結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉙
空地
―――・・・来る!
結黄賊が集まるように指定された場所――――立川にある一つの空地では、抗争が始まろうとしていた。 7人しかいない結黄賊に対し、約4倍もの人数が一気に押し寄せてくる。
そんな彼らの襲撃に、結黄賊は皆一様にして身を構えるが――――ふと、御子紫は思った。
―――あれ・・・そういや、今回は誰が先にやられたらいいんだ?
突然そんなくだらないことが、脳裏を横切る。
別にくだらなくはないが、結黄賊のルールとして“相手の攻撃を受けてから喧嘩開始”というものがあるため、それを当然のように守ろうとしているだけだった。
だから誰かが先に一発でも殴られたらそれだけでいいのだが、御子紫はそのことに関して戸惑う。
―――ユイが、いねぇ・・・!
そう――――いつもなら結人が、最初の一発目を受ける身となっていた。 だが今は、その肝心な彼はここにいない。
―――後輩にその役目をやらせんのは、先輩として最悪だもんな。
―――だったら・・・しょうがねぇ。
―――俺がユイの代わりになってやるか!
心に決め、意を決し仲間よりも一歩前へ出る。 その行為と同時に――――結黄賊の中の一人が、御子紫と全く同じ動きをした。
「・・・ッ、コウ!」
それがコウだと分かると、感情的になって彼に言葉をぶつけ始める。
「コウは駄目だ! 下がっていろ!」
「どうしてだよ?」
「コウがやられて少しでも支障が出ると、俺たちは危ないんだ!」
「俺は大丈夫だから」
「だから大丈夫じゃねぇ!」
続けて、御子紫は自分の意見を放っていく。
「俺が先にやられる。 だからコウは攻撃だけに集中しろ!」
それに対し、コウも自分の意見を述べてきた。
「俺よりも御子紫の方が大事だ! 御子紫はみんなに指示を出す役目があるから、ここで最初にやられるなんてことは」
「指示よりもコウだ!」
「春馬たちに指示を出せるのは俺じゃない! 御子紫だけだ!」
「ッ・・・」
自分の意見をどうしても曲げないコウを睨み付け、御子紫は怒りを自ら静めるよう歯を食い縛りこの場を耐える。
―――これだから、自己犠牲野郎は・・・ッ!
―――でも・・・そこが、コウのいいところでもあるんだよな。
―――・・・俺も、コウみたいに強くて優しい奴になりたいな。
コウに対する怒りを最初は持ち合わせていたが、冷静になっていくにつれ彼を敬う気持ちに変化していった。
そして心が落ち着き、喧嘩に集中しようとしたその瞬間――――突如近くから、鈍い音が御子紫の脳に響き渡ってくる。
「!?」
あまりにも一瞬の出来事だったため何が起こったのか分からず、慌ててその音の方へ目を向けた。
「御子紫先輩、コウ先輩! くだらない言い争いは止めてください! 代わりに、俊がやられたからいいでしょう!」
「ッ、くそ!」
後輩から叫ぶように発せられた言葉が聞こえ、コウは視線を敵へと移動させた。 御子紫もそんな彼に合わせ、自分も今目の前にしているクリアリーブルへ向かって襲いかかる。
相手の攻撃を綺麗にかわし、その直後に攻撃を入れた。 その――――繰り返し。
―――よりによって俊がやられたのかよ!
御子紫は相手に攻撃を与えながら思う。 俊はただでさえ、性格や喧嘩の仕方が――――コウと似ているというのに。
―――俊はこれ以上、コウに似ては駄目だ!
―――自己犠牲野郎は、コウだけで精一杯なのに・・・ッ!
―――いや・・・そうじゃねぇ。
―――コウに似たいと思っているのは・・・俺の方か。
そんなことを思いつつ、目の前にいる男を相手にしながら横目でコウのことを見た。 彼は無駄のない綺麗な動きで、敵を次々と無力化していく。
―――どうして・・・コウの動きには、そんなに無駄がないんだよ。
―――だったら、俺も・・・!
御子紫はコウの動きを参考にしながら、自分も同じように動いてみた。 だが――――
「ぐはぁッ! ッ、いってぇな!」
あまり慣れていない動きをしたせいか、相手の鉄パイプが思い切り脇腹にヒットし思わずバランスを崩す。 だが休むことなく、やられた直後男に蹴りを入れ無力化した。
―――何だよ、できやしねぇ!
―――コウと同じ動きをしているはずなのに、どうして俺にはできないんだ!
今の抗争よりも、コウの方へ意識を向けている御子紫。 そんな時――――突如、その余裕が一瞬にして途切れることになる。
「奏多!」
―――・・・え?
突然後輩が仲間の名を呼ぶ声が聞こえ、御子紫の意識は奏多の方へ自然と移動した。
「・・・ッ、奏多!」
御子紫も彼の今の状態を見て、遅れて名を叫ぶ。 結黄賊の仲間である二個下の後輩、奏多。
一番下の後輩は特別に喧嘩が弱いというわけではないが、御子紫たちと比べて喧嘩慣れしていないのは確かだった。
奏多は今、クリアリーブルの一人に捕まり身動きが取れない状態になっている。
―――くそ・・・あの鉄パイプが!
捕まった時の対処の仕方はあるのだが、それは今通用できない。 何故ならば――――奏多の首元には、現在鉄パイプが突き付けられているからだ。
このまま下手に抵抗でもしたら、男は自分の方に引き寄せ奏多の首を締めようとしているのだろう。
―――どうしたらいいんだ・・・ッ!
―――ここで俺たちが降参でもしたら、解放してくれんのか・・・?
―――でも、こんなところで降参なんて・・・!
「おい、奏多を放せ!」
「簡単に手放せるわけねぇだろうが」
「お前らの目的は一体何だ! 結黄賊を、解散させることか?」
まだ無力化していないクリアリーブルとまだ体力のある結黄賊は、互いに攻撃を何もせずに静かにその場に立ち尽くす。
結黄賊の代表として、御子紫が男にそう尋ねかけるが――――
「まぁ、それもあるな。 解散させたら放してやる。 もしくは・・・」
「?」
そしてこの男も、クリアリーブル集会にいた男と同様――――ここにいる御子紫たちに、同じ言葉を紡ぎ出した。
「お前らの中で一人でもいいから、俺たちクリーブルに入ってくれたら・・・コイツを、解放してやるかな」