デュラハンさんは恥ずかしがり屋 その1
コンビニおもてなし食堂 えんてん亭が開店して1週間が経ちました。
店は初日からなかなか盛況だったそうで、お昼時には順番待ちの行列が出来たそうです。
一応、夜の9時頃まで営業しているこのお店ですが、夕食時までは割とお客が来るのですが、その後はぱったり客足が途絶えるそうです。
なんでかなぁ……と考えてたら、
あぁ、そうか、ブラコンベにはコンビニおもてなし2号店がやってるビアガーデンがあるんだったと思い当たりました。
コンビニおもてなし2号店も、リニューアルオープンしてから大盛況が続いています。
そんな2号店は、日暮れ頃まで営業すると、そこで閉店し、ビアガーデンを開店します。
以前はせまい店舗の屋上で営業していたビアガーデンですが、今は組合や近隣店舗の許可もいただき、店の前の街道を広く使って営業しています。
商店街のはずれの方にある2号店ですが、テーブルごとに魔法灯を灯しているおかげで、街の中央の方からも、ビアガーデンが見えるようになり「なんだなんだ?」と、興味本意のお客さんを呼び寄せていまして、大盛況になっています。
スアビールが大人気なのもありますが、シャルンエッセンスらの笑顔の接客と、一生懸命作っている料理も好評なわけです。
ほんと、シャルンエッセンスは変わったなぁ、と感心しきりなんですけど、それを伝えるとシャルンエッセンス本人は
「いやですわもう、私なんてまだまだでございますわ」
と、ひたすら謙遜しまくるわけです。
以前でしたら
「私の手腕を持ってすれば、当然の結果ですわ。お~っほっほっほ」
って、絶対言ってたはずですもん。
なんか、そんな成長を目の当たりに出来るのも嬉しいわけです。
で、そんなわけで、ブラコンベの夜のお客さんがほとんど2号店のビアガーデンに流れてるもんだから、その時間帯のえんてん亭に客が行かないんだろうな、と、言うわけです。
ビアガーデンは、全店秋口まで営業する予定にしているので、それまでこの状態が続くかもしれないわけです。
で、猿人4人娘達も、
「ビアガーデンが終了するまで閉店を早めるキ?」
と、相談していたんですけど、それは僕が止めました。
オープンしたての店ですので、まずは何時から何時まで確実に開いていますよ、と、アピールした方がいいと思った訳です。
やっぱり、開店時間や閉店時間がころころ変わる店って、お客さんからも信用してもらえないんじゃないか? と思うわけですよ。
で、猿人4人娘達にも、そんな話をしていくと
「そうキね。タクラ店長の言う通りキ」
と、みんなも納得してくれました。
まぁ、実際問題として、夕方までの営業は好調なんだから、最初は多少、そんな時間があっても仕方ないじゃないか、と、思うわけです。
まだ元の世界で営業していた頃のコンビニおもてなしなんて、朝も昼も夜も閑古鳥がないてたんだからねぇ……
そういえば最近、コンビニおもてなし本店に変なお客さんが来ています。
いつも昼過ぎ頃にやってきては、魔女魔法出版の書籍を置いているコーナーの近くに立っています。
そのままず~っと立っています。
結構、高価そうな西洋甲冑を着込んでいまして、小脇に抱えている頭も顔が見えないタイプの兜を被っています。
えぇ、デュラハンです。
んで、このデュラハンなんですが、昼過ぎから閉店まで、ず~っとそこに立ってます。
街道に面している側はフルガラス張りですので、このデュラハンは街道の方をずっと眺めていることになります。
別に商品を見でもなく、店内をウロウロするわけでもなく、ひたすらそこに立っています。
最初は、涼みにきてんのかな? とも思ったんですよね。
本店は、太陽光自家発電がありますので、クーラーが使えます。
ですので、冷房をかけて営業しているもんですから。
ただ、この時期は他の店も店内に冷房魔石を設置して室内温度を下げていますので、別にウチの店にずっと居座る理由にはならないはずなんですが……
ただ、このデュラハン
店を出る際には必ず1品買って帰ります。
スアビールだったり
パラナミオサイダーだったり
タクラ酒だったり
薬だったり
と、まぁ、とにかく毎日1品、必ず何か買って行くんですよね。
それに、他の客にならないように気をつけてはくれている……というか、立っているその場所事態、あんまり人がいかない場所なんでねぇ。
で
デュラハンが立ってる場所って、店の外からも丸見えなんですよね。
んなもんだから、街道を行き交う人達の噂にもなるわけです。
そりゃどうですよ
いつも同じ場所に西洋甲冑着込んだでかいデュラハンが立ってるなんてねぇ
最初はスアに相談しようかとも思ったんですけど、
最近のスア、どうも悪阻が始まったみたいでたまにケロケロすることがあるもんですから、あんまり負担をかけたくないわけです
ですんで、今日来たら一言注意します。僕が。
そう思ってレジに立っていると
……はい、来ました。
いつもとほぼ同じ時間
お昼の混雑時間を少し過ぎたあたりで、例のデュラハンが店内に入ってきました。
で、
デュラハンは、いつものようにまっすぐ魔女魔法出版の本のコーナーのすぐ脇に立ち、いつものように街道へ向かって立ちました。
「あの、お客様」
僕は、営業スマイル120パーセントで、そのデュラハンに声をかけました。
が、無視
……む
「あの、お客様、ちょっとよろしいでしょうか?」
また、無視
さすがにムカッとなったんですけど
そんな感情を微塵も感じさせない、営業スマイル140パーセントの笑顔の僕は
「お客様」
そう言いながら、デュラハンの肩をポンポンポンと……
すると、デュラハン
やっと僕に気がついたみたいで、真正面に向けて持っていた手の顔を僕に向けました。
「……我?」
重低音ボイスでそう言ったデュラハン。
で、僕はこっくり頷くと
「お客様、連日ここに長時間立たれておりますが、何か理由があるのでしょうか?
さすがに、他のお客様からも、いつも甲冑を着込んだ方が長時間同じ場所に立っているといった苦情が寄せられておりまして……」
僕が営業スマイル140パーセントのままそう言うと、デュラハンはしばしジッとしたまま、
そして
「……謝罪」
そう言いながら、体の上半身をペコリと下げると、店を出て行きました。
……あれ?
思った以上にあっさりだったもんですから、僕もちょっと拍子抜けした次第です。
最悪、ここでデュラハンが怒って暴れ出しても大丈夫なように、
イエロが2階の部屋にまだ居る時間帯に声をかけたっていうのに……
この時間帯は、魔王ビナスさんもテンテンコウもバイト上がりで以内時間ですからね
レジでは、デュラハンがあっさり帰ってくれたことで僕同様に安堵しているブリリアンとヤルメキスの姿があったわけです。
で、まぁ、みんなで安堵のため息を漏らしている目の前で
店の自動ドアが開き、デュラハンがまたやってきました。
ただし、今度は甲冑姿ではありません。
なんか、普通の冒険者みたいな服を着ています。
で、頭の部分は……なんか布袋に入れて、目の部分に穴を開けています、はい。
その、西洋甲冑を脱ぎ捨てて、一応存在感はかなり軽減したデュラハンは、僕に向かってぺこっと一礼。
あ、ど、ども
僕も思わず一礼をかえしてしまったんですが、
そんな僕の横をすり抜けて、いつもの魔女魔法出版の本のコーナー近くに立ったデュラハンは、その頭の部分が入っていると思われる布袋を、魔女魔法出版の本を陳列している棚の上に置きました。
で、何やら微調整をすると、その体部分だけ店の外へと出て行きます。
……は?
唖然とする、僕・ブリリアン・ヤルメキス
そんな僕らの視線の先には、魔女魔法出版の本の棚の上に残された、布袋に入ったデュラハンの首。
……なんなんだ? 一体