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夏の明け方の海岸にクジラの腐乱死体が上がった。
第一発見者は、付近にある海の家の店主だった。店主は何を間違ったか、知り合いのM探偵、奥葉ジン子に電話した。
「え? クジラの死体? わたしに電話されても……」
「謎なんですよ。こんな浅瀬の海岸にクジラの死体って。わかんない。ほんとに」
「だからってわたしが行ったって……」
「白い水着で家から来るんだ。いいな」
海の家の店主はそのあと、何も言わずに電話を切った。
奥葉の奥が、ジンっと感じた。
「行くしかない」
ジン子は感じた。
早速、指定の白い水着に着替え、最寄の駅まで歩いていき、最初に来た電車に飛び乗った。
ジン子にとっては、羞恥の視線ですら謎を解明する力になる。
電車内で、色々な男性からの視線を浴び、すでにクジラが死ぬ瞬間がフラッシュバックしていたが、あえてこれから海に着くまで、羞恥の波に溺れていこうと思うジン子だった。ジン子は、根っからのMでありそんな自分が大好きだった。
海岸に着くと、大勢のギャラリーがクジラの死体に群がっていたが、ジン子が白い水着で到着すると、好奇の視線がジン子に向けられた。
「M探偵! お忙しいところすいません」
ニヤニヤして海の家の店主が、ジン子に駆け寄ってくる。
「死因はサメです」
「え? もう?」
「ここから50キロほどの海溝にサメの群れが棲みついてるみたいです。そこにこのザトウクジラが迷い込んでしまったみたいなんです」
「……どうでもいいから全部脱ぐんだよ」
「え? 謎は?」
海の家の店主の顔が豹変している。
これは凄い羞恥が待っている。ジン子は察したが、とっさに海の家の店主がジン子の腕をつかんだ。
「Mなんだろ? ”ど”がつくくらいの?」
ジン子は何も言えず、頷くしかなかった。
ジン子は、指示もされてないのに、多くの観衆の前で水着を脱ぎ捨てた。
周囲から「おお!」という、歓声というか、どよめきが沸き起こる。
「みなさん、これは事件ではありません……クジラは……サメに……襲われて……」
もはやただのヌードショーであった。
海の家で焼きそばを食べながら、冴渡刑事が見つめている。
ジン子の能力はまだまだ伸びる。発展途中のメス犬だ。冴渡は心からそう思った。
そうだ。今度ジン子にこの謎を解いてもらおう。
「なぜ海の家のキャベツは芯の部分が多いのか?」