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リバティよいとこ、一度はおいで~ その4

 今夜は無礼講というわけで、夕食がほぼ終わったにもかかわらず、宴会場の中はいまだに大賑わいです。

「まだまだでござる。宴は始まったばかりでござるよ」
「酒もっと持ってくるキ」
「ホントなら温泉入りながら飲みたいけど、飲酒しての温泉は危ないから、温泉は明日の朝にするか」
 と、一部どっかの標語みたいなことを話している者もおりますが、イエロ・セーテン・ルアの3人が中心になって、酒飲みの輪が出来てまして、その輪の中の皆がまたホントに楽しそうに飲んでいます。

 いつもこれがビアガーデンで繰り広げられている光景ですけど、こんなに楽しそうに飲む3人の側にいたら、そりゃ酒もすすもうってなもんですよ。

 というわけで、僕がこの酒飲みグループに入って宴会を満喫している中、
 気がつくと、パラナミオやヤルメキスが、こっくりこっくりと豪快に船をこぎ始めていたため、スアにお願いして、宴会場の3分の1くらいのところで、魔法壁をはってもらい、そこから向こうは魔法灯の灯りもけし、宴会継続中の場所からの音も聞こえないようにしてもらいました。

 んで、このスペースの中に布団を敷いていったのですが、
 パラナミオとヤルメキスが早速潜り込んでいきました。

 すると、他の布団を敷いている僕の足を、ヤルメキスが引っ張りました。
「どうかしたかい?」
 そう僕が尋ねると、ヤルメキスは
「私ですね、タクラ店長様に拾っていただけませんでしたら、今、こうして生きておられなかったと思うでおじゃりまする……感謝しても仕切れないんでおじゃりまする」
 そう言うと、いつもの焦りまくった様子ではなく、落ちついてすごく真剣な表情で土下座をしていきます。


 確かに、ヤルメキスと出会ったのは、春の花祭りの時の裏街道だったもんな。
 あそこで、手に入る材料を一生懸命使って作ったカップケーキもどきを売っていたヤルメキス。

 今では、そんなヤルメキスの作るカップケーキをはじめとしたスイーツは、コンビニおもてなしの隠れた売れ筋商品になっていて、
「ヤルちゃまのスイーツはとっても素敵よ」
 と言って、ほぼ毎日買いにきてくれる常連さんも数多くいます。

 
 僕は、そんなヤルメキスの頭を優しく撫で
「全部、ヤルメキスが頑張ったからじゃないか。僕の方こそ感謝してもしきれないよ」
 そう言い、ニッコリ笑います。
 するとヤルメキス、涙で顔をクシャクシャにしながら
「……あ、亜人であるこのヤルメキスなのに、差別もしないで接していただけるなんて……ホントに、ホントに、ヤルメキスは幸せでごじゃりまする」
 そう言って、僕に抱きついてしばらく泣いていました。


 この世界では、人種至上主義とか言うものが蔓延っていて、そのため、王都では亜人が迫害されているそうです。
 とはいえ、僕らが住んでいるド田舎の辺境であるガタコンベでは、その差別を行う側の人種がそもそも住んでいませんので、そんなことを実感しようにも出来ないわけですが、ヤルメキスが住んでいたブラコンベには人種の集落がありますので、結構亜人差別があったそうです。

 ヤルメキスは、早くに家族と離ればなれになったらしく、長く1人で生きていたといいますが、それはすごく辛い日々だったんだと思います。

 僕は、ヤルメキスの事も家族同然と思っています。

 そんなヤルメキスをそっと抱きしめると、
 スアもよってきて、一緒にヤルメキスを抱きしめました。

 今日は2人だけの家族だっこですが
 ヤルメキスはとても喜んでくれたらしく、程なくして僕に抱きついたまま寝入ってしまいました。

 その顔は満面の笑みでした。

◇◇

 スアもお寝むになったため、就寝組に加わってもらい、パラナミオと仲良く1つの布団で寝始めました。

 さて、よく見て見ますと、
 宴会組の方では、部屋の隅で酔いつぶれたブリリアンが、お尻を突き上げたすごい格好で寝息を立てていました。
 とりあえず回収して布団に運んだのですが何故かこの姿勢のまま体が硬直していたので、そのまま負担をかけておいたんですが……なんか、ちょっと不気味です。

 そうこうするウチに、2号店のメイド達が続々脱落し始めたため、その都度僕が御姫様抱っこをして布団にピストン輸送していたのですが、そんな中

「あぁ、私も、もうダメですわぁ」
 と、シャルンエッセンスまでバタンと倒れ込んでしまったわけです。

 やれやれと思いながらシャルンエッセンスを御姫様抱っこして布団へ連れて行ったのですが、気のせいかすごく嬉しそうな表情をしているような気がしないでもない……

 で、まぁ、そんなシャルンエッセンスを布団に寝かせて、僕は宴会場へと戻りまして、宴会の輪に戻ります。

 すると、
「あぁ、私も、もうダメですわぁ」
 と、シャルンエッセンスが、またバタンと倒れ込んでいきます。

 あれ? シャルンエッセンス、君さっき布団に運んだよね?
 なんでまた宴会の輪に加わってんの?

 とまぁ、首をかしげながらも、再びシャルンエッセンスを御姫様だっこして布団へ輸送します。

 ……やっぱり、嬉しそうに微笑んでるように見えるんだよなぁ、この顔って
 
 で、まぁ、そんなシャルンエッセンスを再度布団に寝かせて、僕は宴会場へと戻りまして、宴会の輪に戻ります。

 で、しばらくすると
「あぁ、私も、もうダメですわぁ」
 と、シャルンエッセンスが、三度バタンと倒れ込んでいきます……って、おい!?

 ……まさか、シャルンエッセンスってば、僕に御姫様だっこしてほしくて、何度も酔った振りをしてるんじゃ……って、まさかそんな……なんて呟いていたら、なんかシャルンエッセンス、目を閉じてはいるんですが、ダラダラと冷や汗を流しています。

 ……どうやら図星のようです。

 で、まぁ、僕に御姫様抱っこされるのがなんでそんなに嬉しいのか理解出来ませんが、とにかくもう一度シャルンエッセンスを御姫様だっこした僕が寝室へ移動していくと、


 そこには、目を半開きにしたスアが立っていました。


 スアは、僕がシャルンエッセンスを寝かしつけると、その枕元に移動していました。
「どうかしたのかい?」
 と、僕が声をかけると、スアは
「……大丈夫、一瞬よ」
 そう言っていました。

 いまいち、言葉の意味がよくわかりませんでしたが、その後、シャルンエッセンスが再び宴会場に戻ってくることはありませんでした。


◇◇


 さすがに、深夜過ぎあたりで、僕も宴会スペースを失礼して、寝室の方へと移動したのですが、朝起きてみると、イエロ・セーテン・ルアの3人はまだ飲み続けていました。

 ……君たち、ホントに元気だねぇ。

 で、まぁ、そんな3人はおいといて、僕は朝風呂でも浴びようと温泉へ。
 すると、同じ頃に目を覚ましたララコンベの視察団の男性陣が
「僕らもご一緒させてください」
 とのことだったので、一緒に温泉に向かいました。

 そういえば、ララコンベの人達って、いきなりイエロ達に酒を飲まされてたもんだから、まだ温泉をよく見てなかったんだよね、確か。

 そんなわけで、朝風呂です。

 窓の外には、登り始めた朝日に染まっていく渓谷の大パノラマが雄大に広がっています。

 これを見ながらのんびり温泉につかれるというのは、確かに格別です。
「綺麗ですねぇ」
「これはすごい」
 と、ララコンベの皆さんも、感動しきりの様子です。

 とはいえ、この人達と温泉をやっていくわけですし、帰ったらあれこれ相談していかなきゃなぁ、と思っているわけです、はい。

 そんなことを思っていると、男風呂に1人誰か入って来ました。
「こんにちは」
 と言って僕の側にやって来た人は、若い男の人……多分僕よりも若いなって感じの人だったのですが、話をしてみると、このリバティの領主さんなんだとか。

 ……かたや、若くして領主
 ……かたや、しがないコンビニの店長

 いやぁ、人生いろいろですね。

 んでまぁ、この領主さんから相談されたのが
「スアビールを卸売りしてもらえないでしょうか?」
 とのこと。

 なんでも、スアビールがこのリバティでも好評で、是非入手してほしいとの声が多いんだとか。しかも、この温泉宿のエルフの女将もスアビールを卸売りしてほしいと言ってるそうで……

 この高評価はホント嬉しいです。

 出来ることなら、この申し出は2つ返事でお受けするところなんですが
「申し訳ありません。スアビールは生産数が少ないものでして、こちらにまで卸売り出来るほど数がないんですよ」
 と言うことで、お断りさせてもらいました。

 いえね
 今現在スアビールは増産体勢を確立している真っ最中ではあるんですけど
 ララコンベが温泉を開始した際に、その宿で出せるようにしようと思っていたもんですから、今回はそっちを優先させてもらった次第です。

 でもって、そういった事情をきちんと説明して、改めてお詫びしたところ、
「あ、いえいえ、こちらこそ、無理を言ってしまい申しわけありませんでした」
 と、すごく丁寧に謝罪して貰ったわけです。

 この人、人種の領主さんだけど、いい人なんだろうなっていうか、いい人臭がここまでダダ漏れてる人も珍しいな、と思った訳です、はい。

 んで、ララコンベのために、この話をお断りしている様子を、横で聞いていたララコンベの皆様。
「タクラさん……俺達のために」
「ほんと、サーセン」
「必ずやご期待に応えます」
 と、なんかみんなして男泣きしていたわけで……

 い、いや、そういうのはいいですからって
 戻ったらみんなで頑張りましょうでいいじゃないですか。

 んでもって、入浴を済ませて部屋に戻ると、ちょうど朝ご飯の準備も整っていたわけで。

 就寝組も、ほぼ起きだしていたのですが、朝、超弱いスアは、相変わらずぬぼ~っとしていたのですが、僕を見つけると、
「……だっこ」
 と、幼児帰りした声で甘えてきます。

 そういえば、スア、この温泉宿では超絶対人恐怖症が発症していなかったような……
 っていうか、懐妊して以降、結構人混みも平気になってきているような気がしないでもない……

 スアも、そういったところを頑張っているのかもしれません。

 僕の奥さんは、伝説級の魔砲使いらしいですけど
 僕にとっては、可愛い頑張り屋さんの素敵な奥さんです。

 あげませんからね?

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