魔界
そんな満の表情を見て、雪はドキッとした。
その顔は、洋介が雪に「母さんはもう助からないんだ」と言った時の何とも言えない表情と
同じだったからだ。
思わず雪は言う。
「あ、あの、これ拾ってくれてありがとうございます」
と雪は頭を下げた。
満には初めての光景だった。
なせならば、誰も彼をまともに見たやつなどいなかったからだ。そう、一人を除いては。
満は思わず雪を見て、ドキッとした。
何か今までとは違う感じがした。
満は言う。
「ああ、よかったね、じゃあ」と言って去っていった。
雪は言う。
「あの人、何であんなに悲しそうな眼をしているんだろう」
真由美は言う。
「まあね、噂なんてさ、ろくなものじゃないって今、気が付いたよ」
といって、「じゃあ、あたしらも帰ろうか」と言った。
そして二人は帰った。
その頃、雪の部屋のベットで、横たわって寝ていた、ククトに異変が起きていた。
誰かが、ククトを呼んでいた。
「ククト、ククトよ、聞こえるか」
雪に拾われたククトはただの猫ではなかった。
彼はもともと魔界に存在していた、72の魔神のひとりビレトの飼っていた猫だった。
ククトはある目的で、人間の世界に転生していた。それは世界の運命をかけて戦うであろう
ソロモンの転生体、すなわち魔界女王の護衛であった。
転生する際、何かわからないが別の人物に拾われてしまうというトラブルが発生した。
ククトが、覚醒したのは最近であった。
ククトはその力を使って、一度だけ、雪が悩んでいるさい、メッセージをおくっていた。
もっとも雪は、疲れているのだろうか、とおもったようだが・・・・・・
テレパシーの主は言う。
「ククト、ククトよ」
ククトはテレパシーを返した。
「誰だ、いったい、名を名をれ・・・・・・」
テレパシーの主は言う。
「シュタイナーだ、ククトよ。それよりどうしたというのだ、なぜ、その少女のところにい
る」
ククトは返した。
「シュナイターか、私にもわからぬ、どうやら手違いが生じたようだ・・・・・・」
シュタイナーは言う。
「手違いとは・・・・・・」
ククトは返した。
「本来私を拾うはずだった、魔界女王である海老原カオルより先にどうやら彼女が来てしまっ
たらしい・・・・・・」