31 童話
むかしむかし。
貴方が思うよりも少し昔。
ある国のお城でお姫様が生まれました。
王さまは国中の人をよんでお祝いをしました。
そのお祝いには12人の魔法使いたちもやってきました。
でも、ただひとり。13番目の魔法使いだけはお祝いに呼ばれませんでした。
なぜなら、13番目の魔法使いと王さまは……
おっとこれはまた別の話ですね。
お祝いに呼ばれた魔法使いたちは次々に進み出て。お姫さまにおくりものを捧げました。
「元気な人になりますように」
「優しい心が宿りますように」
「誰よりも賢い人になりますように」
そして、12番めの魔法使いが進み出たとき。
城中に恐ろしい声が響きました。
「よくも私をのけものにしましたね」
王さまは慌てます。
「聞いてくれマレフェセント!
これには事情があるんだ!」
すると13番目の魔女マレフェセントは耳を傾けます。
「聞こうではないか」
「皿が……そう皿が魔法使いが使える皿が12枚しかなかったんだ」
「皿なら持ってきておる」
マレフェセントは、そういって皿を差し出します。
「そ、それはどうも……」
王さまの頼りない対応にマレフェセントは苛立ちました。
「姫よ私の贈り物を受け取るがいい!
お前は15歳の誕生日!ツムにされて消えるのだ」
マレフェセントは、そういって消えました。
「大変だ。どうしよう?」
人々は慌てます。
「まだ私が残っていますわよ?」
そういったのは12番めの魔女です。
「お姫様は死にません。
ツムにされても眠るだけ。
それから立派な人のキスで目を冷まし。
その人と結ばれるでしょう」
王さまは思いました。
15歳で結婚だなんてとんでもない。
お妃様がいいました。
「国中のツムをひとつつ残らずあつめて燃やしてください。
そして、今後ツムを作ることは禁じます」
国民はツムを集めて燃やしました。
王妃様はほっとしました。
「これでよし。ツムがなければ姫もさされないでしょう」
そして、時が流れ……
お姫様は6歳になりました。
お姫さまが散歩の途中。
あるお部屋を見つけました。
「まぁ、こんな部屋があるなんて……
ここには何があるのでしょう?」
お姫さまは古ぼけた部屋に入ります。
中には見たことのないおばあさん。
おばあさんは、糸をツムぐ車を使い器用にドレスを作っていました。
「まぁ、おもしろそうなこと。
おばあさん。ちょっと貸してくださいな」
「いいともいいとも」
おばあさんは、ニッコリと笑うとお姫さまに糸をツムぐ車を貸しました。
でも、どうやっていいかわからないおひめさま。
おばあさんに訪ねます。
「これはどうやって使えばいいのかしら?」
「これはねぇー」
おばあさんは、お姫さまに糸の紡ぎ方を教えました。
お姫さまは、服を作るのが楽しみで楽しみで。
服を作るのが楽しくて楽しくて。
仕方ありませんでした。
おばあさんには下心がありました。
それは、お姫さまの指をツムで指すことです。
そうすれば、お姫さまは死ぬのです。
それが狙いだったのですが……
一緒にいるうちに情が生まれました。
このおばあさんの正体はマレフェセント。
マレフェセントは、病気で子どもが出来ない身体だったのです。
だから、自分に懐くお姫さまが愛おしくて愛おしくて堪りませんでした。
なので、マレフェセントはお姫さまの額にキスをして呪いを解きました。
「どうしたの?おばあさん」
「しあわせになれるおまじないですよ」
マレフェセントの心の中で何かが産まれようとしていました。
それから、9年のときが流れました。
「あのね、おばあさん。
ドレスを作ったの」
お姫さまは、そういってドレスをおばあさんに見せます。
「でも、貴方が着るには少し大きくはありませんか?」
「私が着るんじゃないわ」
お姫さまが、少し照れながら言いました。
「じゃ、誰が着るんだい?」
「おばあさん……です」
おひめさまが、まっすぐとした目でおばあさんを見ます。
「え?でも、私には少し若すぎやしませんか?」
「いいえ、おばあさん。
いえ、マレフェセントさん。
素敵な貴女に着てほしいのです」
マレフェセントは驚きました。
「気づいていたのかい?」
「はい」
「いつから?」
「貴女に出会ったときからです」
「じゃ、どうしてここに通い続けたんだい?」
「貴女が……マレフェセントさんが優しかったからです」
その言葉を聞いた瞬間、マレフェセントは目から涙が溢れました。
そして思いました。
ああ。私はこの子を愛してしまったんだ……
「このドレスで一緒にパーティに来てくれますか?」
お姫さまはそういうとマレフェセントは首を横に振りました。
「知っているのであろう?
私がお主に何をしたか……」
「大丈夫よ。
だって、私は消えていないもの」
お姫さまがそういってマレフェセントの額にキスをしました。
「なにを……?」
「しあわせになれるおまじない……でしょ?」
お姫さまがしあわせそうに笑いました。
マレフェセントは、負けました。
そして、お姫さまが作ったドレスを着てパーティに行きました。
そのパーティは、お姫さまの結婚式です。
その場所に、マレフェセントの居場所はないと思っていました。
でも、マレフェセントはどこかしあわせな気分がありました。
だから、耐えれると思っていました。
いざ言ってみると……
みんなしあわせな顔でマレフェセントを迎え入れたのです。
お妃様は少し機嫌が悪そうでしたが……
お姫さまが国民に笑顔で迎え入れるように説得をしたのです。
今まで、マレフェセントが自分にしてきてくれたこと。
嬉しかったこと。そして……
「そこにいるマレフェセントは、私のもうひとりのお母さんです」
お姫さまのその言葉を聞いたとき。
マレフェセントは思いました。
いっときの感情に身を任せて、お姫さまを傷つけなくてよかったと……
「おめでとう」
マレフェセントは、心の底からお姫さまにお祝いの言葉を送りました。
そして、時が流れ……
60年。
おばあさんになったお姫さまは、ゆっくりと最後の時を迎えようとしていました。
「おばあちゃん。
大丈夫?」
孫娘がそう心配そうに近づきます。
「ええ、大丈夫よ」
お姫さまはそういって小さく笑いました。
でも、どこかその笑顔は淋しげでした。
すると孫娘はお姫さまの額にキスをします。
「えへ、しあわせになれる魔法だよ」
「大丈夫よ。
私は、とってもとってもしあわせだから」
お姫さまがそういって笑うと何故か涙が溢れました。
お姫さまは悟りました。
ああ。自分ももう逝くのか……
そして、小さくうなずきます。
「マレフィセント……
今、会いに行くわ」
お姫さまはそう言って小さく小さくその生涯を終えました。
そのお姫さまの人生は誰よりも優しく。
そして、誰よりも暖かいものでした。
-完-