猿人4人娘達と、料理人 その5
いよいよ明日、猿人4人娘達の食堂「コンビニおもてなし食堂 えんてん亭」がオープンします。
そんなわけで、今夜は猿人4人娘達とテンテンコウによるお披露目会として、関係者の皆が呼ばれています。
店の入り口上には、工房のルア製のでっかい看板がで~んと設置されています。
「まぁ、我ながらなかなかなもんだろ」
僕らと一緒にお呼ばれしているルアがすっごい満足気な表情で笑っています。
最近は、ビアガーデンで、イエロとセーテンの2人と一緒に朝まで飲んだくれてるイメージしかないルアですが……いや、実際そうなんですが、
ルアの仕事は早くて丁寧、しかもしっかりしています。
僕の店で武具を販売しているわけですけど、購入希望の冒険者の人が
「この剣、もう少し先を細くしてもらえないかな」
とか言われたりしますと、すぐルアを呼ぶわけですが……まぁ、本店の真正面ですしねルアの工房って。
んで、実際に剣を見て貰うと
「あいよ、まかせな」
って感じですぐ自分の工房に行ってカ~ンカ~ンカ~ン
「はいよ、これでいいかい?」
ってな具合にすぐ対応してくれます。
しかも大概の場合
「あぁ、この程度のことで金なんてもらえないって。いいからいいから」
と、こういった追加注文でお金をもらうこともまずありません。
まさに、「ザ・あねご」です。
最近では、ルア製武器御用達の冒険者ってのも結構増えています。
ルアと話したいがために、ビアガーデンに入り浸ってる冒険者も結構いますしね。
そんな看板でお出迎えするこのお店。
中もしっかり綺麗になっています。
テーブルには1つ1つの上に和風の布が敷かれています。
テーブルごとに種類の違うその布は、猿人4人娘達と入れ替わりで僕の店で働くことになった魔王ビナスさん製です。
僕の世界で言うところの和のテイストバリバリな服をいつも来ているビナスさんですが、
「こういう敷布を作るのも楽しいですわね」
そう言ってニッコリ笑ってくれました。
ちなみに、このビナスさんは、コンビニおもてなし食堂があるブラコンベにお住まいなので、今後も本店でのバイトが終了した後、お時間あるときに食堂のお手伝いに行ってくれることになっています。
店の厨房では、すでに猿人4人娘達が忙しく動き回りながら料理をしています。
4人とも、山賊時代に皆の食事がかりをしていたというだけできちんとした料理の仕方を学んだことがありませんでした。
……まぁ、この世界できちんとした料理学校で料理を習おうと思うと、王都に行くしかないらしく、しかも亜人お断りらしいんですよね……まったく、人種至上主義ってなんなんでしょうねぇ……
で、一応専門学校で料理を勉強している僕がみんなにあれこれ教えてあげたわけです。
えらそうなことを言いますけど、まぁ、店で売るためのパンやサンドイッチ、それに弁当の作り方がほとんどだったんですけどね。
ただ、1すくい100円/元の世界の日本円換算で販売しているスープ類は結構役に立つんじゃないかと思ってます。
ミネストローネに豚汁、味噌汁や卵スープ、トウモロコシもどきみたいな野菜を使ったコーンスープなんかも作っていましたので、これを皿に入れてセットメニューに組み込めば結構好評になるんじゃないかと思っています。
一応、コンビニおもてなしの名前を冠しているお店なので、週に一度の店長会議にも参加してもらうことになっているので、今後のメニュー展開については、追々相談しながらやっていこうということになっています。
で、オープンの際のメニューですが
日替わり定食~スープ付き
日替わり肉丼~スープ付き
サンドイッチセット~飲み物付き
最初はこの3つからスタートすることになりました。
下手にメニューを多くするよりも、まずはお店の味を知って貰おうというわけです。
上記メニューとは別に飲み物も別途提供することにしていますが、今のところ
スアビール
タクラ酒
パラナミオサイダー
の3品目になっています。
メニューにサンドイッチがあることでもうおわかりでしょうが、店の厨房にはパン焼き釜も設置してあります。
残念ながら本店のような電気窯ではなく、中で薪を焚くタイプのものですが、
「窯とかまどの使い方でしたら少々心得がございますわ」
と、和の心、ビナスさんが、4人に使い方をみっちり仕込んでくれています。
とまぁ、本店では太陽光自家発電を使用してほとんど電化された厨房だったわけですけど、
一気にこの世界の標準的厨房を使用することになった4人は、最初はやはりとまどったみたいですが。
「「「「大丈夫キ、しっかりやってみせますキ」」」」
と、全員笑顔で頑張っています、はい。
そんなこんなで、店のテーブルには、僕、スア、パラナミオをはじめ、ヤルメキスやブリリアン。
今日は本店のビアガーデンもお休みにしたのでイエロにルア、そしてセーテンももちろんいます。
2号店からはシャルンエッセンスとシルメールが代表して。
3号店からは、エレ特性の花輪が届いています……って、花輪なんて文化、どこで知ったんだろうと思っていたら、
「この本に詳しくかいてありました」
そう言ってエレが僕に見せてくれたのが
『異世界のニホンという国の文化 ステル=アム著 魔女魔法出版』
内容をみたら、これ、僕がスアに雑談で話した元の世界の事がざざっとまとめられていたわけです。
……スア、これ、いつのまに……
って思ってる僕に、スア
「……「いい?」って聞いたら「うん」、って」
……まってくれ
その会話ってさ……その……夜のあれのやりとりの時のじゃないの?
まさか、そのついでに聞いたとか?
「……ついでのつもりはなかった、よ……でも、旦那様がすぐに……ねぇ」
そこで、両手を頬にあてて、思い出しぽややんをしているわけです。
……ま、もう出てるものは仕方ないか(ため息
あと、今はガタコンベの衛兵をやっている、元セーテン山賊団の猿人達も大挙してやってきています。
「4人ともおめでとキ~」
「頑張れキ~」
「乾杯キ~」
とまぁ、気がついたら店の中はやんややんやの大歓声が飛び交っています。
でもあれですね。
この猿人4人娘達って、人で言えばみんな15,6才くらいなんですよね。
なんか、娘の独り立ちを祝う親の心境といいますか……って、まだ一人も送り出したことがないんですけどね。
そんなことを思っていると、いつかパラナミオも独立したり、いい人を見つけて結婚したりするんだろうなぁ……なんて、超気が早いことを考えている僕なわけです。
超絶対人恐怖症なスアですけど、
まだ出会って日が浅いビナスさんとテンテンコウに対して、ビクッとなってるくらいで、後の皆とは結構普通に接することが出来るようになっています。
初めて僕の店にやって来たときのスアって、誰にも声をかけられたくないからって、自分を透明化してやってきたんだよなぁ。
そんなことを考えている僕のテーブルに、猿人4人娘達が、料理を持ってやって来てくれました。
4人は、僕、スア、パラナミオの順番で料理を並べてくれまして、
「猿人のお姉さん達、ありがとうございます!」
と、パラナミオが元気にお礼を言いました。
さすが、自慢の娘です。
さすが、自慢の娘です。
大切なことなので2回いいましたよ。
で、猿人4人娘達は僕に向かって
「店長のおかげでこうして店を持てましたキ」
「今まで本当にありがとうございましたキ」
「これからもよろしくお願いしますキ」
「私達、しっかり頑張りますキ」
そう、それぞれに言うと、深々と頭を下げてくれました。
その姿に、思わず感涙を流しながら4人を抱きしめる僕
それにスアとパラナミオが加わり、
そこに、セーテン、イエロ、ルアが
さらに猿人達がどどどとやってきて、と
いきなりタクラ家名物家族の輪が出来上がっていったわけです。
この日のお店は、遅くまで魔法灯が灯っていて
ずっと笑い声が絶えませんでした。
4人とも、頑張れよ。