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青春ホラー

 僕に耳はない。
 理由は知らない。
 だけどない。
 きっと神さまが僕に耳は必要ないと思ったのだろう。
 だから、耳はない。
 僕は薄暗い道を今日は歩く。

「みみをくれ」

 そんな声が聞こえる。
 だけど僕に耳はない。

「おなかがすいた。
 みみをくれ」

 うるさいな。

 僕はそう思った。

「みみをくれ!」

 おじいさんだった。
 僕はそのおじいさんと目が合う。

「みみをくれ!!」

 無性に腹が立つ。

 なので僕は僕のコレクションをひとつわけてあげることにした。

「みみを!」

 おじいさんの声がやがて恐怖の絶叫へと変わる。

「みみ!!」

 僕は、それをおじいさんにあげた。
 僕がコレクションをあげるなんて珍しいんだよ。

 でも、あまりにも奇遇だったから。

 この耳の持ち主は「未実(みみ)」って名前の綺麗な女の子。
 性格も良かった。
 でも、僕は気に喰わなかった。
 髪の毛が長いんだけど。
 耳を隠しているんだ。
 そしたらさ、思うじゃない?
 隠すのならその耳いらなくない?
 いらないのなら……

  僕に頂戴って!

 だからさ……
 耳をとっちゃった。

「アンタ、未実に……
 どうしてこんなことを」

「僕は悪くない。
 何も悪くない。
 未実が、隠すからいけないんだ」

 僕はできるだけ冷たく言った。
 だって、その方が楽しいから……
 このおじいさんの絶望する顔……
 なんとも言えない気持ちが湧き上がる、
 まさに快感。

「ワシは、ワシは……」

 おじいさんの目から涙が溢れる。
 でも、僕はこのおじいさんの耳をとる気にはなれない。
 なぜなら、このおじいさんには髪がない。
 つまり耳を隠していない。
 それってつまり耳を大事にしているってこと。
 だからとらない。

「おじいちゃん。
 どうして泣いているの?」

 ちいさな女の子が首を傾げて僕らに近づく。
 髪の毛は長い。
 耳を隠している。

 つまり。

 僕は、ニッコリと笑う。

 おじいさんが涙を流して乞う。

「やめろ!!それだけは!それだけは!!!」

 僕は問答無用で女の子の耳をとった。

「え?」

 女の子には何が起きたかわかっていないようだった。
 痛くはない。
 だって僕はとるのが上手だから。

 髪の毛を傷つけないようにそっととる。
 触れてはいけない。
 髪の毛に触れない。
 それが僕のポリシー。

「お前には血も涙もないのか!」

 おじいさんが怒鳴る。

 短気だな。
 本当に。

「あ、ママー」

 女の子が母親の元に帰る。
 きっと耳をとられたことにさえ気づいていない。
 僕は耳をとるプロなのだから……

「あ、またおじいちゃんイジメている」

 綺麗な女の子が僕に近づいてくる。

「……未実!」

 おじいさんが未実の顔を見つけると号泣する。

「あー!お兄さん!また盗撮したの?」

「隠している部分を隠して撮る!
 それが僕のポリシーさ」

 僕がそういうと未実は頬を膨らませる。

「そのうち逮捕されるんだからね!」

 そういう未実が可愛い。

 僕は耳を撮るのが大好きな12歳。
 どんなに耳を撮っても少年法が護ってくれる。

「ふふーん」

 おじいさんが写真を取り出して未実に見せる。

「あ!また私の耳を撮ったの!
 しかも、アングルが悪い!」

 僕は未実に怒られた。
 なぜなら未実は、耳モデル。
 数々の耳モデルの賞を受賞している。
 このあと僕は未実に何枚も撮らされた。

 僕には耳がない。
 だからといって楽しいことはある。
 僕は幸せだ。

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