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土地とお屋敷と木人形と蜥蜴もどき その2

 普通ならここで、色々考えたりしなきゃならないんだろうけど

……ダメだ……無理

 目の前で幼女に泣かれてほっとくなんて出来ない。

 僕はスアに、魔法壁を解除するようお願いした。
 スアも、パラナミオの様子には困惑していたみたいで、僕が言うとすぐに壁を解除してくれた。

 で

 返す刀で、その魔法壁をエレの周囲に展開し直し、エレが左右から襲われないようにしていった。

 んでもって
「ほら、食べていいよ」
 と、僕が弁当を差し出すと、パラナミオは、それを奪い取るようにして手に取ると、手づかみでバクバク食べ始めた。
「おいひいれふ……おいひいれふ……」
 パラナミオは、涙をボロボロ流しながら、ご飯をかき込んでいく。

 ……ってか、いつから食べさせて貰ってなかったんだ、この子

 よく見ると、パラナミオの体はひどくやせこけていて、とても年相応の姿ではない。
 顔色も悪いし……僕の元いた世界でいえば、これ、幼児虐待になるぞ。

 あっと言う間に1つ目の弁当をたべ尽くしたパラナミオは、弁当箱をぺろぺろなめながら、未だに涙を流している。

「私の……も……あげ……て」
 そう、スアが言ってくれたので、僕はもう1つの弁当をパラナミオに渡した。
 
 すると、パラナミオは、その顔をぱぁっと明るくして
「ホントに……ホントにホントにいいのですか! 2つもお弁当食べていいのですか!」
 そう言いながら、感涙を流しまくった、
 弁当を手にすると、再び手づかみでバクバク食べ始める。

 おいおい……こんな幼い子をどこまで虐待してたんだよ、こいつら
「お前達、こんな幼い子供を虐待して、恥ずかしくないのか!」
 思わずそう絶叫した僕。

 で、コボルトは

「うるせぇ! 俺達の奴隷を、どう扱おうがこっちの勝手だってんだ!」

 はい、悪役のよく言う捨て台詞がかえってきました……すっげぇむかつく。
 むかついたのは、僕だけじゃなくて、スアもだったようで
 スア、おもむろに両手を前にかざして詠唱を開始。
 僕の耳に聞こえてくるその詠唱は、その内容がわからない僕でも、その声に怒気がこもりまくってるのはよくわかる。

 で

「……シネ」
 スアが、短くそういうと

 魔法陣から無数の炎の槍が飛び出した。

 あぁ、これ、ファイアランスとかいうやつじゃないか!
 本で読んだことがあるぞ!

 そのファイアランスの大群は、エレが戦っている、その前に殺到していたゴブリン達に襲いかかり、そいつらを次々に貫き、床にたたきつけていく。

 ……すご……圧倒的だよ

 って、感心している僕の背中で、スア、呟くような声で

……シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ……

 って言い続けているんですが……な、なんか怖いってば……


 結局
 このあと5分としないうちに、コボルト達は全滅した。

「皆様のおかげで、しつこくこの屋敷を狙っていました奴らを、ついに全滅させることが出来ました」
 そう言って頭を下げるエレ。
 木人形のため、表情は乏しいけど、きっと笑ってるんだろうな。

 エレは、僕らにお礼を言うと、そのまま散らかった部屋の片付けを始めた。

 さて
 というわけで、残ったのは、このパラナミオの事になるんだけど……


 改めて、パラナミオに向き合い、話を聞いてみた。

 パラナミオ曰く
・あの盗賊団には、物心ついたときから連れ回されていた。
・蜥蜴もどきに変化出来るので、足代わり・危険な相手に突進する役目を担わされていた。
・ご飯は日に1食、盗賊団の皆の残り物をもらっていた。

……ごめんなさい……もう、これ以上は、僕の涙が聞くことを許してくれません……
 スアも同様で、顔を両手で覆って、ヒックヒックって嗚咽を漏らしている。

「それでですすね……ご飯を食べさせて貰った上で、こんなことをお願いするのは申し訳ないのですが……もしよかったら、私を奴隷として雇って貰えないでしょうか……一生懸命頑張りますので……どうかお願いしたいのですが……」
 パラナミオは、床の上で土下座し、深々と頭をさげた。

 あぁ……多分、あの盗賊共のとこでは難癖つけられてはこうして土下座させられてたんだろうなぁ……妙に、土下座の仕方が道に入っている……

 奴隷としてしか、今まで扱われた事がないっていうのも、不憫だし
 とにかく、1度コンビニおもてなしまで連れて帰って、組合のエレエあたりに相談してみよう。

 僕の世界でいえば、まだ就学前の子供だから、コンビニおもてなしで働いて貰うわけにもいかないしなぁ……

◇◇

 僕らが街へ連れて行ってあげると説明すると、パラナミオは
「お2人に雇っていただけるのですか!」
 そう言って、ぱあっと笑顔になった。

 僕は

「雇うにしても奴隷じゃないし、誰かに引き取って貰うにしても、奴隷にはさせない。
 今後は1人の人として扱ってもらえるように手を貸すから」
 そう伝えたんだけど、
 パラナミオは、この言葉に困惑し
「……えっと、奴隷じゃない、1人の人って……何をしたらよいのでしょか?」
 そう言い、オロオロし始めた。

 その返答に、これはちょっと面倒っぽいなぁ、と、思わず首をかしげてしまった。

 とにかく、
 体に異常がないかどうか調べておかないと、ということで、スアに、パラナミオの状態確認をしてもらったんだけど、

 !?

 なんか、いきなりスアがびっくりした顔をした。
 スアに手招きされて、僕はスアの後方へ移動した。

 すると、スアの前には、状態確認を行っている相手 - 今回はパラナミオ - の状態が、板状になって空中に表示されているんだけど、スアはその一角を指で指し示していく。

 そこは、種族を表示するスペースみたいなんだけど

 ……え? 何? 『サラマンダー:幼体』ってあるんですけど……

 じゃ、何か?……あの蜥蜴もどきの姿って、まだ成長過程にあるサラマンダーだったってのか?

 ……やばいじゃん
 ……パラナミオが、サラマンダー姿で僕に突進してきたってことじゃん
 ……竜の突進じゃん……よく生きてたな僕

 僕は、スアの魔法防壁に偉大さに改めて感謝しつつ、さて、どうしたもんかと、スアに視線を向けた。
 僕の視線の先で、スアは

「引き取り……手……アル……でも、好奇……の目……今後……不安……できれば……

 え~、翻訳します

 スアによると
 パラナミオがサラマンダーということになれば、確実に引き取り手は見つかるとのこと。
 この世界では、竜種は非常に希少であり、滅多に見ることが出来ないのだそうだ。

 そのため、

 パラナミオは、今後確実に好奇の目にさらされることになり、非常に不安だ、と。

 相手によれば、パラナミオを殺すことで
 称号「竜討伐者(ドラゴンスレイヤー)」を得ようとする者も出てき来かねないとか……


 あぁ……漫画やゲームでよく聞いてた、竜討伐者(ドラゴンスレイヤー)って、
 時と場合によれば、こんな残酷なシチュエーションの上に成り立つ場合もあるんだなぁ……って、ちょっと薄ら寒い気持ちになってしまった。


 出来ることなら、そのあたりをしっかりフォロー出来る、身元引き受け先に引き取って貰うのが一番ではあるものの、現実的にそれは難しいのではないか、というのが、スアの意見であった。


 ちなみに
 竜討伐者(ドラゴンスレイヤー)の称号を得た者は、都の有力貴族に厚遇で雇い入れて貰えること確実なのだそうだ。
 贅沢三昧の生活が保障されたも同然なわけで……

 そんな金になる木が、こんな幼い女の子を倒すだけで手に入るとなると……そりゃみんな殺到するよなぁ……

 思案した僕は、
 信用出来る相手が見つかるまでは、僕とスアで面倒見ることを伝えた。
 すると、パラナミオは嬉しそうに笑って
「なんか嬉しいのです……私、出来たらお2人のように優しい方の奴隷になりたいなって、ずっと夢見てたのです」
 そう言ってくれるんだけど。


 うん、まずはその奴隷観念を捨てて貰おう……まずはそっからだな

 そう思ってる僕の横で、スアもウンウンと頷いていたわけです、はい。

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