バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

荒野2

 崩落で通行止めになった通路を見回した後、目の前の道を塞いでいるモノに目を向ける。
 その大小様々な岩をどうしようかと少し考え、放置することにした。
 別に先に進んでもいいのだが、他の場所も見てみたいので、ここはこの辺りでいいだろう。時間もそんなにある訳でもないのだから。

「戻ろうか」
「畏まりました」

 プラタに一言告げてから、踵を返す。
 探索している異形種達は、まだそこまで奥には来ていないようだ。
 帰りも骨を踏まないように気を付けながら進み、洞窟の出入り口を目指す。

「ここの出入り口は複数あるの?」
「はい。しかし、ここに入る際に使用した出入り口以外は、現在塞がっております」
「そっか。でも、在るには在るんだ」
「はい。あの塞がった通路の先にも在りますが、やはりそちらも塞がっております」
「そうか。という事は、向こう側は閉鎖されているのか」
「そうで御座います。ですので、手つかずの状態となっております」
「ふむ」

 それは何というか、凄い臭いがしてそうな気がする。あの広間ですら結構な臭いだったのだから。
 探索している異形種達の動向を気にしながら、軽く洞窟内を探索しつつ進む。可哀想だし、できたら遭遇しない方がいいだろう。
 そんな事を気にしつつ、周囲にも目を向ける。行きの時に見た魔法道具以外にも、落ちている魔法道具は在る。ただ、どれも機能していない粗悪品ばかりではあるが。

「こういう魔法道具も、異形種は自分達で創っていたんだよね?」
「はい。魔法道具作製を生業としている集団が、一定以上の規模が居る集落には必ず存在しておりました」
「そうなのか。中にはそれなりに高品質の魔法道具を作製出来る者も居たと思うけれど?」
「いえ。異形種というのは数は多いのですが、魔法道具を創造する技術とは相性が悪いのか、今まででも最高で中位の魔法道具を創造出来た者が数名確認出来ただけです」
「そうなのか・・・そこも人間といい勝負といったところか」
「はい」

 人間界でも、中位以上の魔法道具はほとんど見かけない。そもそも人間界で魔法道具の製作者に会ったことがない。それほどまでに数が少ないのだ。
 それでもそこそこの品質の、比較的新しい魔法道具を所持している者は居たので、何処かに存在しているとは思うのだが。
 魔法道具も経年劣化するので、余程高品質で、尚且つ劣化を抑える魔法が組み込まれていない限りは、数年で性能が落ちるか、壊れてしまう。
 単に高品質でも数年で性能がガタ落ちするし、中位以下の魔法道具に劣化を抑制する魔法を組み込んだとしても、品質が悪い魔法道具では、そもそも容量が少ないので大した魔法が組み込めない。
 組み込む魔法はどれだけ無駄を省こうとも、性能がいい魔法を組み込もうとするとかなりの容量が必要になってくる。
 魔法道具作製で個人的に一番難しいのがそこなのだから、容易ではない。
 性能がいい魔法を組み込みたい場合は、目的を決めて、その目的に必要な性能を絞り込んでから組み込む。狭い範囲の魔法であれば、必要な容量がその分減るのだから。
 そういう訳で、基本的に魔法道具というのは数年程度しか保たないモノだ。なので、数年前まで人間界を覆っていた大結界を張っていた魔法道具は、かなり優秀な部類に入る。
 もっとも、外部から強制的に起動させられていた部分もあるので、何とも言えないが。それでも崩壊せずに長い事維持出来たのは、一種の奇跡だろう。あれから調べてみたが、やはり長期間維持出来たのが不思議なぐらいなのだから。
 そんな誰かの意思さえ感じる不思議な現象も在るには在るが、それはかなり特殊な事例なので参考にはならない。
 もしもボクが全力で魔法道具を創った場合は、百年ぐらいは保つかな? その辺りは実際にやってみないと何とも言えないが、それでもかなりの期間は維持出来るはずだ。
 現在の大結界を起動している魔法道具は手を抜いているとはいえ、品質とその維持の方はちゃんとやっているので、そうそう壊れたりはしないと思う。
 ああ話が逸れたが、そうであれば、常に魔法道具を作製していたのだろう。異形種の数を考えれば、それでも足りていなかったと思う。ここも随分と広い洞窟だから。

「まぁ、魔法道具については参考にならないけれど、発想の方は参考になるかもね。洞窟で暮らす場合に必要な魔法道具とかも判るし。そういえば、その魔法道具を作製していた者達の作業場はあったの?」
「はい。現在異形種達が探索しています」
「ああ・・・そうなんだ」

 それは残念だが、先に押さえられたのならばしょうがない。出会わないようにしているので、異形種共々作業場は放っておこう。次で探してもいいし、そもそもそこまで期待は出来ないだろうし。

「排除しますか?」
「いや、いいよ。次に行けばいいから」
「畏まりました」

 そんなやり取りをしながら洞窟内を進み、異形種達に出会うことなく外に出る。外はすっかり暗くなっており、星が夜空に瞬いている。
 洞窟に入ったのが明るい頃だったので、探索に結構時間が掛かったようだな。洞窟内ではサクサク進んでいたので、その事にちょっと驚いた。
 瞬く星空を眺めた後、周囲に目を向ける。

「・・・なるほど。確かに日が落ちてから動き出すという事か」
「はい。荒野は夜の方が過ごしやすいですので」
「そのようだね」

 現在ボクは、皮膚の少し上辺りからの温度を魔法で適温にしているので、朝晩関係なく感じる温度はほぼ一定だ。
 しかし、周囲の温度はそうはいかない。日中は気温が上がるし、夜間は逆に気温が下がる。それは人間界も荒野も同じ。
 そして、多分現在のここら辺は丁度いい温度なのだろう。そう思い魔法を解除してみると、まだやや暖かいぐらい。これは周囲に大小様々な岩がゴロゴロしているから、気温が下がりにくいのかもしれない。
 それによく見れば、視界に映る地面の大半は岩盤の上に少し土が乗っているだけのような感じがする。試しに足下の土を掘ってみると、ニ三十センチメートル掘っただけで固い岩盤に行き当たった。

「こんな中、よく地面に暮らせるだけの穴が掘れるものだ」

 掘り当てた岩盤を軽く叩きながらそう思う。いくら岩の中を拡張できると言っても、岩盤も同じようにはいかないだろう。それに外での作業はその分大変だろうし。

「この辺りは岩盤の上ではありますが、少し場所を移せば岩盤の無い部分もありますので、そこから掘っている場合がほとんどです」
「なるほど」
「それに、洞窟の中から下に掘る場合も多々見受けられます」
「えっと・・・地下室みたいな感じ?」
「その認識で問題ないかと」
「ほぅ。将来的には二つの住処が繋がる訳か」
「はい。外に出る場合は狩りか探索がほとんどですので、主食である土は大抵洞窟内で採取されています」

 水を得るにも穴を掘る必要があるようだし、そっちの方が効率的なのだろう。

「なるほどね。という事は、この洞窟にもそれがあったの?」

 背後の方へと、肩越しに目を向ける。

「はい。異形種達が調べていた区画に」
「そっか。それは仕方ないか。前回のところは?」
「塞がっていた通路の先に」
「そっか。次の場所はそこも行ければいいけれど・・・その地下部分も幽霊に虐殺されてたの?」
「はい。あの幽霊は捉える事が出来る者は残らず殲滅していきましたから」
「それはまた・・・」

 その徹底した殲滅に、思わず絶句してしまう。幽霊というのは魔力の塊なのだから、その視界の広さは如何ほどのものか。

「・・・・・・よくもまぁ、そんな幽霊相手に生き残れた異形種が居たものだ」

 荒野も砂漠も異形種の生き残りは居たのだから、それは数が多いからという事だろうか? いや、幽霊が少し見逃したという可能性も在るな。

「殲滅対象は、襲撃した巣穴内部の異形種のみでしたので、たまたま巣穴を出ていた異形種は見逃したようです」
「なるほどね」

 プラタの説明に納得しつつ、次の住処へとプラタが案内してくれる。

「次は何処?」
「少し先に在る地下の住処です」
「幽霊の襲撃後に出来たという?」
「はい。上部に大岩などの無い場所で、岩盤と岩盤の隙間のような部分に入り口がある場所です」
「へぇー。それは楽しみだけれども、勿論そこには異形種達が暮らしているんだよね?」
「はい」
「突然そこに行っても大丈夫なの?」
「こちらを害せる者は居りませんので、問題ないかと」
「・・・・・・いや、そういう問題ではないと思うのだけれども」

 そのプラタの返答に、どう返すべきかと考える。
 こちらに害が及ばないから大丈夫という訳ではない。あちらからしてみれば、家に侵入してくるようなモノなのだから・・・ん? 家というよりも集落か? それなら街中に入るようなものだから問題ないのか? ・・・・・・いや、この場合は家の方が正しいのかもしれない。大きな家で共同生活をしていたら、急に見知らぬ相手が入ってくるなど恐怖であろう。
 それに幽霊の襲撃の生き残りが居れば、その再来と捉えられかねないだろうから、やはり問題だ。

「では、如何なさいますか?」
「そうだね、住民の居ない場所は在る?」
「御座いますが・・・先ほど御覧になられたのと然程変わりませんが?」
「まぁ、魔法道具を創っていた工房とか、地下への入り口は見ていないからさ」
「左様で御座いますか。それでしたら・・・・・・そうで御座いますね」

 思案するような間を開けると、プラタは現在向かっている方角とは違う方向に顔を向ける。

「でしたら、あちらに規模は小さいですが丁度良い場所が御座います」
「それなら、そちらに案内してくれる?」
「畏まりました」
「ありがとう。ごめんね。我が儘を言って」
「いえ。ご主人様の御心なままに。その願いを叶える事も私の喜びなのですから」

 そう言ってプラタは微笑む。
 改めてそれに謝意を伝えて、次の目的地へと移動する。
 そうして空が明るくなってきた頃。次の目的地に到着した。
 そこは山のような大きいな岩。とはいえ、どちらかといえば丘・・・崖だろうか? 頂上を振り仰げば、頂きを象っている線が確認出来る。左右に目を向けても、遥か遠くに端が確認出来た。
 それでも結構な大きさなので、人間の村などすっぽりと収まるだろう。それも複数。
 中に入ると、相変わらず真っ暗。だけれど今回は中には誰も居ないようで、実に静かなものであった。





 耳に痛いほどの静寂がそこには満ちている為に、自分が歩く音がよく聞こえる。
 呼吸音さえ聞こえてくるが、それは一人分だけだ。
 暗さは暗視でどうにかなるので問題ないし、においもカビっぽいような埃っぽいような外のにおいだが、気にするほどではない。温度は魔法で適温を保っているのでよく分からないが、多分暑くはないと思う。
 周辺に何者かの気配はないが、それでも警戒はしておこう。
 ざっと周囲を調べてみたが、奥に行くほど空間が多くなっているので、ここも奥の方が広くなっている構造だろう。
 まずは入り口を通って直ぐに在る、五六人ほどが入れる空間から奥へと伸びている通路へと足を踏み入れる。
 ここまではまだ横道はないが、その通路からすぐに出た十数人が入れそうな広い空間からは、正面と左右の三方向に道が伸びているようだ。
 といっても、左右の道は次の空間に繋がっているだけの様で、本命は正面の通路。どうやらその通路の途中でも左右に道が伸びているようで、そこから左右に拡張していっているよう。
 とりあえずプラタの案内で奥へと進んでいく。
 今のところ散乱している骨の数は少ない。魔法道具も同様に少ないが、全部明かりを灯す魔法道具だ。機能している物は無かったが。
 奥に進むと、段々と広い空間に出ていく。そこまでいけば、転がっている骨の数も増えてきた。やはり広い場所で戦おうとしたのだろうか? それは分からない。
 そんな骨が沢山転がっている場所には、魔法道具も多い。機能している物はほぼ無いが、全くない訳ではないので、そのひとつを拾って調べてみる。
 それは片手では隠せないぐらいの大きさをした、円筒形のふた付きの容器であった。
 透明度の低い分厚い硝子のような材質で出来ており、足下に転がっていたが割れたりはしていない。ふたを取って中身を確認してみたが、中には何も入っていなかった。
 そんな容器に組み込まれている魔法だが、容器の中に入れたモノの劣化を防ぐ品質保存の魔法。
 他にも容器の強度を上げる魔法なども組み込まれてはいるが、全体の質はあまりよくない。品質保存の魔法のみマシだが、それでも数時間から半日程度劣化を遅らせるぐらいだろう。
 正直性能が微妙ではあるし、目的を考えれば使えない魔法道具だが、それでもこの品質保存魔法は中位に近い品質評価になるのだから、下位の質の悪い魔法道具は推して知るべしというやつだ。正直、僅かでも本当に品質保存の効果が在るだけマシだろう。
 道具自体まで評価すれば下位の中ぐらいまで評価は下がるも、道具から創造しているだけ十分だと思う。人間界では道具から創造出来る者は少なく、魔法道具と言っても、その実付加道具である場合も多い。創造した道具かどうかを見極めるのは難しいらしいからな・・・よく分からないけれど。
 しかし、既存の道具に魔法を組み込む方法も存在する。これも一応魔法道具と呼べるだろうし、道具を創造するのが難しい場合はそれでも構わないだろう。
 そう思うのだが、どうもこの方法は結構難しいらしい。魔法で創った物以外に限らず、自らが創造した物以外に魔法を組み込むというのはかなり難度が高いらしく、普通は不可能だとか。まだ自分で創造した道具に組み込んだ魔法を組み直す方が簡単らしい。
 プラタ曰く、何も魔法を掛けていない素手でドラゴンと戦うか、何も魔法を掛けていない剣でドラゴンと戦うかぐらいの違いがあるそうだが、それを聞いて、どちらも同じ事だろうと思った。
 まあそれはそれとして、左手にその拾った魔法道具を手に載せて持ち、右手で似たような物を創ってみる。そうすると、大きさは同じだが、透明度が高くはっきりと中身が見える容器が出来た。
 組み込んだ魔法も種類は同じモノだが、ボクの方は中に入れたモノが数年は維持できる代物になった。つまりは一般的な魔法道具の寿命までは維持可能という事。
 簡単に創った物だが、こうも違うものなのか。感覚的な部分が強いが、コツを掴めば意外と簡単なんだがね。

「流石はご主人様で御座います」

 そう思っていると、隣のプラタから賞賛の声が掛けられる。

「別に大した物でもないよ。これぐらい」
「・・・・・・左様で御座いますね。流石はご主人様です」

 適当に創った魔法道具を情報体にして保存すると、拾った魔法道具は元の場所に戻す。適当に創ったとはいえ折角創ったのだから、このまま消すのは勿体ないような気がしたのだ。
 その後にもう一度周囲を見回した後、他に見慣れない物はないようなので、プラタに声を掛けて先へと進む。
 通路に入り少し先に進むと、途中で曲がって横の通路に入る。

「この先には何があるの?」
「この先は魔法道具作製の工房だった場所が御座います」
「そっか。何か特別な道具でもあるの?」
「鍛冶仕事に近いかと」
「・・・そうなの?」
「ご主人様の様に、完全に創造した道具を創るのが難しい為、途中まで作った後に、それを核に創造していたようです」
「ふむ? さっき見た魔法道具は創造したやつだったけれど?」
「少数ですが創れる者も居たようですので」
「なるほど。でもそれじゃあ、容量が減らない?」
「はい。ご主人様の様に強引に書き換える事が出来るのであれば別ですが。そんな魔法道具でも貴重なのです」
「まぁ、それは分かるけれど」

 人間界でも似たようなものなのだったから納得出来る。今思い出してみても、魔法道具の値段は凄かったからな。
 とりあえず納得しつつも、そういう方法もあるのかと少し驚く。ボクにとって道具を全て創造するというのは難しくないので、そんな事は考えもしなかったな。
 人間界でも、出回っている少量の魔法道具は全て創造した物だったし、習いもしなかった。人間は組み込むよりも付加や付与の方が興味あったのかもしれない。
 腕に嵌めている腕輪に目を向けた後、こういう物でもかなり貴重なんだろうなと思う。何せ、腕輪自体に対する保護魔法が組み込まれているので、余程の事がない限りは数年で壊れるような事はない。
 基本的にボクが自作する魔法道具には、その品質を維持する保護魔法も組み込むので、余程酷使しない限りは長持ちする。これは上質な魔法道具の中でも貴重な部類だと思う。
 そんな物を手軽に創れるのだから、兄さんの知識というものは凄いな。ついでに兄さんの感覚も機能しているのだろうが、何にしても凄いものだ。
 そうして魔法道具について考えながら進み、プラタが近くの空間に入っていく。目的の工房に到着したのかもしれない。
 プラタの後に続いて通路から広い空間に入る。そこは少し前に見た広間ほどではないが、それでも結構広い。
 見渡してみれば、炉のようなものや金床など確かに鍛冶場に見えなくもないが、岩を削って造った石の棚や石の机なども在って、そこには針や糸などや、何処から持ってきたのか木材なども置いてある。腐っている物もあるが、まだ使えそうな物もあった。
 中には作りかけの魔法道具もあったりするが、全体的に雑多な印象を受ける。床に物が散乱している訳ではないが、ぱっと見た感じ適当に物を仕舞っている様に見えるからだろう。
 そんな工房内に入り、中を歩き回る。
 広さは十人程度が作業出来るぐらいか。広いが材料や大きな道具が置かれているからか、妙に狭く感じる場所だ。
 何か目新しいものは無いかと見て回るも、変わった物は無い。既に見た物か、ありふれた材料や道具ばかりが転がっている。
 期待したほどではないが、作製した魔法道具の質を見ればこんなものだろう。そもそも全て創造して魔法道具を創る場合、工房なんて要らないからな。在っても倉庫だろう。
 一頻りその工房内を見て回ると、満足して通路に出る。工房から何処か別の場所へ繋がっている訳でもなかったし。
 通路に出ると、プラタに案内されながら来た道を戻っていく。次は地下へと向かうのだろう。
 最初に左右に別れた通路のところまで戻ると、もう一方の分かれ道へと入っていく。
 今回は奥へ用は無いようだが、おそらくここも奥は崩落している。幽霊は崩落させるのを好んだのだろうか? よく分からないが、今のところ全ての場所で途中の道が塞がっているな。
 一歩ほど前を歩くプラタの後に続きながら暫く歩くと、通路の行き止まりに到着する。その通路の終点横は小さな空間に繋がっていた。

「こちらの入り口が地下へと続いております」

 通路からその空間を示したプラタにつられ、そのまま通路からその空間内を覗いてみると、数人入れるぐらいの空間に、大きな穴が開いていた。
 緩やかに傾斜のついたその穴は地下深くへと伸びていて、外からではよく分からない。ただ、魔力視では下に広大な空間があるのが判る。
 とはいえ、大岩のすぐ下に空間が拡がっているという訳ではなく、目の前の入り口から地下へと下りた後、長い通路を辿って大岩の外へと出るように進み、大岩から離れるように空間が拡張されているようだ。
 とりあえず入り口から地下へと下りることにする。
 入り口の下り坂を使って地下へと下りていくと、土の独特のにおいが充満している。土壁を観察してみると、崩れないように魔法で補強されているのが分かった。
 地下空間全体に施されているので規模は大きいが、魔法の品質としてはそこそこ。規模を考えれば十分かもしれないが、そこで暮らすことを考えれば心許ない。
 それでもまぁ、見掛けた魔法道具よりは質がいいのだが、これを常に管理・維持する役目の者達が必要になってきそうだ。
 そう思ってプラタに問い掛けると。

「そういう役割の者達は居りました」
「ああ、やっぱりか。でないとこれの維持は難しいもんね」
「はい」

 人間界でも、防壁や大結界の修繕を目的とした専門の部隊が居たほどだ。やはりこういうのはしっかり管理しないと命に関わるからな。

「それでも、この規模を維持するのは大変そうだ」
「数千単位の集団でしたので、問題はなかったかと」
「相変わらず規模が違うねぇ。でもまぁ、地下空間の広さを考えればそれぐらいは必要か。一日二日で駄目になる訳ではないけれど、何が在るか分からないからね」

 ところどころ施された魔法が弱っている箇所を見つけながら、そう答える。ここが幽霊に潰されたのであれば、あれから数年経っている訳だし、その間ここを管理していた者も居なかっただろう。
 魔法道具よりは掛けられている魔法の寿命は長いだろうが、それも術者の力量次第。あとは大切に扱えばそれだけ寿命も延びるというもの。
 しかし地下の土壁を補強する魔法など、中々に苛酷な環境だろう。それが数年放置されていたのだから、そろそろ魔法も寿命だという事だ。
 しっかりと考えられて造られているだろうから、魔法の効果が切れた後でも直ぐには崩壊しないだろうが、それでもいつまで保つか分からないな。まぁ、今崩れなければ何の問題もないのだが。
 そんな事を思いつつ、地下の通路を進んでいく。
 幅二メートルも無いその通路は一人が通るので限界だが、身体の向きを横にすればすれ違えるかもしれない。
 それでも、結構長い通路でそれは使い勝手が悪そうだ。しかもここは主食の土の採取場所なのだから、もう少し広い方がいいと思うのだが、それはボクが考える事でもないか。
 どれぐらいその狭い通路を進んだことか。一キロメートルは進んでいないと思うが、七八百メートルぐらいは進んだと思う。
 そうして進んだ先で、五六人が余裕をもって入れそうな少し広めの空間に出る。
 その広間には土の小山が隅の方に出来ていたので、奥から持ってきた土をここで一旦集積していたのだろうか?
 疑問には思ったが、他には壁に壊れた明かりの魔法道具が掛けられているだけで何も無い。なので、先へと進む事にした。

「現在のここって洞窟の外?」
「はい。丁度大岩の外に出たところです」
「そっか。なるほどね」

 先程の広間から奥へと伸びる通路を進むと、途中で横道を見つける。しかしそちらへは行かずに、真っすぐ進んでいく。
 今回は直ぐに更に広い空間に出る。先程の倍ぐらいは広さが在るだろう。
 ここも土の小山が出来ているが、そんな事よりも、ここからは正面と左右へと三方向に道が伸びている。この空間から本格的に異形種達の住処が始まっているのかな?
 何処から進もうかとプラタに相談して、まずは正面から進む事にする。
 その際にプラタから聞いたが、この地下空間は上に在った大岩よりも広いらしく、居住空間は主にこちらだったとか。
 それにしては今のところ転がっている骨を見ていないが、それも直ぐに目につくようになる。通路の先、そこに広がる空間に骨の絨毯が敷かれていたから。

「ここでも結構殺されたようだね」
「はい。むしろ、上よりもこちらで死んだ異形種の方が数は多いかと」
「そっか・・・」

 異形種がどれだけ死のうともボクには関係のない話ではあるが、それでも愉快な気分にはなれない。
 積み上がった骨の山は現実感を希薄にさせるような感じがするが、気味の悪さは変わらないので、そうそう見たい物でもないだろう。
 他に目を惹くものはないものかと思うも、在るのは見慣れた壊れている明かりの魔法道具と、採掘道具ぐらいしか無い。プラタ曰く、生活空間はまた別の方向らしいので、生活道具などがろくに見当たらない訳だ。
 骨となった異形種達が身につけていた服や道具も在るにはあるが、壊れた魔法道具以上に興味が無い物ばかり。
 そうして何かないかと探しながら進んでいると、奥の方で小さな空間に辿り着く。
 二三人しか入れなさそうなその狭い空間には、正面の壁に五十センチメートル四方に掘られた穴が目の高さに在り、その中によく分からない高さ二十センチメートルぐらいの像が安置されていた。

「あれが何か分かる?」

 それに目を向けた後、プラタの方に顔を向けて尋ねる。

「あれは異形種達が信仰する神を模した像ですね」
「神の像?」

 それは四足の獣と人っぽい何かが合わさったような見た目で、手に苗のようなものを持っている像。
 土を固めて作ったのか、神々しさとは無縁な感じ。ただ、厳かな感じが少しは出ているような気がする。

「如何いたしますか?」
「・・・戻ろうか」
「畏まりました」

 別の道もないし、その像以外は何も無い様なので、戻ることにする。神の像に興味は無いからな。
 プラタと共に来た道を戻る。その道すがら、話題も無いのでプラタに話を訊いてみる事にした。

「それでさっきの神の像だけれど、異形種達はあれに何を願っていたの?」
「崩落などが無いようにと、安全を」
「なるほど」
「それと恵みに対する感謝を」
「・・・なるほど。まぁ、食べ物と飲み水は大事だからね」

 異形種は数が多いし、周辺は敵だらけだ。そんな状況で食料が手に入るというのは、それが何であれ有難い事だろう。

「そういえば、井戸はここにはないの?」
「井戸は居住区の方に」
「そっか」

 来た道を戻りながら、途中の横道も進んでみる。何も新しい発見は無いが、実に広いものだ。
 そうして色々と調べた後、次は居住空間の方へと足を向ける。
 居住空間は、最初の方の広い空間から行けるようで、かなり前まで戻る事になった。それでも足早に戻ると、居住空間へと向かう通路を進んでいく。
 プラタと会話をしながら通路を進むと、洞窟と似たような造りの空間に出る。
 通路の左右に少し小さな空間が連なり、奥には広い空間が在るが、通路は更に奥へと続いている。
 通リ横の小さな空間は数人で寝起きしている部屋のようだが、目ぼしい物は何も無い。
 奥の広い空間は大勢が寝るための場所の様で、大勢が雑魚寝していたような形跡があった。
 そんな場所が奥に進む度に増えていき、次第にそういった空間だらけになる。
 人数が多い分、寝起きする場所の確保が大変なのだろう。それに見て回ったところ、地下は食料確保以外は寝起きをする場所が中心の様で、他は上の洞窟の方に分担しているようであった。

しおり