リバティよいとこ、一度はおいで~ その3
大部屋に戻ると、そこは……大宴会中だった。
温泉に行く前に、すでに持ち込んだスアビールで…あ、ちゃんと事前に許可もらってますからね? で、すっかり出来上がっていたイエロ・セーテン・ルアの酒飲み娘筆頭格神3と、その3人にしこたま飲まされてすっかり出来上がっていたララコンベ視察団の皆様だったわけですけど、役場の蟻人ペレペさんが腹踊りしてるわ、視察の亜人さんはすでに半分夜酔い潰れて寝ているわ、で、まぁ燦々たる有様だったわけで、
「拙者達は普通に飲んだだけでござる」
「いつも通りの宴会キ」
「なんだ、情けない奴らだなぁ」
と、まぁ、あっけらかんと言い放って飲み続けている3人なわけです、はい。
自分達の酒量が以上だということにまったく気がつかないようです、はい。
まぁ、とはいえ、
すでに料理も並んでいるわけで、温泉から戻ったコンビニおもてなしグループと、かろうじて酒地獄を生き延びているララコンベの3人を交えて、席に着くと、僕は宿の酒を片手に立ち上がり
「え~、皆様、いつもご苦労様です」
そう言いながら皆を見回していきまして
「ララコンベの方々も……すいません、もうこの状態になってしまっておりますので、視察は明日にして、しっかり飲んで食べてください。
当然、コンビニおもてなしの皆様も、本日は無礼講でまいりましょう。そもそも今回の慰安旅行はですね……」
とまぁ、店長らしく少し格好いいことでもお話してですね、スアやパラナミオに格好いいところを見せようとしたんですけど、
「いよっしゃ、乾杯でござる!」
と、いきなり立ち上がったイエロが、豪快に乾杯の号令……って、おい!?
で、まぁ、
会場内全員、その勢いにのっかって、
「「「乾杯!」」」
の大号令。
……はい
それを押しとどめてまで話を続けることが出来る人間じゃございませんので、僕は、話をぶった切られながらも、笑顔でコップを何度か上下させながら、着席しましたとも。
「……お疲れ、ね」
スアが、そう言って励ましてくれたのが、まぁ、せめてもの救いだったわけです、はい。
そんな感じで始まった宴会ですが
料理がすごく美味しいんですよ、これが。
途中、お酒の追加を持って来てくれた、エルフの女将さんに
「ここの料理、すごく美味しいですね」
と、話を振ってみたところ、
「はい、私の主人が作っているのですが、主人は長いことこの大陸のあちこちで料理修業をしておりましたものですから……」
そう言って、すごく上品に笑いました。
……スアさん、何度も言うけど見惚れていませんから、脇腹をつまむのはやめてください……
とまぁ、そんな話を聞きながら、料理に舌鼓をうちますが、やはり美味しい料理は必須ですよねぇ。
これだけ美味しいと、そりゃこれを目当ての客も来るでしょう。
実際、僕らがこの大部屋にしか泊まれないほど一般客室は満杯というわけですからね。
あの絶景の温泉といい、
この美味しい料理といい
確かに、ララコンベがこれから経営使用としている温泉宿の参考にはなりますが、これを目指せるかというと、ちょっと首をかしげざるを得ません。
まず温泉です。
このリバティの温泉は、崖の中腹という地の利を最大限に活かしています。
窓の外、崖下の光景を一望出来る一大パノラマを眺めながら入浴できるというのは、非常にいいものです。
湯からあがり、待ち合わせに使用出来るようソファが並べられている大広間には、常に数人の亜人が控えていて、客の要望があればサービスで簡易マッサージをやってくれます。
これは、10分までは無料で、それを越えると時間に応じて有料になるシステムになっており、僕ら温泉からあがった際には、このサービスを利用している女性客が結構いました。
また、この大広間には軽食と飲み物を提供するコーナーもあったのですが、飲み物がアルコールか水しかありませんでした。
次に料理です。
大広間にある軽食は、利用していませんが、メニューを見た感じ、風呂上がりに酒を飲みながらちょっと一杯といった感じになっているようです。
そして、この夕食ですが、これはもう完璧といいますか、僕が元いた世界でいうところの一流レストランの宴会料理と言っても言いすぎではないでしょう。
肉料理、野菜料理、魚料理と、どれも新鮮な材料をふんだんにしようし、非常に美味しく仕上げられています。
酒も、なかなかいい味の物がそろっていて、それがまた料理にあいます。
接客についてですが
これも完璧です。
件のエルフの女将さんが、しっかり指導しているのでしょう。
館内は掃除が行き届いており、非常に綺麗で、ところどころに生花が花瓶に入れて飾られており、良い匂いを周囲にまき散らしています。
また、この宴会場にしても、
次の料理が並ぶタイミングも申し分なく、また酒や料理を追加しても、あまり待つことなく届けられます。
強いて欠点をあげるとするなら
子供向けではない、といったくらいでしょうか。
飲み物も、子供が飲めるとしたら水しかない状態で、料理も、基本は大人向けの物が中心です。
ただ、これもエルフの女将から聞いたのですが
「当温泉は、基本的に冒険者や、商談に訪れた商会や行商人の方が多く宿泊されますので、それに適した作りとなっています」
とのことだったので、子供向けってのは、あんま想定してないのかもなぁ
……だからスアさん、会話を思い出しただけですから、足の毛をプチプチ抜くのはやめてくださいってば……
と、まぁ、ざっと見ただけで、こんだけすごいわけです、ここの温泉は。
あとで、この感想は紙にまとめてララコンベの視察団の皆さんにも渡すつもりですが、今、料理を食べている3人の方々も、その料理の味に目を丸くしながら、互いに話合いをしています。
さて、これをララコンベにあてはめて考えてみますとですね……
まず温泉ですが、温泉宿の建設を予定している場所はララコンベの街のど真ん中。
もともと街にあった一番大きな宿を流用して、少しでもコストを安くあげようとしているのですが、崖の合間の峡谷内部に位置しているララコンベなわけです、絶景を望むべくもありません。
料理にしてもしかりです。
このリバティで出されている料理は、各地で修行したエルフの旦那さんあってなわけです。
すでに食堂経営者が全員街を離れているララコンベで、これを再現するなど、まぁ、そりゃ無理というものです……
まぁ、それらに関しては追々作戦を考えていくとして、まぁ視察っぽいことはここまでにしましょう。
「酒が切れたでござる」
「スアビール欲しいキ」
「タクラぁ、ちょっと取ってきてくれぇ」
って、なんか神3の3人が無茶ぶりしてきてますが、
あ、でも、イエロ・セーテン・ルアの、実は結構酒にはうるさい女達が言うように、酒の味は確実にスアビールとタクラ酒が勝っています。
これは、身内贔屓を差し引いても間違いありません。
これに、子供達ようにパラナミオサイダーもあるコンビニおもてなしの飲料部門は、ある意味無敵といえるかもしれません。
とはいえ、追加と言われても、
って、思ってたら
いつのまにか僕の目の前に、ハニワ馬のヴィヴィランテスの姿が……へ?
「……私が呼んだ、の」
そういうスアの目の前には、いつの間にか転移のドアが出現してまして、ヴィヴィランテスはそこから出願したわけです。
んで、その背に、スアビールとタクラ酒、そしてパラナミオサイダーも少々持って来てくれたヴィヴィランテスですが
「な、なにも、あなたのために持って来たんじゃないんだからね、スア様のためなんだからね」
と、オネエモード全開で僕に言うんですが、別にそういうツンデレはいいからさぁ……
まぁ、憎まれ口をいいながらも、ヴィヴィランテスは、地下の冷蔵室に保存してあった、よく冷えた物をわざわざ持って来てくれたようで、ビールも酒もジュースもキンキンに冷えています。
んで、早速スアビールをグイッといったイエロ・セーテン・ルア
「か~、最高でござるな、この喉越し!」
「五臓六腑を駆け巡るキ」
「生きてて良かったって心から思う瞬間だぁ」
とまぁ、ぷは~っといきながら言い笑顔です。
このまま宣伝用ポスターにしたら、売り上げアップ間違いなしでしょう。
で、ですね
3人がそんないい笑顔でスアビールを飲んでいますと
「あの、失礼ながら、そのスアビールというのは、どういうお酒なのですか?」
と、エルフの女将が興味津々な様子で歩み寄って来ました。
スア、絶対に見とれないからつまみにこないで、と、高速で僕ににじり寄ってきていたスアを足止めしてから、僕は
「これ、僕の店で製造販売している地ビール……っていうか、まぁお酒です」
そう言って、届いたばかりの木箱の中から1本、エルフの女将さんに手渡します。
んで、それを口にしたエルフの女将さん
「ま、まぁ……なんということでしょう……」
そういって目を丸くしたかと思うと、
「すいません、ちょっと失礼いたします」
そう言いながら、飲みかけのスアビール片手にそそくさと下がって言ってしまいました。
とはいえ
この旅館の女将もびっくりの味ってのは、これで証明されたわけだ。
僕は、なんか嬉しく思いながらスアへ視線を向けます。
すると、押しとどめられたため、そこでストップしてはいるものの、やや不満顔のスアがそこに。
っていうか、
エルフの女将のことになると、なんだかやけに絡んでくるなぁ、と思っていたら
……あ、ひょっとして、同じエルフだから過剰に意識しちゃってるのかな、と思ったりしたわけで。
僕は、スアを抱き寄せると
「あのエルフの女将よりも、スアの方がずっと可愛いよ」
そう言って膝の上にのせていきます。
そんな僕の行動に、スアは
「……は、恥ずかしい、よ」
そう言いながら顔を真っ赤にしてますけど、嬉しいのは間違いないらしく、逃げようとはしません。
僕はそんなスアを後ろから抱きしめながら
「スア、大好きだよ」
そう言いました。
するとスアは、さらに真っ赤になりながら、照れ隠しとばかりに僕の席においてあるスアビールへ手を伸ばしていきます。
が
「ダメでしょ。出産するまで禁酒でしょ?」
そう言って、スアビールを取り上げる僕。
スア、そんな僕に
「……ケチ」
と言いながら、プゥ、と頬を膨らませます。
スア、それ、あまりにも可愛いから、僕にとってはご褒美なんだけど
これを言って、この顔を見れなくなるのは嫌なので、あえていいませんけどね。