6 ラブレター②
「ねぇ、どうしたら、あのお姉さんを助けられる?」
首を絞められたけど、怖かったけど、それでも助けたい。
置いて行かれる悲しさは誰よりもわかっているつもりだ。
長い間誰にも見つけてもらえなくて、ただただ待っているだけの日々のあの虚しさを。
「できれば香月には悪霊と関わってほしくないんだけど……そうだね、慎二って人をまず探してみようか?」
「うん!」
要に慎二さんの特徴を読み取れたか聞かれて、薄らと読んだ記憶の断片を伝えていく。
それは場所であったり、会話だったり。景色や腕時計だったり。
僅かな情報も、積み上げれば立派な手がかりになるって要が言った。
僕はその夜高熱を出して寝込んでしまった。
寝ている間、あの黒く染まったお姉さんが近くにいるようで怖かった。
そして、数日後。
「よ、香月。慎二って奴を見つけたぜ」
楓が家にやってくるなり、そう言った。
「えっ! どうやったの?」
「いや、見つけたのは俺じゃなくてルナなんだがね」
どうやったかは秘密、だそうだ。楓はいろいろ秘密が多い。触ってみても何も読み取れないんだ。読み取ろうとすると、何故かエリンギの映像ばかり見える。
僕の力を知っていて、わざとエリンギの事ばかり考えている……とは思えないな。きっと本当にエリンギの事ばかり考えているのかも。やっぱり謎、というか変な人だ。
それはともかくとして。楓が見つけてくれた慎二さんの家の位置を教えてもらった。
それは、驚くことにお姉さんと会った場所から遠く離れた場所で。
「遠距離恋愛ってやつか」
「そっか、だから最後に会ったのは二ヶ月も前なんだ」
そうでなければ、どうしたって病気を隠しおおせるものじゃない。
「困ったな。どうしよう?」
「とにかく、その慎二って奴に話を聞きに行ってみようぜ」
仕事がある要に代わって、楓が連れて行ってくれることになった。
車で高速に乗って移動中。こんな遠くに来るのは初めてで、最初はワクワクしていたけど、高速道路ってずっと塀しか見えないからすぐに飽きてしまった。
「慎二さんに会ったら、何て説明したら良いかな?」
「その幽霊の名前はわかんねぇのか?」
「えっと、確かちかって呼ばれてた気がする」
読み取った記憶の中で、そんな会話を聞いた。
「じゃあ、案としては直球でちかに会ってって言うのが一番じゃね? それか、お前が見たって言う手紙の記憶を慎二に見せるか」
楓はいつも直球だ。でも他に思い浮かばないし。
取り敢えず、慎二さんがちかさんをどう思っていたのか、ちかさんの死を知っているのかを探ろうってことになった。
高速道路を降りるとそこは大都会という感じで。
片側六車線なんて広い道路に高いビル群。僕の街にはないそんな光景に思わず興奮してしまった。
「あの、慎二さん、ですよね?」
「ん? 誰だあんたら?」
大都会風の景色を抜けて普通の一軒家が並ぶ住宅地に慎二さんは住んでいた。
言葉遣いは少し乱暴だけど、短い黒髪にワイシャツというさっぱりした格好で「歌のお兄さん」って感じの人だ。高校生って言われても信じてしまうかもしれない。爽やかなイケメンだ。
顔立ちだったら楓や要も負けてないんだけど。服装とかが、お兄さんのほうが全然カッコイイ。
そんなお兄さんは突然訪れた僕たちを不審げに見ていた。
「あの、お願いがあって来ました。ちかさんに会ってくれませんか?」
「は? 千佳?」
その名前を出したら、お兄さんの声から険が少し取れた。
部屋の中に招き入れてくれる。その時、お兄さんにぶつかるふりをして触れてみた。
お兄さんは、千佳さんの死を知っていた。その上で、僕らが訪れた意味を探ろうとしているようだった。
「あんたら、千佳の知り合いか? あいつ、先々月末から全然連絡が取れないんだ。何か知ってないか?」
試されている。お兄さんは千佳さんの葬儀に出てた。
恐らく、僕らが何かしようとしてるって疑っているんだ。
(楓、お兄さんは千佳さんが死んでるって知ってる。どう答えたらいい?)
(なら、信じてもらえるかどうかは置いといて、幽霊と会わせられるって言ったらどうだ?)
楓の裾を引いて考えを飛ばして相談。
すると楓は、もし気味悪がられても二度と会わなければいい相手だからばらしてしまって大丈夫だって言う。
「千佳さんはもう死んでます。お兄さん、葬式に出てたんだから知ってるでしょう?」
「……用件は?」
「信じてもらえないかもしれないけど、僕は幽霊が視えます。それで、千佳さんに昨日会いました」
お兄さんは呆れたような顔で睨んでくる。
「俺が葬儀に出てたのを知っているあたり千佳の知り合いなんだろうが、死者で遊ぶのはやめな。笑えねぇよ」
「ふざけてません。千佳さん、泣いてた。慎二さんに手紙を見つけてもらいたいって」
「手紙?」
「千佳さんの家の、どこかにあるはずなんです。一緒に来て探してもらえませんか?」
お兄さんは暫く考えた後、次の祝日に行く、と言ってくれた。