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リバティよいとこ、一度はおいで~ その2

 ララコンベで温泉宿を開業するにあたり、この世界での温泉宿を視察しに来た僕達ですが、まぁコンビニおもてなし組は、店休日が重なったこともあって、これに便乗しての店員慰安旅行を行っているわけです。

 普通に馬車で向かったら、おそらく1ヶ月以上かかると思われる先にある、ここ辺境小都市リバティですが、そこはスアがお得意の転移魔法でドアを作ってくれたおかげで、わずか1秒なわけです。

 スアは、僕のあれやこれやを「カガク! すごい!」といってしょっちゅう目を輝かせては、時に本まで執筆しているのですが、僕からしてみれば、この方がよっぽどすごいと思うんですよね、スアえもん。

 さて
 通された部屋は大部屋です。
 普段は宴会場として使用してる部屋の1つらしく、ここで寝泊まりまでしてくれるのならとの条件で宿泊させてもらっています。
 間違いなく酒盛りで夜明かしすると思われる酒飲み娘筆頭格のイエロ・セーテン・ルアの3人には、窓際にある障子の向こう側、板間のソファスペースに陣取ってもらったのですが
「さぁ、まずは一杯でござる」
「景色もいいキ」
「つまみもあるぜ」
 と、早くも机の上に、スアビールやらタクラ酒やら、つまみやら……って、おいおい、それ、店で売ってるやつじゃないか、ちゃんと買ってきてるよね?
 って、3人ともなんでそこでそっぽを向いたか、僕にわかるように説明してくれるかな?

 
 とまぁ、最近はおつまみメニューや、お菓子メニューもあれこれ模索しています。

 一番大きかったのは、おもてなし3号店の近くの林で、野生で群生していた枝豆もどきを見つけたことですね。
 僕が元いた世界の物と違って、皮が真っ黒なんですが中身は間違いなく枝豆でした。
 市場のテイルスに聞いてみたんだけど、
「え? これを食べるんですか? 聞いたことないですねぇ……」
 とのことらしく、こちらではこれを食べるという習慣そのものがなかったようです。
 念のためにスアに毒性検査もしてもらいましたけど、
「大丈夫、栄養ばっちり、よ」
 とのことだったので、安心して店に出しています。

 んで、この枝豆もどきですが、野生で群生していただけあって、3号店のエレに頼んで、そいつらが群生しているあたりを畑っぽく整備してもらったら、


 すさまじい収穫を記録しております。
 具体的に言うと、全部狩っても、翌日同じくらいまた生えてます……すごい生命力です。

 というわけで、この枝豆もどき、3号店脇の畑だけで、コンビニおもてなし全店での消費量を補ってもまだまだ余裕で収穫出来ているため、最近は市場に卸売りしていたりします。

 で、
 ここで僕はうっかりしていたのですが……

 この枝豆もどき、
 この世界では誰も見向きもしていなかったものですから、名前がなかったんですよね?

 で、何が言いたいかと言いますと……

「いやぁ、このタクラ豆の茹でたやつは酒の肴に最高でござる」
「タクラ豆の塩加減最高キ」
「いやぁ、タクラちゃん、いい仕事したねぇ」

 ……なんか、いつの間にか、この枝豆もどき、「タクラ豆」って名前になって売られてたんですよね。

 パラナミオなんかは、
「パパの名前がついてます! すごいです!」
 って言って喜んでくれているんですけど……パラナミオ、わかってるかい、これ、君の名前でもあるんだよ
 
 パラナミオ・タクラさん

 そう言うと、パラナミオ
「えへへ、そうでした……えへへ」
 と、嬉しそうに笑いながら僕に抱きついてきます。
 すると、今度はスアが
「……スア・タクラ、も」
 そう言いながら、僕とパラナミオをその小さな体でぴとっと抱きしめます。

「おぉ! さすが主殿一家! 皆仲良しですな! ならば拙者も!」
「ダーリン、アタシも混ぜてキ」
「あはは、こうなりゃアタシも混ざるぜぇ」
 とまぁ、なんで家族水入らずのところに、酒飲み娘筆頭格3人にまで抱きつかれなきゃならないんだって思っていたら。
「せ、せ、せ、僭越ながらわたくしもぜひとも~」とヤルメキス
「「「お世話になってますから~」」」っと、猿人4人娘
「皆様ずるいですわ! 私だって、お兄さ……タクラ様に抱きつきたいです~」とシャルンエッセンス
 とまぁ、部屋のみんなが続々と抱っこの輪に加わってきてですね

 あ~、もう好きにしなさい! になった僕ですが、当然、スアの母体はしっかりガードしました、はい。


 で、まぁ、そんな枝豆もどきといいますか、タクラ豆を始め、

 腸詰めのウインナー
 干した米で揚げせんべい
 一口サイズの唐揚げの味バリエーションなどなど

 あれこれ工夫を凝らして品揃えを増やしています。
 そのおかげもあってか、はたまた夏の暑さのおかげもあってか、店売りのスアビールとそのおつまみ系食品及び、ビアガーデンの収益は右肩上がりです。


 まぁ、それもあっての慰安旅行なわけですし、みんなにはのんびりしてもらおうと思っている訳です。


 とはいえ、のんびりムードのコンビニおもてなし組と違って、温泉視察のララコンベ組は明らかにムードが違います。

 何しろ、この温泉宿を参考にして、街に戻ってこれを参考にして宿を開かなきゃならないわけです。

 皆、手に手帳みたいな物を広げて、頭を付き合わせては
「この敷物は……」
「この座る物は……」
「この建物は……」
 とまぁ、ブツブツ言い合いながらメモを取りまくっているわけです。

 まぁ、気持ちはわからないでもないけど、もう少し余裕をもって見て回ってもいいんじゃないかな。


 と

 思っていた時期もあったのですが、

「貴殿ら、そのように眉間にシワを寄せていてはよい考えも出ませんぞ」
「まずは酒でリラックスキ」
「とりあえず飲んどけってぇ」
 と、頭を付き合わせているところに、酒飲み娘筆頭格3人が殴り込んだ結果。
 
 今、ララコンベの皆さんは、イエロ達と肩を組んで歌い踊って、かつ、飲んでます。

 まぁ、度が過ぎたらあれですけど、
 温泉そのものを経験したことがない人達ばかりだし、まぁ、多少はこういうのもいいんじゃないかと思ったわけです。

「さぁ、もっと飲むでござる! まだまだ夜はこれからでござる!」
 ……イエロ、「多少」ね、「ほどほど」ね、わかってる? ねぇ……


 と、まぁ、いきなりララコンベの皆さんが酔っ払ってしまったので、温泉に行くわけにもいかないな、ってんで、とりあえず、晩ご飯までの時間は自由行動にしました。

 僕とスア、パラナミオは、ご飯前に温泉に入ることにしたのですが
「あ、では私も……」
 と、シャルンエッセンスや、ヤルメキス、猿人4人娘達も一緒にやってきました。

 んで、その移動中のシャルンエッセンスなんですが
「あ、あの……私、殿方と一緒にお風呂に入った経験がありませんので……その……」
 なんて言いながら、顔を真っ赤にしているんだけど
「お風呂は男女別れてるから、そんな心配しなくても大丈夫だよ」
 と、僕が告げると、
「え……えぇ!?」
 と、なんかすごい勢いでびっくりしました。

 ……どうも、シャルンエッセンス、
 温泉は「混浴しかない」と思い込んでいたらしく、僕と一緒に温泉には入らなければならないってのに、すごく困惑してたそうで……

「そんなに心配しなくても、例え混浴だったとしても、僕は時間をずらすから、そんな心配しなくても大丈夫だよ」
 と、笑顔で伝えたところ
「あ、いえ……その……心配ではなく、むしろ、よろしくお願いしますだったわけでごにょごにょ……」
 シャルンエッセンス、なんか顔を真っ赤にしながらうつむいて何かボソボソ言っていたのですがよく聞こえ無かったので、まぁ、いいか、と。


 で、大浴場に移動し
「じゃ、後で」
 と、スアとパラナミオに手を振って別れた僕は男湯へと移動したのですが……

 ここである事実に気がつきました。

 あれ? 男って、僕だけ?

 と。

 そういえば、ララコンベの視察団の中には3人男性がいますけど、コンビニおもてなしの社員って、よく考えたら全員女性だよな、と、今更のように思い当たったわけでして……
 とはいえ、元の世界で営業してた時も、バイトは女性ばっかだったし、よく考えたら、まぁこんなもんなのかな、と思ったりしたわけです。

 脱衣所で服を脱いで温泉へ移動すると……ほう、これはすごい。
 温泉の向こうは崖になっているらしく、男湯全体が大きな露天風呂になっています。

 ただ、開放されているのではなく、景色が見えている方向には魔法壁が張られているらしく、こちらから外は見えるけど、向こうからこちらの中は見えないそうです。
 入り口の説明書きにそう書いてあったんだけど、これはララコンベの温泉宿の参考になるな、と思った訳です。

 温泉には、犬人っぽい人が1人、先に入浴中だったので、うるさくしないように僕はゆっくり内湯をしてから体を洗って……

『ママ! 景色がすごいです!』
『おほほほほ、こ、こ、こ、これは絶景でおじゃりまするなぁ!』
『まぁ、なんて素敵な展望なんでしょう!』
……こら、女性陣
 こっちにまで声聞こえてるってば。

 なんか、元気満々な女性陣が、女風呂でワイワイしているせいで、なんか犬人さんに申し訳なく思った僕は、
「連れが騒がしくてすいません」
 と言いながら頭を下げたんだけど
「お子さんです? いいじゃないですか、元気が一番ですよ」
 そう言ってニカッと笑ってくれました。

 うん、この人、いい人だ。

 で、まぁ、のんびり温泉に浸かってボチボチ会話をかわしていくと。

「あぁ、ガタコンベから!? 俺、こないだそこの祭りに行ってましたよ」
「あ、そうなんですか、そりゃどうも」
 なんて会話になったわけです。

 何でもこの人、グーグスさんと言って、コボルト族なんだそうだ。
 リバティの衛兵長さんだそうで、って、うわ、偉い人じゃないですか!
「いやいや、長くやってるだけっすよ」
 と、言って、再度ニカッと笑うグーグスさん。

 その後、もう少しお話ししたかったんだけど
「グーグス、あがるでありますよ!」
 と、女風呂から声がかかり
「連れがあがるみたいなんで、お先です」
 そう言いながら上がっていきました。

 なんか、いい人にあえて、幸先いいなと思いつつ、しばし温泉を満喫したわけです。


 温泉から上がり、スアに話を聞いてみると、
「小柄な人と、女の子がいた、よ」
 とのことで
「グーポップちゃんとは仲良しになったのです」
 そう言って、パラナミオが嬉しそうに言っていました。
 どうやら、グーグスさんとこの娘さんと早速仲良くなったようです。

 どうせなら夕食も一緒にと思ったりするんだけど、夫婦水入らずでこられてたら誘うのもあれだよな、と思ったりしながら、僕らは部屋へと戻っていきました。

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