M探偵って言わないで下さい!
夕焼けが差し込む廃墟の中で、首を吊った女性が揺れている。
鑑識捜査員たちが慌しく現場を捜査しているその中で……。
女性の遺体を見上げる奥葉《おくわ》ジン子は、右の乳首を指でつままれただけで、この事件が難事件であると断定した。
「……パンツが……もうだめ」
「ただの自殺ではないと?」
「ええ……たぶん……お願い、もっと強く……」
ジン子の乳首をつまんでいるのは、警視庁の敏腕刑事冴渡《さえわたる》だ。彼は、ジン子に言われた通り、つまんでいる指に力を入れる。
「ダメ……来た! 来た!」
ぶるぶる震えて立っていられなくなったジン子の脳裏に、首を吊る女性の脅える顔がフラッシュバックする。
冴渡の指先にさらに力が入る。
ジン子の巨乳が冴渡の指先から伸びてきれいな円錐を作る。
「殺……人」
「何っ?!」
冴渡は、ジン子の乳首から指を離し、ひとなめして風向きを見る。
「アゲインスト……応援でも呼ぶか」
冴渡はスマホで警視庁に連絡を入れる。
床に倒れ込んだジン子は、気持ちを落ち着かせるように散らかっているブラジャーを身につけ、そうそうにカッターシャツを羽織った。
周囲の鑑識員たちが、「なんだ」という感じで、自分の仕事に戻る。
「ところで冴渡警部補、わたしのことM探偵って言ってるそうですね。そういうのやめていただけないですか?」
「いいじゃないか。実際、Mなんだから。Mっ気で事件の謎を解くなんて。責めがいがありすぎるんだよ」
「だからいやなんです。こうやって現場に呼ばれて、無理矢理、裸にされて……」
「見られたいんだろ?」
冴渡は、高圧的にジン子に言う。そうしないと、ジン子の機嫌が悪くなるのは知っていたからだった。
「……やだ。冴渡さんったら」
「次はもっと苛めるからな」
「やだ……」
「本当にそう思ってるのか?」
ニヤリとする冴渡。
ジンとして目を潤ませるジン子、ことM探偵。
数日後、女性の家から遺書が見つかり、仕事のストレスによる自殺だと断定された。