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プラントの木と、なんか嫌な感じ

 僕とスアが住んでいる巨木の家は
 スアによるプラントという魔法がかけられている。

 この魔法のかかった木は、
 その木の枝の節当たりにあるコブ部分に、増殖させたい果物や野菜なんかの一部を埋め込んでおくと、ものの一晩で、埋め込まれた果物や野菜と同じ物を木の実の形で増殖することが出来る。

 この魔法のおかげで、
 僕の店では、「味噌玉」の増殖に成功している。
 店の在庫が枯渇した際
「原材料は豆なんだし……」
 と、いちかばちかで、味噌をコブに埋め込んでみたところ、味噌が詰まった実が出来上がったわけです。
 この味噌玉は、順調に生成が行えていて、今では一部を店で販売したりしています。

 で
 このプラント魔法を利用させて貰い、色々実験を行ってみることにしました。


 まずは「砂糖」
 この世界にもあるにはあるんだけど、僕が元の世界から持って来た砂糖の方がすごく甘い。
 いわゆる、サトウキビにあたる植物がないのが原因のようだ。

 で、店の在庫を使って、増殖させてみたところ
 翌朝、砂糖を入れたコブの周囲に、直径20cmくらいの実がなりました。
 牙目クモが収穫してくれたそれを、早速割ってみると、中には、味噌玉の時と同じように、砂糖の粒が詰まっていた。
 味噌玉の時と同じく、このプラントでしか生成出来ないみたいだけど、とにかく、貴重な砂糖の増産が可能になったってだけで、もう、安堵しきりですはい。

 今までは砂糖の在庫のことを考えて、ヤルメキスのお菓子作りも、砂糖を極力使用しなくてすむ物ばかりを選んで行っていたんだけど、これでもっとあれこで試すことが出来るようになりそうだ。

 次に「コーヒー豆」
 この世界には、紅茶は存在している。
 以前、ゴルアが所有していた王都でしか手に入らない高級紅茶の茶葉を、このプラントで増殖させたところ、コブの周辺に、茶葉がそのままワサワサと群生しました。
 ただ
 どうも、この茶葉は高級品だけあってか、プラント魔法でも、1回に生成出来る量がそんなに多くありません。
 なので、以前はゴルア達が日常的に飲む用に回していたのですが、
 ゴルア達が辺境駐屯地へ戻ったこともあり、この茶葉を店で売ることにしました。

 値付けをどうした物かと思案したものの、
 店の面々ではどうにもならず……

 いえね、
 スアは元々家からほとんど出ない生活を行っていた人だし
 ヤルメキスは、貧民街の出だから、こんな高級品とは無縁だし
 ブリリアンも「そんな高級品、見たこともないですよ」って目を丸くしてたし
 猿人4人娘も「たまに、略奪品に交じってて、それを使ったことはありますが……」……聞かなかったことにします。

 で、
 思案した挙げ句、市場のテイルスに相談に行きました。

 テイルスは、この茶葉を使って入れた紅茶を一口すすった途端、僕に歩み寄ってきて
「……これ、売るならこんくらいは取らないと」
 って、小袋1つ - 紅茶10杯分 -に、僕の元の世界で言うところの1万円くらいの値段をつけてくれた……嘘? マジですか?

 で

 この茶葉の小袋を試験的に販売してみたところ、
「おぉ!? こんな田舎で、こんな高級茶葉を売っているのか!?」
 ってな感じで、地方の裕福層の方々がたまに買っていってくれています。

 それなりに売り上げにも貢献してくれている品物になっているわけです。

 前置きが長くなりましたが
 コーヒー豆です。
 この世界にはコーヒー豆は存在していません。
 当然、コーヒーも存在していないわけです。

 で

 僕は、店の在庫で残っていたコーヒー豆をこのプラントで増殖さえてみたのですが
 翌朝、コブの周辺に、直径20㎝くらいの、茶色の実がなりました。
 これを割ってみると、例によって中にはコーヒー豆が詰まっていたわけです。

 早速、豆を挽き、コーヒーを入れてみたところ
「……うん、なかなかいいんじゃないかな」
 って、僕的には満足できる味に仕上がりました。

 ただ
 スアは、これを一口飲むと
「……苦っ」
 って、言いながら舌を出し、む~って、顔を曇らせてしまった。
 そこで、砂糖とミルクを入れて試してもらったところ、
「……うん、これなら、いいかも」
 って、今度はスアもニッコリ笑ってはくれたんだけど、

 砂糖10杯入れた時点で、もう別の何かだよなぁ。あれ、って思わざるを得なかったわけで……

 で、まぁ、
 このコーヒーですが、店のカウンターの後ろに、コーヒーメーカーを常備しておいて、1杯、僕の元の世界で言うところの100円程度で販売してみたところ、


 さっぱり売れませんでした。


 やはり、見慣れない飲み物を、いきなり「いかが?」と言われても、やはり抵抗があったみたいです、はい。

 そこで、まずはお試し期間を設けて、1週間ほど無料でコーヒーをサービスしました。
『ご自由にお飲みください』
 って張り紙をしたポットの中に、コーヒーを入れておき、その横に、砂糖とミルクの入ったポットを置いておいたところ、
 最初の頃は、この砂糖を持って帰ろうとする人が続出して、おい、ちょっと待て状態だったんだけど、
 弁当を買った後の客が、タダってので、試しに飲んでくれるようになり
「へぇ、なかなかおもしろい味だね」
 って、まぁ、それなりに好評でした。

 で

 試験販売期間が終了し、店売りを再開したところ
 一定量売れるようになりました。
 
 これで、紅茶葉に加えて、コーヒーの販売も開始することが出来たわけです、はい。

 
 こんな感じで
「胡椒」
「塩」
 なんかも、実の形で生成することに成功し、店で使用する調味料の確保に、どうにか成功し、安堵仕切りだったりします。


 ただ
 こうやってプラントの魔法で、あれこれやっていたところ、
 1つ大きな問題が起きました。

 いえね
 このプラント魔法って、巨木の家の上部・木の葉部分を使用して行っているんだけど
 色んな種類を試しまくったせいで、新たにプラントさせる場所がなくなってきたのです。

 スアに寄れば、
「それなり……の巨木……あれば……新しいプラント……の木……作れる……よ」
 って言ってはくれてるんだけど、

 ……どうなんだろう……裏山の木とかに勝手にプラントの木とか作って置いてもいいもんなんだろうか?

 ってのを、役場のエレエに相談してみたところ、
「街の外であれば、まぁするのはかまいません……その代わり、勝手にやってることになりますので、勝手に収穫されても文句は言えなくなりますね」
 とのことだった……まぁそうだよなぁ。

 元々この世界の住人でない僕が、土地を持っているはずもなく
 かといって、土地を購入とかしても、それを維持するためには、人も雇わないといけないんじゃないのか?……とか、まぁ、あれこれ考え込んでしますわけで……えぇ、新婚夫は心配性ですが、何か?

 などと、まぁ
 悶々とあれこれ悩んでいるところに、久々にゴルアが店を訪れた。

 午後の弁当販売のピークを越えてから店に来てくれるあたりの配慮はさすがだよなぁ、って感心しながらゴルアを出迎えると
「今日はタクラ殿に、いい話を持って来ました」
 って、ゴルアは満面の笑み。

 ……え~っと、
 こういう時に、「いい話」とか言われるのって、僕がよく読んでたラノベなんかでは、大概フラグなんだよね……一見いい話に見えて、実は全然いい話じゃなかったとかね。

 でもまぁ、せっかくのゴルアの話なので、聞いて見ると、


 なんでも
 先日の暗黒大魔道士討伐の恩賞として、王都が僕ら夫妻に土地をくれるのだという。

 え? 土地?

「ガタコンベから北に少し行った場所にある、小さな火山のある一帯です。
 昔、王都の貴族が住んでいた場所なのですが、今は無人になっている場所なのですよ」
 ゴルアの補足説明によると、この貴族が使っていた屋敷も残っているそうで、それも恩賞に含まれているとか。
「自然に恵まれたいい場所ですぞ」
 そう言うゴルア。

 でも、僕は見逃さなかった。

 ゴルアは
 満面に笑みをたたえてはいるものの

 
 決して僕と視線を合わせようとしなかったんだ……

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