管理者
長く続いた戦いが終わったらしい。
今日の昼頃に戻ってきたプラタからそう報告を受けた。どうやら勝ったのはソシオで、負けたのは死の支配者側だとか。それも圧倒的な勝利らしい。
死の支配者当人は居なかったらしいが、それでも凄いものだ。なんてったってソシオは一人だったのだから。
ボクで出来るか? と一瞬考えたが、直ぐに無理だなと結論が出た。まぁ、当然だよな。ボクではあの大軍ですらキツイ相手だろうし。
これはより一層鍛えないといけないな。上がどんどん成長していく。多少は差が縮まったのか、それとも逆に開いているのか。それは分からないが、それを思うと不安になってしまう。なので、それは考えない事にする。ボクは自分の出来ることを精一杯やるだけだ。
さて、そうなると、死の支配者とソシオの対立関係も変わってくるのだろうか? 元々の関係自体ろくに知らないが、今回の事で大分勢いが変わってくると思う。
用心しなければならないが、ボクに出来ることは少ない。
今は午後の魔法訓練の最中だが、雑念が入って若干上手くいかない。魔物の魔力変換について調べた結果を反映させようと思っているが、あれはもう少し深く調べた方がいいだろう。現段階では魔法道具に組み込めそうだなと思うぐらい。それでもかなり凄い効果が期待出来そうだが。
そして更に分かった事は、ボクの魔法特性と相性がいいかもしれないといったところか。やはりもっと深く研究しなければな。ただ、研究するにも必要なものというのがある。機材については一部は創造したが、仕組みが朧気なものについては、当然ながら再現出来ていない。
ああそういえば、そろそろ転移装置の点検もしないとな。最近は使う機会がめっきり減ったので点検する回数もかなり減っている。
あれもこれもとやる事や気にする事が多いな。それでも、最優先事項は変わらず己の研鑽ではあるが。
「ふぅ。少し休憩しよう」
少し考えれば、次から次へと雑念で溢れてしまう。やはりこれはボクの悪い癖だろう。直さなければ直さなければと思っているが、効果は出ていない。きっと死ぬまでこのままなのだろう。もういいや。
プラタが戻ってきたので、今日は第一訓練部屋にはボクの他にプラタが居る。最近はタシもフェン達の手伝いで外に出る事が増えているので、ここ数日は一人だった。なので、数日だけとはいえなんだか久しぶりに感じて少し緊張してしまう。必要ないのに。
先程からプラタは、何を言うでもなく少し離れたところからジッとこちらを見ている。元々多弁ではないが、ちょこちょこ修練には参加していたのだけれども、何かあったのだろうか? いや、別に見学は珍しくはないのだけれども。
まあいいか。今はそれよりも修練の方に集中しなければ。とりあえず深呼吸でもしてみよう。
「すぅー、はぁー。すぅー、はぁー」
そのまま何度か深呼吸を繰り返してみた後、少しだけすっきりしたような気がしたので、修練を再開する。
魔力特性が大分習熟してきたので、一度階梯が上の魔法を試してみる。それと魔力特性も組み合わせての消耗具合を確かめてみるか。魔力量も結構増えたしな。
そう思い、まずは周囲に結界を何重にも張った後、火系統の高位魔法である蒼炎を発現してみる。その上の白炎まで使用出来るが、あれは維持がかなりつらいので、限界の調査とかでなければ気軽に使用出来ない。もしかしたら兄さんに強化された今のボクなら少しはいけるかもしれないが。
とりあえず蒼炎に魔力吸収の特性を加えた後、修練を始める前に用意していた一番硬い的を目掛けて放つ。今まであれば的が多少焦げるぐらいの火力だったが、今回はそこに魔力吸収と成長した自分の能力が加わる。予想では、的が燃えて焦げ落ちるぐらいはすると思うがどうだろうか。
緊張しつつ見守ると、的にぶつかった蒼炎は的を一瞬で炭と化して通り過ぎていく。
「は?」
その威力に驚いて、間抜けな声が漏れてしまった。
しかも的を消し炭にした蒼炎はそこで止まることなく先へと進み、そのまま結界に衝突する。そして結界が数枚割れたところで止まり、結界に張り付くように蒼い火を拡げて、最後に更に結界を一枚壊して消滅した。
蒼い炎が結界に沿って拡散したことで結界内の温度が一気に上昇したが、それぐらいは問題ないだろう。それにしても威力がかなり上がっている。用心して多めに結界を張っておいてよかったよ。
あれは魔力吸収もだが、能力の向上が最も影響していると思われた。兄さんに掛かれば、この程度朝飯前なのだろう。
少し時間を置いて落ち着いたボクは、再度先程の光景を思い出して検討していく。
蒼炎の威力上昇もだが、魔力吸収の方も侮れない。あれのおかげで的の結界だけではなく、防御系の魔法全てが吸収されてしまった。おかげであれはただの木製の的と化してしまっていた。
それにしても、そんな効果が魔力吸収にはあっただろうか? これではボクは魔法道具の天敵にもなり得るな。
改めて振り返ってみると、魔力吸収とはその名の通りに魔力を吸収する特性だ。
その特性が機能する条件としては、ボクの体内を巡る魔力を外に出した場合に自動で付加されているらしい。
最初は外に出した瞬間に周囲の魔力を吸収してしまうので、その制御に苦労したものだ。
しかし、今ではある程度は任意に特性を開放する瞬間を設定出来るようになった。まだ覚束ないながらも遠隔操作も出来るようになったので、実戦でもギリギリ運用出来そうな気がしている。
まぁ、それはそれとして。とにかく、魔力吸収は魔力を吸収するというもので、主な対象は周囲の魔力・魔法を構築している魔力・他人の内包魔力の三つ。なので、魔法道具には残念ながら基本的に効果はない。基本的にというのは、魔力を使用している場合は別という事だ。
もっとも、その場合は使用している魔力を吸収するだけなので、例えば結界の魔法を発現している魔法道具が在ったとする。その場合、結界から魔力を吸収して破壊する事は可能だし、魔法道具から結界発現用に蓄えている魔力を吸収する事も可能だ。魔力が外に出ていない場合は効率がかなり悪くなるが。
それでも、魔法道具に組み込まれている結界を発現する魔法に関しては干渉出来なかった。それは当然だと思っていたし、考えもしなかったが。
まぁ、魔法道具に組み込まれている魔法の破壊であれば、ボクは直接でなら出来るのだが。組み換えが出来る時点で、それは当然ではあるか。
その魔法への干渉は、今までは魔力特性の実験を行っても起こらなかった。組み込まれている魔法に攻撃という発想は無くとも、それが実際に起これば気づきはする。
つまり、今までは出来なかったのだが、それが何故か今回は起きた。しかも破壊ではなく、魔法道具に組み込まれている魔法の吸収。しかも直接。ボクは分解は出来るが、吸収は出来ない。というか、魔法の吸収ってなんだ?
そもそも魔法とは、一言でいえば理だ。もしくは理論。つまりは紙に書かれた何某かの公式のようなもの。それを吸収・・・意味が分からない。
その動力である魔力の吸収は解るのだが、その大本は組み込む際に魔力を使用するが、そのモノ自体は魔力をほとんど帯びていない。仮にその微かな魔力を吸収したとしても、既に刻まれている魔法自体は消さない限りはそこに残る。なので、再び魔力を通せば起動するものだ。
だが、魔法の中ったあの的は新しく魔法を組み込み直さなければいけなくなっただろう。もっとも、もうあの的は既に消し炭と化しているのだが。細かく観察していなければ、それにも気づかなかっただろうな。
そういう訳で、知らぬ間に新しい性能が増えていた。これも兄さんの仕業だろうか? そうなんだろうな。他に思い当たる節が無いし。
これもまた再検証しなければならなくなったが、それはそれでいいか。
とりあえず第一訓練部屋の片付けを行う。駄目にしてしまった的はどうしようもないので、これは廃棄だな。残った部分はプラタが何かに再利用してくれる事だろう。
そうして訓練部屋の片付けを済ませると、検証用に適当に魔法道具を創る。
「自分の魔法でもいけるのだろうか?」
そんな疑問を抱きつつ、特性を付加した魔力で創ったばかりの魔法道具を覆ってみる。魔法道具を作製したのはボクなので、やはりというかなんというか、試しに僅かに纏わせてみた魔力を吸収はしてくれない。
まあ今回の本題は魔法を吸収するかどうかなので、それはいいか。魔力同様に魔法もボクが組み込んだから吸収しないという可能性もあるが・・・何事も実験だ。
どうなるだろうかと魔法道具を観察しながら、一応プラタに何か適当な魔法道具を作製しておいてもらう。
結果としては、失敗だった。これで魔法を吸収したのは見間違いだったか、ボクの組み込んだ魔法だから吸収しなかったのかの二択になった訳だ。
次はプラタに作製してもらった魔法道具で試す。的はプラタが創った物なので、もしも本当に魔法吸収が事実だとすれば、これで魔法吸収が起こるはず。
期待しながら同じ手順で実験を行う。まずは周囲の魔力に対しての吸収が起き、魔力が魔法道具を覆う。
「おぉ?」
魔力が完全に魔法道具を覆う前に、魔法道具に組み込まれていた魔法が幾つか吸収される。中には少し削られて意味を成さなくなった魔法もあるようだ。
とりあえずこれで、魔法を吸収するという意味の分からない現象が起こる事が分かったことになる。では、前回のはやはり自分で創ったからという事になるのか。
しかし、こうしてしっかりと確認出来てもやはり信じられないな。そして、よく解らなかった。
とりあえず出来る事が増えたことを喜びつつ、更に検証していかなければならないだろう。というか、兄さんの強化の影響はどこまで拡がっているんだろうな。それを考えると、期待と不安で何とも言えない気分になる。中でも借り物の力という感じが強いが。うーむ。時間もいい時間だし、お腹も空いたから今日の魔法の修練はここまでにしておくか。
そういう訳で、夕食を摂りに自室に戻る。
自室に戻ると、まずはご飯かお風呂かを選択しなければならない。それを考えている間に到着したので、とりあえずお風呂に入って頭の中をスッキリさせる事にした。
そうして入浴を終えると、それから就寝準備を整える。
いざ夢の中へという段階まで準備が終わったところで、魔法道具を幾つか作製してみる。ボクが作製した魔法道具ではボクの魔力吸収で魔法は吸収されないが、これをどうにか出来ないかと色々調べてみるのだ。やはり他人が創った物を壊すのは忍びない。
それに、それが出来れば他に応用出来るかもしれない。まあ何はともあれ挑戦してみる意味はあるだろう。そう思い、幾つも魔法道具を創っては実験して分解するを繰り返していく。
それにこれは自身の能力確認の一環でもある。兄さんは背嚢の解析の進捗状況を尋ねてきた後に失望して能力の上昇をしてくれたが、それはつまり処理能力の低さに呆れたという訳なので、能力の上昇は処理能力の上昇が基本だと思われるからだ。
そう予測して、実験がてらに色々と試しているが、結果は驚くほどだった。今までであれば時間が掛かるか不可能だった情報量ですら、今のボクでは問題なく処理出来る。流石に余裕でとまではいかないが、それでもかなりの進歩であろう。
試しに背嚢の解析を行ってみれば、今までの苦労は何だったのかと思うほどにサクサクと進んだ。まだ全てではないが、それでも取り組み予定だった範囲の大部分が終わったと思う。今までプラタに任せきりだった場所も自力で情報を処理出来るまでになったし、このまま行けば更に先へも進めるかもしれない。いや、そう遠くない内にそこまで行く事だろう。これは確信を持って言う事が出来るほど。
さて、そんな風にあり得ないほどに能力が上昇したボクだが、それでも目的の一つである、ボクが創った魔法道具でも魔法を吸収出来るようにするというのには行き詰っている。
これが上手くいけば、仮に敵にボクが創った魔法道具を使用されたとしても対処出来るようになる。だが、上手くいってはいない。やはり、まずはどうやって魔法を吸収しているのかから調べないといけないな。
そういう訳で、まずは時間を確認してみる。
「うわぁ。もうこんな時間なのか」
時間を確認して驚いた。日付などとうに変わっている時間ではないか。あまり夜更かししてもいけないので、今日のところはここらで中断するとしよう。これは午前の修練内容は決まったな。
「ん、んぅぅ~~~はぁ!」
伸びをして頭を切り替えると、さっさと眠る事にする。就寝の準備は済んでいるので、後はプラタと就寝の挨拶するだけだ。
「おやすみ。プラタ」
「おやすみなさいませ。ご主人様」
そうして就寝の挨拶を交わすと、ボクはすぐさま眠りに落ちた。
◆
ボクは睡眠の質というのがいいのか、朝は問題なく目が覚める。まだ眠くはあるが、それもお布団をどかせば直ぐに解決する。
時刻は早朝になったばかりの時間。今までであればまだ少しダラダラしていただろうが、割とスッキリとしているのでさっさと起きる。早く起きればその分時間が出来るのだから。
「おはよう。プラタ」
「おはようございます。ご主人様」
寝台横に控えていたプラタと挨拶を交わすと、朝の準備を始める。
その間にプラタが朝食を用意してくれたので、プラタの報告を聞きながらそれを食す。何だかかなり久しぶりな気がする。朝食が保存食じゃないのは数日ぶりぐらいなんだけれど。
食休みを終えた後、早速昨日の続きに取り掛かる。今日は何か進展があればいいが。
そう思いながら、昨夜同様に魔法道具を創造して実験して分解するを繰り返す。背嚢の解析の方は昨夜に張り切りすぎたから少し休憩だ。
自分の魔力は吸収しないのは構わないのだが、やはり魔法はどうにかしておいた方がいいだろう。魔法道具は誰でも扱えるのが理想な訳だし。
「うーん。波長をずらしてみるか? でも、昨夜はそれで上手くいかなかったしな。それに扱いが難しい」
むむと小さく唸る。中々思うようには進んでくれない。それは能力が上がっても変わらないらしい。
もっと淡々と進められれば楽でいいのにとも思うが、こうして苦労するのが楽しいとも思える。こちらもまた難しいようだ。
何か見落としでもなかったかと記憶を辿る。魔法が吸収されたのはあまりにも驚きだったので、未だにあの瞬間が鮮明に脳裏に焼き付いている。
それを思い出し、昨夜の実験と比べていく。途中で手持ち無沙汰のプラタに頼んで簡単な魔法道具を幾つか創ってもらっている。これも実験の為だ。暇だからか創造された魔法道具の数がもの凄い事になっているけれど、これも実験の為だ。
それにしてもプラタはポンポンと創造していくな。それでいて、一つ一つが結構な完成度だ。随分と研究したのだろう。
何にせよ練習用の魔法道具は確保出来たので、ボクはプラタにそれとなく、もう実験に必要分は揃ったから創らなくてもいい旨を伝えた。
色々と考えるついでに休憩した後、プラタが創造した魔法道具で実験を行っていく。やはりボクが創っていない魔法道具の場合は、魔法を吸収出来るようだ。
では、共同で創った場合はどうなのだろうか? 魔法については駄目かもしれないが、例えば外側はボクが創って、内側はプラタに頼むという感じに。
そう思ったが、多分問題なく魔法だけ吸収されるのだろう。その逆では魔法は吸収されない。魔法を共同で組み込むというのは流石に難しいだろう。
それでもプラタに頼んで、まずは外側と内側で役割を分担して魔法道具を作製してみる。これで予想通りの結果になれば、やはりボクが創ると対象外になるという事になる。
そう思いながら試すと、やはりというかなんというか、予想通りの結果になった。
次は魔法を共同で組み込むという方法を試してみることにする。プラタと一緒に魔法の発現をした事はあるが、今回のはあれとはまた違うからな。それでも、難しいとは思うが不可能ではないだろう。・・・難しい部分はプラタがどうにかしてくるだろうし。
気負ってもしょうがないので、気楽に行こう気楽に。
共同作業で魔法を組み込むといっても、やる事は途中までは別々。問題は作業した部分同士を繋げる時と、繋げた後の循環具合だ。これさえ上手くいけば完成であろう。
プラタに行う作業について説明をしてから、魔力を同調させたりと準備を行った後で入れ物を用意して、それに一緒に魔法を組み込んでいく。
最初は別々で作業するので、そこは直ぐに終わる。簡単な魔法なので一秒も掛からない。次は分担して作業した部分同士の接続だ。これが最初の関門。
事前に魔力の質や波長は合わせているので問題ないとは思うが、初めての試みなので緊張してしまう。
そして、魔力を合わせるのが得意なプラタ主導で分担作業した魔法を合わせると、驚くほど呆気なく成功した。
次が共同で魔法を組み込む最後の関門である、魔力の循環具合だ。これが上手くいかなければ、たとえ接続が上手くいっても意味がない。最悪魔法が効果を発揮しないのだから。
緊張しつつ魔力を通してみると、ボクが一人で魔法を組み込んだ時と比べてやや効率が落ちてはいるが、それでも中々上手く循環している。これならば十分成功と言えるだろう。
それを確認したところで、プラタと成功を喜び合う。さて、それが終われば本番だ。半分ぐらいはプラタが手を加えたこの魔法を吸収出来るのかどうか。今までの感じからしておそらく大丈夫だとは思うが、はたしてどなるやら。
緊張しつつ最後の実験を行う。今まで同様に魔力特性の付加された魔力を魔法道具に纏わりつかせる。そうすると、中に組み込まれているプラタと共同で組み込んだ魔法が、少し吸収し難そうながらも吸収されていった。
視た感じプラタが担当した部分は、プラタが一人で組み込んだ魔法が吸収される時よりは抵抗出来ていたような気もするが、それでも結構あっさりと吸収されていた。しかし、そこに繋がるボクが担当した部分が引っかかりかなり苦戦しつつも、何とかそこも含めて吸収を終えたが、あの感じは吸収したといえるのだろうか? いや、吸収はしていたのだが、魔力の増え方が少なかった気がする。
「うーーん・・・ボクの創った魔法部分は吸収しても力にならないのかな?」
暫く考えるも、そうとしか思えない。それでも実験は成功と言えるだろう。それとともに新たに判った事は、いくら魔力を合わせたところで別物と判断されるうえに、ボクかそれ以外かはしっかりと分けられている。
ボクの魔力では力は増えない。これに関しては微量は増えた気がするので、そのまま幾らか消費して還元されると思えばいいだろう。
それと、これが一番重要な事だとは思うが、ボクの魔法でも吸収出来るという事だ。今回はプラタの部分に引っ張られた形ではあったが、それでも吸収はしていた。これはボクが求めていた答えの一つなので、嬉しい結果になったものだ。
思いつきではあったが、それでも色々と勉強になる結果に終わって満足する。次は単独で組み込んだ自分の魔法を吸収させる方法を模索しなければな。
「さて、どうしたものか・・・誰かの魔法でもくっつけて剥がしやすくするか?」
現状ではそれが一番の解決法ではある。しかし、かなり手間が増えるうえに、それが出来るのはプラタぐらいだろう。循環とは関係ない部分にくっ付ければ、魔法の邪魔にはならないだろうが。
まぁ、それは何も思いつかなかった場合の手段の一つとしておこう。もっと効率のいい方法が思い浮かぶかもしれないし。
それじゃあ・・・まずは吸収について調べてみるかな。プラタが用意してくれた魔法道具は大量に在るから、実験はいくらでも出来る。
そう思い、何度も何度も実験を行っていく。
観察していく内に何となく解ってきたが、どうやら吸収時には、張り付けた紙を剥がすかの如く魔法を魔法道具から剥がしているようだ。魔法は組み込む際に魔法道具内に刻み込んでいるのだが、その辺りは関係ない様子。これについてはよく解らなかった。
そう簡単に分かるとも思っていなかったので、とりあえずそれでいいかと休憩を入れる。
「お疲れ様です」
休憩に入ると、すぐさまその言葉と共にプラタが温かいお茶を差し出してきた。それをお礼を言って受け取ると、一口飲んでホッと息を吐き出す。それで何だかんだと結構集中していたんだなと自覚した。
お茶を少しずつ飲みつつ、現在の時刻を確認する。かなり集中していたので結構な時間が経っているのだろうと思いながら確認すると、予想通りに既に深夜と呼べる時間になっていた。なので、このまま検証を終える事にする。
お茶を飲み終わり湯呑をプラタに返すと、特にお腹も空いていなかったので寝る準備を始める。
それも直ぐに終わり寝台に横になると、直ぐに眠りについた。
◆
翌朝目を覚ますと、何だか倦怠感に包まれていた。
昨日結構疲弊していたのだろうかと疑問に思いつつ、プラタと朝の挨拶を交わして寝台から降りる。
元気のない身体を引きずるようにしながら歩き、朝の支度を行っていく。
その後にプラタが用意してくれた朝食を口にする。昨日から戻ってきた日常だが、これもいつまで続くのやら。
「あれから何か変化はあった?」
ソシオが死の支配者側の主力の一角を打ち破って数日。何かしら変化でもあっただろうかと思い、プラタに問う。
「現在のところですと、絶え間なく南へと進んでいた大量の軍隊が進軍しなくなっただけです。ジュライ連邦周辺に駐在している相手の数は然程変わっておりません」
「なるほど。今のところは表立って何か動きがある訳ではないか」
「はい」
未だに死の支配者が沈黙しているのは不気味だが、まだあれから数日。動きが無いというのもおかしくはないのだろう。多分。
「南はどうなの?」
「変化はありません。国境警備は今まで通りの数のようですし、ソシオさまはあれから姿が確認出来ません」
「ふむ。何処へ行ったのやら」
勝者という事だし、それ以上はプラタから何の報告もないので、ソシオは無事なのだろう。であれば、姿を見せないという事は、何処かで何かを行っているのだろう。
つまり現状は、より平和になっただけのようだ。このままずっと平和が続いて欲しいが、そうもいくまい。何かしら対策を立てたいが、何をすればいいのやら。引き続き戦力の強化しかなさそうだ。
食休みを挿んだ後、今日は魔法の修練というか、確認を行ってみる。魔力量は増えた気がするし、魔力特性についてはある程度確認出来た。次は処理能力が上昇した事により何処まで出来るのかを確認しようかな。
そう思い第一訓練部屋に移動する。たまには第二訓練部屋でもいいのだが、つい同じ階層のこっちに足が向いてしまう。転移装置を使うとはいえ、移動時間はそこまで変わりはしないのだが。
第一訓練部屋に移動後、色々と魔法を試していく。的は一番硬い的を選び、前回の反省を踏まえ、その上に更に結界を追加しておく。
そうして準備を終えると、早速魔法を行使していった。
「はぁ、はぁ、魔力量もかなり増えたけれど、流石に上の階梯はキツイな」
処理能力に関しては問題なかったが、それに魔力量が追いついていなかった。いや、追いついていないというよりも、処理能力の上昇が異様なまでに上がっているのだろう。これも背嚢の解析がほとんど進んでいない事に呆れた兄さんの気持ちが反映されているような気がしている。
とにかく、疲れた。昼には若干早いが休むとしよう。厳重に結界を追加していたので的は無事だったが、それでも危うい場面はあった。今回は魔力特性を付加させずに限界を調べてみたというのに、結構な成長だろう。
ただ、やはり階梯を上げるとそれだけ魔力消費量が増えていくので、それほど回数は試せなかった。一発に全力を注ぐのであれば、更に上まで目指せただろうけれども、それは段階を踏まないと危ういだろうな。下手すればこの部屋に穴が開く。
昼食兼休憩の為に自室に戻りながら、次回はもう少し上を目指してみてもいいなと考える。とりあえず今日はもうやらないが。
自室に到着した後、椅子に座る。内包魔力量がかなり減ったので、何だか虚脱感が凄い。朝から感じている倦怠感も合わさって今すぐ寝たい。
とはいえそういう訳にもいかないので、いつの間にか用意されていた昼食を食べていく。
プラタが体調に合った量に調整してくれるので、昼食は直ぐに食べ終えた。食後というのもあって、更に眠気が増したが。
今日は朝から調子が悪いな。もういっそ、午後は休んでもいいかもしれない。
僅かにふらふらとしてきた頭でそんな事を思うと、寝台に移動して腰を下ろす。このまま少し仮眠を取ってみて、様子を見てみる事にしよう。もしかしたら風邪かもしれないし。
プラタに仮眠を取る事を告げた後、寝台の上で横になる。普段昼寝はあまりしないので夜のように直ぐに眠る事は出来なかったが、それでも少し時間を掛けると段々と意識が落ちていった。