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結人の誕生日とクリアリーブル事件2㉘




クリアリーブルのアジト 個室


―――みんな・・・大丈夫かな。
結局結人は何も答えないまま男と別れ、再び個室に閉じ込められる。 今回も拘束や私物の没収などはなく、先刻と同様自由な時間がやってきた。
と言っても一人ではここから出られないし、動くこともできないため静かにこの場をやり過ごすしかない。
―――これから俺、どうすっかな・・・。
床に座り壁にもたれながら、遠くを見つめるようにして考え始める。 その瞬間――――携帯の着信音が鳴り出した。
―――ッ、マズい!
静かな個室に響き渡る音を、急いでポケットの中から取り出しメロディを消す。 
その後数秒間ドアの方を見つめ、クリアリーブルの連中が来ないことを確認すると静かに電話に出た。
「・・・もしもし?」
『ユイ? 今追ってきた男たちを撒いてきた』
「え、マジで?」

―――そうか・・・無事だったか、伊達。
―――心配したぜ。

喧嘩などを知らない伊達が男らに追われたと聞いた時最初は驚いたが、今彼の安否を確認でき安堵する。
『今、ユイが教えてくれたクリーブルのアジトの前にいる。 だけど・・・入口の前に見張りの男が二人いて、入ることはできないな・・・』
―――あぁ、見張りの奴ら・・・か。
結人はここへ来る前に入り口付近ですれ違った男らの顔を思い出し、一人考え込む。 そして、伊達に向かってある提案を出した。
「じゃあ・・・。 伊達が『あそこに怪しい者がいるぞ!』って大声で叫んで、その場から男を離れさせる・・・とか?」
『・・・分かった、やってみる』
そう口にした直後、電話越しからは今言った通りの台詞が聞こえてきた。 指示を素直に従った彼に、結人は苦笑の表情を浮かべる。
「どうだ?」
『ん・・・。 一人は走って捜しに行ったけど、あと一人はこの場に残ったな』
「そうか・・・。 じゃあ・・・」
再び見張りの男をどう避けさせるかを考えていると、今度は伊達が電話越しから提案を出してきた。
『じゃあ、石でも思い切り投げてみるか』
「ッ、は!? そんなもん、当たったらどうすんだよ!」
急いでそう口にするが既に遅く、電話越しからは重くて鈍い音が届いてきた。 それに対し結人は思わず息を呑むが、思っていた音とは違い冷静になって考える。

―――あれ・・・石を直接男へ向かって投げたんじゃなくて、地面に向かって叩き付けたのか?

『石を思い切り投げて、そっちへ意識を向けさせた。 ・・・あ、男が音の聞こえた方へ走って行く。 今だ! 今からアジトへ入るぞ!』
伊達のその言葉を聞いた瞬間結人はその場に立ち上がり、声を張り上げる。
「気を付けろ伊達! 中にはたくさんのクリーブルの連中がいる!」
『は!? ならどうしたらいいんだよ!』
「伊達がアジトへ乗り込むのと同時に、俺はこの部屋から出る。 そしたら伊達、俺の姿が見えたらすぐに一つの鉄パイプを放り投げろ!」
『分かった』
ドアの目の前まで移動し、ドアノブに手をかけた。 そして覚悟を決め、一言の合図を出す。
「行け!」
その言葉を発するのと同時に、ドアを開け部屋から出た。 そして正面の奥に立っている伊達の姿を見つけ、もう一度声を張り上げる。

「伊達!」

「ユイ! 受け取れーッ!」

そう言って、伊達は結人に向かって思い切り鉄パイプを放り投げた。 当然二人の間には、20人もの男の姿がある。
突然現れた二人に驚き身動きがとれずにいる彼らをチャンスに、受け取ろうとするが――――
―――ッ、マズい!
彼が放り投げた鉄パイプはこちらまでは届かず、結人のいる3メートル手前で落下しようとしていた。 
その下には、ニヤリと笑った男が鉄パイプを受け取ろうと手を伸ばしており――――

―――仕方ねぇ、この際“やられてから喧嘩開始”というルールは無視だ!

結人はすぐさまそう判断し、モノを掴もうとしている男に向かって後ろから思い切り蹴りを入れた。
「ぐはぁッ」
相手が地面へ向かって倒れ込むのと同時に鉄パイプを空中で受け取り、そのまま伊達のいる方へと全力で走る。
あまりにも乱暴であまりにも俊敏な結人の動きに、ここにいるクリアリーブルの連中は呆気に取られなおもその場に立ち尽くしていた。
伊達はいつの間にかこの広い空間まで移動しており、彼のもとへ着いて早々感謝の言葉を述べるが――――
「伊達、ありがとな。 よくここまで来・・・た・・・」
刹那、伊達の異変に気付く。

―――伊達・・・何だよ、それ・・・。
―――どうして・・・どうしてそんな姿に・・・ッ!

―ドスッ。

「うぅッ・・・ッ!」
伊達のことを心配していると、油断していたため背後から迫ってきた男に気付くことができず、結人はバールで肩を思い切り殴られてしまった。
そんな唐突な攻撃を受けるも、肩の痛みに耐えながら持っている鉄パイプを後ろへ向かって勢いよく振り回す。
それが丁度結人の真後ろにいた男に直撃し、この場に倒れ伏した。
―――くそッ、伊達のことは後だ!
―――今はここにいる奴らを何とかしねぇと・・・!
気合いを入れ直し、伊達の手からもう一つの鉄パイプを奪い取って、守るように彼の目の前で戦闘態勢をとった。

―――折角伊達が、命を懸けて俺のところまで来てくれたんだ。
―――だったら今度は・・・俺が、伊達を守ってやる番だろ。

「相手は一人だ! やっちまえ!」
先刻まで結人を個室に閉じ込め、二つの選択肢を与えていた男がこの部屋にいる仲間に向かって言葉を放つ。
その合図を聞いた瞬間、ここにいるクリアリーブルの連中は結人に向かって勢いよく押し寄せた。 そんな彼らの行動に、より身を構える。
―――くそ、あんなところで左肩をやられるんじゃなかった・・・!
―――相手の方が当然人数は多いから、ここは動かずに相手が攻めてくるのを待つか。
―――自分から動いて、体力を無駄に消費するよりかはマシだ。
冷静に判断し、後ろにいる伊達に向かって小さく呟いた。
「伊達、喧嘩が終わるまで後ろへ下がっていろ」
「え? でも」
「俺は一人で大丈夫だっての」
そして――――彼がゆっくりと後ろへ下がったのを空気だけで感じ取ると、結人は目の前にいる敵に向かって思い切り鉄パイプを振り下ろした。

それからは――――一瞬ではない。 結人にとって、地獄のような時間が訪れた。 いくつもの数が一度に自分へと押し寄せ、それに対し結人は負けじと食らい付く。
1対20なんてものは当然経験はなく、今回が初めてだった。 数人を目の前にして相手と戦っていると、背後からも数人が攻撃を仕掛けてくる。
結人にとっての仲間はここには一人もいないため、全ての攻撃を結人が一人で受け止めていた。 全身から伝わってくる痛みと、何人もの男が自分へ向かって迫ってくるこの恐怖。
それらに耐えながら、結人は仲間のために――――そして伊達のために、抗争をし続ける。 早くここから抜け出したい。 そして、今すぐ仲間のもとへ行きたい。
普通なら1対20なんてものは結人の負けが既に確定しているが、そんなことには気にも留めず目の前の相手を攻撃し続けた。
早くここにいる奴らを、無力化したい。 それだけを常に思い続け、ついに――――

「・・・終わっ・・・た・・・」

「ッ、ユイ!」

クリアリーブルの連中全員を無力化したのを確認すると、結人は全身の力が抜けその場に静かに崩れ落ちた。 
その光景を見ていた伊達は、すぐさま駆け寄り支えてくれる。
「ユイ、大丈夫か? ユイ!」
結人の肩を少し揺さぶりながら、心配そうな面持ちで声をかけてきた。 結人の身体は今、あちこちから血が出ており、服も汚れ酷い有様になっている。
伊達にとっても、見るには苦しい状態だった。 それにもかかわらず、必死に声をかけ続ける。
「ユイ、起きろ! 起きてくれ! 目を・・・覚ましてくれ・・・ッ!」
「ッ・・・」
「ユイ!」
名を叫び続けてくれた伊達の意志が届き、結人は伊達に支えられながらゆっくりと目を開け彼のことを見た。

―――伊達・・・お前はどうして、そんなに傷だらけなんだよ。

そう――――結人は、それだけが気がかりだった。 
―――お前の身に、一体何があったんだよ。
―――そんなに傷だらけなのに、どうして俺のところまで・・・辿り着くことができたんだよ。
「大丈夫か? ユイ!」
―――俺は今、身体に力が入んねぇのか・・・。
―――早くみんなのところへ、行かなくちゃなんねぇのにな・・・。
そして結人は――――今もなお自分の名を叫び続けている伊達に向かって、強がるように苦笑しながら小さな声で言葉を放った。

「伊達・・・悪い。 少しだけ、休ませてくれ・・・」

それだけを言い残し、再びゆっくりと目を閉じた。


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