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「はい、どうぞ」
 と返事をすると、ドアが開き、同時に「くさいっ」と、顔をゆがめたリリアンヌ様が入ってきた。
「この匂いはなんですの?」
 ちらりとハズレMPポーションに視線を向けてからリリアンヌ様を見る。
 リリアンヌ様ははすでに補正値が付くことは知っているし、それを秘密にする契約もしているので、それだけで意味が通じたらしい。
「下がっていいわよ。夕飯の準備が整ったら呼びにきて」
 と侍女を部屋から退室させてくれた。
「あのね、唐揚げなのよ。こっちのが臭いので、こっちは臭くないやつなの」
「ハズレMPポーションを使っていますから、補正値で威圧がプラス1になりますので、他の人には食べさせられませんが……。リリアンヌ様いかがですか?臭いものは、ハズレ増血草が使ってあります。一晩は食べると匂いが残りますので、その、人と会う予定があれば食べないほうがよろしいかと……」
 言った。
 ちゃんと言うべきことは言った。
 でも、リリアンヌ様、最後まで聞いてた?
 ねぇ、聞いてた?
「はうっ」
 いきなり臭いと説明したニンニク入りのほうにかぶりつきました。
 【解毒 浄化】の呪文はまた飛ばしました。
 そして、ふらりと傾くリリアンヌ様。
「大丈夫ですか!」
 倒れ込む前に、ブライス君が背に手をまわして支える。
 美少年に支えられる美女。
 絵になるわ!眼福。いや、違う、そうでなく……。
 ブライス君がそのままリリアンヌ様をソファに横たえた。
「はーっ、またよ。また気絶してしまったわ!ユーリちゃん、いったいどういうことですの!ユーリちゃんの作る料理はどれも美味しすぎます!」
「ですね。ユーリさんの料理は本当にどれもおいしいんです」
 ブライス君がリリアンヌ様にどや顔を見せる。
「あら、もしかして……」
 リリアンヌ様がブライス君と私の顔を交互に見る。
「うちの息子……他の子供たちにも勝ち目がなさそうですわね……うーん」
 何かぶつぶつ言っています。
「臭くないほうもおいしいのよ!」
 もぐもぐと食べながらキリカちゃんがニンニクなしの唐揚げをリリアンヌ様に差し出した。
「いただきますわ」
 パクリ。そしてフラリ。
 はしっ!
 やった!リリアンヌ様を支えることができました!進歩です。私、ちょっと反応速度上がったんじゃないかな?レベルが5になったおかげ?
 え?単にリリアンヌ様のパターンになれただけ?……えっと、あれ?少しはいろいろ上がったんじゃないのかな?そういえば細かい数字とか見てないし、覚えてない。
 トントントン。
 あ、またノック。
「リリアンヌがこちらにお邪魔していると聞いたが」
 シャルム様のようです。
「はい。どうぞ」
 と、シャルム様を招き入れたものの。
「リリアンヌ!」
 そうでした。リリアンヌ様は気絶中。
「あ、いえ、違うんです。その、リリアンヌ様は……」
 毒を盛ったわけじゃないですっ。どうしよう、誤解されたら、公爵夫人に対して何をすると思われ……。
「リリアンヌは何を食べたのだ?」
 シャルム様の目がギラリ。
「あのね、リリアンヌお姉しゃまはね、唐揚げを食べたのよ。キリカも大好きなの」
 もぐもぐと食べ続けながらキリカちゃんがシャルム様に教えてあげている。
「唐揚げ?なんだそれは?」
 そこでリリアンヌ様の意識が戻った。
「あら、あなた」
「リリアンヌ、これも気絶するほどうまいのか?」
 ん?シャルム様、リリアンヌ様がおいしいもの食べて気絶したってわかってくれてました?よかった。
「私にも」
「駄目ですわ!あなたには食べさせられません!」
 リリアンヌ様が立ち上がり、シャルム様をドアの向こうへと押し出している。
「なぜだ!」
 なぜって、ハズレMPポーションとか、ハズレ増血草とか使ってあって、補正値がついたりして……。なんて言えません。
「あなたが、ユーリちゃんを養子にしては駄目と言ったからですわ!」
 は?

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