バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

おもてなし1号に乗って その4

 テトテ集落へドライブがてらやって来ている今日のタクラ一家です。

 集落の長のネンドロさんに頼まれてたんで、商品もあれこれ持って来てですね、机をだして並べてはいるんですけど……集落の皆さんのうち、99%の皆様は目下パラナミオとスア、そしてスアに抱っこされているリョータの周囲に群がっています。

 で、僕の横には残り1%のネンドロさんがいてですね、あれこれ世間話とかしてくれてるんですけど……これって、気を使われてるんじゃないかなぁ、って、すっごく申し訳なく思っちゃってるのは、考えすぎですかね?

◇◇

 ……で、ですね……結局、1時間近く集落の皆さんはパラナミオとスア、そしてスアに抱っこされているリョータの周辺からまったく動きませんでした。

 さすがに日が落ち始めたので、今日は商売の方は無理だったなぁと思いながら片付けを始めようとしたところ
「あの、皆さん、パパのお店も見てください!」
 僕の動きに気がついたパラナミオがですね、大きな声でそう言ってくれました。

 すると、集落の皆さん、
「あぁ!? 申し訳ない店長さん……店長さんのことをすっかり忘れてたよ」
「買いたい物があったんじゃ、鍋、鍋はあるかい?」
「わしゃ、鍬がほしいんじゃが」
 ワラワラと僕の方へと集まってきてくれました。

 いやぁ、一時はどうなるかと思ったんですけど、パラナミオの機転のおかげでホント助かりました。

 で、集落の皆さんはですね、やっぱり調理器具や農機具を中心に買っていかれまして、この二種類に関しましてはあっという間に完売してしまいました。
 まだまだ欲しがってるお客さんがいただけに申し訳なかったんですけど
「あぁ、店長さん、謝らなくていいよ。また来てくれるんでしょ? その時お願いね」
 と、皆さん口々に笑顔でそう言ってくれました。

 中にはですね、温泉饅頭を買ってくれたお客さんが
「さぁパラナミオちゃん、甘いお菓子だよ、お食べ」
 と言って、買ったばかりの品物をそのままパラナミオに食べさせてくれてるお婆ちゃんがいたんですけど、パラナミオはですね、そのお婆ちゃんの持ってる温泉饅頭の袋を受け取ると、
「お婆さん、あ~んしてください。パラナミオが食べさせてあげます」
 満面の笑顔でそう言ったんですよ。

 そのお婆さん、顔を真っ赤にしながら
「じゃ、じゃあ、あ~ん」
 って、口を大きく開けていきまして、その口の中にパラナミオが温泉饅頭をゆっくり入れていきました。
「美味しいですか?」
「えぇ、パラナミオちゃんがあ~んしてくれたから、とっても美味しいわ」
 お婆さん、もうお顔がデレンデレンです、はい。

 すると、その光景を見た他のお年寄りの皆さんがですね、僕の側に駆け寄って来まして
「て、店長さん、わ、ワシにもあの饅頭を売ってくれ」
「馬鹿野郎、俺が先だ!」
「いえ、ダメよ! 私が買うのよ!」
 と、残り2つの温泉饅頭詰め合わせにお客さんが殺到してきたわけです。

 で、解決策。

「はい、あ~んしてください」
 パラナミオにですね、残ってた温泉饅頭の袋2つを持ってもらってですね、その中の饅頭を1人1個、パラナミオのあ~ん、で食べてもらいました。
 で、袋の中は12個入りなので、24人限定なんですが、
「俺が先だ!」
「私が先だったわよ!」
「こら、割り込むなお前ら!」
 とまぁ、24番目のあたりで大騒動が起き始めまして……

 で、結局、温泉饅頭を半分に割って、倍の48人の皆様に、魅惑のパラナミオあ~ん、を、体験していただきました。

 で、この48人にも入れなかった皆さんの中にはですね、
「ぱ、パラナミオちゃん、こ、これであ~ん、をしてくれないか?」
 って、買ったばかりの味噌の実を持ってくるお爺さんまで出てきましてですね……さすがにお断りしましたけど。

 そんな騒動の中、気がつくとスアの姿が見えなくなっていました。
 周囲を見回して見ましたら、おもてなし1号の助手席に戻っていまして、リョータを抱っこしたままぐったりしています。

 ……あとでスアから聞いたんですけど、
 集落に到着するときにですね、スアは自己暗示魔法をかけていたそうなんですよ。
『私は対人恐怖症じゃない、よ……お年寄りも平気、よ』
 って。
 そのおかげで、集落にやってきてしばらくの間、異常なまでに普通に皆さんと接っすることが出来ていたわけです。

 誰ですか? スアがウン百才だから、同じお年寄りなので平気だったんだろうとか失礼なことを言ってるのは?

 ただですね……想像以上にたくさんの人々に囲まれ続けたもんですから、魔法が早く切れてしまったみたいなんですよ。


 そんなスアの様子に気がついた僕は
「じゃ、今日はもう日が暮れますんで……また遊びに来ます」
 そう言いながら、慌てて片付けていきました。
 すると、集落の皆さん、
「今日はホントにありがとうね、店長さん」
「奥さんやお子さんまで連れて来てくれて、ホントにありがとう」
「とっても嬉しかったよ」
 口々にお礼を言いながら、片付けを手伝ってくださいました。

 当然、パラナミオも僕のお手伝いをしようとしてくれたんですけど、
「あぁあぁ、パラナミオちゃんは何にもしなくていいよ」
「おぉ、そうじゃ、この爺ちゃんにまかせとけ!」
「あら、この婆様だってまだ捨てたもんじゃないわよ」
 と、よってたかってパラナミオを、おもてなし1号の中に押し込んでいったんですよね。

 で、片付けが終わって帰り際
「奥さん、お疲れのご様子じゃで、帰ったらよく休ませて上げてくださいね」
 お婆さんの1人が、そう言いながら頭を下げてくださいました。

 やっぱ、皆さんもスアが途中からおかしくなったのに気がつかれたみたいで……そこからは、スアがリョータを抱っこしておもてなし1号の助手席にこもっていった後は、絶対にそこに近寄っていかれませんでしたから……ホント、色々気を使ってくださったんだなぁ、って、僕も妙に感動しきりだったわけです。

 そして、荷物の片付けも済んで、いよいよ帰りますよ……ってなったときにですね
「店長さん、これ持ってお帰りんさい、ウチの畑でとれたハルクンサイじゃ」
「おいおい、そういうことなら、ウチの畑のジャルガイモも持ってくるぞ」
 と、集落の皆さん、村で収穫した野菜をドンドン持ってくるんですよ。

 ここで魔法袋の存在に気がつかれたら、それこそ無尽蔵にというか、村の蓄えまで持って来かねない勢いだったので、あえてその品々はおもてなし1号の後部座席……パラナミオの横へ詰め込んでいきました。
「も、もう一杯ですから、これだけで十分ですから」
 パラナミオが、野菜の山に埋もれてしまう程に、おもてなし1号の後部座席がパンパンになったところで、集落の皆さんもようやく諦めてくださいまして、
「次回は、ワシの畑のも持って帰ってくれよぉ」
 って、名残惜しそうな皆さんの声を背にしながら、僕はおもてなし1号を出発させました。

 パラナミオもですね、野菜に埋もれながらも、窓から顔をのぞかせて
「皆さん、さようなら~。また遊びに来ます~」
 そう言いながらニッコリ笑っていました。

 で、そんなパラナミオに向かって集落の皆さん、
「また来てねぇ、パラナミオちゃ~ん」
「待ってるよ~パラナミオちゃ~ん」
「また、あ~んしてねぇ」
 って声を上げながら手を振る方々がめいっぱいだったわけなんですけど、中にはその場に土下座して
「あぁ、天使が降臨された……」
 ってな具合で涙を流してる人までいたわけでして……

◇◇
 スアも、しばらく休んだおかげでか、ほどなくして目を覚ましました。

「スア、大丈夫かい? なるべくゆっくり運転するから……」
 僕がそこまで言うと、スアは
「……大丈夫、よ」
 そう言いながら、リョータを抱っこしたまま、窓の外を見つめていきました。
「……なんかいいね、ドライブ」
 そう言うスアに、後部座席のパラナミオも、満面の笑みで
「はい! パラナミオもとっても気に入りました!」
 そう言って来ました。

 こうして、テトテ集落までおもてなし1号に乗ってドライブがてら行商に行くっていう行事が、タクラ家に加わったわけです、はい。

しおり