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「逃げるのか?」
百道が思わず声に出す。
「ああ、逃げるぞ。
アインの本気のやつと戦うなんてそうとうクレイジーだぜ?」
灰児のことばに健太が尋ねる。
「あんた、勇者だろう?」
「ああ、だから逃げるんだ」
「え?」
百道と健太が灰児の方を見る。
「……わかんないやつだな。
3対1では、あのクレイジーに勝てない。
お前らもっと強くなれよ」
灰児の言葉に百道と健太ががっかりした。
「俺らが逃げたらこの学校の奴らが……」
百道は、そう言って泣きそうになる。
「きゃは!
逃さないわよ!!」
クレイジーが、五本の指を灰児たちに向ける。
「ほら、お前らがさっさと逃げないから隙がなくなったじゃないか」
灰児が、大鎌をクレイジーにぶつける。
クレイジーの体が大きく後退する。
「きゃは!女の子の顔に傷をつけるなんてひどいじゃない?」
「女の子ねぇー」
クレイジーの言葉に灰児が、そう言って鼻で笑う。
「……きゃは!人間の弱さ知ってる?」
クレイジーが、嬉しそうに笑い百道と健太の方に片方ずつ腕を向けた。
「マジか?」
「選びなさいな!」
クレイジーが、指先から釘を沢山放出した。
「クソが!」
灰児が、大鎌を健太を狙う釘に向けて投げると百道の方に飛び自らを立てにして防いだ。
なんの防御もなく灰児は、ダメージを受けた。
そのときになって初めてふたりは、気づいた。
『3対1では、クレイジーに勝てない』
その意味を。
そう、ふたりを護りながら戦う難しさを。
自分たちが足手まといだということを。
「……灰児さん」
「ようビビリ坊やたち。
怪我はしてないか?」
灰児は、優しい笑顔で百道と健太に訪ねた。
「ああ。
俺は、大丈夫だ」
健太が歯がゆそうに言った。
「きゃは!これだから人間を殺すのを辞められないの!
弱点を付いて付いて付いて戦えば、絶対に勝てるもの!」
クレイジーのその声が嬉しそうに響く。
とその時。
クレイジーは、何かに怯える。
「なに?この殺気は……」
クレイジーは、その殺気を感じる方を見る。
「やぁ、灰児くん。
久しぶりだね」
メガネを掛けた青年が、そう言って小さくため息をつく。
「あんた誰?」
クレイジーの機嫌が悪そうな声が健太と百道の心に恐怖をもたらす。
「僕かい?僕は見ての通りのクレープ屋だよ。
この学校の知覚ででクレープを売っていたのだけどみんな君のせいで逃げちゃったよ」
青年が、ため息をつく。
「そうそれは残念ね。
じゃ、死になさい」
クレイジーは、そう言って釘をその青年に向けてはなった。
しかし、その釘は青年に当たることはなくクレイジーの背後に釘が現れダメージを受ける。
「なんだ思ったより弱いな」
青年が、そう言ってクレイジーとの距離を詰めた。
しかし、クレイジーは距離を開けた。
「アナタ、カウンター系の能力者ね!
でも、残念。
反撃できない攻撃をすればアナタは負けるわ!
私に不意打ちすれば勝てたかもね!
あ、でも、残念!アナタ自身に攻撃力は――」
クレイジーが、そこまで言ったとき。
自分の右腕がないことに気づく。
「なんだ、やっぱり弱いね」
「アナタ何者なの?」
「さっきも言っただろう?
僕はクレープ屋さ。どこにでもいるね」
「嘘よ!アナタみたいな強い人が、どこにでもいるわけが――」
クレイジーの左足が無くなる。
「『不意打ちすれば勝てる』って?
不意打ちしなくても勝てるからしないんだよ」
「え?」
クレイジーが驚きのあまり再生するも忘れる。
「じゃ、死ぬか?君が――」
クレイジーの体がゆっくりと浮く。
クレイジーは、本能でわかった。
この青年には勝てない。
だから逃げることにした。
「きゃは!死ぬのは嫌だから逃げさせてもらうわよ!」
クレイジーは、そう言って姿を消した。
「逃げたか。
あんな雑魚、別にいいか」
青年はそう言って灰児の方を見た。
「相変わらず吾郎は、強いな」
灰児の言葉に吾郎と呼ばれる青年が言った。
「クレープ売りに来たよ。
ひとつ450円になります」
青年が笑う。
「じゃ、みっつ頼む」
灰児もそう言って笑った。