御子柴のヤキモチ勉強会②
火曜日 放課後 沙楽学園空き教室
今回の期末テストはメインの5教科で、テストは月曜日と火曜日の二日間によって行われる。
テストまで一週間を切った今、御子紫は昨日真宮に提案された通り結黄賊のみんなで勉強会を開こうとしていた。 そのため一度、みんなを空き教室に呼び出す。
ここはいつも昼食をとる時に毎回使っているため、ほぼ結黄賊たちが独占している状態だった。
「でー? 何だよ、話って」
放課後彼らは教室に集められ、中身が空っぽの机の上に座っている未来がそう口する。
そんな彼に対し、御子紫は仲間に向かって指を差しながら早速提案を出した。
「みんなで自由に勉強を教え合うのはズルい! だから、みんなで勉強会を開こうと思っている!」
堂々としたその言い方に、仲間たちはそれぞれの意見を返す。
「勉強会? 何それ楽しそう!」
「何のために勉強会を開くんだよ」
「みんな集まったら話しちゃって、勉強が進まなくなるんじゃない?」
「でもみんなと一緒だったらモチベーションも上がるし、勉強もはかどるでしょ」
優、夜月、北野、椎野の順に自分の思いを綴っていく。 だけど、御子紫は彼ら以上に――――今の状況に対して、焦りを感じていた。
だが御子紫は特別に成績が悪いわけではない。 普通に勉強をしたら平均並みの点数は取れるのだが、今回は違った。
時は4月まで遡り――――そこに、御子紫が焦る原因がある。 それは――――日向の事件だった。
今日向とは付かず離れずの関係を保てているのだが、最初は仲が悪く御子紫は日向によっていじめられていた。
大切な仲間である結人の悪口を言われては気分が沈み、教科書に落書きをされたり筆記用具が壊されたり体操服も隠されたり。
それらのせいで、御子紫の生活習慣が徐々に狂っていく。 授業がまもとに受けられず、勉強にも集中できなくなってしまった。
数日後、結人のおかげで日向からのいじめはなくなり、精神も少しは安定し授業に集中しようと思ったのだが、その時は既に追い付けない状態。
何とか数日の分を取り戻そうと努力はしたのだが、授業はお構いなしに進んでいき、ついに手も足も出なくなってしまった。
だから今授業で習っていることがさっぱりな御子紫は、この期末テストに焦りを感じている。 だがこうなってしまった原因である日向に対しては、今は怒っていない。
「でもいいんじゃないかな。 分からないところを教え合うことができるし、勉強会を開いて悪いことはないと思うよ」
「そうだな。 うるさくなったら、誰かが注意すればいいだけのことだし」
悠斗の意見に、未来も賛成する。 そしてみんなと話し合った結果、真宮の案は採用され勉強会を開くことになった。
「よっしゃ! これでやっと俺も、テスト勉強にやる気が出てきたぜ」
この結果に満足を得た御子紫。 だがここで、コウがある疑問を持ち出した。
「それで、誰の家で勉強会を開くんだ?」
教室や図書館で勉強するのもいいのだが、学校は閉まってしまう時間を気にしないといけないし、図書館は声を出して教え合うことができないので却下。
だから誰かの家で勉強することに、決まったのだが――――
「んー、やっぱり一番広い部屋の北野?」
「俺の家でも構わないけど、流石にこの人数で勉強をするスペースはないかなぁ・・・」
椎野の発言に申し訳なさそうな表情でそう返す北野。 そしてここで、結人がある提案を出した。
「なら二つの家に分かれて勉強をすればいいじゃんか。 この人数、一人暮らしである俺たちの家には入らないっていうことは、分かっているわけだし」
「それもそうだな」
コウがそう言うと、他の仲間も賛成し早速二つのグループに分かれることになった。 だがここで、また問題が発生する。
「綺麗に5人と5人で分けたらいいんだろー、じゃあ・・・」
「あぁ、悪い。 俺が最初に『勉強会を開こう』って提案を出した張本人だけど、俺はパス」
「は!? どうして!」
突然の真宮の発言に、御子紫は突っ込みを入れた。
「昨日も言ったろ。 俺は人に勉強を教えない主義、一人で勉強したいからって」
「人に勉強を教えない主義って、そこが納得いかねぇ!」
強めの口調でそう言い放つと、彼は小さく溜め息をつき理由を口にする。
「俺だって、今焦ってんだよ。 執事コンテストが終わった頃から、クリーブル事件は始まり出しただろ」
「「「・・・」」」
再び耳にした単語“クリアリーブル事件” その言葉に、ここにいる者は一斉に黙り込んだ。 だが彼らのことはお構いないしに、真宮は発言を続けていく。
「その事件に、俺はみんなよりも早く一番最初に関わった。 クリーブルに捕まって俺たちに協力するよう言われた時から、俺はみんなと一緒にいることが怖くなって・・・。
それと同時に学校にも行きにくくなって、授業もまともに受けられなくなったんだ。 だから俺だって、今はガチで勉強しないとマズい。
みんなで勉強するのはいいけど、俺は一人で集中したいから今回はパスさせてくれ」
「「「・・・」」」
真宮がそう言い終わってから、数秒が経つ。 こんな気まずい状況を何とかしようと、彼らがそれぞれ思考を巡らせる中――――一人の少年が、明るめの口調で言葉を発した。
「了解だよ、真宮! 真宮はクリーブル事件に一番多く関わっていて、凄く大変だったんだもんね。 でも分からないところがあったら、ちゃんと誰かに聞くんだよ?」
「ん、ありがとな」
空気を読みながらそう口にした優に、この場にいるみんなは一斉に胸を撫で下ろす。 そして緊張した空気が緩まると、御子紫は先程の話を持ち出した。
「ということは、5人と4人で分かれることになるか」
「あー、悪い。 俺もパスで」
「何でだよ!?」
次にそう言ってきた結人に対し、すかさず突っ込みを入れる御子紫。
「俺は藍梨がいるから、みんなとの勉強会はパスにさせてもらうよ。 それに、4人と4人の方が平等だろ」
結人も空気を読んでくれたのか、少し微笑みながらそう口にした。 彼らはその意見を素直に受け入れ、4人グループに分かれようとする。
「えーと、じゃあ・・・どうする? まずは頭のいい奴から分かれるか」
椎野がこの場を仕切り、話は進み始めた。
「コウと北野は分かれるってことで」
それに賛成した彼らは、何も言わずにただ頷く。
「で、次に頭がいいのは・・・夜月? あれ、でも頭のいい奴他には・・・」
この場にいる夜月を除いて頭のいい仲間を探し始めるが、残りの者の成績は同じくらいのため比較することができない。
そのことに対して何も言えなくなってしまった椎野の代わりに、未来が代弁した。
「じゃあ夜月は、北野と同じグループな。 夜月と北野のIQを足したら、やっとコウに並ぶくらいだろ」
「いや未来。 それは流石にねぇよ」
自信満々の表情を見せる未来に、コウは苦笑しながら言い返す。 だがその意見は採用され、残りのメンバーは適当に分かれることになった。
「あ、じゃあ俺は北野と夜月のグループに入る!」
そう口にしたのは――――御子紫。 その理由は簡単で、頭のいい人が二人もいたら、片方を一人占めできると思ったからだ。
その意見を聞いて、椎野が他の仲間をそれぞれ振り分ける。
「御子紫が北野のグループに入るなら、残り一人か。 未来と悠斗は一緒がいいだろ? それに優も、きっとコウと同じになりたいだろうし。
俺は北野のグループに入るから、未来と悠斗と優はコウのグループな」
椎野が残りの仲間を綺麗にまとめてくれ、何とかグループ分けを終えた。 続けて話し合った結果、北野のグループでは一番部屋の広い北野の家。
そしてコウの家に居候状態となっている優は、今の彼の家はほとんど片付いており物もあまりないため、他のメンバーは勉強する空間が広くある優の家で勉強会を開くことに決定した。
勉強会の日にその家に泊まるのかどうかは個人の自由で、ということも話し合い、全てはまとまる。
「じゃあ、早速今日から勉強会?」
「いや、明日からで! 俺は今から本屋へ行って問題集を買ってこなくちゃだから、勉強会は明日からスタートな!」
椎野の発言に、またもや自分勝手なことを言い出す御子紫。 だがその発言に否定する者はおらず、その結果――――明日から、勉強会が始まることになった。