ジン子のストリップショー開幕!!
警視庁刑事部捜査一課の冴渡は、自宅のトイレ内でスマホを握りしめ、捜査のパートナー……いや、不倫相手……いや、SMパートナーのM探偵こと奥葉ジン子にlineを送っていた。
なぜ、トイレでそのような行為をしているかと言うと、冴渡は今、離婚の危機にあった。冴渡の妻である祥子が、冴渡の行動を怪しみ、つい先日とうとうスマホをチェックしたのだった。
今までにも風俗やちょっとした遊びがバレた事はあったが、今回は祥子の怒りが丸二日続いており、「これはまずい……ちゃんと反省しているところを見せなければ……」と、冴渡は、警視庁に一週間のバカンスの申請を出したのだ。つまり、一週間、ジン子の部屋には行けないという事だった。
スマホが震える。
M探偵「あの宅配業者が怪しいです!」
ジン子からのlineだった。
素早く返信する冴渡。
冴渡「いいから服は脱いだのか?」
このあとしばらくラリーが続く。
M探偵「だって、今、ゴキブリが3匹……」
冴渡「じゃ、ゴキブリに見てもらえ。お前の恥ずかしい格好を」
少し間があって、
M探偵「(うさぎがOKしているスタンプ)」
えーんかいっ!
結局、ジン子はゴキブリをいったん無視し、全裸になることを選択した。
チラッと先ほどのゴキブリを確認すると、玄関から床を這い廊下の隅に移動し、動きを止めている。
壁にいた2匹は、またどこかに消えていた。しかし、殺した訳ではない。必ず、この部屋のどこかに隠れているのだ。それは隠しようも無い事実だ。
ジン子が、シャツを脱ぐ。
廊下の隅にいたゴキブリが気配を察知して触覚を四方に動かし、どちらに逃げるべきか迷う。
ジン子の大きな日本人離れした巨乳がすがたを見せる。
すかさず、壁の2匹も同時に床に現れた。
まるで、ストリップを見に来た童貞の大学生のように、あらぬ方向を向いてはいるが、触覚だけでジン子の巨乳を確認し、判断し、舐め回すかのように触覚を揺らしている。
「やだ……わたし……」
ストン。と、ジン子はスカートをおろした。
おしげもなく見える、真っ黒な海苔の塊とも言える逆三角形。
3匹のゴキブリはエロ本を見つけた小学生のように、触覚で右往左往して興奮を示した。
ジン子にとっては羞恥よりも恐怖だった……。
はずだった。しかし、恐怖と羞恥は、まるでコインの裏と表のように、ジン子の感覚を研ぎ澄ましていった。
「なにか……見えるの……」
脳裏に浮かぶ宅配業者のニヤけた顔……。
その男の胸元の名札……『谷川』とある。
段ボールの伝票にある運送会社の電話番号……。
そうだ。運送会社にさっきのドライバーを確認すれば……。彼が、この部屋にゴキブリを仕込んでいったかも知れない!
とっさにジン子はそばにあったスマホで、その番号にかけた。
「あの。谷川さんというドライバーはいますか?」
「はい。昨日より採用になった新人ドライバーですが……何かトラブルでもありましたでしょうか?」
なかなか気の利いた事務員だ。
「ええまぁ……ちょっと……」
まさか、ゴキブリを仕込んだか聞きたいなど言えない。
「お客様、よろしければもう一度お宅に伺うよう、連絡しましょうか?」
「あの……はい。じゃ……」
「かしこまりました」
事務員の粋な計らいで、彼は15分後にもう一度ここに来る。その時に、彼が犯人だという証拠を示さなければならない。
ジン子のスマホが鳴った。
冴渡「脱いだら写メを送れ」
ジン子は藁にもすがる思いで、冴渡にlineを打つ。
M探偵「今から犯人と思える人物がここに来ます!でも証拠がありません!どうしたらいいですか?」
またラリーが展開する。
冴渡「誰が来るんだ?」
M探偵「宅配業者です!」
冴渡「そいつに全裸の写メを撮ってもらえ」
M探偵「そいつはこの部屋にゴキブリを拡散させた犯人かも知れません!」
冴渡「命令だ!」
M探偵「了解です!」
また了解してしまうジン子だった。
「どうしよ……何かヒントでも……」
谷川が犯人だという証拠を探すジン子。
ふと、段ボール箱の横に1センチほどの茶色のカプセル状の物体を発見する。
「なにかしら……」
しかし、ジン子にはこれが何なのか分からなかった。
その時、宅配業者が部屋のチャイムを鳴らした。
「出るしかない……」
ジン子は意を決してドアを開けた。
谷川は、全裸のジン子を見て、唖然とする。
「あ、あの……間違えました! すいません!」
と、急いで逃げて行った。
ジン子は慌てて追いかける。ゴキブリも重要だが、冴渡からの指示もまた重要だ。
「ごめんなさい! 写真だけ撮って! お願い!」
全裸でスマホを手にマンションの廊下を走るジン子の姿は、神々しく防犯カメラに収まっていた。 まるでギリシャ神話に出てくる英雄のように、両方の乳房を大きく揺さぶり、かざしたスマホが伝説の剣のようにも見える。
そのスマホの画面には、冴渡からの最新のlineが入っていた。
冴渡「まだか?」