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はち切れそうなお腹を抱えて、調理室へと足を運び、明日のお弁当に使えそうな食材を少し分けてもらいました。
唐揚げを入れるのは決定事項。流石にかまどがないと米は炊けないので、主食はパン。サンドイッチにしようかな。トマトとレタス。マヨネーズは無理だけどドレッシングは作れる。塩と酢とオリーブオイルと醤油。揚げ物……コロッケが作れるかな?卵はないけれど、卵なしの衣もできたはず。よし。コロッケサンドを作ろう。ソースはないけれど……まぁ、うん。ソースがなくてもおいしいコロッケにすればいいよね。
ひき肉、玉ねぎ、ニンニク、ジャガイモ、小麦粉、パン粉、醤油、酒、塩、胡椒。
胡椒だけないなぁ。まあでも大丈夫でしょう。ひき肉とパン粉は肉とパンで作ってと。
部屋で全部調理するのはむつかしいかな?でもハズレMPポーション使っているところを見られるわけにいかないし。
「何を作るんだい?」
料理長が興味深々の顔ですが。言えません。
「えっと、実験?ダンジョンの中でも調理ができるものが作れないかな?みたいな?」
部屋の中で調理ができるなら、ダンジョンの中でもできるはずなので、嘘ではない。そう、嘘ではない。
「そうか。嬢ちゃんたちは勉強熱心だな。うん、分からないこと、私に協力できることがあれば言ってくれ。それから実験が成功したら教えてもらえると嬉しいな」
「はい。ありがとうございます」
……えっと、何か、ポーションとか使わないレシピの一つか二つ……料理長に教えようかな。お礼に。でも、私が教えられるレシピ……うーん。
ああそうだ。パンはあるけど麺は見たことない。パスタとか……あー、卵がないとうどんみたいになっちゃうかな。
小麦粉は、なんとなくだけど中力粉のような気がする。
麺類には強力粉、お菓子には薄力粉が向いてるっていうけど……。中力粉でも麺はできたはず。
というわけで、えーっと、明日は午前中にお弁当作ってお昼からピクニック。帰ってきたらみんなで麺を打ちましょう。
ふふ。
キリカちゃんが頬っぺたに粉をいっぱいつけながら、一生懸命小麦粉をこねこねしている姿を想像して楽しくなった。
楽しい気持ちで布団に入り、内容は覚えていないけれど胸がふんわり温かくなる幸せな夢を見て起きた。
そして、朝食の席で嬉しい話が告げられる。
「陛下が、赤の大陸との貿易を認めたぞ」
シャルム様の言葉に、リリアンヌ様がほほ笑む。
「本当ですか?」
「ああ、高度鑑定魔法の結果で、渋っていた者たちも賛成に回ったそうだ」
シャルム様がにやりと笑う。
ああ!よかった!
嬉しい!
「これで、赤の大陸の人たちが救われますね。リリアンヌ様!」
「そうね。これで、チョコレートをずっと楽しむことができますわね」
うん。カカオ豆と、こちらの破棄するはずだった備蓄米。
貿易の品のメインはまずはそれだ。
「あの、それで、いつから?いつから貿易を始めるんですか?」
赤の大陸の人たちに一日も早く食料を届けてあげて欲しい。
冬が来たら多くの者がなくなると……食料が足らず、多くの者が犠牲になると言っていたんだもの。
「まずは、通信鏡で赤の大陸のシャーグと話し合いね。それから条件を詰めていって……実際に取引が始まるまで一月といったとこかしら?ね?」
リリアンヌ様がシャルム様を見た。
一月。
うん、間に合う。大丈夫そうだ。
「そうだな。実際取引が始まれば、転移魔法で品物は一瞬で届くんだ。品物のやり取りだけならば1日もあれば終わるが。転移魔法と通信鏡がな、我が国にはないその技術に関しての話し合いもしなければならないからな。一月はかかるだろう。しかし、初めから通信鏡や転移魔法陣の話をすれば、すんなり陛下も貿易を認めたと思うんだがなぁ」
と、シャルム様がリリアンヌ様をちらりと見た。
「あら、通信鏡や転移魔法陣の技術をもらえば赤の大陸をポイッとされては困りますもの。ね?」
と、リリアンヌ様が私の顔を見た。
「はい。ありがとうございます!リリアンヌ様!」
うん。ずっと貿易を続けるためには交易品がお互いに継続的に必要となるものだといいよね。
青の大陸が必要とする物があり、赤の大陸が必要とするものがある。それがいいです。
よかった。
今日見た夢は、きっと吉夢だったのね。ふふふ。
1か月。うん、1か月したらミギルさんたちの赤の大陸に食料が届く。冬が来る前に、きっと赤の大陸中にに備蓄米がいきわたる。
米の美味しい食べ方と一緒にいきわたるといいな。
「ユーリちゃん、今日は何をするの?」
「今日はお弁当……えーっと、外で食べる持ち運べる料理を持って、ピクニック……景色の良いところへ行くつもりなんです」
「そうなのよ、キリカ達おべんと持ってピクニックなの!」
「持ち運べる料理って、携帯食とは全然違うんだよ」
「お弁当は味も素晴らしかったですが……お人形の形になっていたり、見ているだけでも満足できるものでした」
キリカちゃん、カーツ君、ブライス君の言葉に、リリアンヌ様の目が輝いた。