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白と黒

 ゴルアが辺境駐屯地の新しい隊長に任命され、
 ガタコンベに駐屯していた女騎士団達が全員戻っていって、一ヶ月が経ちました。


 コンビニおもてなしは、相変わらず順調に経営を続けています。

 さすがに、ゴルアやメルア、経理の3人娘さんが一気に抜けたのは大きかったんだけど
 そこは、組合から助っ人を呼ぶことで工面しています。

 もともと、コンビニおもてなしをこの世界でオープンしてすぐの頃から、組合には助っ人でお世話になっていたわけですし、今回も、その際に来てくれていた蟻人さん達が来てくれているので、万事滞りなく進んでいます。

 商品の方は、

 僕と猿人料理人4人娘による弁当とパン、サンドイッチ
 ヤルメキスの焼き菓子類
 スアの薬品類
 
 これに、猫人ルアの武具・農具・料理器具といった鉄製品

 今のところ、この4本柱を中心に販売を行っています。

 弁当の派生として
 ジャルガイモを使用したハッシュポテト・フライドポテト・ジャガイモなんかのホットデリカや、
 1杯いくらで売ってる豚汁なんかも、結構好評です。


 特に、スアの薬品類の人気はすさまじく
 先日は、わざわざ王都でも行商を行っている鬼人の行商がわざわざ買いに来てくれたくらいである。

 このガタコンベは、王都からは洒落にならないほどに離れているので、
 わざわざ、こんな田舎にまで足を運ばせるスアの薬品がいかにすごいのかってわけです。

「そうなんです! スア師匠の薬はそれほどにすごいんです!」
 だからさ、なんで自称弟子の、ブリリアンが、この話題になるといつもそうやってドヤ顔するのかねぇ……


 で、そんなある日

「あなた……これ……やって……みたい……の」
 そう言いながら、スアがオセロを持って来た。

 そういえば、ダマリナッセと勝負した際、結局最後がぐだぐだになったせいで、放り投げられていたのを、スアが綺麗に直してくれたらしい。

 僕がダマリナッセに圧勝した話はスアにしていたので、
 そのこともあって、スアも興味を持ったようだった。

 簡単にルールを教えて、とりあえずはじめてみる。
 スアは、ダマリナッセとは違って、1手ずつ慎重に打っていく。
 とにかく、目先で1枚でも多く取れる方をとっていくダマリナッセとは大違いだ。

 それでも、序盤は僕が連勝を重ねた。

 慎重に打っていくスアではあるものの
 やはり不慣れ故か、終盤になると、1枚でも多く取れる方へ石を集中してしまい、僕があっさり角をゲットしてそのまま逆転するパターンが続いたわけです。

 その度に、スア

 その頬をぷぅって膨らませて
「も、う一回!」
 って、指を立てるわけです。

 ホント、何なんでしょうね、この可愛い生き物は。


 この日は、スアが意地になってやり続けてしまい、お互い寝不足になってしまったため

 翌日からは、3回勝負と、縛りを儲けた。
 それでも、やはり僕が3連勝する日が多いわけで……

 で

 負けず嫌いなスアは、
 負けると、プンスカ怒りながらベッドに潜り込むわけです。
 僕が横に入っても、プイって反対側を向いて、向き直ろうともしません。

 で

 電気を消して


 ここから小一時間の内容は黙秘します。 


 で、
 目を覚ました僕らは、仲良く抱き合って目を覚ますのが、最近のパターンです。

「お……はよ」
 少し眠そうに目をあけて、そう言ってくれるスアに、この上ない幸せを感じる今日この頃です。

 が

 オセロで手を抜く気はありませんがね。

 そんな感じで、僕とスアの寝る前オセロの日々が続いていた中
 役場のエレエが、オセロの話を聞きつけてやってきた。
「でですね、私にもぜひぜひこれを体験させてほしいのです」
 そういうエレエに、スアが相手をすることに。

 まぁ、惨敗が続いているとは言え、スアは毎日やってるわけだしね。

 そんな予想通り
 やはりゲームはスアの連勝に。

 僕とやった後は、いつもぶんむくれるスアなんだけど、今日はもう、終始ご機嫌です。

 その対戦相手のエレエは
 当然すっごく悔しそう。
「こんなに単純なのに、奥が深いのねぇ」
 って、白黒のツートンカラーの石をマジマジと眺めていた。

 で

 このオセロ対決から数日後
 改めてやってきたエレエは、開口一番
「タクラ、オセロの権利を売らないか?」
 って言ってきたわけで……え?どういうこと?

 いまいち状況が見えなかったため、詳しく話を聞いてみると、
「このオセロは、間違いなくヒットします。
 なので、ガタコンベ組合で、ぜひ独占販売させてほしいのです」
 とのことだった。

 で

 やっぱ悩むわけです。
 権利と言われても、厳密に言えば、このゲームは僕が開発したものじゃないわけで、
 そんな物の権利をほいほいうっちゃって良いんだろうか……

 と、まぁ、そんなことを考えてた時期もありました。

 はい、僕はオセロの販売権利を売りました。
 売れた金額の1割を分配してもらう契約になっているので、場合によってはかなりの儲けが期待出来るかも……なんて、少し期待していたりします、はい。

 で

 僕もコンビニおもてなし内で販売してもいいことにいてもらったので、早速、猫人ルアに、オセロの作成を依頼した。
 1週間ほどで出来上がったそれは、緑の版板が鉄製だったり、石も、鉄を丸い形に加工したものになってはいたものの、オセロを楽しみのには十分な出来上がりになっていた。

 で、

 簡単な梱包をつけて、コンビニおもてなしの一角に並べてみたんだけど
 このまま、ただのオセロとして売ったのでは、組合が販売する物と代わり映えしないよなぁ……
 なんて思っていたら、スアがマジックで、おもむろに
『ダマリナッセを倒した男、タクラ監修 オセロ』
 って、箱の表面にかき込んだ。

……おいおいスア、そんな大仰な宣伝文句なんて、恥ずかしいってば……

 そう言う僕に対し、頑なにこの名前の使用を主張するスア。

 で、まぁ、僕が負け、コンビニおもてなしに並ぶオセロには、全てに
『ダマリナッセを倒した男、タクラ監修 オセロ』
 って箱書きされたオセロが販売されることになったわけです。

 で

 初日の売り上げ数は、2セット。

 まぁ、
 この世界におけるオセロの周知度が、現時点でが致命的に低いわけだし、それはもう、ある意味仕方ないとも言えたのです。

 が

 この販売数は

 2日目 4セット
 3日目 8セット
 4日目16セットとまぁ、順調に伸びていってます。

 この調子で売れ続けて言ってくれたらいいんだけど……

 なんて思っている間に、組合製のオセロの販売も開始された。
 アレアにさりげなく聞いて見ると、最初の1週間で、だいたい10セットくらい売れたそうだ。

 まぁ、こんなもんだろう。

 と、このときはそれくらいに思っていたわけです。

「……あれ?」
 この日、閉店後の店内在庫チェックをしていると、オセロの在庫はなくなっているのに気づいた。

 ……おかしいな……今朝の時点では、確か100セットは残ってたはずなのに……

 で
 レジの販売記録を確認してみてびっくり。
 今日だけで100セット売れてたわけです、はい。

 慌ててルアに追加発注をし、翌朝までには相当無理して150セットを納入してもらった。
「まぁ、このオセロってのは仕組みが単純だからな、そんなに時間はかかんねぇよ」
 翌朝早くに納品に来てくれたルアは、そう言って笑ってくれたんだけど、

 目の下のクマが隠せてません……

 僕の急な発注のせいで、徹夜させてしまったのは間違いなさそうなわけで……
 こりゃ、今夜はルアの工房の方に何か差し入れでも持って行っておかないと、だな。

 と
 朝の時点では、僕にもまだ余裕がありました。


 開店1時間でオセロ150セット完売


 な、なんですとぉ!?
 その後も、
「ここでオセロを売ってるって聞いたんだけど?」
「あの勇者タクラのオセロがあると……」
「オセロはどこだい?」
 とまぁ、問い合わせがひっきりなし。

 僕は、あわててルアに再注文を行った。

「あぁ、まかせろい!」
 ルアはそう言ってニカって笑ってくれたんだけど、明らかに寝起きの姿だったよなぁ……今夜は絶対なんか差し入れ持って行くから。

 で

 発注を終えて、店に戻った僕の前に、今度はオセロを手にした人達が殺到してきた。
「……あの、遊び方を教えてもらいたいんだけど……」
 って……え?

 一応、簡単な遊び方の解説の紙を1枚入れておいたんだけど、
 この辺境の田舎では、文字を習っていない亜人も多いわけで……しまった、抜かった……

 思わず頭を抱えて、天を仰ぐ僕

 っていうか、遊び方がわからないのに、買っちゃうなんて、困るなぁ……なんて思っていると

「勇者タクラがおすすめする商品だっていうから、是非買わないとと思ったの……」

 ……重ね重ね失礼なことを思ってしまい申し訳ありませんでしたぁ

 で、まぁ、僕は店頭で、実演しながら説明を始めたところ


 一瞬にして黒山の人だかりが出来た……って、うぉい!?


 数人の購入者と模擬戦をやってみたんだけど、
 なんか、僕はひとつ打つ度に、観客から大きな歓声があがるわけです。

「さすが勇者タクラ……ああうつのか……」
「すごいな、もう角を取ってるぞ……」
「さすが勇者タクラ、参考になるな」

 ってか、皆さん……あの、勇者扱いは、マジ勘弁してください……

 若干、僕に泣きが入った頃合いで、なんかスアが使役している4体のアナザーボディが、何やら紙の束を携えてやってきた。

 で

 そのチラシを皆に配り始めた。
 その紙を受け取った観客の皆さん、一様に歓声を上げ始める。

 な、なんだぁ?

 僕は、スアのアナザーボディの1体からその紙を見せてもらったところ、そこには

『ゴブリンでもわかる、オセロの遊び方』
 と書かれていた。
 表題こそ文字なんだけど、その本文には簡単な文字しか使用されておらず、
 その大半の内容は絵で表現されていた。

 その絵は、スアっぽい魔法使いと、僕っぽい男がオセロを一緒にやっている構図になっており、一目でどうやって遊ぶのかがわかる仕組みになっていた。

 ……勝役が全部スアになっていたのには、少し引っかかる物を感じたけど
 とにかく、この紙のおかげで、集まりまくっていた観客達も満足してくれて、僕もどうにか3時間ばかしで解放してもらえたわけです……はい。

 で、その翌日


 開店1時間で、オセロ300セット完売


「……わ、わかった、まかせろぃ! 今からすぐに増産すっからよ!」
 どう見ても、へろへろで、今から寝ようと思ってたのにぃ、オーラ満々のルアに、僕はもう拝み倒すしか手がなかったわけで……


 このオセロ
 最初の頃は、その遊び方がよくわからなかったこともあってか、皆様子見をしていたらしい。
 だが
 数人がこれを購入し、遊んでみたところ、これが予想以上に面白い。
 この噂があっと言う間に広がり、そして今にいたるわけです。

 組合の方でも、売り上げがすごいことになっているそうだ。

 組合のオセロは、僕とは別のルート、大きな工房に作成を依頼しているそうなので増産も可能みたいなんだけど、
 僕の店は、ルアの工房に作成を一任していることもあり、

 この翌日からは1日の販売数に制限をかけました。
 1日300セット限定。

 で、この限定品を求めて、店の前に長蛇の列が出来る始末……

 整理券の発布も考えないといけないな、これは……


 こうして、思わぬ人気商品が誕生したわけです。

 とはいえ、本気新しい店員の補充も考えないといけないなぁ……
 そんなことも考えないといけない僕ですけど

 
 今は、

 先ほど、オセロ3本勝負で今日も3連敗し、ベッドの中でぷんすかしているスアのご機嫌とりしとかないとね……

 どうやってご機嫌とったかは、当然黙秘させてもらうけど。

しおり