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「ユーリちゃんには特別な才能がないと。だから、ユーリちゃんの料理なんて特別でもなんでもないのでしょう?価値が分からない人になんて食べさせる意味はありませんからっ!」
リリアンヌ様が意味不明の理由で押し切りました。シャルム様を部屋の外へ押し出した後、ドアをバタンと閉めます。ガチャリ。
あ、部屋にかぎがあったんだ。
「リリアンヌ、悪かった、いや、養子にしよう!ユーリちゃんを養子に、な?だから、リリアンヌが気絶するほどの料理を、私にも食べさせてくれ!」
ドンドンとドアが叩かれている。
ううーん。えーっと。
リリアンヌ様がシャルム様の言葉を完全に無視して、唐揚げを食べ始めました。
えーっと、私も聞こえないような気がしてきたので、食べましょう。そうしましょう。
「おいしーのよ!」
「うめー!」
「おいしいです」
「本当に、はぁ、意識を保つのが……ふぅ……。おいしいですわ」
はー、美味しかった。
「おやじ、何してるんだ?」
「リリアンヌが入れてくれぬ。唐揚げという物を食べているんだが」
「唐揚げ?!唐揚げ?!」
ドンドンとドアを叩く音とローファスさんの声が聞こえてきましたよ。
「ユーリ、唐揚げ、俺も、唐揚げ!」
ガチャリとかぎを開けると、大柄な二人が部屋の中になだれ込んできた。
「ローファスさん一足遅かったですね。今日もユーリさんの料理はとても美味しかったですよ。新しい唐揚げは、今まで食べたことのない……」
そうです。ニンニク使った唐揚げは格別なのです!
唐揚げとニンニクの相性は、食べればわかります。
「だな。さらに上の味があるとは思わなかった。二度揚げっての?あれはすごいな」
「そうなの。お肉がとっても柔らかくておいしかったのよー。じゅわーってなって、えっと、それから、カリカリなのよ」
ローファスさんが空になった皿を前に両手をついた。
「あきらめろ」
シャルム様がローファスさんの肩を叩いて出ていきました。
パタンとドアの閉まる音。
「あの、ローファスさん臭い唐揚げって呼ばれてますが、臭いの元はハズレ増血草です。補正値はまた隠れパラメーターのようで不明。それから、えっと、今回使ったハズレMPポーションは菜種油で、威圧が1上がります」
「は?威圧が1上がる?」
ローファスさんが皿の上に残っていたかけらを口に入れた。
「ステータスオープン……って、なんじゃこりゃ。本当に威圧がMAXになってるぞ?ありえない。MAXなんて300年以上生きる種族だけが達することができる領域だとばかり……」
くるりとこちらをローファスさんが向いた。
ぞくり。
あれ、なんか怖い。
どうやらキリカちゃんも私と同じように怖いと思ったようだ。
思わずリリアンヌ様の後ろに隠れる。
「おい、ユーリ、キリカ、どうした?」
ローファスさんの手が伸びる。
怖い。何、これ。怖い。
「あらあら。ローファス、ちょっと離れなさい」
リリアンヌ様がぎゅぅっと私とキリカちゃんを抱きしめてくれる。
あったかい。ああ少し気持ちが落ち着いてきた。
「威圧がMAXになると耐性がないと恐怖心を感じるのね。よしよし、怖いおじさんはあっちに行ってもらったから大丈夫よ」
「ふふ、怖いおじさんだそうですよ、ローファスさん」
ブライス君のからかいを含んだ言葉に、ローファスさんが悲し気な声を出す。
「なっ……母上、息子に向かってなんてことを……」
決めた。二度とローファスさんには菜種油を使った料理は出さない。
「なぁ、耐性ってどうやったら上がるんだ?」
!
私は怖いと、リリアンヌ様の背に隠れてしまったのに、カーツくんは少し震えているけれど、前向きに自分を鍛えようとしている。
ダメだな、私。頑張る頑張るなんて口ばっかり。
「そうねぇ、自分より威圧が高いモンスターとにらみ合うと早く上がるわね。目をそらさずにね」
リリアンヌ様の言葉にブライス君が補足する。
「鑑定を使わなくても、怖いと思うモンスターが自分より威圧が高いはずですよ」
なるほど。怖いと思うモンスターとにらみ合うのか。
怖いと思う相手……自分より威圧が高い相手。
モンスターじゃないけど、ちょうど耐性を鍛えるのによい相手がいるじゃないですか。
リリアンヌ様から離れ、ローファスさんの顔を見上げる。
にらみ合うのね。
うう、怖い。なんだろう、背中が続々として逃げ出したくなる。
目をそらしちゃダメ。
「な、なんだユーリ、俺の顔に何かついてるか?」
怖いけど逃げずににらむ。じーっ。
「え?ちょっと、ユーリ……」
ローファスさんは怖いけど、ぐっとこらえて少しずつ近づいていく。
「ま、まって、ユーリ、ちょっ」
ローファスさんがなぜか後ずさる。
そして、ふいっとローファスさんが目をそらした。
「え?あれ?ローファスさん?」
にらみ合わなくちゃ耐性が鍛えられないんですけど。
「ぷはーっ。面白いわね。ふふふ、ふふふふ。ローファス、あなた、にらみ合うのは得意でも見つめあうのは苦手なのねぇ」
「え?見つめあってませんよ?私、睨んでましたよ?」
「そうです!ユーリさんは自ら威圧に対する体制を鍛えようと頑張っていました。あ、ユーリさん、僕も威圧はユーリさんよりも上ですから、僕が相手に」
ブライス君が?
ブライス君を見る。
「えーっと、ブライス君は全然怖くないから。でもありがとう」
ブライス君はガクッと肩を落として、すぐにローファスさんの袖をつかんだ。
「ローファスさん」
ギギギとすごい勢いでブライス君がローファスさんをにらみつける。
あ、睨むってあれくらい迫力がいるんだ。私、まだまだダメだね。そりゃリリアンヌ様に見つめてると勘違いされちゃうわけだ。
「俺も、俺もローファスさん、威圧耐性を上げる訓練させてくれ!ほら、キリカも来いよ」
「うん。ローファスさん怖いけど、でもキリカ、頑張るのよ!」
と、3人がローファスさんをにらみつけて使づく。
「か、勘弁してくれ!俺は、俺は、モンスターじゃないっ!」
ローファスさんが部屋を飛び出していった。
あ、ローファスさんの明日の予定を聞けなかったな。時間があるならローファスさんもピクニックに誘いたかったんだけど。
「リリアンヌ様、お食事のご用意が整いました」
あ、そうでした。唐揚げ食べたのですっかり忘れていましたが、夕飯がまだでした。入るかな……。パンを遠慮すればおかずは食べられるかな?
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気が付きましたか?
ちょこっと長め。
だって、ローファスさんあ面白いから……
切れ目がなかった。
ローファスさんで遊ぶとおもしろ……ごにょごにょ