格好の餌食
「リリア、それからセラ様。 この娘の名はリィナといいまして、私の身の回りの世話していたシスターの1人です。 ちょうど同い年ですので、遊び相手に加えていただけませんか?」
2人の仲がさらに怪しいものとなった、ニナリスは直感でそう確信した。 今ならまだ2人を無垢な少女に戻せる筈だと考えたニナリスは、ちょうど2人と同い年だったリィナを自室に呼び出すと1つの指示を与えた。
「リィナ、1つお願いが有ります。 どうやらリリアとセラ様は女性同士の愛に目覚めようとしているの。 ですがその様な愛の形はこの世界においては異常、2人は異端者の扱いを受けてしまうかもしれない。 これからあなたを2人に紹介するので、2人と一緒に遊びながら本来の男女の恋愛に興味を示す様に導いてあげてもらえますか?」
「私にそのような大役を果たせますでしょうか?」
「他の7人はあの2人よりも年も上だし、何よりも潔癖すぎる。 2人を間近で見てしまうと態度を露骨に変えて、感受性の高い年頃の2人を傷つけてしまうかもしれないわ。 だからこそ、あなたにお願いしたいの。 私がトマスという素晴らしい相手とめぐり合えた様に、2人にもきっと運命の出会いが有るという事を教えてあげてちょうだい」
ニナリスの言葉に忠実なリィナが二つ返事で応じる、一安心する彼女だったが1番肝心な事に気付いていなかった。 セラという少女は前世が元大賢者(?)の転生者であり、男女の恋愛に興味を示す筈が無いという事に……。
さらに付け加えて言うとすれば、セラという狼に獲物であるウサギをくれてやった様なものであると。
「ねえ、2人は他の子たちと一緒に遊んだりしないの?」
リィナは何気ない風をよそおって2人に尋ねてみた。
「私はセラさえ居れば、別に他の遊び相手なんていらないけど?」
「私だってリリアと一緒に居る方が楽しいもん」
ねえ~♪ と両手を繋ぎ、頬を染めながら笑顔で返す2人。
(くっ! これは思った以上に手強そうだ)
歯軋りしそうなのをガマンしているリィナの様子がおかしい事に、セラは既に気付いていた。
リリアの母親であるニナリスが、自分達をノーマルにしようとリィナをあてがったに違いないのだ。
(さすが母親、私とリリアがこれ以上いけない関係とならない様に先手を打ってきたわね。 でも、よく見るとこのリィナも結構かわいいわね。 この際だし、彼女もいただいちゃおうかな?)
ゾクッ! リィナの背筋に悪寒が走った、セラのターゲットに選ばれた事を彼女はまだ気付いていない。
それから数日、リィナはセラ達と仲良く村の中で遊んでいた。 2人が他の人が知らない場所で秘密の訓練をしている話は聞いたが、そこに連れて行かないのはまだ用心されているのだろう。
「リィナ、今日はね私たちの秘密の場所に行こうと思うの。 一緒に来る?」
(きたっ!)
とうとう、この日がやってきた。リィナは逸る気持ちを抑えながら、誘いに応じる。
「秘密の場所!? わぁ、行きたい行きたい! 私も連れて行って」
「良かった、それじゃ私の手をにぎって」
「手をにぎる?」
「そう、私と手をにぎった状態でないと他の人たちは中に入れないの」
他の人が知らない秘密を教えられて、リィナは緊張からかドキドキし始めた。 それがセラの目論見通りだと知る由も無く……。
秘密基地の中に入り、居住地区や訓練場を案内されたリィナは頭がパンクしそうになった。 水洗トイレにも面食らったし、訓練場の様々な状況で戦えるリモコンにも驚かされた。 何よりも驚かされたのは、セラとリリアの異常な訓練内容だった。
「久しぶりの訓練だけど、リリアは今日の目標はどれくらい?」
「私は7分がんばってみようと思う、セラは?」
「私は……600かな?」
「私ももっとがんばらないと! このままじゃ、セラと一緒に村から出れそうにないもの」
リィナは聞き捨てならないセリフを聞いた気がした。 父の跡を継いでシスターを目指している筈のリリアが、いつの間にか村を出るつもりになっているのだ。 しかも、セラと2人でだ。
「リィナは初めてだから、ここで見ていてね。 近づくと結構あぶないわよ」
セラがリモコンを操作した瞬間、目の前にコボルトが600匹現れた! それを合図にリリアが座って魔法障壁を張り、セラは腕にガトリングバックラーを装着した。
「な、な、何これ!?」
呆然とするリィナの目の前で、セラのガトリングバックラーが火を噴いた。
ドルルルルルル……! 次々と押し寄せるコボルト達をミンチに変えてゆくセラ、その隣ではリリアが懸命に障壁を維持している。 2人は周囲に内緒でこんな訓練を続けてきたのだ。
弾を撃ち尽くし空回りする銃身の音が静かに聞こえる中、本日の訓練は無事終了した。 セラは600匹のコボルトを殲滅し、リリアも魔法障壁を7分間維持してみせた。
「やった、やったよセラ! 私、7分間障壁を維持出来た♪」
「私もようやく少し余裕もって、コボルトを倒せる様になったかな。 でも弾が外れたりオーバーキルする部分も有るから、600相手だとやっぱり800発は弾が必要かも」
「今のセラの魔力はどれくらい?」
「う~んと、大体700ちょっとかな?」
(7、700!?)
リィナは頭を抱えそうになる、魔力700といえば大魔法使いと呼ばれる偉大な魔女達にも匹敵する強さ。 それをスキルに目覚めてから、わずか数ヶ月の少女が到達しているのだ。 すると、その時
「それじゃあ、またお風呂に入ろうか?」
「そうね、行きましょ」
セラとリリアが手を繋いで訓練場を出ようとするので、リィナも急いで後を追う。 だが、この時後を追わずに2人が戻るのを大人しく待っていれば、セラの餌食とならずに済んだかもしれない……。
「はぁ~やっぱり、特訓の後のお風呂は最高ねセラ」
「そうだね、リリアのきれいな肌を間近で見れるお風呂は格別だね♪」
特訓が終わると2人でお風呂に入るのが日課らしく、リィナも2人と一緒に浴槽に浸かっている。 セラの白く透き通るような肌と、リリアのきめ細かくスベスベした肌を交互に見比べている内に、リィナは自分の肌を見て自信を無くしそうになった。
(わたしはセラ様やリリア様と比べて肌もガサガサだし、日に焼けている。 お二人とはきっと違う世界の人間なんだわ)
思わずため息を吐いてしまうリィナ、そのチャンスを見逃すセラでは無かった。
「リィナどうしたの、ため息なんて吐いて? 何か心配事でもあるの?」
「いえ、わたしはお二人の様にきれいな肌では無いので・・・」
「なら、これから洗濯した服が乾くまでベッドでおやすみする予定なんだけど、リィナも一緒にこない? その悩みを解決する方法が実はあるの」
「本当ですか!? ぜひ、教えてください」
こうしてリィナは狼(セラ)の巣穴の中に、自ら入っていってしまうのだった。
お風呂を出てからセラの部屋に着くまで、セラとリリアが裸のままでいる事にリィナは疑問を抱いた。 何故か新しいバスタオルを用意しておくのも、何だかおかしい。 しかし1人だけバスタオルを羽織る訳にもいかず、リィナも2人にならい裸の状態で後に続いた。
「ここが私の部屋よ、中に入ったらじっくりと教えてあげる♪」
先に入るセラとリリア、薄暗い部屋の奥にはベッドが置かれていた。 リィナが入ると、ドアの鍵が自動的に掛けられる。
「ここで一体何を……って2人とも何をしているのですか!?」
リィナの目の前で繰り広げられていたこと、それはベッドの上で抱き合いながらキスをしているセラとリリアの姿だった。
「やめなさい! そのような事をしては駄目です!!」
「どうして駄目なの? リリアのお母さんから言われたから?」
セラに気付かれていた事を悟ったリィナは、急いでこの部屋から出ようとする。 しかしドアには鍵が掛けられ、開ける事が出来ない。
ドンドンドン、ドンドンドン!!
「誰か! 誰か、ここから出して!!」
リィナは我を忘れてドアを叩き外に居る人間を呼ぼうと試みるが、この中に居るのは部屋の中に居る3人だけ。 助けが来る筈も無い。
「うふふ、捕まえた♪」
リィナを背後からセラが抱きしめた、振り解こうとしたがセラの方の力が強くて逆にベッドに引きずり込まれてしまう。
「お願い、もう許して……」
「だ~め、これからリィナにも女の子同士の良さを教えてあ・げ・る♪」
言い終わると同時にリィナの唇を塞ぐセラ、そこにリリアも加わってリィナの心と身体に女の子同士の良さをゆっくりと教えてゆく……。 それから2時間後、夢中になってセラやリリアとキスをするリィナの姿があった。
「どう、リィナ。 女の子同士ってのも素晴らしいものでしょ?」
「はい、セラ様♪ わたしもぜひ末席に加えてください」
「なら、ここで何が有ったのかリリアのお母さんはもちろん他の人にも教えたりしちゃダメよ。 教えたりしたら、もうここへは連れてきてあげない」
リィナが目を潤ませながら約束してくれたので、セラは彼女の1人にする事に成功したと確信を持てた。 念の為もう1戦だけ交えると、3人でまたお風呂に入り汗まみれの身体を洗い流してからそれぞれの家に帰るのだった。