下げられたもんですから、こっちも恐縮しきりだったわけでして、
で、
気がついたら、なんか2人してお辞儀の応酬をしているみたいになっていたわけです、はい。
まぁ、とりあえずですね、あれこれ雑談を交わした後に、集落への訪問の頻度とかどうしますかねぇって話になったんですけど、まぁあれこれ相談した結果、コンビニおもてなし本店によるテトテ集落への訪問販売は、しばらくの間は2週間に1回のペースで行うことになりました。
と、言うのもですね、
僕が尋ねて行くとですね、やはり無理してあれこれ購入しようとしてしまうご老人が結構いるそうなんですよ。
なので、みんなが訪問販売に落ちつくまではこのペースでってことになったんですけど……パラナミオの魅惑の「あ~ん攻撃」の味を覚えてしまったあのテトテ集落の皆さんが、果たして慣れて落ちつく日がくるんでしょうかね?
と、まぁ、若干不安はあるんですけど、一応そう言う方針になったわけです、はい。
◇◇
ネンドロさんがやって来た数日後、コンビニおもてなし本店前の街道を見慣れない女性がウロウロしていました。
いえね、普通の女性なら別に気にもしなかったと思うんですよ。
何しろ最近のガタコンベの街は、結構新しくやってくる亜人さんが多くなってますので、街の地理に不慣れな人も多いわけです。
コンビニおもてなし本店は、そんな外部と接してる門にほど近い上に、店の壁が総ガラス張りという非常に目立つ作りをしていますので、道に迷った方が
「すいませ~ん」
とか言いながら道を尋ねにくることもよくあるわけです。
で、なんでさっきの女性が気になったかっていいますとですね、その女性、下半身が蛇なんですよ。
いわゆるラミアってやつですかね。
この世界に来て初めて拝見する種族の方だったもんですから、余計に気になったわけです。
決して、元いた世界でオ○ヤド先生のモン○ター娘○いる○常を愛読してたからとか、そんな理由ではありません……そういうことにしておいてください。
「すいませ~ん、あの~」
程なくして、そのラミアの女性はコンビニおもてなし本店へと入って来ました。
やっぱり道に迷ったらしいんですけど
「あの……この辺りにですね、ルア武具店ってありませんか?」
そのラミアの女性、そう言いました。
ってか、それってルアの店のことだよね? コンビニおもてなし本店の真向かいにある……
そう思ったところで、僕はハッと気がつきました。
このラミアの女性、ルアの店のことを『ルア武具店』って言いました。
今のルアの店はですね、店頭販売を全てやめて、販売はコンビニおもてなしを間借りして行っていてですね、店の方は工房に改造しちゃってるもんですから、今は看板も出してないんですよ。
なんせコンビニおもてなしの発注品を製造してるだけで、コンビニおもてなしがこの世界に転移してくる以前の10倍以上の売り上げを記録してるそうですから、まぁそうなるのも仕方ないよねぇ、と思うわけです、はい。
「ルア武具店でしたら、その向かいの店ですよ。今はルア工房になっていますので看板が出てないんですよ」
僕が、そのラミアの女性にそう説明をしているとですね、なんかタイミング良くといいますか、タイミング悪くと言いますか……
ルアが工房から出てきました……デュラハンのオデン6世さんと仲良く手を繋いで……
「あらあらあらぁ!?」
そのラミアの女性、そんなルアを見つけると、なんかニヤァって笑いながら店から急いで出て行きました。
下半身が蛇なので、ズルズルズルゥって感じで移動していきます。
すると、ルア。
そのラミアの女性に気がつくと、
「げ!? ラテス!? な、なんでここにいるんだよ!?」
びっくりしながらそう言うと、慌ててオデン6世さんとつないでいた手をふりほどいていきました。
確実に手遅れです。
「もうルアったらぁ、いつの間にそんな彼氏を作ったのよぉ、もう、幼なじみの私になんで報告しないのかなぁ? この! この!」
そのラミアの女性~ラテスさんは、なんかそんな台詞を口にしながらルアの脇を小突いていきます。
で、小突かれてるルア、
「ぶ、ぶぁか! そ、そんなんじゃねぇし! 彼氏とかじゃねぇし! ち、ちょっと一緒に暮らしてるだけのやつだってんだ」
とまぁ、しっかり同棲中なのを、まだ聞かれてもないのにカミングアウトしていきました。
当然のように、そこをラテスさんにさらに突っ込まれて、その顔を真っ赤にしていたルアだったわけです、はい。
◇◇
「て……てなわけで、幼なじみでのラテス……ここから北にあるオトって街で食堂やってるんだ」
散々冷やかされて、すでにやつれまくっているルアに紹介されたラテスさんは、ルアとは対照的で楽しくて仕方が無いって感じで、今もにやけているですけど
「ルアの幼なじみのラテスです。初めまして」
そう挨拶してくれました。
「で、ラテスってば、なんでこんな遠方までやってきたんだ? 自力で来たんなら2日はかかったんじゃないか? 食堂もあるだろうに」
「食堂はね、おかげさまで結構儲かってるの。それで思い切って現在内装工事中やってるんで1週間ほどお休みしてるのよ。その間にさ、久しぶりにルアの顔でも見に行こうって思って遊びにきたんだけど……まさか同棲なさっていらっしゃるなんてねぇ……おっほっほ」
最後にしっかりまた冷やかされて、ルアはその場に崩れ落ちそうになっていました。
その後方で、オデン6世さんが『僕はどうしたらいいのでしょう』みたいな感じで、終始オロオロしてたんだけど……こればっかりは僕ではどうにも出来ないので、あえてオデン6世さんと視線が合わないように目を反らしていたのは僕ですが、何か?
で、ルアがですね
「部屋をかたづけてくるから、ちょっとコンビニおもてなしで時間潰しててよ」
そうラテスさんに言ったもんですから、ラテスさんは、今度はお客としてコンビニおもてなし本店の中へと入ってきました。
下半身が蛇で長いもんですから、ラテスさん一人で結構な店内スペースを占拠しちゃってるんですけど、今はちょうど昼飯時を外れていたので、まぁどうにかなっている感じです。
で、ラテスさんが最初に目を付けたのが、ガラス食器でした。
ブラコンベのガラス職人・ペリクドさん制作の品々なんですけど、それを見たラテスさん、
「うわぁ、これすごく素敵! このガラス食器、どれもすごいですねぇ」
手にとって、あれこれ触って確認していきながらですね、感動しきりのご様子です。
で、結局この日、店に残っていたガラス食器をほとんど全部購入されました。
荷物運搬袋を持っていたので、それに収めていったんですけど……その荷物運搬袋もウチの店の商品だよなぁ、って思ってたら
「あぁ!? そうか! ルアが買って送ってくれたこの荷物運搬袋って、この店の商品だったんだ!?」
ちょうど荷物運搬袋の商品棚のところにたどり着いたラテスさんも、そのことに気がついたようです、はい。
で、次にラテスさんが目をとめたのが、カップケーキとロールケーキでした。
ヤルメキスが毎日作っているスイーツです。
「うわぁ……こんな甘い物、初めてみましたよ」
ラテスさんはそう言いながら、購入したばかりのカップケーキとロールケーキを、店内で開封して、それを交互に口に運んでいったんですけど
「ん!? これ、すごい! すっごく美味しい!」
そう言うやいなや、ラテスさんは僕ににじり寄ってきてですね
「店長さん、お願いです、この甘い物の作り方を是非教えてくださいませんか? これ、私のお店でもぜひ出したいんです!」
すごい形相になりながらそう言ってきたわけです。
一応僕でも作れないことはないんだけど
「この商品は、ウチの店のスイーツ担当が作ってますので、その者に説明させましょう」
僕はそう言ってヤルメキスを呼んだんですけど、
「はいはい、なんでごじゃりま……」
厨房の方から出てきたヤルメキスなんですが……なんかラテスさんを見た途端に固まったんですよ。
で、
よく見ると、ラテスさんも、どこかヤルメキスを見る目がおかしいんですよね……なんか、眼光鋭いというか……捕食者の目といいますか。
で
僕はここで気がつきました。
ラテスさん→蛇~ラミア
ヤルメキス→蛙人
あぁ……蛇に睨まれた蛙!?
こ、こりゃ、とりあえずヤルメキスを奥に引っ込ませないと、って僕が思ったところで、
「ラテス、お待たせ」
そう言いながらルアが店に入ってきました。
そこでラテスさんは、ハッと我に返った感じでルアの方へ振り向いていくと
「店長さん、また明日にでも教えてくださいね」
和やかな笑顔を残して店を後にしていきました。
で、
ラテスさんが店を出て行ってしばらくすると、ヤルメキスは
「ぶはぁあああああああああああああああああああああ」
って、大きく息を吐き出していったかと思うと、
「く、く、く、食われるかと思ったでごじゃりまするぅ」
そう言いながら、その場にへなへなと座り込んでいきました。
……なんていいますか、ヤルメキスにとっては、思わぬ天敵来襲だったようです、はい。
まぁ、そんなわけで、明日は僕がラテスさんにケーキの作り方を教えようと思っています、はい。
◇◇
その夜、スアとパラナミオと僕の3人で、スヤスヤ寝ているリョータを眺めていました。
リョータは、僕とスアの子供です。
つまり人間とエルフのハーフなわけですけど、そんなに耳は長くありません。
まぁ、スアもですね、いつもは長い髪の毛で耳が隠れてしまっているので目立っては無いんですけどね。
「……リョータは、パパ似、ね」
そんな耳を確認しながら、スアはニッコリ笑ってリョータの頭を優しくなでていきました。
その横で、パラナミオも嬉しそうな笑顔でリョータを見つめています。
「パラナミオ、早くリョータに色んなことを教えて上げたいです、お姉ちゃんですから!」
そう言うと、パラナミオは再びニッコリ笑っていきました。
そんなみんなを、僕は笑顔で見つめています。
うん、やっぱいいな、家族って。