リバティよいとこ、一度はおいで~ その1
と、いうわけで、今僕はララコンベにいます。
崖の谷間
その前後を木の柵で護衛してあるこの街のですね、正面入り口に当たる南側の出入り口の上に、でっかい看板を取り付けている最中です。
『ララコンベ温泉』
と、いうのがですね
スアに地中探査して貰った結果見つかったお湯っていうのが、地下水脈が地熱で熱せられた結果で出来上がってる物らしく、地中にちょっとした地底湖くらい溜まっているらしい。
んで、そこに結構な量の地下水脈が流れ込んでいるらしいので、これ、存分に使えるな、と。
んで、スアにこの温泉の成分を調べてもらったら、滋養強壮に良さげな成分がすこ~しは含まれているみたいなんで、まぁ、湯量は豊富なんだし、これを使って温泉宿でもやってみたらどうかと思ったわけです。
温泉宿に使用するのは、ララコンベで一番大きな宿屋です……まぁ、すでに経営者は逃げてて不在だったわけですが……
ただ、あれなんですよねぇ
この世界の宿って、大きなお風呂ってのがほぼないわけです。
旅の冒険者や行商人相手の宿って、儲け主義のとこが多いんで、風呂は井戸の水を汲んで洗ってください的な場所が多くてですね、このララコンベ随一の宿も、大風呂はなかったわけですよ。
当然、近隣の街や村にも、こういった大きなお風呂はない。
僕は、知識として知っていますけど、これをララコンベの人達に一生懸命伝えてはいるんですが、みんなどうにもイメージ出来ないらしくて
「うたせ湯?」
「さうな?」
「ろてんぶろ?」
と、まぁ、とにかく何を話しても「それの何が楽しいんだ?」状態なわけです、はい……
「この世界に温泉宿があれば、実際に経験してもらってわかってもらえるんだけどなぁ」
僕は思わずそう言いながら頭をかいたのですが
「タクラさん、心当たりがありますよ」
と、ララコンベの商店街の犬人のお爺さんが言います。
え? マジですか?
「確かな、辺境小都市のリバティっちゅうとこに温泉宿があったはずじゃ。
なんでも、結構賑わっとると聞いたことがあるぞい」
と、犬人のお爺さんがいいました。
はて……リバティ?
どっかで聞いた気がするんだけど……
僕が必死に思い出そうとしながら腕組みしていると
そんな僕の袖をスアが引っ張ります。
「……ここ、リバティの温泉」
って
スアが指で指し示している先には、
魔法陣が展開していて、その魔法陣の向こうには、なんか宿の入り口らしき物が見えてます。
「……転移魔法で、空間をつなげたの?」
「……うん……いけなかった?」
「……いや、とても助かったよ」
僕は、そう言いながらスアの頭をなでなでします。
スア、僕に頭を撫でられながら、
「えへへ」
と、すっごく嬉しそうにすり寄ってきます。
うん、ホント、何この可愛い生き物状態なわけです、はい。
◇◇
と、言うわけで、温泉宿です。
ララコンベの関係者とともに、さっそく視察を慣行することになりました。
で、
メンバーですが、
空間をつなげる役として、スアは必須。
温泉の仕組みを知っている僕も必須。
この2人が行くとなると、当然パラナミオもセット。
「となるとですな、主殿」
「アタシらもダーリンと一緒キ」
「行くしかないよなぁ」
イエロ・セーテン・ルアはビアガーデンの世話をしてもらわないといけないからなぁ、あぁ、残念だ、ホント残念だ。
そもそも、いつのまにここにやって来たんだっていう3人のブーイングを無視しながら、僕は、ララコンベの皆と打ち合わせを継続。
んで、
ララコンベの組合のペレペ
あと、残っている若い衆を4,5人。
女性がいたので、女性にも参加してもらった。
宿をするとなると仲居も必要だしね。
というわけで、僕ら一家3人と、ララコンベの6人
「それとですな」
「あたし達キ」
「酒と食い物の吟味を任せろ!」
いや、君たちはいいから、マジで……ってか、何、すごくやる気だしてるのかねぇ、まったくもう。
とりあえず僕は一度ガタコンベの街へ戻ると、店の店長補佐、ブリリアンと打ち合わせ。
今日の弁当の準備は出来てるし、ちょうど明日は店休日だし……
あ、店休日か
と、言うわけで、
24時間営業を行っている3号店をのぞく、本店と2号店の皆をですね、急遽慰安旅行ってことにして、全員温泉につれていくことにしわけです、はい。
表向きは、温泉視察に随行ってことになってますので、行って帰った後にはレポートを出して貰いますけど、まぁ、基本的にはのんびりしてもらおうと思っている訳です。
ちなみに、コンビニおもてなし関係者の旅行代は当然、コンビニおもてなしで持ちます。
結果的に、コンビニおもてなし組が約20人にふくれあがりました。
んで、今日は申し訳ないけどビアガーデンを閉鎖し、店の営業が済み次第、みんなで温泉に行くことにしました。
「あ、あの、タクラ様、わ、わ、私たちまでご一緒させていただいて、本当によろしいのですか?」
と、シャルンエッセンスがすごく恐縮してるんだけど
「いつも頑張ってくれてるじゃないか、温泉でしっかり疲れを癒やしてよ」
そう言って、肩をポンと叩いてあげたらですね
「わ、わ、わぁりましたわ、このシャルンエッセンス。全身全霊をもって疲れをいたしますわ!」
って
あ、あのさ……疲れは全身全霊で癒やすもんじゃないから……
で、シャルンエッセンスがこの調子なわけですから
「お、お、お、温泉だなんて、お、お、お、恐れ多すぎるでおじゃりまするううううううう」
と、蛙人のヤルメキスが、後方でんぐり返りを11回した後に土下座したんですけど、
「ヤルメキスも、いつも頑張ってくれてるじゃないか。来てくれないと困るよ」
そう僕が言うと、
「あ、あの、その、いや、でも、あ、あ、あ、あひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
って、なんか真っ赤になって倒れ……って、おいおい!?
のぼせ上がったヤルメキスを背負ってですね
ララコンベ温泉視察団ならびに、コンビニおもてなし慰安旅行ご一同様
いざ、辺境小都市リバティの温泉宿へ!
なわけです、はい。
◇◇
「いらっしゃいませ」
と、出迎えて暮れたのは、エルフの上品なお姉さん……僕の世界で言うところの和服っぽい出で立ちで、艶っぽい笑顔で出迎えてくれます。
……スアさん、別に見惚れていませんから、太ももをつねるのはやめてください。
んで、予約をしていないことと、人数を伝えると
「その人数をお泊めできるだけの部屋の空きが……」
そう言いながら、エルフの女将さん、なんかすごく困り顔。
ありゃ……これは予想外だった。
まさか、予約しないと泊まれないほど賑わっているんだ、ここ……
ただ、ララコンベのみんなにしてみれば
「おぉ……温泉ってのはこんなに人を呼べるんだ」
「なんかすごいんだな」
と、今後に希望の光が見える出来事なわけですけど、このまま泊まれなかったら意味がないわけです。
んで、
この後、喧々囂々交渉の結果
「宴会に使用している大広間で食事と就寝をしていただけるのであれば……」
との条件で、どうにか宿泊許可をもらいましたとも!
おもわずガッツポーズする僕に、後方の皆から万雷の拍手が。
「さすが主殿」
「ダーリン愛してるキ」
「さぁ、宴会だ!」
って、お前らもう飲んでるじゃねぇか! しかもしれっとスアビールを木箱で持ち込みしてんじゃねぇ!
「いえいえ、当旅館は持ち込みを許可しておりますので、ご自由にどおぞ」
と、エルフの女将さん、艶っぽくにっこり笑ってくれました。
いや、ホント、いい接客ですねぇ。
……だからスアさん、別に見惚れていませんから、足の小指を踏むのは辞めてください。それ地味に痛いから……
そんなわけで、通された大広間。
なんか、一面畳っぽい何かが敷き詰められてて、ちょっと僕もテンションが上がってます。
パラナミオが早速横になって、
「パパ、ママ、なんか楽しいです!」
と言いながら、ゴロゴロ転がっています。
気がつくと、ヤルメキスも一緒に転がってます。はは、なんか微笑ましい。
んで、その後方からイエロ・セーテン・ルアまで転がって……
って、おいおい、お前らは自粛しろって。