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それぞれの思惑3

 見回りは退屈なものだ。しかし休日の後なので、研究の反芻や考察それを発展させた思考など、考えることが色々あるので、思考の上ではそこまで退屈なものではない。それでも無駄な時間だと思ってはいるが。
 見回りはもう少し規模を縮小してもいいのではないだろうか? それか見回りに従事する兵士の数を増やすとかさ。その分、生徒を平原の警邏に回せばいい訳だし・・・平原に出る日数が増えないかな。
 ああ、今はそんな考えても意味のない事を考えるよりも、研究について考えよう。
 クリスタロスさんのところで研究したおかげで、様々な部分で性能が上昇した。現状では同格よりやや上までなら何とか通じそうだ。勿論少し離れた位置でしか魔法を構築出来ないのだが。
 その辺りはもう少し研究していけば何か答えが出るだろうから、そこは今は措いておく。
 現在は、目下の目標である構築速度と威力の向上に集中している。威力を上昇させれば防御魔法を破れるかもしれないからな。目標は強引に貫通する事か。
 でもまぁ、身体のすぐ近くを護る防御魔法は強固なので、生半可な威力では強引に打ち破ることは出来ない。それに、防御魔法を抜けてもその分威力が弱くなっているので、相手を倒すまでには至らない可能性がある。そういうことを考えると、威力だけ上げてもしょうがないんだよな。
 とはいえ、威力を上げるのは間違っていないので、今はそれでいい。もっとも、優先順位は構築速度の上昇の方が上だが。
 見回りをしながらそれについて考えていく。そのおかげで見回りは直ぐに終わったものの、進展は僅か。それでも十分進めただろう。
 そんなことを考えながら東西の見回りを終えて、討伐の為に平原に出る。上手くいけば今日で討伐数を達成できるが、もう一回ぐらいは見ておいた方がいいかもな。
 時間がきて平原に出るが、過度な期待は止めておこう。
 今回の予定は三日。平原に出たところで早速南下していく。
 どこの平原も生徒の入れ替わりがよく行われるので様々な人間を観察できるが、突出した生徒というのは今のところ確認出来ていない。そういう意味では、最強位というのは納得出来る存在だと思う。少なくともジャニュ姉さんは周囲の人間よりは突出した存在であったのは確かだ。
 他の最強位も見てみればその辺りももう少し分かるが、クル・デーレ・フィーリャ・ドゥーカ・エローエ様も周囲よりは強かったし、やはり最強位という名は伊達ではないのだろう。
 とはいえ、クル・デーレ・フィーリャ・ドゥーカ・エローエ様の話し振りから推察するに、どうやら文字通りその国で最も強い者という訳ではないのだろうが、その辺りは大人の事情というやつか。それでも限りなく頂点に近いみたいだけれど。

「うーん・・・」

 ボクは常に身近に兄さんという規格外の存在を感じていたし、それからも何だかんだとプラタやシトリー何て上位存在との出会いもあり、他にもドラゴンをはじめ、天使にエルフに精霊。それに魔族だって確認した訳で、どれも人間界ではお伽噺の類いといっても過言ではない種族達ばかりだ。他にも色々と出会いはしたが、極めつけは死の支配者。兄さんが生み出した新たな種族で、圧倒的な強者。
 そういった存在達と数年の内に立て続けに出会ってしまっては、人間界に居ても周囲と感覚が異なってしまうのはしょうがない事だろう。研究での基準もいつの間にかそういった上位存在を基準に考えてしまっていたし。

「振り返ってみると、同等以上の存在って結構遭遇するものなんだな・・・困ったものだ」

 上を目指すのはいい事だが、上過ぎるのも考えもの。身の丈に合った尺度でもって計らねば、あまりにもきつくて何も成せない。それはここ最近で骨身に染みて理解した。
 とりあえず今のボクの身の丈では、ジーン殿辺りのドラゴンが丁度いい。背伸びすればプラタやシトリーだが、まだ今は自重しよう。研究が進めば二人を目標にしつつ、協力を要請するのもいいな。
 そういう訳で、現状は記憶の中に在るジーン殿の強さを参考に研究を行っている。まぁ、ジーン殿では既にボクの相手にならない可能性の方が高いのだが、ジーン殿とプラタやシトリーの間ぐらいの強さを持つ相手に心当たりがないのだ。
 可能性としてはクリスタロスさんだろうか。一度魔法を見せてもらっただけで戦っているところを見たことはないので、何とも言えないが。
 他に可能性がある者として、フェンとセルパンか。あの二人もどれぐらい強いのか分からないんだよな。フェンに関しては、西の森で魔族相手に少し見せてもらったが、圧倒的過ぎて強い事は分かっても、どれぐらい強いのかまでは結局分からなかった。
 なので、現状想定する相手に困っていたりする。ここはもう、プラタやシトリーを想定するべきだろうか? でも考えてみれば、ボクはあの二人の強さも実はよく知らないんだよな。
 やはり今のところは鍛錬の仮想相手はジーン殿として、次点でフェンとセルパン。あの二人であれば、割と気軽に鍛錬の相手を頼めそうだし。
 次にクリスタロスさんのところへ行ったら頼んでみようかな。どちらかだけでも十分いい鍛錬が出来そうだものな。
 うん。そうしよう。それまでにもう少し魔法の完成度を上げておかないと、今のままでは恥ずかしくて頼むに頼めなくなってしまう。





「狼煙は無事に上がり、これで宴は開始されました」

 闇のみが支配する空間で、身体を全身鎧の様なモノで覆われている男性が片膝をついて報告する。

「・・・・・・はぁ」
「あははははっ!」

 その報告を受けた玉座に腰掛けている一人は、男性の方にやや呆れたような目を向けた後に、思案げにため息を吐く。
 玉座の対面に立っていたもう一人は、隣で片膝をついて報告を行った男性を指差して大笑いした。

「な、何かおかしかったでしょうか!?」

 そんな二人の反応に、男性はたじろぎながら問い掛ける。
 男性の問いを受けると、大笑いしていた周囲の闇より真っ黒な全身をした人型のそれは、苦労するようにして笑いを抑えると、一息ついて口を開いた。

「宴はとうに始まっている。何を今更言っているんだい?」
「貴方でそんな認識ですか。そもそも、最初から宴は始まっているのですよ。今回の新たな宴も準備段階で既に始まっていたのですよ」

 馬鹿にするような声音の後に、諭すような声音でもう一人の美しい女性が説明を行う。

「そうなのですか?」
「ええ。そもそも今回の最大の目的は、我が君に楽しんで頂く事。そして、我が君は準備段階から気づいているのですから、始まっているという事なのですよ。もっとも、貴方の認識も間違ってはいないのですが」
「そうだね。今回のは始まりをお伝えする意味があるからね。でも、裏では既に始まってたけどね」
「裏、ですか?」

 全身真っ黒の女性の言葉に、男性は困惑気味に首を捻る。

「まぁ、水面下で色々とね」

 それだけ告げるも、影のように黒い女性は細かい事までは教えてくれない。

「それはそうと、巨人の方は今のままでいいのかい?」
「進捗はどうです?」
「もうすぐ素材は揃うかな」
「では、引き続き監視しておいてください」
「了解。しかし、世界の一角は簡単に落ちたものだ」
「既に役目を終えた遺物ですからね。むしろ退場が遅いぐらいですよ」
「まあね」
「それに、あのトカゲは大した役割を担ってはいなかったですから」
「あの三人の中では、妖精以外は大して仕事をしていなかったと思うけれど?」
「そうですね。実際に世界を支えていたのは、先に居た三人でしたから」
「それも君が退場させたけどね。ここの元主も今は下に居るし」

 足下に目を向けた黒の女性は、軽く肩を竦めるような仕草を見せて顔を戻す。

「元に戻すのに苦労したんですよ。今度は支配される側も経験して頂かないと」

 美しい女性はくすりと色っぽく微笑むも、その目は愉悦の色を湛えている。

「それで、あれらはどう使う予定で?」
「攻め手は十分ですからね。引き続き、下で三人仲良く仕事に従事してもらいますよ」
「そう・・・折角強くなったというのに」
「それでも中堅どころですよ」
「丁度雑用には持って来いの強さなのだが・・・」
「ですから、下で雑用ですよ」
「まぁ、いいけれど」

 黒の女性は小さく息をつくと、近くに椅子を創造してそれに腰掛けた。
 そのまま深く腰掛けると、黒の女性は腕を組んで黙する。

「さて、こちらはこちらで仕事をしますか」

 黒の女性が静かになったのを確認した美しい女性は、その隣で片膝をついたままの男性に目を向けて、そう告げた。

「はっ。次は魔族にいたしますか? それとも天使でしょうか?」

 女性に目を向けられた男性は、畏まった声音で問い掛ける。
 その男性の言葉に、女性は思案げに目線を僅かに逸らすも、直ぐに戻す。

「そうですね・・・まずは魔族といきたいところですが、一時的にとはいえ、間隙を縫って勢力を大きく拡げた褒美に延命させてあげましょう」
「では、天使を先に?」

 男性の確認の問いに、しかし女性は首を横に振る。

「いいえ。そんな弱小勢力は後回しでいいでしょう」
「では?」
「次の標的は迷宮都市。これは世界に対しての宣戦布告。いえ、終焉と創造を告げる鐘なのですから、盛大に鳴らしてあげましょう」
「はっ! 畏まりました!」

 恭しく頭を下げた男性に、女性は気分よく頷く。

「では、準備は任せましたよ。急がずともよいので、しっかりと準備なさい」
「御任せ下さい」
「ええ、任せました。さ、これからゆるりと世界と遊びましょう」





 討伐は上手くいった。数の多い魔物の群れと幾度か出会えたおかげで、予想以上の戦果を出して終了する。
 そこまではよかったのだが、それで終わりとはならなかった。

「・・・・・・はぁ。まさかなー、後四体足りないとはねぇ」

 討伐任務が終わった夜。宿舎にあるボクに割り当てられた部屋のベッドの上で、大きく息を吐いた。理由は今し方口にした通り、討伐規定数に少し足りなかったから。
 あと一つ群れに遭遇できればそれで達成出来たような数。
 しかし、あと少しで達成でもジーニアス魔法学園が大目に見るようなことはないし、駐屯地側も誤魔化してはくれない。
 残念ながら、もう一度平原に出て討伐任務に就かなければならない訳だ。面倒な。
 ギリギリまで探したんだけどな・・・。はぁ。
 もうこうなってはふて寝するしかないか。明日はクリスタロスさんのところへ行けるし、進級までの目処がついたと思う事にしよう。


 翌日、まだ暗いなか目を覚ます。
 今日はクリスタロスさんのところに向かうので、目覚めもいい。
 部屋に誰が居るわけでもないが、朝の支度を済ませると、静かに上段のベッドから降りて部屋を出る。
 そのまま食堂に寄ってから食事を済ませると、宿舎を出て駐屯地の外を目指す。
 宿舎から駐屯地の外、街の方面に在る門を目指して足早に駐屯地内を進んでいく。
 まだ暗い内に宿舎を出たが、駐屯地の門に到着したのは朝になってから。周囲はすっかり明るくなってしまっている。
 門番の兵士に身分証明の生徒手帳を提示してから駐屯地の外に出る。今回もいつも通り何も言われずに通過出来た。
 駐屯地の外に出てから暫く道を外れて歩くと、人気のない林に到着する。
 その中に入り、周囲に誰もいないのを確認した後、転移装置を起動させてクリスタロスさんのところに転移する。

「いらっしゃいませ。ジュライさん」

 視界が戻るなか、いつもの優しい声音が耳に届き、戻った視界にはクリスタロスさんの穏やかな笑みが映った。

「今日もお世話になります」

 それに笑みを浮かべて返す。
 そのまま軽く言葉を交わすと、場所を移してそこに在る椅子に座る。
 クリスタロスさんが用意してくれたお茶を片手に、前回から今までの話を語る。似たような話ばかりだが、クリスタロスさんは楽しそうに耳を傾けていく。
 それでいて討伐数が足りなかった話では、同じように悲しそうな残念そうな感じで聞いてくれるので、ついつい饒舌に語ってしまう。
 同じような話なので端折ってもよかったのだが、そんな調子でこちらの心情に寄り添って聞いてくれるので、端折る予定の場所も思わず語ってしまうのだ。本当にクリスタロスさんは聞き上手だな。
 そうして話をして、昼前に話を終える。思ったよりも長く語ってしまったが、まあいいか。
 訓練所を借りて場所を移す。
 訓練所に到着すると、ますは罠の様子を確認する。
 罠は思った以上に出来がいいのか、品質の保持がしっかりと出来ている。相変わらず侵食はあるが、そんなの微々たるものだ。
 しかし、組み込んでいる魔法が初期の試作型なので、大したものではない。確か発現するのは氷の槍だったか、氷の柱だったかの記憶があるな。
 一応組み込んだ魔法を調べる事は出来るが、わざわざそんな事をする必要はないだろう。
 罠の様子の確認が済んだところで、離れて研究に移る。見回りや討伐中に考えていたことを試していかないと。
 その為の準備を行っていく。
 今回は土人形を複数体間隔を大きく空けて設置する。それだけではなく、念の為に周囲に結界を反転させて展開していく。今回は広く訓練所を使う予定なので、派手になるかもしれないからな。
 的の準備と周囲の保護が完了したところで、早速実地を兼ねた研究の始まりだ。





 人間界からかなり遠く離れた場所に広がる平原。そこを走る百ほどの者達が居た。
 その集団を構成する者達は種族も性別も様々で、耳が頭の上に付いている者も居れば、角が生えている者も居る。肌が青い者も居れば、身長が三メートルほどある者だって居る。かと思えば、身長が一メートルも満たない者が混ざっていたり、腕の数が四本あったりと個性豊か。
 そんな一団は、平原をかなりの速度で規則正しく走って移動している。しかしよく見れば、周囲を過剰なまでに気にしているのが判る。その姿はまるで、何かから逃げている様。

「はぁ、はぁ、はぁ。周囲に敵影はあるか!?」
「敵影無し!」
「に、逃げ切ったのでしょうか!?」
「分からん。だが、油断はするな!」

 集団の長と思しき、顔中に沢山の目が付いている男が、叱咤するように他の者に語り掛ける。
 男の言葉を聞いた他の者達も緊張した面持ちのまま頷き、周囲の警戒を継続する。
 しかしそこに。

「そうだねー」

 間延びするような、少女の可愛らしくも暢気な声が届く。

「「「!!!」」」

 そのやけに通る声が聞こえた瞬間、集団は一層緊張した空気になり、戦闘態勢のまま声が聞こえた方へと振り返る。

「あははは!! 味はいまいちだなー!」

 皆が振り返った先には、無邪気に笑いながら仲間を取り込んでは瞬時に溶かして吸収している少女の姿。
 その少女は、手近な者を端から捕えては、一瞬形を変えて喰らっていく。
 集団は恐怖に顔を歪めながらも果敢に少女に攻撃していくが、魔法攻撃も物理攻撃も一切の攻撃を少女は受け付けない。
 少女はそんな者達を嘲笑う様に、周囲の攻撃を気にする事なく次々と手近な者を捕食していく。
 徐々に減っていく集団。その数が半数を割ったところで、遂には恐怖に負けた逃走者が現れ始める。しかし少女は一切の逃走を許さず、逃げた者を逃げた先から見えざる手で拘束していく。

「ははっ! 逃がさないよ?」

 無邪気な笑みの中で冷酷な光を瞳に宿した少女は、次々と集団を捕食していき、遂には全てを喰らい尽くしてしまう。

「はぁ。やはりこれでもまだ足りない。昔はこれでもよかったのだけれど、あの味を知ってしまったらな・・・」

 平原に一人立つ少女は、遠くに目を向けて物憂げに息を吐く。

「・・・もっと強くならなければな。その為にも、やはりあの魔力が必要か。うーーん。後で戻ってねだってみるかな」

 少女は悩ましげに声を出すと、次の目的地を目指して移動を開始した。





 クリスタロスさんのところでの研究は、中々に有意義なものになった。
 威力を中心に構築速度も上昇したので、普通に魔法を発現させるよりは劣るも、それでもそれに準じるぐらいの完成度になっている。
 隠密性に関してはまだまだ改善の余地が在るも、最初の頃に比べればかなりの進歩といえよう。この辺りであれば実戦でも余裕で使える完成度なので、何も問題はない。
 人間界の外についてはあまり詳しくはないのだが、ボクの知る限り、現状の魔法でも森の外までは問題なく行けるはず。南の森のエルフに関してははっきりとは分からないものの、多分通用する。
 プラタ曰く、南のエルフの強さはドラゴン並らしいが、それは森の中に引き入れた状態で集団で戦った場合での評価なので、単体では西のエルフよりは強いぐらいだろう。
 それに、評価通りの好条件が揃った状況などありえないので、普通に考えれば南の森のエルフはドラゴンよりも弱いという事になる。それでも強いのだろうが、ボクの予想では貫通魔法は十分通用するとした訳だ。
 プラタに相談すればより正確に判ると思うが、今はまだいい。以前平原で使ったので既に把握しているのだろうが、それでももう少し完成するまでは秘密にしておく予定。
 それにしても、魔法も結構仕上がってきたので、そろそろ魔力での攻撃方法も研究していかないとな。
 訓練所でフェンに少し相手してもらったが、貫通魔法はろくに効きはしなかった。それぐらい上は果てしないのだから、ここで立ち止まる訳にはいかない。
 見回りの最中は変わらず脳内で研究をしていく。ボクの周囲には常に欺騙魔法が展開されているので、ここで貫通魔法を使用したところで誰にも気づかれないのだが、何があるか分からないのでそれは自重する。完全に制御しているので魔法が暴発する可能性はほぼ無いが、全くない訳ではないからな。新しい魔法だから特に注意は必要だ。
 それでもまぁ、遠隔で魔力を操作するぐらいはいいだろう。魔力操作に慣れることも重要な事だ。いつかこの魔力を攻撃に転化したいとも思っている訳だし。
 いや、魔力をそのまま攻撃に出来なければ、これは完成ではないし上は目指せないのだが。
 ともかく、今はそれはいい。今は現状の魔法の完成が先だ。魔力を攻撃に転化させるにしても、扱いには長けていた方がいいからね。
 視界は常に取っているので、顔を向けて見回りを恰好だけ行う。そうしながら、人の居ない方向で魔力を操作していく。
 魔力を操作しながら、頭の片隅で研究を行う。といっても、現状の魔法の試行錯誤が主なので、そこまで難しく考える訳ではない。
 魔力操作も、魔力を誘導して思い通りに流してみながら、それで魔力が周囲に霧散しないようにする方法を考える。
 現状では、外側を自分の魔力で固めて壁を作るようにして囲う方法しか考えついていないが、これは自分に近い場所だから出来る事。とはいえ遠距離でも不可能ではない。現在の貫通魔法の小分けする段階で形を与えるのは、これの応用だからな。そちらは壁の厚みがあまりないが。
 そうして魔力で遊びながら見回りを行っていく。魔力操作自体はそれなりに出来ているのだが、そのまま攻撃する方法は未だに思い浮かばない。
 詰め所に泊まって今日の見回りが終わろうとも答えは出ない。これに関しては別に焦ってはいないので問題はないのだが。
 静かな夜に窓の外を眺めながら、魔力について考える。幾度も考えているが、知っている情報が変わらないのだから、導き出される結論は変わらないというのに。

「・・・はぁ」

 魔力を攻撃に転化するのはさておき、遠距離操作での魔法の構築も手慣れてきたし、その魔法の威力も中々に高い。それでも上はまだまだ高い。だからこそ、ふと考えてしまう。今の自分はどれだけ強いのだろうかと。
 頭の中に浮かぶ死の支配者やプラタ達の姿。彼女らにはまだ遠く及ばないものの、それでもそこまで弱いとは思えない。少なくとも森の外に出てもそれなりにやっていけるとは思うんだよな。
 その辺りの基準が曖昧な為に、研究で想定する相手の強さが上手く設定出来ないでいる。困ったものだが、この辺りは後でプラタに訊いてみるとするか。
 それにしても、魔力についてもプラタに尋ねるのが一番だし、何でもプラタ頼みになってしまう。何かしらの情報源を得たいが、やはり外に出ないことにはどうにもならないか。人間界で得られる情報は限られているし。
 もしくは、今のような中途半端な世界の眼ではなく、本格的に世界の眼を修得するか。そうすれば、世界についてもっと理解出来るようになる訳だし、そうなればプラタに頼る回数も減ると思うんだよな。流石に何かにつけて頼り過ぎているから。
 その想いは前からあったが、未だに解決していない。再びこんな考えが浮かんだのだから、そろそろ真面目に考える時期に来ているのかもしれない。
 世界の眼。世界に満ちている魔力を介して情報を収集する方法らしいが、何も制限しなければ、影響が及ぶ範囲内から無差別に情報を収集する為に膨大な情報量が流れ込んできてしまい、人間の脳では到底処理が追い付かない。というよりも、全てを受け入れてしまうと、簡単に壊れてしまえる代物だ。
 それだけの代物なだけに、ボクは制限を掛けてやっとというほど。その制限の為に広域の情報収集は不可能となり、収集できる情報も範囲が狭い。結果として現状がある訳で・・・取集できる範囲と距離を考えれば、森の外でもかなり狭い範囲なりそうだな。
 自分の能力について考えてみて、大したことないのにがっかりする。もう少し融通が利くかと思ったのだが。
 まぁ、現在の限界が判っただけ良しとするか。これからは世界の眼をもっと使っていかないとな。
 そうして色々と思う事はあるものの、再度貫通魔法について思考を始めた。その頃には空が白み始めていたので、直に部隊のみんなも起きてくるだろう。
 外の様子を眺めながら、頭の片隅でそんな事を考える。しかし、傍から見れば外を眺めながら思案に耽っているようにしか見えないのだから、このままでも問題はない。
 それから程なくして、予想通りに奥から部隊員達が起きてきたのを感知する。あとは朝食を食べて見回りを再開するだけだ。





 暇な時間というのは長く感じるものだ。どこかで読んだ話だと、どうも集中出来ずに注意が散漫になるからそう感じるらしい。つまりは、早く時を過ごすには、何かしらに集中してしまえばいいという事。
 ボクの場合はそれが研究なのだが、おかげで東西の見回りは退屈ながらも直ぐに過ぎていった。
 そして、遂にやってきました討伐の日! 後たったの四体討伐するだけで規定数に到達でき、尚且つ進級まで出来るようになるのだ!
 四体であれば、討伐規定数に一日で到達出来るほどの楽勝っぷりである。・・・で、あるのだが。

「・・・・・・何で今回に限って討伐任務の日数が四日なのかね。前回が三日ではなく四日だったなら終わっていたというのに・・・」

 平原に出て南下しながら、今回の討伐任務の日数についての不満を独り()つ。
 本当に後一日あれば十分だったのだ。何なら数時間でもいい。
 とはいえ、もう過ぎた事。たとえ討伐任務が始まって二時間と掛からずに残りの四体どころか、その倍の八体の討伐があっさりと完了したとしても、だ。

「・・・・・・・・・」

 色々思うところはあるが、これで討伐規定数は達成されたのだ、喜ばしい事だ。もっとも、討伐規定数が達成されたからさあ帰ろう。とはいかないのが悲しいところではあるが。
 後三日以上。今日は始まったばかりなので、実質まだ四日。もう戦う必要はないが、かといって平原でやることも無いので、実地試験という事で、このまま南下して敵性生物の討伐を継続するとしよう。
 そう思ったのが昼前ぐらいだったか。そして現在が昼過ぎ。分かっていた事ではある。分かっていたのだが、あまりにも歯ごたえが無さ過ぎる。
 以前試した時でも拍子抜けするほど呆気なかったが、あれから更に強化された貫通魔法は、最早敵無しだった。なにせ、気づかれずに容易く相手を絶命させられるのだから。
 それに、監督役さえ判っていない。規定討伐数は達成されているので問題ないが、これもちゃんと数に入っているのか少々疑問だ。まぁ、状況を鑑みれば判るだろうが・・・多分。遠方で倒されてるから無理かな?
 とはいえ、もうそんな事は気にする必要は無いので、四日間を使って実地で改良していこう。既に実戦で使える段階まで仕上がっててよかったよ。一応最初から平原であれば実戦投入可能だったような気もするが。
 そうして討伐任務の四日間を実戦での貫通魔法の改良に当てたおかげで、研究も僅かに前進出来た。これからもどんどん改良していかないとな。
 こうして討伐規定数も達成できたので、平原から帰ってくると、そのままの足で南門駐屯地の責任者に報告を済ませる。
 後は翌日にジーニアス魔法学園へ戻る為の列車に乗るだけ。そして、ジーニアス魔法学園で進級の手続きをしたら六年生になるので、もうすぐだ。
 進級する事について、わくわくしたり達成感を抱くよりも、精神的な疲労感の方が強い。なので、さっさと宿舎に戻って寝るとしよう。
 報告を済ませて宿舎に戻ったのが夜中。道中で遠雷のような音がしたが、遠方の雲も特に厚くないようなので、雨が降るような事はないだろう。
 そのまま着替えを済ませて眠って、まだ暗い内に目を覚ました。
 支度を済ませて食堂に寄ると、その後に宿舎を出て駐屯地の外を目指す。
 足早に駐屯地内を進んで外に出た後、駅舎へと歩みを進める。
 そうして駅舎に到着したのは、朝と言えるかどうか微妙な時間。列車は昼前に来る予定なので時間的には問題ないが、それにしても相変わらず遠いものだ。
 駅の構内に設置されている長椅子に腰掛けのんびり列車を待つ。他にもう二組パーティーが居るが、特に話し掛ける事なく静かに過ごせた。
 久々に見た長い車列の列車が駅舎に入ってきた後、二組のパーティーと共にそれに乗り込み、割り当てられた個室に入る。
 相変わらず個室の中にはプラタとシトリーが既に待機していて、中に入ったボクに頭を下げる。
 その後でフェンとセルパンも影から出てきて、五人で向かい合わせに設置されている長椅子に腰掛けた。
 そのまま軽く挨拶みたいな雑談を交わした後で、プラタがこちらに向き直る。いや、元々ずっとこちらを見ているのだが、改めて向き直ったような感じがしたのだ。気のせいかもしれないが。
 どうかしたのだろうかと少し緊張してプラタの言葉を待つと、プラタが抑揚の乏しいいつもの声音で報告してきた。

「死の支配者側の攻撃により、迷宮都市が壊滅致しました」

しおり