土地とお屋敷と木人形と蜥蜴もどき その1
で
次の店の定休日を利用して、僕はスアと2人でその恩賞の土地を見に行った。
電気自動車おもてなし1号で店を出発し、およそ2時間。
街道を北上したんだけど
……おいおい、舗装された道が途切れてるし……
途中から道無き道を進み始めて更に1時間。
……おいおい、車が通れない細さになっちまってるんですけど……
おもてなし1号を降りて、徒歩で進むこと2時間。
これだけの行程を経て、ようやく尽きました……はい。
途中で完全に伸びてしまったスアを背負った僕は、地図と照らし合わせながら到着を確認。
うん
確かに、眼前には山がある
すんごい鋭角に切り立ったはげ山が
ゴルアさん……火山地帯とは聞いてたけど、土地の大半がこの火山とは聞いてないよぉ!?
その麓に件の貴族の屋敷っていうのがあった。
外観的には、かなり豪奢な作りになっているので、結構金かけてんじゃね? って思える作りなんだけど、ゴルアからもらっていた屋敷の鍵で中に入ってみると
……あれ? なんか妙に綺麗じゃないか?
ゴルアの話だと、すでに無人になってから久しいと聞いていただけに、中はうっそうと埃にまみれ、蜘蛛の巣が跋扈してる……そんな光景を想像していただけに、拍子抜けしたというか、びっくりしたというか……
その時、
僕の背でくたばっているスアが、周囲を見回しながら
「……なんか……いる……よ……こっち……を……見てる……」
って、え? マジ?
スアの言葉に、思わず身構える僕。
すると
そんな僕の目の前に、メイド服を着たエルフっぽい何かがやってきた。
「何か」と言ったのには理由があります。
僕の目の前に現れたこれ、確かに顔とかはエルフっぽいつくりをしていて、耳もとんがっているんだけど、その首や肘、指といった、関節のことごとくに節が入っています。
作り的に、どうみても人工の物って感じを色濃く受けます。
その何かは、僕らの目の前にやって来ると
「……貴方方は、私の新しいご主人様?」
そう言い、首をカクンと横に倒した。
その言葉に、少し困惑する僕
「……この屋敷は恩賞として確かにもらったけど、君みたいな存在までいるとは聞いてなかったから、ご主人様でいいのかどうか、ちょっと判断しかねるかな……」
そう言う僕に、そのエルフっぽい何かは
「この屋敷の主様であられるのでしたら、私の主様で間違いございません。
私はエレクトラ=アンドゥトロワ、この屋敷の管理を任されていますメイド木人形です。
気軽に『エレ』とお呼びくださいませ」
そう言い、エレは恭しく一礼した。
エレを改めてよく見てみると、
木人形と言うだけあって、その顔もすべて木で出来ていた。
目らしき部分は、完全に空洞になっており、口の部分は、唇部分の左右に筋が入っていて、話をすると、その唇の部分が下にスライドしてく感じだ。
服の隙間からのぞいている手足も、すべて木製なんだけど、長い間手入れをされていなかったせいか、あちこちがひどく痛んでいる……っていうか、何カ所かは、斬り傷か、矢傷だよねって跡が残ってる……
その当たりのことをエレに改めて聞いて見ると
「この屋敷は主様が訪れなくなって久しいのですが、その間に、様々な外敵に襲われました。
盗賊……冒険者……窃盗団……それらの者からこの屋敷を守るため、私をはじめとしたメイド木人形が頑張っていたのですが……今も残って動けているのは、私一人だけという有様でして……申し訳ありません」
そう言いながら、改めて深々と頭を下げた。
……ってか、ゴルア……そんなのに狙われてる場所だなんて、一切聞いてないんだが……
これならイエロも連れてきておいた方がよかったかな……って思っていると
僕の背のスアが、おもむろに僕の耳もとに口を寄せ
「外に……何か……来た……結構……大人数」
そう言うんだけど……え? マジですか?
僕が真っ青になってると
その目の前で、メイド木人形のエレ、その背中から長剣を2本取り出すと
「いつもの山賊です……この屋敷の中の調度品や宝を狙ってやってきています」
そう言いながら、屋敷の入り口へ進んで行く。
「この屋敷には、防衛魔法が張り巡らされておりますので、侵入者は、正面玄関からしか入ってはこれません……そこで食い止めます」
で
エレが向かっている途中、
ば~ん!
屋敷の入り口が乱雑に開け放たれた。
すると、そこには……なんだあれは? 体長5mはありそうな黒い蜥蜴っぽい何か……
で、その何か背に乗った、小柄なコボルトが
「このクソメイド! 今日こそ貴様を破壊して、この屋敷の中身をごっそりもらっていくぜ!」
そういいながら、コボルオは蜥蜴っぽい何か……とりあえず蜥蜴もどきだな……の背に鞭を打った。
それを合図に、のそっと動き始める蜥蜴もどき。
「こら、しっかり動け! でないと今日も飯抜くぞ、この役立たずが!」
コボルトにそう言われて、どこかイヤイヤそうに動きながらエレに向かっていく。
そんな蜥蜴もどきの周囲から結構なかずのゴブリンやオークが姿を現した。
どうやら、皆でエレを倒そうとしているようだ。
そんなコボルト達に
「本日はようこそいらっしゃいました……ですが、貴方方の訪問は予定にございません。
重ねてご主人様より接待の依頼も受けておりません。
よって、私は貴方方を侵入者と見なします。
10秒以内に退去願えない場合は、実力行使にて強制排除いたします」
そう言いながら身構えていくエレ。
そんなエレに
「じゃかぁしい! 元から侵入してきてんだよ! いつもいつもテンプレ繰り返してんじゃねぇ、このポンコツが!」
コボルトは、そう言うと再度蜥蜴もどきに鞭を打つ。
……あれ?
なんかよく見たら、あの蜥蜴もどき、のそのそ動いているというよりも、お腹が空いて動けないって感じか?
なんて思ってたら、
その蜥蜴もどき、なんか周囲の匂いをかいでる感じ……って、チョット待て、なんでそこで僕と目が合う!?
で
こういうときの悪い予感ってのは、得てして当たるようになってるもので
蜥蜴もどきは、
「うわぁ!?」
背のコボルトを跳ね落とし、僕の目の前に走り寄ってくる。
「ご主人様!?」
エレが慌ててその間に割り込もうとしたんだけど、蜥蜴もどきの勢いが早すぎておっつかない。
……やべ、これ、死亡フラグか?
って思ってた僕の前に、巨大なカーテンみたいなものが展開された。
振り返ると、背のスアが詠唱しながら手をかざしていた。
うん、さすがは僕の奥さん。
惚れ直したよ。
思わず言葉にでていたその一言に、スアが真っ赤になりながらも、魔法壁を展開していく。
蜥蜴もどきは、その壁に……まさかの正面衝突!?
すさまじい衝撃音がしたんだけど、蜥蜴もどきは怯むことなく壁に何度もぶつかって、僕の側に近寄ろうとしている……なんでだ?
あんだけ腹ぺこで、動くのも辛そうだったのに、なんでこんなに必死に動いてる?
まてよ、腹ぺこ……あ?
僕は、ここである物の存在を思い出した。
腰の魔法袋に入れてるお昼用にと持参してたお弁当。
僕は、
おもむろに魔法袋から弁当箱を取り出した。
すると
さっきまで暴れていた蜥蜴もどきは、ぴたっと暴れるのを辞めると
その場に、お座りよろしく座り、短い尻尾をパタパタさせていく。
「でもさぁ、その巨体で、この弁当で……足りるの?」
僕が思わずそう呟くと、その蜥蜴もどきは、大きく頷いた。
すると、
蜥蜴もどきは前進を光らせると、その姿を小さな幼女のそれに変えていった。
……え、お前って、そんなに幼かったのか
そんなことを考えている僕の前で、その幼女は
「おねがいなのです。ご飯を恵んでくださいまし。パラナミオはもうお腹が空きすぎて動けません」
そう言いながら、ボロボロと涙を流してるわけで……