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御子柴のヤキモチ勉強会①




7月上旬 放課後 沙楽学園1年1組


学校行事の文化祭を終え、クリアリーブル事件にも完全に終止符を打った今、沙楽学園には新たなものが訪れようとしていた。
―――あぁ、そんなこと俺は聞いていなかったぞ!
帰りのホームルームを終えた1組の教室には、今残っている生徒は少ない。 そんな中、御子紫は一人帰りの支度を急いでいた。
いつもはあまり持ち帰らない教科書を、机の中やロッカーの中から引っ張り出し、それらを全てバッグの中へ入れていく。
どうして御子紫がこんなにも焦っているのかというと――――先刻のホームルームの時、担任の先生から聞いた言葉に理由があった。





数分前 帰りのホームルーム


「はいみんな、席に着いて!」
最後の授業を終えるとすぐに帰りのホームルームが始まるため、作業する時間はあまりない。 
だがそんなにも早く帰りたいのか、受けながら帰りの支度をしている生徒がたくさんいた。 
それに対し御子紫は、特に焦る様子はなく支度も何もせずにホームルームを受ける。 そして先生からの話を聞いていると、突然あるキーワードが耳に届いてきた。

「期末テストまであと一週間です! 気を引き締めて頑張りましょう!」

―――・・・は?

“期末テスト”という単語を聞いた瞬間、反応を見せる御子紫。 そして動揺を隠し切れず、近くにいるクラスメイトに口を開いた。
「なぁ、期末テストまであと一週間って本当か?」
「本当だよ」
「え、テストがあるって知ってた?」
「知っていたよ。 一週間前にも、先生が言っていたろ?」
「・・・マジかよ」
今、期末テストまで残り一週間だと知った御子紫は――――突如、焦りを覚える。





現在


―――マズい、このままだとマズいって!
帰りの支度を何とか終えると、重たいバッグを肩にかけ走って教室から飛び出した。 そして向かった先は、隣の2組。 そこにはコウと優がいるはずだ。
―――今の俺じゃ夏休みも学校へ行く羽目になる。
―――夏休みは横浜へ帰るから、赤点は取れないっていうのに!
結黄賊のみんなは、この夏横浜へ一度帰ろうとしていた。 だからここで成績を落とすわけにはいかず、御子紫は今焦っている。 
だから結黄賊の中で一番頭のいいコウに勉強を教えてもらおうと、2組へ向かったのだが――――
「コウ! ・・・あ」
「御子紫! 一緒に勉強するー?」
「・・・」
確かに2組には、コウの姿はあった。 だけどその隣には、彼と常に行動を共にしている――――優がいる。 優は御子紫の姿を見るなり、陽気な口調でそう口にしてきた。
―――先に優に取られたか・・・ッ!
「御子紫、どうしたの? コウに勉強を教えてもらいに来たんじゃないの?」
「御子紫、一緒にやるか?」
2組の教室へ入ろうとしない御子紫に、優とコウがそう尋ねかけてくる。 だが御子紫は、この場から動けないまま。
―――俺は一対一で勉強を教えてもらわないと、絶対間に合わないから・・・!
「いや、いいよ。 他を見てくる、じゃあな」
苦笑しながらそう返し、次に3組へと向かった。 

一番頭のいいコウを取られたならば、次に頭がいい北野に頼るしかない。 そう思い、3組へ向かったのだが――――
「おー、御子紫! 一緒に勉強しようぜ」
「ッ・・・」
―――・・・またか。
既に北野は、椎野に取られていた。 だが無理もない。 優とコウは同じクラスであり、北野と椎野も同じクラスであるのだから。
―――取られる以前に、クラスが同じだった方が有利ってことかよ・・・!
「あー、俺はいいや。 また明日な!」
仲のいい北野は椎野に取られてしまい、次は4組へと向かう。 

このクラスには夜月、未来、悠斗がいる。 未来と悠斗は一緒に勉強するだろうと思い、残りの夜月に勉強を教えてもらおうとした。 
夜月は北野と同じくらい頭がよく、成績がいい。 そう思い、4組へ足を運んだのだが――――
「・・・あれ?」
4組には数人の生徒が残っているものの、夜月の姿は見当たらない。 
今いるクラスとは関係のない御子紫がきょろきょろを教室内を見渡していると、その違和感に気付いた4組の男子が声をかけてきた。
「御子紫? 誰か探してんのか?」
「夜月知らねぇ?」
「八代? 八代ならさっき、関口たちと一緒に帰っていったけど」
「え・・・」
―――マジかよ!
―――未来と悠斗は二人で勉強するんじゃなかったのか!?
夜月が既に帰ってしまって彼に頼み込めない今、最後の希望は――――真宮だけとなった。 

御子紫は、結黄賊の中でコウ、北野、夜月、真宮が頭がいいと勝手に決め付けている。 確かに彼らは成績がよく、外れてはいないのだが――――
「真宮!」
必死な形相で5組に顔を出した御子紫は、大きな声で真宮の名を呼んだ。 だが、返事は来ない。
「・・・御子紫?」
その代わり、反応してくれたのは――――教室に残っている、結人だった。 彼は今、隣にいる藍梨と一緒に勉強をしている。 
藍梨も頭がいいと聞いていたため、結人は彼女に勉強を教えてもらっているのだろうか。
「ユイは、藍梨さんに勉強を教えてもらってんの?」
素直に思った疑問をそう口にすると、結人はこう答えた。
「いや、今は俺が藍梨に勉強を教えているよ。 藍梨は英語が苦手らしくて、さっぱりって言うからさ」
「え、そうなの?」
「その代わり、俺が苦手な数学は藍梨に教えてもらってんだ。 だからまぁ、苦手な教科を互いに教え合っているって感じ」
「へぇ・・・」
“バランスがいい二人だな”と心の中で思いつつ、そのままの流れで彼に尋ねる。
「ユイ、真宮は?」
「真宮ならさっき『図書室へ行く』って言って出て行ったぞ」
「マジか、さんきゅ!」
結人から真宮の情報を得た御子紫は、礼を言いすぐに最上階にある図書室へ走って向かった。 

バッグが重たいため、全力で走ると流石の御子紫でも息が乱れる。 だが最上階へ着くと休む間もなく、図書室へ入り仲間の姿を探した。 
そして一人で勉強をしている真宮の姿が目に入ると、すぐさま彼のもとへ駆け寄る。
「真宮!」
ここは図書室のため、小声で彼の名を呼んだ。
「おぉ、御子紫か。 どうした?」
「頼む、俺に勉強を教えてくれ!」
「・・・」
目を固く瞑り、両手の平を合わせて頼み込む御子紫。 それを聞いてから数秒の間考え込んだ真宮は、そっと口を開き苦笑しながらこう答えた。
「んー・・・。 悪い、俺は人に勉強を教えない主義なんだ」
「何だよその主義! そんなのはいらない、頼むから!」
「てか、他のみんなは? コウや北野とかに頼めばいいじゃん。 俺よりも頭いいわけだし」
「コウは優に取られていて、北野はとっくに椎野に取られていた」
「交ぜてもらって3人で勉強したら?」
「奇数は嫌なんだよ! できれば一対一で教えてほしい。 俺は今、時間がないんだ」
御子紫から強い意志を感じたのか、再び彼は考え込む。 そして、ある提案を出した。
「・・・あ。 じゃあ勉強会は? コウや北野が取られて、一人になったのが悔しいんだろ。 だったらみんな平等に集まって、互いに教え合ったらどうだ?」
「勉強会、か・・・」
―――悪くはないな。
複数いれば、頭のいい仲間を一人占めできるのかもしれない。 
問題に分からないところがあれば頭のよくない仲間にも聞くことが増えるため、自分の勉強の邪魔をされなくて済む。 そう思いある決断をした。
「よし、決めた! 勉強会を開く!」
「俺の意見、即採用か」
苦笑しながらそう口にした真宮に、御子紫はハッキリとした口調でこう言い放った。
「明日の放課後みんなを集めて、勉強会開くことを提案しよう!」


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